第30話 PKの仕様と洞窟の正体
タイトル通りです、予定通りミオが何をやらかしていたのか明らかに!
MWOからログアウトした私を最初に出迎えたのは、意外なことに出張に行っているはずのお母さんだった。
もっとも、ちょっと戻ってきただけでまたすぐに行くとかで、慌ただしくまた出かけて行ったんだけど。
お盆までにはちゃんと帰るって言ってたし、寂しくはあるけど我慢しないとね。もう大人なんだし。
「というわけでお兄ー、今日の晩御飯はご馳走だよー」
「おー、母さんが作り置きしてくれたやつな」
「ご馳走はご馳走なんだからいいでしょ」
相変わらず一言多いお兄にそう言いながら、お母さんが作ってくれたチンジャオロースと炊き立てご飯、ついでにお味噌汁という、中華と和食のコラボレーション(?)をテーブルに並べていく。
ここ最近、カップ麺だとか総菜パンだとかばっかりだったから、そろそろ料理しようかと思ってたけど、お兄もこんなんだし、明日まではこのチンジャオロースで食い繋げばいっか。私達2人だけなら4食分くらいにはなるでしょ。
「まあそうなんだけどな……」
はあ、と溜息を吐き、もそもそとチンジャオロースを食べ始めるお兄だけど、なんだか見るからに元気がない。
今朝、私が学校に出かける前に見た時はいつも通りだったし、MWOで何かあったのかな?
「お兄、美鈴姉にゲームの中でフラれでもした?」
「違うわ!! お前察しが良いのか悪いのかどっちだよ!?」
調子は悪そうだけど、そこまで深刻なことがあったわけでもなさそうだと思って茶化したら、元気よくツッコミを入れてきた。
うん、これだけ騒ぐ元気があるならやっぱり大丈夫そうだね。本当に怒ってる時とか悩んでる時は、私に遠慮して隠そうとするし。
「冗談だよ。それで、何かあったの?」
「はあ、お前は全く……まあいいか。それがなぁ、最近PKの動きが活発で、今日もうちのギルメンが1人やられたんだよ」
「へ~、PKかぁ……まだ見たことないけど、やっぱりいるんだね、そういう人達」
PK……プレイヤーキラーは、フィールドで他のプレイヤーを襲って、その所持金やらアイテムやらを巻き上げるプレイヤーや、そのプレイスタイルそのものを指す言葉らしい。
巻き上げるっていうとカツアゲみたいだけど、実際にはキルしたらその場で相手の所持金の半分と、所持アイテムのランダムドロップ、それから相手とのレベル差に応じた経験値が自動で貰えて、それがPKの戦利品になる。
短期的に見れば、モンスターを狩ったりクエストを達成するよりも手っ取り早く稼げるんだけど、その分相手の恨みを買うし、キルする時に顔……もとい、頭上に表示されるプレイヤーネームを見られれば、自身を示すプレイヤーカーソルが赤くなって、モンスターと同じ扱いで討伐されるようになる。当然、街の中に入ってその機能を利用することも出来ないし、その状態でキルされたら通常のデスペナルティに加えて、その時持っていた所持金とアイテムの全ロスト、スキルや職業レベルの経験値減少なんてのがある。ぶっちゃけ、割に合う気がしない、っていうのが私の正直な感想だ。
「だからマイナーではあるんだけど、逆にそういうリスクの高い悪役ロールが好きな奴らが集まって、PKギルドを結成してるんだよ。全く、俺もただでさえ変な奴に目付けられてるってのに、勘弁してほしいぜ」
「へ~、変わった人もいるんだね」
悪役ロールプレイが好きっていう人がいるのは知識としては知ってるんだけど、実際に見たことないからどういう思考に至ればそんなプレイスタイルが出来るのかさっぱり分かんない。みんな私みたいにのんびり可愛いモンスターを愛でればいいのに。
そうでなくても、態々お兄に粘着するとか。ストーカーするにしてももうちょっと良い相手がいるんじゃないかな?
「いや、PKの連中も流石に澪には変人呼ばわりされたくないんじゃないか?」
「それどういう意味よ、私は真っ当なテイマーなんだからね!」
「そりゃお前、自分の取得したスキル一覧とテイムしたモンスターを見てから言ってくれ」
「うぐぐ」
い、言い返せない……!
「えーっとそれで何の話だったっけ。そうだそうだ、それで、俺達のギルドも報復に動こうってなったんだけど……連中のアジトが全然見つからなくてなぁ」
「アジト?」
「ああ」
アジトって言うのは、早い話がPK用のホームみたいなものらしい。
PKをして、カーソルが赤くなったプレイヤーは街に入れないんだけど、そう言ったプレイヤーでも利用できる施設として、街の近くに闇市っていうのがあるみたい。
その中の1つに、PK可能な街の外の好きな場所に、小規模なダンジョンを創り出せる特殊なアイテムがあって、それで創り出された小さな洞窟みたいなのが、PKのアジトになるんだって。
「アジトの中なら、アイテムをインベントリから出したままでも消えずに残るから、報復対策にアイテムや所持金をそこで溜め込んでるのが基本だな。同じPKに短期間で何度かキルされると、マップからそのPKの位置を追跡できるようになったりするらしいんだけど、アジトの中に入られるとその機能も妨害されるらしいし。PKするプレイヤーは個人かパーティやギルド単位でかはともかく、1つは必ず持ってるだろうな」
「へ~……」
……アイテムや所持金を溜め込んだ、洞窟みたいな小さなフィールド。うん、なんだろう、すごく覚えがあるなぁ……
「それで、さっき言ったうちのギルメンを襲ったPKな。《北の山脈》にアジトがあるらしいことは分かってるんだけど、どうにも見つからなくてな……ほとんど一本道だから、いくら入り口偽装用のアイテムを使ったってすぐに見つかりそうなもんなのに、ほんと、どこに作ったのやら」
……うん、一本道で、下から見てもただ崖みたいな斜面が続いてるだけのところに、ほとんど偶然に頼らなきゃ見つけられない洞窟なんて、普通は見つからないよね。私も、クレイゴーレムに投げ飛ばされなかったら絶対見つけられなかったし。
い、いや、まだそうと決まったわけじゃない、アジトがホームと同じなら、部外者の私がアイテムを拾えるわけないし……!
「ち、ちなみにお兄、そのアジトの中のアイテムって、他のプレイヤーが拾ったりは……」
「うん? もちろん出来るぞ? ただ、そういうアジトは大体の場合罠が仕掛けられててな。一番安いのだと警報装置ってのがあって、アジトの中の物を盗み出すと侵入者ってことですぐに設定されたプレイヤーのところにメッセージが飛んで、3日間マップ上で追跡されることになるらしい。解除したければ、警報装置に設定されたPK全員キルするか、自分が1回キルされるしかない。ただ、アジトからアイテム盗った後、追跡されてる時にそのPK達にキルされると、デスペナルティが増大して持っていかれる金とアイテムが増えちまうんだよな。それに、PK側もアジトの位置がバレてアイテム持ってかれるリスクは承知してるから、アジト1つにはそこまで大量に保管してないだろうし、俺達みたいにPKごと潰すつもりじゃなきゃ、割に合わないだろうなぁ」
「………………」
ど、どうしよう……これ疑う余地もなく私やらかしちゃったやつだよね? ああもう! あんな分かりづらいところとはいえ、見つけたってだけであんなアイテムが貰えるなんておかしいと思ったらそういうことかーー!! もうっ、上手い話には裏があるって分かってたのに、何調子に乗って全部持って帰ってるの私はもーー!!
「お、おい、どうした?」
急に頭を抱えてテーブルに突っ伏した私に、お兄から心配そうな声をかけられる。
うぅ、どうしよう、お兄に相談するべき? いやでも、仮にPKされたとしても、盗られるのって今の所持金と所持アイテムだけだから、全部使い果たすかホームを持てば関係ないし、別にいいか。
「ううん、なんでもない。ところでお兄、コスタリカ村でホーム持つなら、いくらぐらいかかるの?」
「見事に全く関係ない話題だなオイ。まあいいか、それで、ホーム? 一口にホームって言ったって、用途によって値段なんてピンキリだぞ?」
「それもそっか。うーん……まあ、とりあえず平屋の一戸建てみたいなのだと?」
今はライムだけだけど、今後使役モンスターも増えてくと思うしね。その子達と一緒に過ごせる家っていうのはちょっと憧れる。
「一戸建てだと……500万くらいか?」
「高っ!!」
私の所持金の25倍なんですけど!? あ、いや、ホームって1回買ったら終わりなんだし、そういう意味だとそれくらいしても普通なのかな……? どのみち手は出しようがないけど。
「まあ、序盤で手に入れようっていうなら、お前だと調合の作業場とか物置とかそんなだろ? それなら、5万Gくらいから買えるよ。土地代合わせると……10万くらいか?」
「あ、うん、それなら行ける」
今、所持金20万超えてるしね。それなら余裕余裕。
そう思って言ったら、お兄から物凄く意外そうな顔で見られた。えっ、なんで?
「ミオお前、10万持ってるのか?」
「いや、それくらい……」
……ああ、うん。PKのアジト(仮)を見つけてなかったら、私の所持金まだ2万ちょっとしかなかったんだった。
それから思えば、確かに10万なんて凄まじい大金だったね。
「まあ確かに、冷静に考えてみれば10万程度大した金額じゃないけど、つい昨日まで1日1万も稼げてなかったお前が急に……ま、まさかお前、ついに俺だけじゃ飽き足らず他のプレイヤーにまで手を出してPKを……! ぶほっ!?」
「するわけないでしょうがバカお兄!!」
全く、人を暴力女か何かみたいに言っちゃって、失礼しちゃうよ。
「い、いやお前、自覚ないかもしれないけどめっちゃくちゃ手が出るの早いからな?」
私に引っ叩かれた頭をさすりながら、お兄が控えめに反論するけど、私はそれをふんっ、と鼻で笑う。
「お兄にしか手は出さないから大丈夫」
「だから、お前にとって俺ってどういう扱いなの!?」
「サンドバッグ?」
「ひでぇ!!」
「まあ半分冗談だけどさ」
「半分ってどこまで!?」
相変わらずキレのあるツッコミで騒ぐお兄を尻目に、私はMWOでの今後の予定に頭を巡らせる。
ひとまず、コスタリカ村でホームを買って、アイテムと所持金をあるだけ置いたら、後はもうPKでもなんでもいつでもこーい!
……って、ダメだ、ウルと採掘しに行く約束があるんだった。流石に、クレイゴーレムを一撃で倒せるって言っても生産職で戦闘メインじゃないウルを巻き込むのも悪いし、かと言って自分からむざむざやられに出てくのも癪だし……
「うーん……まあ、その辺は明日になったら考えようかな」
最悪、事情を話して採掘はまた今度にして貰うしかないかなぁ。
そんなことを考えながら、私はお皿に残ったチンジャオロースをかきこむように口の中へ放り込んだ。




