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テイマーさんのVRMMO育成日誌  作者: ジャジャ丸
最終章 冬の訪れと最後のイベント
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第183話 ミオVS狂獣

「ミオ、どないするんや?」


「ここで勝つ! どうにか隙は作るから、トドメお願い!」


 ナナちゃんからの問いかけに、私は簡潔にそう言って距離を詰めた。

 いやまあ、一瞬だけ、逃げた方がいいかなぁ、なんて考えたりもしたけど……ラルバさんが下手に長時間ここで暴れ回ったら、私なんかぶっちぎるくらいキルを量産して、あっさりトップに君臨しそうだし。

 予選を抜けてお兄と戦うためには、ここでラルバさんに勝つしかない!


「やあぁぁぁ!!」


 全力で突っ込みながら、解体包丁を構えて突きを繰り出す。

 リッジ君にやり方を習ったから、多少それっぽい形にはなってると思うけど……まあ、付け焼き刃で適うはずもなく、あっさりと躱された。


「そんな攻撃当たるかよ! 《パワースラッシュ》!!」


「ふぎゃ!?」


 無防備になった私目掛け、《大剣》スキルのアーツが繰り出される。

 すんでのところでライムが防いでくれたけど、その威力のせいで私の体はあっさりと弾き飛ばされた。


「ミオ!」


 私を援護しようとしてか、ナナちゃんが手に持っていた槍をぶん投げる。

 咄嗟のことだったからか、アーツもないその一撃は、一見すると大した威力もなさそうに見えるけど……大剣で打ち払おうとしたラルバさんは、逆に大剣の方が弾かれたことに目を見開いた。


「うおっ!? なんつー威力だ、特化構成か?」


 私に追撃しようとしていたラルバさんはその場でたたらを踏み、動きが止まる。

 よし、この隙に動きを封じないと!


「《チェインバインド》!!」


 体勢を立て直しながら、素早く抜いた鞭を振るう。

 拘束すれば、相手の動きだけでなくアーツを含めた特殊行動全てを封じるこのスキルなら、いくらラルバさんでも抵抗出来ないはず。


「っとぉ!?」


 でも、そんなアーツも当たらなければ意味がない。

 大きく後ろに跳び、自動追尾の鞭から逃れたラルバさんは、一度仕切り直すように大剣を肩に担ぎ、ニヤリと口角を吊り上げる。


「ハハッ、前に少しだけやった時よりも大分動きが良くなったじゃねえか、やっぱ戦いはこうでなきゃなァ」


「あはは、それはどうも」


 対人戦闘においてはトップクラスのプレイヤーに褒められて、私は無難にそう返す。

 油断してたわけじゃないけど、やっぱりラルバさんは強い。出し惜しみなんてしてたら、あっという間にやられちゃいそうだ。


「仕方ない、アレやるよ、ライム」


 私がそう言うと、ライムが了解の意を示すようにぷるるんっと体を震わせる。

 可愛らしい仕草に癒されながら、私は《ブルーテンタクルス》を仕舞い、代わりの装備を取り出す。


「……おい、なんだそりゃ。舐めてんのか?」


 その装備を見て、ラルバさんは機嫌を急速に傾かせながら凄んで来る。

 でもまぁ、それも仕方ない。何せ、私が取り出したのは……。


「舐めてなんかないよ? これが私の秘策だもん」


 初心者用装備、《蔓の鞭》。

 ステータス補正もほぼ皆無で、対応するアーツが使えるっていうこと以外は無いのと同じとまで言われる、最弱装備だ。


 それでも、私はこれで戦う。


「ほぅ? なら、その秘策とやらを見せて貰おうかッ!!」


 ドバンッ!! と地面が爆発し、ラルバさんが迫り来る。

 その凶刃が私を襲うより先に、大急ぎでこっちも準備を整えた。


 ライムが、DEXを引き上げる《叫獄薬》を私に、自身にはAGIを引き上げる《天獄薬》と、DEFを引き上げる《地獄薬》をそれぞれ使用。

 アイテム集めが大変で、上限の十個どころかその半分しか用意出来なかったから、予選の、それもこんな序盤で使っちゃうのは厳しいけど、ラルバさん相手じゃ仕方ない。


 必要なステータスが強化されたところで、ライムは私の持つ《蔓の鞭》の付け根に纏わり付く。

 これで、準備は万全だ。


「おらァ!!」


「ぐっ……!」


 迫り来るラルバさんの大剣を、私の解体包丁とライムの触手、二人がかりで受け止める。

 今度こそ吹き飛ばされずに凌げたけど、HPはまたガクンと減った。ライムにポーションを使って貰いつつ、後ろに跳んで距離を取る。

 その最中、私はちらりとライムを見て……準備が整ったことを確認すると、鞭を振るった。


「いくよ、《アンカーズバインド》!!」


 《鞭》スキルの中でも最速のアーツを、ラルバさんに向けて放つ。

 DEXが上がって狙いが正確になったこともあって、ラルバさんは避けることを諦め、舌打ち混じりに腕で受けた。


 とはいえ、これはぶっちゃけ、ただ鞭を巻き付けるだけのアーツだ。

 相手を拘束する効果はなく、ただ巻き付けた場所を起点にターザンが出来る、立体機動用のアーツ。

 でも、それでいい。狙いは、鞭を巻き付けることそのものなんだから。


「んぐっ、《ダークスモッグ》!!」


 《蔓の鞭》を口に咥えてアーツを維持したまま、今度は短杖を抜き放って闇属性魔法を放つ。

 黒い煙が辺りを覆い、お互いの視界が効かなくなった中で、ラルバさんの困惑の声が聞こえてきた。


「《ダークスモッグ》は確か、特に変わった効果もない目眩まし用の魔法だったか……? こんな分かりやすく居場所を教える鞭のアーツと併用するなんて、何を考えてやがる?」


 ぐいっと軽く鞭が引かれる感触に、私は苦笑する。

 まあ確かに、この二つは相性悪いよね。でも、今は少しでも時間が稼げれば……。


「ん? なんかHPが減ってやがるな? どういう……ああ、そういうことかッ!!」


 煙の奥で、ラルバさんの愉快そうな笑い声が響く。

 あちゃー、もうバレちゃったか。思った以上に早かったかも。


「この鞭、何かアイテム……いや、スライムの酸かなんかを塗り込んでやがるな? 密着状態じゃなきゃ使えねえスキルを、武器伝いに俺に届かせてるわけだ」


「正解。流石ラルバさん」


 そう、これが私の新戦術。予め、ライムの《強酸》スキルを鞭にたっぷり垂らしておいて、それを相手に巻き付けることで、ライム自身は私の傍で守りに徹しながら、相手に張り付かせるのと同等の継続攻撃を発揮出来る。


 難点は、攻撃スキルを武器にぶつけ続けるわけだから、どうあっても耐久値が即行で底を突くところ。

 この問題ばっかりは、専門家のウルが匙を投げた時点で、どうしようもないかと思ってたけど……そこで思い出したのが、この《蔓の鞭》だ。


 ステータス補正はたったの1。辛うじてアーツを発動可能ということ以外には、無いのと変わらない。

 そんな評価を受ける装備だけど、たった一つだけ、他のどんな装備にも負けないオンリーワンな性能がある。


 それこそが、耐久値無限。

 初期装備だけは、どんな使い方をしても決して壊れない。


「“弱い”とか“使い道がない”とか、そんな風に言われてるものの使い道を考えるのは、得意だからね」


 ふふん、と、煙でお互いの姿が見えてないのに、私は堂々と胸を張ってみせる。

 ライムだって、最初はそうだった。

 ゲーム内最弱、役立たず、そんな評価を受けてるってお兄に言われて、それでも諦めずに頑張ったからこそ、こうして強くなれた。

 そんな、私達が歩んで来たこれまでがあったからこそ、思い付いた戦い方だ。


「ハハハ……いいね、確かに、初期装備にこんな使い道を見出だした奴は初めて見た。だが……ッ!!」


 それを聞いて、ラルバさんは笑う。馬鹿にしてるわけじゃなく、心底楽しそうに。


「こんなチマチマしたダメージでオレを倒そうってか!? いいぜ、やれるもんならやってみやがれッ!!」


 《ダークスモッグ》の黒煙を切り裂くように、ラルバさんの大剣が迫ってくる。

 ポーションと、更にはウルに作って貰った装備の効果で加速したライムの触手がそれを受け止めるも、間髪入れずに次の攻撃が捩じ込まれて、私は慌てて地面を転がることで回避した。


「わっ、とぉ……! へへーん、言われなくても、やってみせるよ!」


 内心で冷や汗をかきながらも、不敵に笑ってみせながら逃げ回る。

 ライムと出会ったばかりの頃、私にとっては町から一歩出れば格上のモンスターばかりだった。

 そんな中で培って来た私の生存力、逃げ足。ここでとことん発揮して、限界まで時間を稼ぐ!


「チッ、ちょこまか逃げんなぁ!!」


 ラルバさんが大剣を振るう度に轟音が鳴り、アーツのエフェクトが真っ暗な黒煙の中で光輝く。

 見切って躱してたんじゃ間に合わないと、オーバーな動きで逃げ回り、無理なものはライムに防いで貰って、私自身も解体包丁でガードする。


 逃げて、躱して、逃げて、防いで、逃げて、逃げて、逃げて。

 徐々に減っていくラルバさんのHPを見つめながら、ずっとその時が来るのを待ち続ける。


「ハハハ……! 正直な、お前がここまでやれるとは、流石に思ってなかったぜ」


 あと少し。そう考え始めた時、不意にラルバさんが話しかけて来た。

 こんな風に言って貰えるとは思わなくて驚く私に、「だがな」と言葉を重ねる。


「オレの勝ちだ」


 その瞬間、ラルバさんの体を特殊なエフェクトが包み込む。

 HPが残り二割を切った時、ATKを大幅に上昇させる――《背水》スキルだ。


「このスキルの存在は忘れてたみたいだな! そんな継続ダメージでちみっとずつ削ってたら、こいつを使ってくれって言わんばかりだぜ!?」


 上昇したステータスに物を言わせ、ラルバさんが突っ込んでくる。

 私が躱せないように、そして防御されても押し切れるように、必殺のアーツを放つ。


「食らいやがれ、《グランドスラッシュ》!!」


 大上段に振りかぶった、大剣の一撃。

 これを受ければ、いくらライムでも押し切られる……でも。


「確かに、私じゃこれを凌げないけど……ラルバさんこそ、忘れてない?」


 私達にはまだ、もう一人いるってことを。


「行くで! 《界穿牙槍撃》!!」


 私がやたら撒き散らした黒煙の中、ずっと息を潜めていたナナちゃんの小さな体から、必殺の槍が放たれる。

 体を狙ったその一撃に、ラルバさんは目を見開き……それでも、きっちりと合わせて見せる。


「しゃらくせええええ!!」


 システムに沿って放たれるアーツの軌道を、足運びだけで僅かにずらす。

 斬線と槍撃がぶつかり合い、眩いエフェクトが辺りを満たした。


「行ったれぇぇぇぇ!!」


「うおぉぉぉぉ!!」


 攻撃特化と攻撃特化。全く別の戦闘スタイルながら、同じ極みを目指した二人の攻撃がせめぎ合う。

 意地と意地が雄叫びとなってぶつかり合い、お互いに全力を賭したその攻防は、僅かにナナちゃんが押していた。


「さ、せ、る、かぁぁぁ!! 《蹴撃》!!」


 このまま押し切れるかも? という私の予想を裏切って、ラルバさんは更に別のアーツを使用することで体勢を無理矢理捻り、槍の軌道を逸らすように下から蹴りを叩き込んだ。

 普通の《槍》スキルと違い、投げ飛ばして使い捨てる代わりに高い威力を誇る《投槍》スキルじゃ、一度逸れた方向を修正することは出来ない。ナナちゃん必殺の一撃は、あと一歩のところでラルバさんを捉え損ねた。


「くっ、届かんかったか……! ミオ、後は頼んだで!!」


「任せて!!」


 それでも、流石にラルバさんも無傷では済まなかった。

 HPは限界ギリギリまで削られて、体勢も大きく崩れてる。

 今なら、私の攻撃も届く!


「《三枚卸し》!!」


 解体包丁を構え、ラルバさんに吶喊。アーツを繰り出す。

 そんな私を視界に捉えながら、けれどラルバさんは抵抗することなく、ただニヤリと笑みを浮かべ――


 私の攻撃によって最後のHPが消滅し、ラルバさんの体はポリゴン片となって霧散していった。

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