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テイマーさんのVRMMO育成日誌  作者: ジャジャ丸
最終章 冬の訪れと最後のイベント
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第180話 闘技場と思わぬ成長

 ついにやって来た、イベント当日。

 本選トーナメントはまた来週だけど、まずは今日の予選を乗り越えなきゃ話にならない。


「それじゃあみんな、行ってくるね」


 私がライムとイベントに参加している間、他のモンスター達は例によってお留守番。

 最近、あまり構ってあげられてないから、寂しそうにすり寄ってくる子達を一体ずつ撫でてあげる。


「ごめんね。終わったら、みんなで打ち上げパーティをやろうか」


 そう約束し、いざ行かんとクリスタルローズへ向かう。

 極寒の冷気――と行ってもプレイヤーはほとんど感じないけど――に包まれたその町は、イベント開始前特有の熱気に覆われて、道行く人もどこかそわそわと落ち着きがない。

 そんなプレイヤー達の様子を見ていたら、なんだか私まで緊張して来ちゃったよ。うぅ、お兄と当たるどころか、予選で負けたらどうしよう。

 いやいや、何を弱気になってるの私は! このイベントに向けて頑張って来たんだから、まずは自信を持って実力を出しきることを考えよう。


「おーい、ミオ~!」


「うん? あ、ナナちゃん!」


 そんな心境で歩いていると、偽美幼女のナナちゃんが大きく手を振りながら駆け寄ってくるのが見えた。

 くっ、中身がクラスメイトの奈々ちゃんだって分かっていても、やっぱり可愛い。


「とぉ!」


 そんな風に思っていると、ナナちゃんが私の胸に飛び込んで来た。

 ロケット頭突きさながらの勢いに、ぐえ、とさして苦しいわけでもないのに変な声を漏らし、私は地面に押し倒される。


「ん~、相変わらず、ゲームん中のミオの胸はやわこいなぁ、リアルと違って」


「最後の一言が余計だよ! 全くもう」


 抱き着いたついでに顔を埋める変態親父の首根っこを掴み、私から引き剥がす。

 名残惜しそうに手を伸ばして来るけど、いくら可愛くてもそれ以上は認められてないから。BANされるよ?


「まあええわ、今日はミオにエールを送りに来たねん」


「エール? イベントのことだろうけど、急にどうしたの?」


 あまりにも唐突な話題転換についていけずに首を傾げると、ナナちゃんはニヤリといかにも悪だくみをしていますと言わんばかりの笑みを浮かべる。

 本人としては格好つけてるつもりなのかもしれないけど、残念なことに私の腕からプラーンとぶら下がってる状態で言われても可愛いだけだ。


「ほれ、前回のハロウィンでミオが活躍して、出店がすんごい儲かったやん?」


「うん、お陰で装備をウルに作り直して貰う資金にも困らなかった」


 お店なんて、本当ならやるつもりはなかったんだけど、やっぱり本職がいると儲け額が全然違う。私がコツコツとコスタリカ村のクエストをこなして稼いだ額とは文字通り天地の差だった。


 そのことについて改めてお礼を言うと、ナナちゃんは悪い笑みのままこう続けた。


「せやろ? 装備品みたいな高額の買い物も、商売で儲ければ簡単に出来る。ちゅーわけでや」


 ぴっ、と指を一本立て、私を指差す。


「ミオに本戦に進んで貰えれば、前回の流れで更に知名度上がるから、ミオにちなんだゲーム内グッズでも販売すれば売れるんとちゃうかなって」


「ゲームの中でどんだけガチの商売やろうとしてるの!?」


「本当は賭けの胴元とかやりたいんやけどな。流石にBANされる、ちゅーか運営が未参加プレイヤーも楽しめるように自分らで開催しよったから、流石に出来ん」


「当たり前でしょ! いくら賭けるのがゲーム内通貨でも、賭博は色々ヤバイよ!」


 どう足掻いてもトラブルの温床にしかならないでしょ。

 まあ、ナナちゃんがそんなことを分かってないわけがないから、本当に冗談だろうとは思うけどさ。


「実際、ミオがもし本戦に進んだら、見事な大穴枠になって賭けが盛り上がりそうやからな! そうなればもう、ガッツリ商売チャンスや、ウッハウハやで」


「もう、ナナちゃん、自分が最初に立てた目標忘れてない?」


 一応、ナナちゃんはMWOで商売じゃなく、ゲーム内最高の単発火力を誇る《投槍》スキルを極めるのが目的だった気がするんだけど。

 そんな私の疑問に、ナナちゃんは「甘い甘い」と指先を振ってみせる。


「スキルは大体揃ったから、後は消耗品として使い潰す槍装備と、それを調達する資金だけやねん」


「早!? まだ始めて二ヶ月くらいなのに、もうスキル揃ったの!?」


「おう、まだ上はあるから極めたとは言えんけど、動画で見たのと同じところまでは行けたで。もうヒュージスライムは一撃で倒せるしなー」


 あまりにもあっさり言うナナちゃんに、私は空いた口が塞がらない。

 えー……本当にいつの間にレベリングしてたの?


「今回のイベントは、そのお披露目も狙っとるで。まあ、ロマンビルドやから本戦まで行ける気はせーへんけど、ミオが上がりやすいように厄介な奴を即行で道連れにしたるわ。予選で同じブロックになるとええな」


「頼もしいような、そうでもないような……」


 いや、私のスタイルは基本的に生存重視でそんなにキルの量産は出来ないから、ナナちゃんがもしあの動画と同等以上の火力で暴れたら、私こそ蹴落とされるんじゃないかな?


 まあ、それも含めてのバトルロイヤルだけどね。


「ま、そういうわけや、ウチは高みの見物決め込んどる観客に食わす軽食の用意で忙しいから、また後でなー」


「う、うん、また後で……」


 本当に、イベントと関係ないようで関係ある、絶妙なポイントで楽しんでるなぁ。

 まあ、あれもまた一つの遊び方だよね。ナナちゃんらしい。


「さて、それじゃあ会場に行こうか」


「――!」


 私の声かけにライムがぷるんと返事を返し、そのまま試合会場に向かう。

 途中、ナナちゃんと似たような考えなのか、観客と思しきプレイヤーを相手取って屋台を開く人を見掛けたりして、その度にライムが食べたそうにぷるぷると震えるのを宥めたりして。

 やがて辿り着いたのは、クリスタルローズの中央。

 氷で作られた、荘厳な闘技場コロッセオだった。


「は~、この町は本当に、どこもかしこも凄い建物ばっかりだね」


 とんでもない光景に感嘆の息を吐きつつ、中へと足を踏み入れる。

 受付カウンターのようなところで、美人の受付嬢(NPC)さんに話し掛けると、時間までお待ちください、との声と共に控え室に通された。


 するとそこには、見慣れた顔が一つ。


「あ、リッジ君。こんにちは、もう来てたんだ」


「ミオ姉! こんにちは。ミオ姉こそ早いね、開始までまだしばらくあるのに」


 私が軽く手を上げて挨拶すると、リッジ君もまた笑顔で返してくれる。

 イベント開始までまだ三十分以上あるからか、他のプレイヤーもいないその場所で、二人並んでテーブルに着く。


「下手にホームでライム達と戯れて時間を潰すと、平気で一時間とか経っちゃいそうだったから、早めに来ようかなって。リッジ君は?」


「僕はまあ、待ってるのが落ち着かなくて。剣道の大会とかでも、緊張し過ぎて早く着き過ぎちゃうんだよね、いつも」


「そうなんだ?」


 照れ臭そうに語るリッジ君を眺めながら、意外だなぁ、と心中で呟く。今年の夏にあった大会では、あんなに堂々と戦ってたのに。


 ああでも、と、私はふと昔のことを思い出し、深い納得と共に頷いた。


「リッジ君、小さい頃は怖がりで泣き虫だったもんね。いつも私の後ろに隠れてて、可愛かったなぁ」


「ちょっ、ミオ姉! そんな昔の話はやめてって!」


 しみじみと呟く私に、リッジ君は顔を真っ赤にして詰め寄って来る。

 でも、一度思い出すと連鎖的に他の思い出も次々と蘇って来て、今更やめられない。


「そんなリッジ君が、しばらく見ない間に剣道なんて初めて、大会で活躍しちゃうくらい強くなって……本当、大きくなったよねえ」


「うっ、ぐう……」


 何となく感無量になってそう言うと、リッジ君は益々顔を火照らせる。

 恥ずかしがり屋さんなところは、昔から変わらないんだよね。

 くすりと笑っていると、リッジ君は一つ溜息を吐いた。


「もう、ミオ姉はいつまでも僕のこと子供扱いするんだから」


「えー、そんなつもりはないんだけどなぁ」


 今言った通り、リッジ君だって昔に比べると随分と逞しくなったし、なんというかこう、男らしくなったと思う。

 まあ、それ以上に私にとって、可愛い弟分なことに変わりないけど。


「本当に?」


 だから、リッジ君がそう言って、不意に距離を詰めて来たことに驚いて、思わず「ひゃ」と変な声を漏らす。

 でも、リッジ君はそれに構わず、触れ合いそうなくらい顔を近づけて来る。


「だったら、少しくらい大人の“男”として見て欲しいな」


 自分でやりながら恥ずかしいのか、ほんのりと朱に染まった顔で目いっぱい真剣に見つめて来る。

 その言葉の真意がどこにあるのか測りかねた私が返答に困っていると、他のプレイヤーが部屋に近付いて来る気配がして、名残惜しそうにリッジ君は離れていく。


「……予選が終わったら、改めて時間取れる? 大事な話があるからさ」


「う、うん、いいけど」


 約束だよ?

 そう言って軽く微笑んだリッジ君は、入って来たプレイヤーににこやかに挨拶しながら、適当な場所に腰を落ち着ける。


 ……話って、なんだろう


 なぜだかドキドキと高鳴る心臓を抑えながら、私は何事もなかったかのように予選の開始を待つリッジ君を、いつまでも見つめていた。

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