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テイマーさんのVRMMO育成日誌  作者: ジャジャ丸
最終章 冬の訪れと最後のイベント
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第175話 畑作業と調合

 フウちゃんと一緒に畑にやって来た私は、モンスター達の力を借りながら収穫作業を始めた。

 ファメルの加入で食糧事情が大分改善したこともあって、食材アイテム以外にも、調合に使えそうなアイテムを多数植え直したその場所は、今やかつての見る影も……ということもなく、相変わらずのジャングル状態だ。

 いやうん、釣りのためにアクアブリーゼに向かうことが多かったから、その近くで手に入った有用なアイテムも、結局そういう場所に抱くイメージそのままな物が多かったんだよね。


「ビート、《激突》!」


「ビビ!!」


 ビートが輝かしいエフェクトを纏いながら、近くの木にその立派なツノを叩きつける。

 ズドンッ!! と大きな音を立て、今にもへし折れそうなくらい揺れたその枝から、ボトボトとたくさんの木の実が落ちて来た。

 《アカヤシの実》。一言でいえば真っ赤なヤシの実で、すんごく辛い食材アイテム。食べると滋養強壮に良いらしくて、たまにステータスのいずれかが五分間だけ上昇する効果がついたりする。

 そう、単なる食材アイテムなのに、それだけで既にステータス上昇の恩恵があるんだ。これを使えば、あるいは今よりも効果の高いステータス上昇アイテムが得られるかもしれないと思って育ててみた。


「うん、大量大量! ありがとうビート」


「ビビビ!」


 一仕事終えたビートを労い、頭を撫でてあげながらお礼を言うと、ビートは羽音を響かせながら喜びを露わにする。

 うん、可愛い。


「は~、そんな力技で収穫するんですね~」


「あはは、普通に手で採ってもいいんだけどね。時々変な場所に生ってたりするから、こうやった方が取りこぼしが出ないんだよね。どうせ破壊不能オブジェクトだし」


 一本の木からいくつ実が採れるかは、生育環境や肥料によって変わるんだけど……たとえ同じように作ったとしても、毎回一個か二個くらい誤差が出る。

 そして、これは仕様なのかバグなのか、時々クリスマスツリーの飾り付けよろしく、木のてっぺんとか枝と枝に挟まれた死角とか、変な場所に実をつけることがあるんだよね。肥料を使って、一個でも多く収穫しようとしてると特に。

 だから、そういう収穫忘れが出ないようにどうしたらいいか考えた末に思い付いたのが、こうした物理攻撃だ。一定以上の威力で攻撃すると、生っている実が全部落ちてくる。

 元々、フィールドで自然に生えた木から手早く収穫するために使われてた手ではあるんだけど、ホームの中でも有効でよかったよ。


「じゃあ、私もいっちょやっておきますかね~。ムーちゃん、《突進》~」


「ムオオオ!!」


 楽な収穫方法と聞いて試してみたくなったのか、フウちゃんが相棒のムーちゃんに指示し、その巨体を手近にあった他の木に叩き付ける。

 ガサガサガサ! と、今にもへし折れそうなくらいたわんだ木から、これまたボトボトと大量の実が落ちてきた。


「うん、いい感じ! さて、それじゃあ落ちた実をみんなで拾おうか」


「は~い」


 間延びしたフウちゃんの返事を背景に、落ちた《アカヤシの実》を拾い集める。

 ここで活躍するのが、ムギを筆頭としたスライム隊の面々。持ち前の《収納》スキルを活かして、次々とアイテムを取り込んでいく。


「先輩~、これ私達いらないんじゃないですか~?」


「大丈夫、これからが本番だよ!」


 そう言って、私は手に入れたアイテムを持ってフウちゃんとホームの中に向かう。

 そこにあるのは、つい最近増設したばかりの調合専用の部屋。

 《調合》から進化した、《調薬》スキルを使うための場所だ。


「先輩、知らない間にネスの影響でも受けましたか~?」


「いや、違うからね? これが必須なだけだから」


 そんな部屋を覗いたフウちゃんが真っ先に口にしたのは、そんな言葉だった。

 いやうん、そう言いたくなる気持ちも分からなくはない。

 調合専用とは言うけど、そこに置いてあるのは馴染み深い調合セットとは似ても似つかない、立派な機材。

 そして……どこか不気味な色合いを持つ、大型の釜。

 そう、魔女がヘンテコな色の液体をぐつぐつ煮込んでぐへへとか笑ってそうなあれが、《調薬》スキルで必須となる設置型アイテム、《錬金釜》だ。


「錬金術なのか調合なのか、どっちなんですか~?」


「私が聞きたいよ」


 いやまあ、どっちも似たような物といえば似たようなものなんだけどね。

 それでも、うん、そう思っちゃうよね。


「まあとにかく、早速これを使って新しいポーションを作るから、フウちゃんも手伝って!」


「は~い」


 のほほーんとした声と共に私の傍にやってきて、指示は何かと視線で問い掛けてくる。

 まるで、のんびり屋の子猫が餌をねだる時のようなその仕草にくすりと微笑みながら、私は近くのテーブルに必要な材料を並べ始めた。


「まず、今採ってきた《アカヤシの実》の割って、中のジュースと実を取り出します! 使うのはこちら、錐とハンマー!」


「……でかくないですか~?」


「仕方ないでしょ、この《アカヤシの実》、投げ付けたらそれだけで平原のゴブリンくらいなら倒せちゃうくらい硬いんだから」


「うへえ」


 軽くハンマーで叩いてみせ、その強度を分かりやすく示しながら言うと、フウちゃんは辟易とした表情を浮かべる。

 まあ、硬い実を割って食べるのって面倒だもんね。その気持ちは分かる。


「というわけで、私がハンマーを叩き付けるから、フウちゃんは錐と実を押さえてて」


「……先輩、大丈夫ですか~? うっかり外して、私の頭に直撃なんて嫌ですよ~?」


「手ならともかく、頭に当たるってどれだけノーコンだと思ってるの!? もう、大丈夫だよ。ここはゲームなんだから、私のDEXのステータスなら外すことはないって。フララのバフも貰うからさ」


「ピィピィ!」


 露骨に不安そうなフウちゃんに、傍で聞いていたフララが「任せて!」と言わんばかりに鳴き声を上げる。

 それを見て、「まあゲームなら最悪でも痛くないですしね~」と納得したフウちゃんは、素直にヤシの実の上に錐をあてがい、しっかりと固定してくれた。


「よし、行くよ! フララ、《付与鱗粉》、アタック、デクストリティ!」


「ピィ!」


 フララから鱗粉が降り注ぐと同時に、私の攻撃力と器用度が上昇。

 これなら行けるという確信と共に、ハンマーを振り下ろす!

 バキン! と、それだけで錐がヤシの実に食い込み、大きく亀裂が入った。

 うん、流石ゲーム、普通一発でこんなに綺麗に行かないよ。


「よしおっけー! 中身をひとまず、そこの器に入れて?」


「は~い」


「それが終わったら次の実をセット!」


「は~い」


「よし、それじゃあもういっちょ!」


 フウちゃんが押さえてくれてる錐に向け、ハンマーを一振り。

 バキン! と音を立て、またも綺麗に割ることが出来た。


「さあ、次々! じゃんじゃん先に行こう!」


「は~い……って、ちょっと待ってください、この仕事、明らかに先輩の方が楽そうなんですが~」


「それはまあ、確かに」


 一見、ハンマーを振る方が大変そうに見えて、フララのステータス増強もあってか一発で割れるし、逆にフウちゃんはハンマーで手が塞がる私に変わり、割れた実からジュースを移したり、新しい実を取ってきてセットしたりと、少し忙しない。


「というわけで、選手交代です、私がハンマーやります~」


「しょうがないなぁ、フウちゃんの体格だと少し大きいから気を付けてね?」


 私ですら大きく感じるのに、更に背が低いフウちゃんだと大分厳しそうに見える。

 でも、そこはゲームと言うべきか、その小さな体格には不釣り合いなハンマーとて、中々様になった動きで肩に担ぐ。


「さあ、やりますよ~」


「うん、フララ、またお願いね」


「ピィ!」


 フララに、改めてフウちゃんに対してバフをかけて貰い、いざ本番。のっそりとした動きで、フウちゃんがハンマーを振り下ろす。


「えいや~」


 とても力が入っているとは思えない、気の抜けた声。

 とはいえ、私と同じ《魔物使い》で命中率が大事な《弓》スキルを使うフウちゃんは、DEXのステータスが元より高め。何の問題もなく、錐のお尻に向けて真っ直ぐにハンマーが振り下ろされて……。


「むぎゃ!?」


 なぜか、最後の瞬間に一気に進路を変え、私の顔面に突っ込んできた。

 ずってーん! と、勢い良く床にすっ転んだ私に向け、「あっ」と溢したフウちゃんが、一言。


「すみません……手からすっぽぬけちゃいました~……」


 少しだけ申し訳なさそうなその声に、しかし目を回した私は反応出来ず。

 突如ノックアウトされた私を心配して、フララがパタパタと羽を使って心地よい風を送り続けてくれていた。

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