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テイマーさんのVRMMO育成日誌  作者: ジャジャ丸
最終章 冬の訪れと最後のイベント
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第178話 友里の家とお世話好き魂

 ラルバさんと会った二日後。イベント予選まで後一日と迫ったこの日、約束通り電車に揺られ、ユリアちゃん……もとい、友里ちゃんの家まで案内して貰った。


「ここが俺らの家だ」


「へぇ~、ここが……」


 ラルバさん、もとい雷斗さんに連れられて到着したのは、極普通の一軒家。これが森の中とかにあったりすると、友里ちゃんのイメージが益々妖精っぽくなるところだったけどそんなこともなく、都会らしいコンクリートの群れに混じっていた。

 特に物珍しい外観をしてたわけでもないけど、なんとなくぼーっと見つめていたら、雷斗さんに促されて家の中に。


「お邪魔しまーす」


 中も特に変わったところはなく、極普通の内装から、他人の家特有の少し不馴れな匂いが漂ってくる。

 もちろんそれが不快なわけでもなく、はてさて友里ちゃんのお部屋はどこだろうかと思っていると、そのまま雷斗さんは玄関近くにあった階段を上っていく。


「今日は親もいねーから、まあ適当にやってくれ。健全な範囲でな」


「健全って、私のことなんだと思ってるの?」


「公衆の面前だろうとお構い無く、初対面で友里に抱き着こうとした変態」


「いや、ちゃんと抱き着く前にやっていいか聞いたじゃん! 結局やらなかったんだから無罪を主張する!」


「そうは言うが、あん時のお前、マジでただのエロ親父みたいな顔してやがったからな?」


 失礼な、可愛い子を見たら抱き着きたくなるのは人間の本能だというのに。


 そんなやり取りを交わしながら二階にやって来ると、雷斗さんは一つの扉の前まで進み出た。


「おーい、友里ー。生きてるかー?」


『…………』


 コンコンとノックしながら声をかけるも、反応はなし。

 ただ、誰かいるのは確かなのか、部屋の中から少しだけ物音がした。


「お前にお客さんが来たぞ」


『……バカ兄、嘘吐くならもう少しマシな嘘吐いて。私にお客さんなんて来ない』


 そして、聞こえてきたのは確かに友里ちゃんの声。

 以前にも増して元気が無さそうに聞こえるのは、気のせい……じゃないよね?


「嘘じゃねーって、お前が電話に出ないからって、アホテイマーが直接乗り込んで来たぞ」


『っ!?』


 誰がアホテイマーか。

 そう突っ込むよりも先に、部屋の中からガタンッ! ドンッ、ドサァ!! と凄まじい音が聞こえてきた。

 いやいや、何が起きたの!?


「友里ちゃん、大丈夫!? 私、澪だけど、入っていい!? というか入るね!!」


『ま、待っ……!』


 大慌てでドアノブに手を伸ばすと、雷斗さんは何も言わずにスッと扉の前から退く。どことなくニヤニヤと笑っているその顔を横目に、勢いよく扉を開け放った。


「友里ちゃん! 大丈、夫……?」


 そこに広がっていたのは、少し……というか、かなり予想外の光景だった。

 部屋の隅を埋め尽くすように並べられた無数の本棚と、それを隙間なく占領する本の山。

 地面やベッドの上には、見覚えのあるものからないものまで、たくさんのゲーム機やソフトが乱雑に積み上げられ、整理もされずに伸ばされたコンセントがブービートラップの如く張り巡らされている。

 昼間にも拘わらず締め切られたカーテンのせいで薄暗い部屋の中、そんなトラップに引っ掛かった哀れな子供が、一人。

 可愛らしいパジャマに身を包み、転んだ拍子に降ってきた本やゲームに半ば潰されかかっている銀髪の女の子――氷室友里ちゃんが、ぷるぷると震えながら私を見上げる。


「……たすけて」


 ぐすん、と、羞恥と痛みとその他諸々で半べそをかきながら、上目遣いでそんなことを言われて。

 不覚にも鼻血が出そうになって顔を押さえる羽目になったのは、決して私が変態だからじゃないと信じたい。




「友里ちゃん、怪我はない? 大丈夫?」


「う、うん、平気……」


 ひとまず、潰れかかった友里ちゃんを救出した私は、華奢なその体を抱き上げて、辛うじて残された生活空間であるベッドの上に移動した。

 横になった友里ちゃんの体を隅々までチェックするも、特に痣になった部分も見当たらず、怪我はなさそうだ。

 リアルはゲームと違って、怪我をしたからってポーション飲んですぐ回復とは行かないからね。良かった良かった。


「そ、それより……何しに来たの、ミオ」


 恥ずかしそうに顔を真っ赤にしたまま、はだけたパジャマをいそいそと直した友里ちゃんは、若干抗議するような鋭い目で私をジロリと睨む。

 いやほら、怪我があったら大変だからね? 女の子同士だしこれくらいセーフだと思うんだ。


「もちろん、友里ちゃんに会いに来たんだよ」


 そんな内心のあれこれは一旦棚の上に放り投げて、私はここに来た目的を話す。

 ただまあ、会いに来たのは見れば分かるわけで、当然友里ちゃんはその返答では納得しなかった。


「会って……どうするつもりだったの?」


「どうするって言うと……遊ぶ? 一緒にお喋りしたりとか」


「……それだけ?」


「それだけ」


 私の答えに、友里ちゃんは困惑顔で視線を彷徨わせる。

 いやね、私も色々考えたんだよ。友里ちゃんと仲直りするためにはどうしたらいいかなって。

 でも、よく考えたら別に喧嘩したわけでもないし、私の受験は避けようがないし、特に何をしようなんて思いつかなかった。


 じゃあどうするか? うん、答えは一つ。

 せっかく友達の家に来たんだから、一緒に遊ぼう!


「というわけなの」


「えー……」


 友里ちゃんとしては、もっとMWOで一緒に遊ぼうとか、そういうお誘いが来ると思ってたらしい。

 まあ、私も最初はそんなことを言おうかと思ったけど、でも、それじゃ足りないと思ったから。


「ほら、私達はMWOで出会って、ずっと一緒に遊んで来たけど……だからって、“それだけ”の関係で終わる必要なんてないと思うんだ」


 最初は、ただ可愛いモンスター達を好き放題可愛いがれればそれでいいと思ってた。

 でも、始めてすぐに壁にぶち当たって、目標を打ち立てて、それに向かって頑張って……その過程で、フレンドだって何人も作って。その中には、こうしてリアルでも顔を合わせるような人だっている。

 MWOをやることで、学校に通ってるだけじゃ得られなかった繋がりが手に入った。少しだけ、私の世界が広がった。


 だから、もう少し。


「せっかく仲良くなったんだもん。MWO以外でも、こうやって時々顔を合わせて、一緒に遊んで、お喋りして……たとえお互い、MWOをやらなくなる日が来たって、これからもたくさん、ずっと一緒に笑い合える関係でいたいんだ」


 そんな私の考えを、少しだけ友里ちゃんに伝える。ゲームの中で会えなくても、ずっと友達だよ、という意味を込めて。


「そ、そんな……()()()()()だなんて、私……」


「……? 嫌だった?」


「ぜんぜんっ、嫌じゃないっ」


 顔を真っ赤に茹で上がらせて、ぶんぶんと横に振る友里ちゃん。

 うーん? まあ、ちょっと口にするのは恥ずかしいセリフではあったしね。照れてるのかな。


「そういうわけだから、今日は一緒に遊ぼう! ……と、思ってたんだけど」


「けど……?」


「その前に、掃除かな?」


「うっ」


 部屋の惨状を改めて見て、友里ちゃんは言葉を詰まらせる。

 一応、自覚はあったみたい。


「体のこともあるから、薄暗いのは仕方ないにしても、こんな散らけっぱなしはダメだよ! というか、こんな状態じゃ益々体に良くないよ!?」


「そ、それはそうだけど……」


「こんな立派な棚があるんだから、出したらちゃんと仕舞わないと! 本やゲームが傷んだら悲しいでしょ?」


「それはその、ミオが来たって聞いて、慌てて崩しちゃったやつで……本当はちゃんと積んであって……」


「積むんじゃなくて、ちゃんと整理して片付けるの! 全くもう、友里ちゃんがこんなにだらしない子だったなんて……これは、私がちゃんとお世話してあげないとダメだよね、うん!」


「ミオ、怒って……ない、ね。喜んでる……?」


「え? 怒ってるよ? ちゃんと。うん、怒ってる!」


 にっこにこ笑顔になってるのが自分でも自覚出来ちゃうけど、あくまでもこれは友里ちゃんのためを思った指導なんだから。いくら可愛い友里ちゃんの世話を焼く絶好の機会だからって、この期に及んで喜ぶだなんてそんなはずは!


「そ、そう……なら、いいけど……」


「うん! そういうわけだから、友里ちゃんがしっかり自分でお片付け出来るまで、私が面倒見てあげるねー」


「…………それは、まいった」


 私が何気なくそういうと、友里ちゃんは心底困ったという風に眉尻を下げる。

 どうしたのかと思っていると、顔を上げた友里ちゃんは、赤くなった顔でこう呟いた。


「それじゃあ私……ずっとダメな子のままかも」


 そんな友里ちゃんが可愛くて、思わず抱き着いたりなんかして。

 ちょうどそこへ、意外にもジュースを汲みに行ってくれていたらしい雷斗さんが戻って来て、私はこっぴどくお叱りを受けることになるのだった。

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[一言] 百合かな 百合なのかな 百合ですな (*´ω`)
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