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テイマーさんのVRMMO育成日誌  作者: ジャジャ丸
最終章 冬の訪れと最後のイベント
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第187話 波乱の予感と本戦開始

「はあ……」


 竜君とのお出かけの翌日、私はホームの中でライム達に包まれながら黄昏ていた。

 そんな私に、傍でゴロゴロしていたフウちゃんが話しかけて来る。


「どうしました先輩~? モンスターに囲まれながら溜息なんて、らしくないですよ~?」


「フウちゃん……いやね、昨日竜君と一緒にご飯食べに行ったんだ」


「リッジとですか~、ほえ~、それはまた思い切った行動に……それでどうしたんですか~?」


「帰り際にキスされた」


「えっ」


 私が昨日あったことを告白し、真っ先に声を上げたのは、また普通に私のホームに来てくれるようになったユリアちゃんだった。

 うちのスライム隊の面々を突き回し、その感触の違いを夢中になって楽しんでいたユリアちゃんは、わなわなと震えながら私の方に這いよって来る。


「そ、それで……どうなったの……?」


「どうなったというか、『イベント本戦で絶対優勝するから見てて』って言われて、そのまま別れた」


「はは~、なるほど、そういう感じですか~」


 顔を真っ青にするユリアちゃんに比べ、フウちゃんは何が可笑しいのか、にやにやと笑みを隠そうともしない。

 なるほどって、何がなるほどなんだろう。いや、流石に竜君の気持ちは誤解しようがないとは思うけど。


「リッジのことですから、優勝したら改めて告白するつもりなんじゃないですか~?」


「うえぇ!?」


 そんな私の考えを更に上回るフウちゃんの予想に、思わず素っ頓狂な声を上げる。

 いやでも……えぇ!?


「先輩、珍しくテンパってますね~」


「いや、そりゃそうだよ! 告白なんてされたの生まれて初めてだし!」


 しかもその相手が従弟って! いや、別に嫌なわけじゃないけど、でもこう、どういう反応すればいいの!?


「……なるほど、分かった」


「ユリアちゃん?」


 フウちゃんと話し込んでいると、それまで黙っていたユリアちゃんが顔を上げる。

 何となく不穏な気配を感じて振り向くと、ユリアちゃんはにこりと、兄であるラルバさんとよく似た獰猛な笑みを浮かべて……。


「これはリッジの宣戦布告とみた。リッジは私が倒す」


「えぇ!? なんで!?」


 ゴゴゴゴ、と擬音が付きそうなほどの迫力を全身から滲ませるユリアちゃんを前に、思わずたじろぐ。

 急にどうしたのユリアちゃん、なんか後ろに死神が見えるんだけど!?


「ミオ」


「な、なに?」


「私、頑張るから。……見てて」


 竜君もそうだったけど、一応は私も本戦に出るんだよ? 参加者であって観客じゃないからね? そこのところ忘れてない?


「え、えっと……わ、分かった」


 とはいえ、こんな必死の表情で頼まれて、頷かないわけにもいかない。


 うむむ、本戦の組み合わせはランダムだけど、うっかり最初から鉢合わせないことを祈っておこう。

 いや、勝ち上がってたらそのうち嫌でもぶつかるんだけどね?


「ん。……これで条件は同じ、リッジには負けない。ふふふ……」


 どこからともなく鎌を取り出し、砥石で砥ぎ始めるユリアちゃん。

 砥石には、コスパが悪いながら少しだけ武器の耐久値を回復させる効果があるけど、鍛冶師の人に見て貰った方が安いし早い。これから戦闘するわけでもないんだから、はっきり言って今やる必要はない……はずなんだけど……。

 き、気合でも入れてるのかな? なんだか怖いよ?


「先輩、イベント本戦、一筋縄じゃ行かなそうですね~。私はのんびり観戦してるので、頑張ってください~」


「全くだよ。うぅ、無事何事もなく進めばいいけど」


「無理でしょうね~」


「即答!? いや、分かってるけど、私もそれは分かってるけど!」


 あっさりと言い切るフウちゃんに不満の声を上げながらも、私自身そうなるだろうなとは思ってしまう。

 うぅ、イベント本戦、一体どうなっちゃうんだろう?





 そこはかとない不安を覚えながらも、瞬く間に時間は過ぎ。あっという間に本戦の日がやって来た。

 トーナメントの参加者の名前と組み合わせが発表され、それに合わせて誰が勝つかに対する賭けを、全プレイヤーを対象に運営が開催してる。


 まあ、ナナちゃんの目論見通り、私は大穴枠なんだけどね。他のみんなが倍率1.1倍とか、高くても2倍台なのに対して、私だけ3倍だし。

 さっきリン姉から聞いたところ、理由は多分、「ソロで勝ち抜いたわけじゃないから」とのこと。ナナちゃんと協力してラルバさんを倒したから、自分の力だけで戦わなきゃいけないトーナメントは厳しいんじゃないかとの下馬評だ。


 ふふん、いいもんね、そういう評価を覆してこそ、ライムの強さを証明できるってもんだよ! おあつらえ向きに、下馬評一番人気はお兄だし、絶対勝ってみせる!


「よ、ミオ。気合十分だな」


 などと、思いっきり対抗意識を燃やしながら予選の時と同じ控室で出番を待っていると、お兄がいつも通りのノリで気軽に話しかけて来た。

 全く、私はお兄を倒すためにこのイベント本戦まで来たっていうのに、そこのところ分かってるのかな?

 まあ、お兄の目標はあくまで「このイベントを全力で楽しむ」ことだから、これから戦う相手はまさに遊び相手に同じ。ピリピリする方がおかしいんだけどね。


「そりゃあもちろん、お兄に勝って、ライムの凄さを知らしめる絶好の機会だからね! 今日は負けないよ、お兄」


 私としても、倒すべき相手だからって変に突っかかる必要性は感じないから、同じくいつも通りの調子で宣戦布告する。

 それを受けて、お兄もまたニヤリと笑みを浮かべた。


「ああ、楽しみにしてる。だからちゃんと勝ち上がって来いよ、ミオ」


 総勢三十二人の本戦参加者によって出来上がったトーナメントで、私がお兄とぶつかるのはそこそこ早く、三回戦……準々決勝だ。

 最低でも二回、勝ち上がらないとお兄とはぶつかれない。それなのに、一回戦で当たる相手は紛れもない強敵だ。他ならぬ私自身が、誰よりもよくそのことを知ってる。


 それでも、勝ってみせる。ライムと一緒に!


「うん、お兄こそ、あっさり初戦負けなんてしたら許さないからね! 晩御飯抜きにするから!」


「げっ、それは勘弁だ。じゃあ、負けないように頑張らないとな」


 お互いに笑みを交換し合っていると、ついに試合開始の時間がやって来た。

 控室の壁にウィンドウが表示され、王様の顔がドアップで映る。


『皆の者、待たせたな。それではこれより、第一回グライセ大武闘会、本戦トーナメントを開始する!!』


 ワァァァァ!! と、控室にいても聞こえて来る大歓声が、闘技場全体を震わせる。

 多分、NPCの歓声がかなり入ってると思うけど、それに釣られて声を上げるプレイヤーの人もかなり居そうだ。

 聞こえて来る声からそんなことを考えていると、王様の代わりに従者っぽい人が画面に映り、イベントを進め始めた。


『まずは、一回戦第一試合! 東からは、《魔物使い》のミオ!!』


 第一試合、まず呼ばれたのは私だ。トーナメント表の組み合わせから、事前に分かっていたことだけど、改めて呼ばれると緊張する。

 そんな内心を誤魔化すため、お兄ともう一度目配せし合うと、私は観客達が待ち構える熱戦の舞台へと足を踏み入れる。


『そして西からは、《魔術師》のダークネスロード!! 両者、前へ!!』


 そして、私の対戦相手――私のフレンドの一人でもあるネスちゃんが、反対側の控室から姿を現す。

 ローブを翻し、ゲームだからこそ出来るアクロバットな跳躍から見事に着地を決めたネスちゃんは、杖を掲げて高らかに名乗りを上げる。


「聞けぇ!! 我が名はダークネスロード、深淵の支配者なり!! 我が友、ミオよ。直接対峙するこの時を待ちわびていたぞ」


 大袈裟な所作と共にびしっ! と杖の先端を突き付けて来たネスちゃんは、好戦的な笑みと共にそう口にした。

 私との決闘、待ちわびてたの? とてもそうは思えなかった、というかかなり意外だ。

 でも、続く言葉でその理由も納得する。


「貴様を打ち倒し、勝ち上がって来るであろうリッジと相対する。我の全てを以てあいつを倒すために……今日は負けんぞ、ミオ!!」


 ネスちゃんは、前からどうにもリッジ君のことが異性として気になってるみたいだった。

 もしかしたら、そんなリッジ君との勝負を経ることで、自分の気持ちをはっきりさせたいのかもしれない。

 そんなネスちゃんに対して、私はどんな言葉を返すべきなのか。

 少し迷ったけど……ネスちゃん相手に、変な気遣いはかえって失礼かと思い直した。


「いいよ。でも、私だって目標があってこのイベントに参加してるんだから、ここで負ける気なんてない! 全力で行くよ、ネスちゃん!」


「ダークネスロードと呼べ! だが、それでこそ我が友だ、行くぞ!!」


 ネスちゃんの全力を、私とライムの持てる全力で迎え撃つ。

 そんな意志を固めて武器を構えると、ちょうど進行役の従者さんが手を振り上げた。


『試合、開始ぃぃぃ!!』


 ゴォォン!! と、開始を告げるゴングが鳴り響く。

 同時に、私とネスちゃんは、互いに向かって走り出すのだった。

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