第32話 料理スキルと夜中のクエスト
灼熱の外を自転車で通勤し、クーラーの効いたお部屋で仕事。そして灼熱の外を自転車で退勤してクーラーの効いた部屋で執筆。そんなことを繰り返していたら最近夏バテ気味に(
更新に滞りはありませんが皆さんお気をつけを
料理スキルは、調合や鍛冶に比べると随分と分かりやすいというか、簡単だった。
大まかな分類……丼、パン、麺類、肉料理、炒め物、スープ、サラダ、デザート、ドリンクなどなどから作りたい物を選んだ後、今度は要求されるカテゴリの食材アイテムを、指定された数だけインベントリ内から選んで、後はシステムアシストに従って簡略化された調理をするだけ。
一応、選んだアイテムによって見た目や味が変わるんだけど、特に追加効果が得られるわけでもなく、満腹度ゲージの回復量に差が出るくらいの違いしかないみたいだから、やり込み要素っていうよりは純粋な趣味スキルって感じの印象を受けた。
けど、やっぱり趣味だからこそ、特に正解と呼べる正解が存在しないからこそ、楽な気持ちでやり込むことが出来て、気付けば私は、ホームの中だけでは広げきれないくらい大量の料理を作ってしまっていた。
「ふむふむ、んくっ、なるほど。もぐもぐ、んっ! つまりは、はふはふ。ミオは卑劣なPKに付け狙われ、むしゃむしゃ。満足に狩りに出ることも出来ず、ごくごくっ、ぷはぁ……こうして村の中に閉じこもり、料理スキルの検証を行ってると、そういうわけだな?」
「ネスちゃん、その通りではあるけど、食べながら喋るのはやめなさい」
ハウンドウルフのステーキ、キノコと野草のスープ、薬草サラダにハニーティーと、まだ麦とかお米とかがない上、NPCショップで買える《携帯料理セット》では作れる品目が野外料理系に限られる関係でやたらエネルギッシュで野性味溢れる品目に偏ってる気はするけど、それでもネスちゃんはどれも美味しそうにぱくぱくと食べ進め、その食いっぷりはもはや《悪食》スキル持ちのライムにすら匹敵しそうなほど。
いや、流石に今も私の膝の上で、料理と一緒にインゴットをむしゃむしゃ食べてるライムよりは流石に劣るのかな?
「んむ、すまぬすまぬ、ミオの料理が美味くてついな。流石は我が心の友よ! はっはっはっは!」
「やれやれ」
ちなみに、ゲーム内でいくら食べてもお腹は膨れない。
満腹中枢への刺激がどうたらこうたらと、何か小難しい話をお兄から聞いた覚えがあったようななかったような気がするけど、正直そんな細かいことはどうでもいいや。いくら食べても問題ないってことだけ覚えてればいい。
「まあでも、そういうわけだから私、これからどうしようかなーって」
ライムのご飯のことを考えると、3日間大人しく閉じこもってるっていう選択肢は最初からない。いくらPKのアジトでたくさんアイテムが入手出来たって言っても、ライムの《悪食》スキルにかかればあれくらい1日2日もあれば食べ尽くしちゃう。何せ、好きなだけ食べていいって言ったら、予想通り本当に食材アイテム全部使い切るまで食べ続けてるし。本当、この子の胃袋どうなってるの? 四次元ポケットなの?
「なるほど……あ、ミオ、このステーキおかわりあるか?」
「ま、まだ食べるんだ……いやその、ステーキはそれで打ち止めなんだ」
「なにぃ!?」
うん、ゲームの中だからだと思うけど、ネスちゃんの胃袋も十分摩訶不思議だった。
やっぱり、試しにハウンドウルフの肉にハチミツを混ぜて作ったのが良かったのかな? いつだったか、そうするとお肉が柔らかくなるって聞いた気がするのと、ネスちゃんが甘い物好きだからやってみただけだったんだけど。
「くうぅ、なぜだ!? なぜ作ってくれんのだ!?」
「肉アイテムもうないからだよ。ハウンドウルフには私1人じゃ勝てないし」
《西の森》で初めて狩ったモンスターではあるけど、あの時は奇跡的に1対1の状況だったから勝てただけで、普通なら3体以上は一緒に行動してるあのモンスターになんて挑んでも返り討ちに遭うのは目に見えてるから、あれ以来一度も倒してないんだよね。当然、そうしたらアイテムも入手できないわけで。
「ぬうう! ならばミオ、今すぐ我と共に《西の森》に向かうぞ! あの狼共を狩り尽くすのだ!」
「いやいや、私PKに追われてる立場だから、一緒に出来ないって」
ご飯に夢中で私の話聞いてなかったのかな? と思ったら、どうもそういうわけじゃないみたいで、ちっちっちっと指先を揺らしながら、ネスちゃんは自分を親指で指し示した。
「我にかかれば、PKの1人や2人物の数ではない! ミオは大船……いや、戦艦大和にでも乗った気分でいるといい! ふははは!!」
「大和って最終的に沈んでる気がするんだけど、大丈夫かなぁ……」
そこはかとなく不安はあるけど、本当に上手く行かなかったとしても精々所持金とアイテムを持っていかれるだけで、装備中のアイテムを盗られることはないし、本人が大丈夫って言うならまあいっか。
「では行くぞミオ! 肉のために!!」
「はいはい、分かってますって。ふふふ」
今にも涎を垂らしそうなほどはしゃぐネスちゃんに、思わず笑みが零れる。
凄いプレイヤーではあっても、やっぱりこういうところ見てると普通に子供だよね。小さい頃、外を走り回ってはすぐお腹空かせてた竜君を思い出すなぁ。
「……ん?」
「む、どうしたのだミオ?」
「いや、ちょっとメッセージが届いて」
そんな風に、竜君のことを考えてたからか、計ったようなタイミングで竜君のMWOでのアバター、リッジ君からメッセージが届く。
開いてみるとそこには、こう書いてあった。
『ミオ姉、今時間ある? 良かったらちょっとクエスト行かない?』
夜の暗い森の中を、私はいつものように気配を殺して進んでいく。
途中、離れたところに採取ポイントの光が見えて、ついそっちに意識を持っていかれそうになるけど、今はそれが目的じゃないとぐっと我慢して、最低限、目的の場所に向けて進む上で手が届く範囲の物だけ摘み取るのみに留めて、そのまま先へ進む。
「居たっ」
見つけたのは、黒い体毛を持つ狼型のモンスター、ハウンドウルフ。
その体色が、この闇の中では保護色になって、ちょっとした月明かりくらいじゃ全然見つけられないけど、今の私は《感知》スキルが14レベルにもなってるから、居場所に加えて潜伏してる数までちゃんと分かる。
「4体かぁ、ちょっと多いなぁ」
ぶーぶーと、《隠蔽》スキルのお陰でバレないのをいいことに文句を言いつつ、けれど私のパーティでの役割を果たすために、メンバーへとインスタントメッセージを飛ばす。
『見つけた、相手は4体、動いてない』
「せーの……《バインドウィップ》!!」
メッセージを飛ばすと同時、手に握りしめた《麻痺ポーション》を、《投擲》スキルの恩恵を受けつつ全力で手近な1体に向けて投げつけながら、抜き放った鞭からアーツを繰り出し、更に1体を絡めとる。
「ガルァ!?」
「グルゥ!!」
いきなり現れた私に、警戒の声を上げるハウンドウルフ達。
いくら作り物だって分かってても、リアルで出会う狂暴な野犬と同じように、荒々しい息遣いと醜悪な唸り声を響かせるその姿は、どうしても私の中に恐怖心を芽生えさせる。
仮にこのままライムと私の2人がかりで攻撃しようとしても、この暗がりの中じゃ《敏捷強化》の補正があったってハウンドウルフの攻撃を躱すなんてほとんど無理だし、1体を倒す間に自由に動ける2体に私が倒されるのは目に見えてるっていうのも、恐怖心を駆り立てる一助になってるのかもしれない。
でも、今はそんな心配をしなくても大丈夫だと、早鐘を打つ自分の胸を落ち着かせる。
何せ、今の私には頼りになる仲間がいるしね!
「《ソニックエッジ》!」
「《ファイアボール》!」
夜の帳を切り裂くように、白と赤のライフエフェクトが瞬いて、私に気を取られた2体のハウンドウルフが急所を斬り裂かれ、あるいは全身が燃え上がってポリゴン片を散らしながら爆散する。
「よし、それじゃあ私もっと」
拘束してるハウンドウルフに、そのまま走り寄っていく。
鞭での拘束なんて、緩んだらそれで解けちゃいそうなものだけど、アーツで縛ってる間はATKさえ足りてれば、鞭の射程内ならどこへどう移動しても拘束されたモンスターが動くことはないから、警戒する必要もなく大胆に近づける。
そして、ハウンドウルフの目前まで迫った私は、鞭を持つのとは別の手で、新しく作ったばかりのもう一つの武器――ナイフを抜き、振りかぶる。
「ライム、合わせて! せいやっ!」
「――!!」
動けないハウンドウルフの首筋にナイフを突き立てると同時に、ライムが飛び掛かって《酸液》の発動と《毒ポーション》の投擲を同時に使う。
さすがにそれだけで仕留められるほど、ハウンドウルフは柔じゃないけど、続けて2度、3度とナイフを振るえば、瞬く間にそのHPゲージが黒く染まっていき、先の2体と同じようにポリゴン片となって砕け散った。
「おお……私達がこんなに早く仕留めれるなんて」
初めてやり合った時は、森の中を散々逃げ回りながら《石ころ》を投げまくり、《バインドウィップ》で拘束してからもライムの《酸液》と合わせて必死に削って、それでも足りずに《初心者用HPポーション》で回復しながらどつき回されて気を引いてその間に攻撃して貰って、それでやっとこさ倒した相手。それがほとんど一方的に倒せたことに、感動すら覚える。
それはやっぱり、効果が一段階上がった《毒ポーション》によるダメージ加速もあるけど、多めに作ったライム合金を使って、出かける前にいくつか作った、このナイフの存在が大きい。
正確にはナイフじゃなくて投げナイフなんだけど、なんとこれ、ATKの補正値が+20もある。私のメインウェポンの《調教者の鞭》が+10だから、消耗品にしては随分と大きい。いや、むしろ消耗品だから大きいのかな? 一応、武器は作る度に、同じ素材を使っても補正値が上下するから、低いやつだとATK+6くらいなんだけど。
そのお陰でこうして、投げナイフなのに投げずに使っても、適当に鞭を振って攻撃するよりよっぽど威力のある攻撃が出来るようになった。まあ、《料理》スキルの効果で刃物の扱いに補正が少し乗ってるのと、私自身のプレイヤースキルとして、鞭よりナイフのほうが使いやすいっていうのもあるけどね。
だから、アーツを使えば流石に鞭のほうがずっと威力は上なんだけど、重要なのは鞭以外のまともな攻撃手段が得られたってこと。お陰でこうして、拘束しながらでもガンガン攻撃出来るようになったし。
問題は、設定された耐久値が《調教者の鞭》で100なのに対して、投げナイフの方は良くて50、低いと20くらいしかないから、やっぱり本当は近接武器として使う代物じゃないってことかな。出来れば、専用の近接武器が欲しいところ。
「おい、ミオ、何をボーっとしている、早く次のハウンドウルフを狩るぞ!」
「ネス、一応クエストのほうも覚えといてね?」
「分かっている。……というか! お前にまでネスちゃん呼びを許した覚えはないぞ! ちゃんとダークネスロードと呼べ!!」
「いや、ダークネスロードって名前長くて呼びづらいんだよ。それに、別にちゃん付けしなければそれなりにカッコ良くない? ネスって」
「ええい、そういう問題ではないわっ! ネスだけではこう、威厳が足りないのだ!!」
「えぇぇ……」
感動する私を尻目に、ハウンドウルフ程度じゃ何の感慨も抱かないらしい年下2人――リッジ君とネスちゃんは、いつの間にか麻痺していた最後の1体を倒し終えて、何やら名前の呼び方についてやんややんやと仲良さげに騒いでいた。
うん、分かってるよ、ハウンドウルフも、数がある程度拮抗してて、不意打ちを喰らわなければ大して強いモンスターじゃないんでしょ?
いいもん、仮令そうだったとしても私は嬉しいから。この気持ちはライムとだけ共有出来れば寂しくないもん。
ちなみに、2人は会ってすぐにフレンド登録は済ませてある。あんな様子だけど、やっぱり歳が近い者同士、親近感が湧いたのかな?
「ミオ姉、今のところ周りは大丈夫そう?」
「ああうん、今は平気、何もいないよ」
言われて、改めて《感知》スキルに意識を向けるけど、特に反応はない。
「そう……PK、どこにいるんだろう」
真剣な表情で呟くリッジ君に、私は頼もしさと同時にちょっとした罪悪感を覚えつつ、先ほどあったやり取りを思い返す。
リッジ君からクエストのお誘いがあった時、とりあえず私は事情を話してやんわり断ろうかと思ったんだけど、それを聞いたリッジ君はむしろ「PKは僕が倒す!」とネスちゃんと似たようなことを言って、止める間もなくコスタリカ村にまで押しかけてきちゃう事態に。
来ちゃったものは仕方ないと、軽い自己紹介の後どうするのか3人で相談した結果、リッジ君の言うクエストがちょうど《西の森》で出来ることだったらしいから、それを達成するために森の奥へ向かう道すがら、可能な限りハウンドウルフを狩りつつPKを警戒するという感じに落ち着いた。
「しかし、街のクエストボードで受ける物ならともかく、《西の森》の中で直接受注できるクエストなど、我は聞いたこともないぞ。どのようなクエストなのだ?」
PKのことはあまり関心がないのか、それともいつ来られてもどうとでもなると思ってるのか、特に気負った様子もないネスちゃんがふと気になったという風に首を傾げる。
そういえば、クエストを一緒にやらないかとは言われたけど、内容は特にまだ聞いてなかったっけ。パーティを組んでもまだ表示されないってことは、ネスちゃんが言った通りこれから受注するんだろうけど。
「一応、βテストではなかったクエストらしいから、それで知らないんじゃないかな? そんなに報酬が良いわけでもないし」
「む? ならばなぜクエストを?」
「それはまぁ……達成してのお楽しみってことで」
やけにもったいぶるリッジ君に、私もまた首を傾げる。
うーん、なんだろう、リッジ君だし、お兄みたいにロクでもないこと考えてるってことはないだろうけど、それなら素直に教えてくれてもいいのに。
「と、とりあえず、この先にクエストNPCがいるはずだから、付いてきて」
露骨に誤魔化すようにそう言って、先を歩いていくリッジ君。
その後を、ネスちゃんと2人顔を見合わせながら付いていく。
――そんな私達を、じっと見つめる影の存在に、気付くことなく。




