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テイマーさんのVRMMO育成日誌  作者: ジャジャ丸
最終章 冬の訪れと最後のイベント
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第181話 イベント開始とバトルロイヤル

 リッジ君とのやり取りで、若干悶々とした思いを抱えながらも、時間だけはあっさりと過ぎていく。

 そしてついに、冬イベント予選が始まる時間となった。


「おお……」


 インフォメーションに従い、闘技場の中に進み出ると、既にたくさんのプレイヤーが集まっていた。

 PvPイベントに参加するだけあって、みんな歴戦のつわもの感を出す強面プレイヤーばかり……ということはもちろんなく、そういう人の割合はむしろ少ない。

 美男美女、更には可愛らしい子供まで。とても戦闘とは無縁そうな見た目の人が、ゴツい全身武装で集まっている光景は、これからガチの対人戦闘を行うというより、和気あいあいとコスプレ談議でも始めた方がよっぽどそれらしい。

 でも、そんな私の思考を現実に引き戻すように、たくさんの観客達がいて――こっちはNPCもいるっぽい――なんというか、凄く緊張してきた。


「――!」


「元気付けてくれるの? ふふ、ありがとうライム」


 そんな私を気遣ってか、ライムが私の頬に体を擦り付けて来た。

 ぷるぷるつるつるとした感触が心地良い。癒される。

 愛しの相棒のお陰で心落ち着けながら、改めて周囲を見渡せば、何人か見知った顔が混じっていることにも気が付いた。

 同じ控え室から出てきたリッジ君はもとより、身長のせいで半ば人混みに埋もれながらも堂々たる振る舞いで仁王立ちするネスちゃんや、気配もなく隅っこの方で佇み、成り行きを見守るユリアちゃん。


 そして――気負った様子など微塵もなく、ただこれから始まるイベントを前にワクワクとした表情を浮かべるお兄。

 ふと、そんなお兄が私の存在に気付いたのか、こっちに視線を向け――ニヤリ、と笑った。


 ――ちゃんと勝ち上がって来いよ。俺のところまで。


 お兄の目から、何となくそんな意図を感じ取った私は、負けじと睨み返す。

 そっちこそ、あっさり予選落ちとかやめてよね! と、そんな意図を込めて。


 いやまあ、そもそも予選のバトルロイヤルでぶつかる可能性もあるんだけどね。そこはまあ、気分というやつだ。


『さて皆の者、よくぞ集まった』


 そんなことをしていると、会場にマイクで拡張されたような声が響く。

 見上げると、そこには大きなウィンドウが表示され、前回のイベントでも目にした王様の姿が映っていた。


『今回は、我が国で初となる武闘会、その予選が執り行われる。ルールは――』


 そこからしばし、予選のルール説明が入った。

 概ね、事前に知らされていた通りの情報だけど、確認の意味もあったんだろう。参加者全員、三十二ヶ所のエリアにそれぞれランダムで割り当てられてのバトルロイヤル。一時間という制限時間の中で生存時間、キル数などからポイントが算出され、トップ一名が決勝トーナメントに駒を進める。

 そして、肝心のステージだけど……。


『《森》《平原》《山脈》《湿地》《洞窟》《海》……これら六つの環境をベースに、それぞれ異なるステージを用意した。ポイントのため、他の敵を探して駆け回るもよし、いち早く有利なポジションを探しだし、やって来る敵を待ち受けるもよし。各々の実力のみならず、冒険者としてのセンスをも十全に活用し、勝ち上がって貰いたい』


 と、いうことらしい。

 どんなステージでやることになるのか、始まってみないと詳細は分からない、かぁ。

 初めてやるタイプのイベントだし、誰もが手探り。対策なんて取りようがない。

 それぞれの対応力が試されるってことかな。


『ではこれより……第一回、グライセ大武闘会を開催する!!』


 そんな名前のイベントだったんだ、と、今更過ぎることを考えていると、闘技場の中にいたプレイヤー達の足元に、巨大な転移ポータルが出現する。

 光に包まれ、一瞬だけ目を閉じ――気が付くと私は、森の中で一人佇んでいた。


「おお、始まったのかな?」


 メニューを開けば、ウィンドウの端に私が送られてきたエリアの全体マップと、残り制限時間。それに、エリア内にいるプレイヤーの総数が表示されていた。


 結構多い――と、そう考えている間に数字が更新され、ピコンと一つ減った。


「わっ、本当にもう始まってるよ! 早いところ移動しなきゃ」


 ひとまず、今回の予選バトルロイヤルを勝ち抜くために、私も多少は作戦というか、行動方針を考えてある。


 すなわち……逃亡、そして漁夫の利作戦だ。


「森のエリアに来れて良かったぁ、ここなら隠れるには苦労しないし」


 《隠蔽》スキルは、モンスター相手だとすんごく有用だけど、プレイヤー相手だと少し勝手が違い、精々が物音を立てても周囲に聞こえなくなる効果と、輪郭がボヤけて気持ち視認されづらくなる効果しかない。

 要するに、ちゃんと身を隠すものが無ければ、プレイヤーには一発で見つかるってことだ。


 その点、森の中なら隠れる場所には事欠かないし、スキルとの相性はバッチリだ。ここで、ある程度数が減るのを待つ。


「さーて、他のプレイヤーは、と……いたっ」


 草の中で寝そべり、ガサゴソと蠢きながら周囲を探索していると、ちょうど激しくぶつかり合う二人のプレイヤーがいた。

 方や、双剣を携え森の木々を縦横無尽に跳ね回る忍者っぽい人。

 方や、小振りな盾と片手剣を構えた、オーソドックスな剣士スタイルの人。

 目にも止まらない早さで打ち合う二人の実力は拮抗しているのか、お互いに似たようなペースで順調にHPを減らしている。


「よーし、しばらく様子見しようか、ライム」


「――!」


 ライムと頷き合い、しばし息を潜めての静観。

 やがて、少しずつ忍者の方が押してきたのか、HPに差が生まれ始めた。


「ふっ、これで終わりだ!!」


「このっ……タダでやられてたまるかぁ!!」


 トドメとばかりに飛び掛かる忍者に対し、剣士は最後の足掻きとばかりにアーツを放つ。

 でも、そのアーツの威力じゃ忍者は仕留めきれない。明らかな威力不足だし、本当にやけっぱちなんだろう。

 忍者の人もそれが分かってるのか、敢えて避けようとはせず、そのままHPで受け止める構えだ。その隙に、手早くトドメを刺して次に行こうっていう魂胆なのが目に見える。


 だからこそ、私は待ちに待ったチャンスの到来に、《隠蔽》の効果が切れるのも構わず短杖を取り出し、構えた。


「《ペインアップ》!!」


 今まさに交錯せんとする二人に、対象が受けるダメージを倍加させる闇属性魔法を放つ。

 突然の介入に驚く二人だったけど、一度発動したアーツは止められない。その一撃は確かにお互いを捉え――


「「えっ」」


 倍加したダメージによって、仲良くHPバーが消し飛んだ二人は、そこで脱落となった。


「よしっ、成功!」


 最後の最後に横槍を入れて、ポイントをかっさらっていく作戦、大成功!

 まあ、サポート系の魔法を当てただけだからか、入ったポイントは半分以下(自力で倒せば五ポイント、半分以上のダメージまたは一定のサポートが発生したと認定されると二ポイント)だったけど……十分十分。


「この調子で、じゃんじゃん嫌がらせしてくよ!」


 そう、気合と共に拳を突き出す私だったけど……そんな目立つことをすればどうなるか、と言えば。


「いた、プレイヤーだ!」


「軽装だな、貰った!!」


「俺の獲物だ、取るんじゃねえ!」


 その存在を察知したプレイヤーによる、集中砲火。

 ちょうど近くにいたらしいプレイヤー三人が、それぞれを牽制し合いながら、私目掛けて攻撃を仕掛けてくる。


「これは、ちょっと……!」


 きっつい! と、私は早速、習得したばかりの切り札、《加速》を使って逃げに徹するべきかと考えたんだけど。


「うりゃあああ!! 《界穿牙槍撃》ィ!!」


 その瞬間、アーツ発動のエフェクトと共に、目の前をとんでもない勢いで何かが駆け抜けた。

 一体何が起きたのか、私はもちろん、光に飲まれてあっさりと消失した三人のプレイヤー達も理解出来なかったと思う。ただただ、その威力の凄まじさを物語るように、地面を抉る破壊跡が残されている。


「くっ、四人抜きは出来へんかったか! せやけど次の一撃で確実に……って、ありゃ」


 そんな凄まじい攻撃が飛んできた方へ顔を向ければ、そこにいたのは先ほど別れたばかりの美幼女(偽)。


「ミオ、さっきぶりやな」


「ナナちゃん!」


 思わぬ形での再会に、私は驚きの表情と共にその名を呼ぶのだった。

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