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テイマーさんのVRMMO育成日誌  作者: ジャジャ丸
第二章 オリジナル合金とプレイヤーキラー
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第25話 採掘スキルと北の山脈

 グライセより北には、険しい山脈エリアが広がっている。

 どこを見渡しても岩だらけで、緑がほとんどないその場所は、ひたすら草原が広がる《東の草原》や緑一色に侵食された《西の森》を見慣れた私からすると、ひどく殺風景に見える。

 ウルの提案を受けた私は、そんな《北の山脈》に素材採取――採掘をしに2人でやって来ていた。

 ちなみに、熊のおじさんは武器の受け取りに来ただけだったみたいで、もう別れてる。いなくなってちょっとだけほっとしたのは、流石に内緒だけど。


「ほいっと!」


 肩に担ぐようにして振りかぶったピッケルを、その重さに任せ勢いよく振り下ろす。

 吸い込まれるように岩の亀裂みたいなところに吸い込まれていったピッケルは、カァン! と音を立てて中の岩盤の一部を砕き、そこからポロポロといくつもの鉱石が転がり落ちてきた。

 それを何度も何度も繰り返していくと、10回を超えたあたりで何度叩いても何も出てこなくなったから、ふぅ、と一息ついて額を腕で拭ったあと、足元に散らばる鉱石の山へ手を伸ばす。


「どれどれ……?」


 手に取ってみれば、山になった物のほとんどはただの石ころだった。

 一応、《投擲》スキルを持つ私にはちょっとした武器にもなるとはいえ、今のところそれ以外に使い道が分かってないこれがこんなに集まってもなかなか処理に困るけど、後になって必要にならないとも限らないし、一応全部インベントリに放り込んでおく。

 貧乏性? いやいや、世の中何があるか分からないんだし、仮令売っても1Gにしかならない代物だったとしても、集めて損はないよ。たぶん。


「ミオー、石ころなんて一々集めてると、あっという間にインベントリ一杯になるよ? ほどほどで拾うのはやめてその辺捨てときなよー」


 と、思ったら、採掘の先達からそんな有難い助言をいただきました。

 で、でも、塵も積もればなんとやらって言うし、もう少しだけ……インベントリの枠2つ分(198個)くらい確保したらやめておこう、うん。


「それで、肝心の鉱石アイテムのほうはっと……」


 ただの石ころとは少し色合いの違うそれらを手に取って注視すると、それでようやくそれがどういう鉱石なのか分かる。


 えーっと……鉄鉱石が7つ、銅鉱石が3つ、黒曜結晶が2つ、銀鉱石が1つ、クリアライト鉱石が2つ、マナタイト鉱石1つか。いいんだか悪いんだかよく分からないなぁ。

 あとマナタイトってなんだろう。説明文には「マナが結晶化した鉱石。魔力との親和性が高い」とだけ書いてあるけど、マナと魔力って何が違うの? さっぱり分からないや。

 クリアライトの方は……えーっと、綺麗に透き通った水晶のような鉱石。うん、それだけで何を察しろと?

 まあ、多分、レアな鉱石なんだと思うけど。


「どうだったミオ?」


「こんな感じ」


 壊れやすい市販のピッケル(NPCショップで1本100Gで買った)を使う私と違って、かなりしっかりした造りの、頑丈そうな自作ピッケルを担いだウルがやってきて、互いに途中戦果を見せ合う。

 鈍色の鉄鉱石、茶色の銅鉱石、クリスタルみたいに透明なクリアライト鉱石に、白磁みたいに白くてぼんやり光るマナタイト鉱石と、色とりどりとまではいかないにしろ、光を反射してキラキラしてちょっと綺麗だ。


「お、マナタイト出たの? 幸先いいね」


「そうなんだ?」


「激レアってほどでもないけど、あんまり出るものじゃないからね。私も3つしか取れてないし」


「私の3倍じゃん!」


「それはだって、《採掘》スキルのレベル差があるからね」


 あはは、と笑うウルを見て、これがレベル差の壁か……とがっくり肩を落とす。

 いいもん、私だってそう遠くないうちに追いついてやるもん。


「それでも、ミオがいてくれて助かってるよ。流石に採掘ポイントが多いから、私1人で周り切るのって結構大変なんだよね。ただ、私の方から頼んでおいてなんだけど、《採掘》スキルなんて態々習得してよかったの?」


「いいのいいの、どうせSPはまだ余ってるし。それに、私の場合はこれからもちょくちょくウルのお店に厄介になるだろうから、今回だけのスキルになるってこともないだろうしね」


 ライムの餌代に、武器の新調。他にも、新しい使役モンスターをテイムしたら、その子のための餌作りだってするだろうし、いずれはモンスター達とのびのび遊べる庭付きのホームとかも欲しい。

 そう考えると、お金はいくらあっても足りないし、武具にしたって一度作ったら終わりまでずっとそれでってわけにも行かないだろうから、お金になりそうなスキルは取っておいて損はないと思う。


 そう言って笑うと、これからもお得意様になる宣言のついでに、これからも値切り続ける宣言を放った私に苦笑を返した。


「そういうことなら、ミオにはじゃんじゃん働いて貰わないとね。次の採掘ポイント行くよ」


「うんっ」


 ウルが歩き出すと、それとは別の場所にある採掘ポイントを求めて、私も斜面を登り始めた。


 途中、採掘するでもなく、崖の斜面を手で叩いてる変なプレイヤーが居たりしたけど、何してるんだろう? 聞いてみようかと思ったけど、なんだかその表情がやけに真剣だったから、邪魔したら悪いかと思ってひとまずそっとしておくことにした。


「よし、それじゃあもういっちょ……っと、どうしたのライム?」


 辿り着いた採掘ポイントを前に、ピッケルを振りかぶろうとして、ふと肩に乗ったライムが私のほっぺを突いて来たのに気付いて一旦動きを止める。

 またお腹が空いたのかと一瞬思ったけど、ライムの表情(?)を見る限り、それとは少し違うみたい。なんだか、採掘ポイントのほうをじーっと見て……


「もしかして、手伝いたいの?」


 聞いてみると、ライムは「その通り!」と言わんばかりに肩の上でぷるんぷるんと体を跳ねさせ、地面に降り立った。

 どうやら、私とウルだけでもずっと作業していて構ってあげられなかったから、退屈しちゃってたみたい。


「ふふっ、しょうがないなぁ。それじゃあ、私が掘るから、ライムは出てきた鉱石を《収納》で回収していってくれる?」


 そう言ってしゃがみながらライムを撫でると、ぷるんっ、と肯定するように体を揺らす。

 そんな姿を見て、やっぱり可愛いなぁ、なんて微笑ましく思いつつ、私は《採掘》スキルを活用してピッケルを振り下ろす。


「おっ、おお?」


 ボロボロと零れ落ちてきた鉱石やら石ころを、ライムが次々と取り込んで、石ころだけをぺっ、ぺっと排出していく。

 採掘ポイントが消えるまでピッケルを振るい終えると、そこにはさっきまでと違い、鉱石類だけを綺麗に抜き取った石ころの山が出来上がっていた。


「すごいよライム、仕分けまで完璧じゃない!」


 さっきまでは、出来上がった山から鉱石類だけを抜き取ってインベントリに納めるか、全部纏めてインベントリに入れたあと、バラバラに収納された石ころを1枠ごとに選んで捨てる作業が必要だったんだけど、ライムのお陰でどっちもやらずに済むようになった。これは結構な効率アップになるなぁ。


 ライム、何にも使えないって最初は言われてたけど、なんだかんだで戦闘にも採取にもきちんと活躍してくれてるし、ほんといい子だよ。

 しかも、ボロボロ落ちてくる石くれを、ぽよんぽよん跳ねながら取り込んでいく姿が、餌を待ち切れなくて飛びつくわんちゃんみたいでほんと可愛い。癒される。

 ……いや、何となくその例えで言ったけど、まさか本当に鉱石食べたりしないよね? いや、いくら《悪食》があるからってそんな……あはは……

 ……そういえばライム、ポーション瓶も食べてたんだった。うん、普通に食べれそうな気がしてきた。


「ライム、それウルにあげるやつだから、食べちゃダメだよ?」


「――!」


 「分かった!」みたいな感じで元気に飛び跳ねるライムを見ながら、私はそっと目を逸らして採掘作業に戻っていく。

 ……うん、出来ればそこは、「食べるわけないじゃん!」みたいな感じで怒って欲しかったなぁ……いや、これはこれで、《ハニーポーション》に続く新しいライムの好物を見つけるチャンス? いやでも、鉱石なんて食べて、お腹壊したりしないかちょっと心配。

 いや、壊すお腹があるのかもよく分からないけど。


 なんて、のんびりと採掘に勤しんでいたら、ふと《感知》スキルに反応が。


「ウルー! ゴーレム出たー! ヘルプミー!!」


「あいよー」


 私のすぐ傍の地面が盛りあがり、土で出来た大きな人型――クレイゴーレムになる。


 この《北の山脈》では、《西の森》と比べるとあまり多くはモンスターが出現しない。

 その分、1体1体が強くて、このクレイゴーレム1体でもハウンドウルフよりも圧倒的にATKとDEFが高くHPも多くて、動きが鈍いっていう弱点を補って余りある。しかも、エリア自体足場が狭いこともあって、いくら遅くても回避するのは至難の業っていうオマケ付き。

 更に、私とライムにとって最悪なことに、体が無機物だからか状態異常ポーションが一切効果を発揮してくれないし、ATK差が大きくて《バインドウィップ》を使うと私の方が振り回されるという、とことんまで相性の悪いモンスターだ。


 ならどうするのかというと、このエリアにおける対ゴーレム戦術は2つある。

 1つは、DEFの関係ない魔法による攻撃。そしてもう1つは、


「ミオ、危ないからちょっと離れてね!!」


 私よりも先に進んだところで採掘していたウルが、巨大なハンマーを肩に担いでこっちに向かって走ってくる。

 そして、その細腕でどうやって保持してるのか色々とツッコミたくなるようなそれを振りかぶり、まるで木のバットでも振り回すかのような手軽さで、クレイゴーレムへと叩きつけられた。


「どっせーーーい!!!」


 女の子らしからぬ声と共にぶち込まれた衝撃で、4mに迫ろうかというその巨体が揺らぎ、バランスを崩す。

 そしてさっきも言った通り、このエリアは山なだけあって足場が狭くて、そんな場所で巨体を持つゴーレムがバランスを崩せばどうなるかというと。


「――――!」


「出てきたばっかりで悪いけど、じゃ~ね~」


 足場を踏み外して、ごろごろと山の斜面を転がり落ち、多かったはずのHPがあっという間に0になってその体をポリゴン片に変えてしまうクレイゴーレム。南無。


 そう、これこそが、攻略サイトにも普通に載ってるこのエリア序盤の一番簡単な攻略法だ。

 ATKの高い鍛冶師が、ATK補正の高い大きな武器で正面から殴って後退させ、足場から叩き落とすというシンプルを極めた作戦。

 山の斜面はジグザグに登っていくスロープみたいになってて、落ちた先にいるプレイヤーに当たったりしないかちょっぴり心配になるんだけど、仮にHPがMaxだったとしても下まで落ちる前にHPが尽きてポリゴン片になるから気にしなくていいみたい。実際、今のところ1回も下の段まで生きたまま落ちたクレイゴーレムはいないし。


 これがあるからこそ、かなり強いはずのクレイゴーレムが出るのに、グライセの周りでは唯一の採掘スポットとして初心者でも気軽に足を運べる場所になってるんだけど、そのためには全職で最高のATKを誇る鍛冶師の協力が必須だし、その鍛冶師の1、2発で勝負が決まる関係上他のパーティメンバーには経験値がほとんど入らない。

 そういう理由から、このエリアで見るプレイヤーは大半が採掘目的の鍛冶師だったりするんだけど……うーん。


「さ、次行こっか。って、どうしたのミオ?」


 クレイゴーレムが落ちて行った先をいつまでも見つめていたからか、ウルが怪訝そうに話かけてきた。


「うーん? いやほら、どうせなら私もこの機会に、クレイゴーレムくらい自力で倒せるようになっておきたいなーって」


 もしライムが鉱石を食べるのを気に入るようなら、何度も足を運んで採掘することになるしね。こんな場所じゃあ《隠蔽》スキルが役に立つかどうかわからないし、自力で処理できるようにしたい。


「流石に鞭とミニスライムじゃ無理じゃないかな……? 魔法でもあれば別だろうけど」


「やっぱりそうかなぁ」


 はあ、と溜息を一つ零しつつ、私達はまた何事もなかったかのように採掘作業に戻る。


 うーん、足場から落とせばいいだけなんだから、ATKのゴリ押し以外にも何か一つくらいやりようはありそうなんだけどなー……


 そんなことを考えながら、けれど特に妙案が浮かぶわけでもなく、採掘ポイントを虱潰しにしながらエリアの奥……山の頂上に向けて進んでいく。すると、


「おお~?」


 ちょうど山の中腹に差し掛かったあたりで、ぽっかりと口を開けた洞窟を見つけた。

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