第4話 ステータスチェックと初戦闘
暑い……夏本番はこれからだと言うのに、もうクーラーが無いとやってられません_(:3」∠)_
それでも更新は滞りなく頑張ります_(:3」∠)_
「えーっと、ライムってどんなスキル覚えてるんだろ……」
初テイムに浮かれて、草原で1人ライムをぷにぷにぎゅうぎゅうなでなでと、存分にもふり倒してひとまず満足した私は、ひとまずライムのステータスを確認しておこうと、ステータス画面からライムの項目を呼び出す。
名前:ライム
種族:ミニスライム Lv1
HP:30/30
MP:30/30
ATK:20
DEF:30
AGI:10
INT:15
MIND:12
DEX:16
スキル:《酸液Lv1》《収納Lv1》《悪食Lv1》
ふむふむ。
とりあえず、ステータスが物凄く低いのは一旦横に置いておくとして……肝心のスキルは、名前でなんとなく意味は分かるけど、どんな効果だろう? このゲーム、スキルの説明がざっくりとしか書いてないから、実際使ってみないとどういうのかよく分からないんだよね。ひとまず、色々試して分からなかったらお兄に聞いてみればいいかな。
「とりあえず、ライム、《酸液》って出せる?」
地面にライムを置いて聞いてみると、ぷるんっと肯定するように震えた後、体の表面からでろ~っと何かの液体が滲み出てきた。
うん、なんというか……地味! 多分これがミニスライムの攻撃手段なんだろうけど、すっごい地味!
ま、まあ、使ってみたら意外と強いのかもしれないし、これも検証は後回しに……
次は、《収納》。まあ、見るからに、アイテムを私の代わりに持っててくれるとか、そんな感じのスキルだよね。ライムのステータスの下に、インベントリと同じようなアイテム欄が付いてるし。1マス分だけだけど。
「とりあえず、ライム、これ《収納》って出来る?」
魔物の餌は見せたら食べられちゃいそうだから、試しに《初心者用HPポーション》を1つ取り出して、ライムに聞いてみる。
すると、さっき魔物の餌を上げてた時と同じように、触手を伸ばしてぱくっとポーションを体の中に取り込んでいった。
……これ、大丈夫だよね? まさか瓶ごと食べちゃったとかじゃないよね?
そんな不安を抱きつつも、ステータス画面を見ればちゃんとライムのアイテム欄に《初心者用HPポーション》のアイコンが出来ていた。うん、よかった、《悪食》なんて効果の良く分からないスキルもあるし、ちょっと心配しちゃった。
「あ、そういえば、私HP減ったままだった。ライム、今渡したポーション頂戴」
マンムーに蹴っ飛ばされてそのままだったことを思い出して、私はライムに掌を向ける。
すると、ぷっ、と擬音が付きそうな感じに、ポーションの瓶がライムの体から飛び出てきて、私の掌の上に綺麗に乗った。
「えへへ、ありがとうライム」
ひとしきり撫でてお礼を言ったあと、蓋を開けて瓶の中身を一気に煽る。
「うーん……緑茶味?」
緑っぽいその色に違わず(?)、《初心者用HPポーション》の味はなんだか緑茶っぽかった。
ちょっとした苦みが口の中を満たし、視界の端に映るHPゲージが満タン近くまで回復する。
聞いてた通り、味もちゃんとあるんだなぁ……と、そんなことを考えながら味わってると、ふと視線(?)を感じてライムの方に目を向けた。
「どうしたの? ライム」
問いかけてみるも、反応はない。
代わりに、なんとなくだけど、ライムが見てるのは私じゃなくて、私の手にあるポーションの瓶のような気がしてきた。
「……もしかして、ポーション飲みたいの?」
ぷるんっ! と、今度は肯定するように体が揺れる。
ふむ……HPは減ってないけど、まあ、ライムが食べたいって言うなら、いいかな?
「ふふっ、じゃあ、はい。これあげるね」
インベントリからもう一本の初心者用HPポーションを取り出し、ライムの前に置く。
と、そこで、よく考えたらライムじゃ瓶の蓋を開けられないことに気付いて、私は開けてあげようかと再度手を伸ばして、
「えっ」
それより先に、ライムはパクっとポーションを瓶ごと丸呑みしちゃった……って、えぇぇ!?
「ちょっ、ライム!? 瓶は食べちゃダメだって、ぺっ、しなさい、ぺっ!」
慌ててライムのアイテム欄を見てみたけど、やっぱり《収納》スキルで取り込んだわけじゃないみたい。
ていうことは、やっぱり食べたってことだよね? だ、大丈夫かな? 何か悪い影響とか……それとも、ゲームだから取り込んだ時点で瓶も消えてるとか? ライムの丸呑みで驚いたせいで気づかなかったけど、私が飲んだ空き瓶もいつの間にか消えてるし。
と、そんな風に軽く混乱していたら、ライムはまたも私に擦り寄って、ぷるぷると波打ちながらおかわりを要求してきた。
「わっとっと、分かった、分かったよライム、だから落ち着いてって」
とりあえず、手持ちにある魔物の餌とポーションを、おねだりされるままに順番にライムに与えていく。
ただ、ライムは私の想像以上の大飯喰らいだった。
魔物の餌もポーションも、1つ1つなら分かるんだけど、それぞれ2つも3つもとなると、もうライムの質量超えるくらい食べて飲んでしてる気がするんだけど、全然食欲が落ちる気配がない。
しかも、瓶ごと丸呑みは良くないかと思って蓋を開けて飲ませてあげると、瓶も食べたいとばかりに触手を伸ばしておねだりしてくる。体に悪そうだけど、いいのかな? まあ、これだけ食べて何もないってことは、いいんだろうけど……
うーん、どれだけ食べてもライムが太ったりする気配がないことといい、ゲームの世界ってやっぱり不思議だなぁ。うん、これぞファンタジー?
「……って、調子に乗って全部食べさせちゃったけど、大丈夫かな?」
気持ちいいくらいパクパクと食べるライムに釣られて、もうインベントリにあった魔物の餌も初心者用ポーションもなくなっちゃった。
ライムがぷるぷると嬉しそうにしてるからいいんだけど、私、VRMMOは初めてだし、回復アイテムもなしにちゃんと次の餌代も稼げるかちょっと心配になる。
「まあ、なるようになるよね」
とりあえず、私自身も戦えるように、《スキルポイントの書》を使って《鞭》スキルを習得する。
……正直、《蔓の鞭》なんてATKが1しかないし、いくら初期装備とはいえ貧弱すぎる気がするけど、かと言って他に使いたい武器があるわけでもないし、ひとまずこれでいいや。
そうして準備が出来た私は、ライムを抱き上げてふんすっ、と気合を入れ直す。
「さてと! ライム、働かざる者食うべからずだからね、一緒にモンスター狩りに行くよ!」
ぷるんっ! と、たっぷりご飯を食べて元気いっぱいのライムが気合十分と言った感じに返事してくれる。
どうやらライムも、モンスターを狩らないとご飯にありつけなくなることくらいは分かってるみたい。
「さて、それじゃあ何を狩ろうかな……」
ひとまず周りを見渡せば、この辺りにいるのはライムと同じミニスライムか、さっき嫌われちゃったマンムーかの2択。
けど、さすがにライムと全く同じ種類のスライムを狩るのは抵抗があるし、マンムーもさっきの蹴りの威力を思えば、あまり怒らせるのは得策じゃないと思う。そうでなくても、襲い掛かってくるでもないモンスターを狩るのはなんかヤだしね。
「となると、もうちょっと奥まで進まなきゃダメかな」
この辺りはノンアクティブモンスターばっかりだって聞いたし、攻撃的なモンスターが出るところまで一息に進んじゃおう。
そう決めた私は、ライムを抱いたままずんずんと草原の先へ向かって歩いていく。
そうして街から離れていくと、段々草むらを跳ねて移動するミニスライムの姿が見えなくなり、マンムーの姿が増えていく。
そして、その姿も減ってきた頃……
「あ、出た!」
ようやく姿を現したのは、緑色の体色をした1体のゴブリン。
粗末な剣(と言っても、私の蔓の鞭よりよっぽど強そうだけど)を片手に持って、私を見るなり襲い掛かってくる様は、ニタっとした醜悪な笑みも相まって軽くホラーだ。
美鈴姉が連れてたゴブリンはもうちょっと可愛げがあったんだけど……うーん、ちゃんと育てればこの子もああなるのかなぁ? まあ、今はそこまでする余裕はないけど。
「来るよ、ライム!」
ライムを地面に置いて、私は蔓の鞭を構える。
それに合わせて、ライムも気合十分とばかりにぷるんっ! と体を震わせ、ぴょこぴょこと飛び跳ねてゴブリンに飛び掛かった。
「ギヒッ!!」
それを見たゴブリンが、飛び掛かかるライムに向けて剣を振り下ろす。そして、
パリンッ
「えっ」
ゴブリンの剣をまともに受けたライムは、一撃でポリゴンの欠片となって消えていった。
「ら、ライムーー!?」
ちょっ、一撃!? いくらミニスライムが弱いからって、このゴブリンも《グライセ》周辺にいる序盤モンスターでしょ!? うそぉ!?
一応、テイムされたモンスターは戦闘でHPが0になっても、そのレベル×3分の時間が経てば復活できる。だから、ライムのことは心配しなくても大丈夫なんだけど、あまりの出来事に私は呆然と立ち尽くしてしまい、ゴブリンにまんまと接近を許してしまった。
「ギヒヒッ!」
「わわっ!?」
ゴブリンの凶刃が迫り、慌てて躱そうとした私の肩口を切り裂く。
痛みはないけど、背筋がぞわっとするような悪寒と軽い衝撃が肩から全身に伝わり、HPが一気に2割くらい削られた。
「ヒヒャー!」
「もうっ、あんまり調子に乗らないでよね!」
あたふたと、傍目からすると危なっかしいと思われそうな動きで距離を取りながら、私は蔓の鞭を構えゴブリンに向き直る。
さて、武器があると言っても、私の運動神経なんてクラスの女子の中に限ってようやく中の上程度。お兄みたいにゲームの中でならいくらでもハッスルできる廃ゲーマーってわけでもないし、こんな貧相な武器一つでどうにかなるわけはない。
でも、そこはちゃんとゲームなだけあって、運動神経なんて関係なしに出来る攻撃もある。
「《バインドウィップ》!!」
私が蔓の鞭を振ると、それに合わせて先端が生き物みたいにひとりでに動いて、ゴブリンに向かって伸びていき、その体に巻き付く。
これは、《鞭》スキルレベル1で使える、唯一のアーツ。アーツは所謂必殺技みたいなやつで、普通に攻撃するのと違ってMPを少し消費する代わり、システムの動作アシストが入るから、素人でも問題なく効果を発揮できる。
ただ、逆に言うと、システムに設定された以上の効果は発揮できないわけで。
「……もしかして、縛って、それで終わり?」
《バインドウィップ》は如何なくその効果を発揮して、ゴブリンを縛り上げてその行動を封じた。
けど、私の鞭はそれで使用不能になったし、ライムがいない以上他の攻撃手段も持ち合わせてない。これ、どうすればいいんだろう?
と、そんなことを考えながらゴブリンとにらめっこをしているうちに、《バインドウィップ》はその効果時間が終了して、ゴブリンは自由を取り戻した。当然、縛られただけだからダメージは受けてない。
「あぁーーもう! こんなことならライムが攻撃する前に使えばよかったーーー!!」
まだ使ったことなかったから、《バインドウィップ》の効果を知らなかったせいとはいえ、失敗した!
ライムが攻撃するより前に使っていれば、ゴブリンの動きを封じているところをライムに飛び掛かって貰うことも出来たけど、今それを考えても後の祭り。ライムはいないし、私はCT待ちでもうアーツが使えない。使えたとしても時間稼ぎしか出来ない。
そう嘆く私に向け、ゴブリンはニタァっと醜悪な笑みを浮かべ、手にした剣を振りかぶる。
「来ないでよー!!」
叫ぶも、ゴブリンがそんな言葉を聞いてくれるわけもなく。剣を真っ直ぐに振り下ろし――
「よっと」
「ギヒッ!?」
その前に、私の後ろから伸びてきた金属の槍に貫かれて、ゴブリンは一瞬でポリゴンの欠片を撒き散らして消え去った。
「えっ」
突然の事態に、何が起きたのか分からないまま私は呆然と立ち尽くす。
そんな私の肩に、ポンっと手が載せられて、びくっと体を震わせる。
「澪、だよな? 大丈夫か?」
「お……お兄……」
振り返ってみれば、そこには全身金属鎧に身を包んだ甲冑騎士姿の私の兄、雛森 晃が、不思議そうな顔をして立っていた。