第17話 歴戦ゴブリンとスライム平原
日々少しずつ増えていくブクマと評価ptに一喜一憂する今日この頃。
感想評価、お待ちしてます|д゜)
2018/7/16 技後硬直について指摘を受けたので修正しました。これ以前の話も修正しましたが、見落としなどあったら指摘して貰えると嬉しいです。
私の戦闘方法についてひと段落したところで、案の定というか、これから戦うボスは状態異常ポーションが効かない……というより、状態異常にかかりにくいという忠告をお兄達から聞いたけど、事前にそれを聞いて《酸性ポーション》を多めに用意していたことを伝えたら、随分驚かれた。
なんでも、倒さなくてもアイテムを生産してくれるモンスターは何種類か確認されてるけど、ライムみたいに攻撃スキルそのものがアイテムになるなんて話は初めて聞いたんだって。
「攻略サイトで流せば注目の的だぞ」なんてお兄は言ってたけど、そんな目立ち方は嫌だから、情報の取り扱いに関してはお兄に丸投げしておいた。
「じゃあ後は、サクっとゴブリンを倒してボスのところまで行くか」
「ええ、そうね。……《召喚》!」
リン姉が腰に付けていたポーチ……インベントリじゃなく、文字通りの意味でのポーチから、緑色の宝石のようなアイテムを取り出し、地面に放る。そして、手にしたワンドを掲げつつ魔法を発動すれば、宝石は光輝きながら砕け散って、中から一体のモンスターが姿を現した。
緑色の肌を持つ、小柄な人型モンスター。まさしく、今の今私が倒したゴブリンなんだけど、その見た目は全く異なっていた。
まず、ただのボロ布みたいな粗末な服じゃなく、ちゃんとした革鎧に身を包んでいる。それだけでも大分違うけど、その上で右手にはNPCショップで売っている両刃の直剣、左手には同じく店売りっぽい丸盾を構えていて、肌の色さえまともなら、プレイヤーと言われても納得しそうな装備になってる。
装備のお陰か、それともリン姉の育成の賜物か、そのゴブリンの目は濁りなく輝き、右目についた傷跡も合わせて物凄く歴戦の風格を兼ね備えていた。
……うん、装備はともかく、目の傷とか、どこでついたの? 野良ゴブリンでこんなのいたっけ?
「ああ、その傷、オプションなのよ」
「オプションなの!?」
あまりにも気になってマジマジと見ていたら、それに気付いたリン姉から衝撃の事実を伝えられた。
まさかのファッションだったなんて……リン姉、意外と中二病の気が……?
「この子がどうしてもっていうから」
苦笑しつつ、ゴブリンの頭を撫でるリン姉。
なるほど、それならしょうがないね。私も、ライムがちょっとそういう趣味に走ったら……う、うん、ライムは大丈夫だよね?
「さて、MPも勿体ないし、行きましょうか。ゴブゾウ、あのゴブリンに攻撃!」
「ギヒッ!」
気を取り直して、リン姉の指示に従い武装したゴブリン……ゴブゾウが、近くのゴブリン目掛けて歩み寄っていく。
サモナーの《召喚魔法》は、核石系のアイテムに対して使うことで、《召喚石》と呼ばれるアイテムに変えることができ、以降はその召喚石に応じたMPを消費することで召喚石からモンスターを呼び出し、戦わせることが出来る魔法だ。
そして、この魔法が使えることによるテイマーとの最大の違いは、MPの続く限り何体でも召喚・使役させることが出来る点にある。
その代わり、召喚している間はMPを消費し続けるから、出せば出すほどMP管理に忙しくなって、プレイヤー自身は戦えなくなるみたいだけど。
「ギヒッ!?」
「ギヒヒー!」
ゴブゾウは野良ゴブリンが振るう粗末な剣を盾で受け、その隙に剣で一刀両断。一発で野良ゴブリンのHPが消し飛んじゃった。
サモナーはテイマーと比べて、数の暴力であって質では劣ってるはずなんだけど、これを見たら全くそんな気がしない。うん、《石ころ》投げて倒して喜んでる私とは次元が違うね!
「俺達も行くぞ、リッジ!」
「分かったよ、キラ兄」
そして、後2人も、いくら装備が良くとも動きが遅いゴブゾウに代わって、まだ距離があるゴブリンに駆け寄っていく。
当然、そんな堂々と正面から近づけば、ゴブリンにも気づかれるんだけど……
「《シールドバッシュ》!!」
「疾ッ!!」
振り下ろした剣諸共、お兄のタワーシールドに殴り飛ばされ、もう一体のほうは振り下ろすよりも前にリッジ君に胴体を切り裂かれ、ゴブリンは2体仲良くポリゴン片になって爆散した。
当たり前だけど、私に手を出す暇なんてなかったから、パーティを組んでることによる最低限の経験値しか入って来ない。
「よしっ、次だ次! リッジ、どっちが多く仕留められるか競争だ!」
「えっ、いいけど……」
「ペース速すぎだよ、バカお兄! リッジ君も乗らないで!」
結局その後、10分とかからずクエスト分のゴブリンを討伐して、私達はフィールドボスの待つ、《東の平原》の奥地へと足を踏み入れていった。
ちなみに、ゴブリンの討伐数で私が最下位だったのは、今更言うまでもない。ぐぬぬ。
「この辺まで来るのは初めてだけど……なんか、すごいスライムの量だね」
ただ真っ直ぐ広がる平原でしかないこの場所だけど、プレイヤーに行き先を分かりやすく示すためか、一応道は整備されてる。
そこを真っ直ぐ言った先にあった分かれ道を、標識に従い南に折れていくと、そこはゴブリンだらけだった平原の中腹と打って変わって、あちこちをスライムが跳ねまわる奇妙な状態になっていた。
ただ、そこにいるのは、私のテイムしたミニスライムとは違って、一回り以上大きな緑色の体を持ってるやつだけど。
「グリーンスライムだな。ミニスライムと違ってアクティブモンスターだし、こんなナリでもゴブリンよりDEFが高いからな。《酸液》だけじゃなくて、触手で攻撃してきたりもするし、油断してると痛い目見ることもなくはない相手だぞ」
「うへえ」
DEFが高いなら、鞭の攻撃はほとんど意味がないし、状態異常ポーションとかライムの《酸液》で攻めるしかない。とはいえ、この数を相手にしてたら、いくらポーションがあっても足りないし。やだなぁ。
襲われないんなら、ライムのひんやりぷるぷるな感触とどう違うのか、是非とも触って確かめてみたいところなんだけど。
「まあ気にすんな、お前の使ってるようなアイテムは、本来ボスみたいなHPの多い敵にこそ有効なんだよ。大量にぶつけない限り、今回は効かないけどな」
「最後の一言のせいでぜんっぜんフォローになってないんだけど」
お兄とそんな軽口を交換しつつ、ぴょこぴょことスライムが飛び跳ねる平原を進む。
グリーンスライムは動きこそ緩慢で、気付いてさえいればあまり危ない敵ではないんだけど、草原で緑色の体っていうのは結構な保護色になっていて、小さな体と相まって時々不意打ちされるのが厄介だった。
とはいえ、そこはβテスターでもある熟練の廃ゲーマー擁するパーティ。私の出番なんてほとんどなく、お兄が近づいてくるグリーンスライムを片っ端から槍と盾で弾き、反対側ではリッジ君が剣で切り裂いて対応し、リン姉ですらやることはなかった。
まあ、リン姉はあくまでボス戦を見据えたMPの温存、私は本当にやれることがないっていう違いはあるけどね。
「そういえばリッジ君、ちょっと気になったんだけど」
「ん? 何、ミオ姉」
「さっきの決闘の時もそうだったけどさ、リッジ君はアーツ使わないの?」
そんな状態だったから、手持無沙汰な私はライムをなでなでしつつ、ずっとお兄とリッジ君の戦いを見学してたんだけど、その最中、リッジ君は一度もアーツを使っていなかった。
最初は、単に一撃で倒せるから必要ないのかと思ってたけど、偶に仕留め損なって2度、3度と斬りつける時もあるから、そういうわけじゃないと思う。
「いや、うん。強いのは分かってるんだけどね。なんかこう、剣が僕の意志とは別に動いてくのってちょっと違和感が……」
「そうなの?」
私なんかは、そもそも鞭を振ったりするのにどう動けばいいのかすらよく分からないから、アーツのシステムアシストには凄く助けられてるんだけど。
やっぱり、リッジ君みたいにリアルで体動かしてる人にとっては違うのかな?
「そういうのは慣れだよ慣れ。リアルで剣が強くても、そもそもシステム的にアーツのほうが威力が高く設定されてるんだから、早めに使えるようになっておいたほうが後々楽だぞ。対人戦でも、慣れてくれば使った後の隙が大分無くなるし」
そんな私達の会話を横で聞いていたのか、お兄が軽い調子で参加してくる。
私じゃあそういう、ゲームとしての効率とかはよく分からないけど、廃ゲーマーなお兄が言うならそういうことなんだと思う。
「うーん、分かったよキラ兄。ちょっと教えてくれる?」
「おう、いいぞ!」
リッジ君としても、アーツを使わないことに特に拘りはないようで、お兄が言うならと素直に使い方を教わり始めた。
傍に寄ってきたグリーンスライムをアーツで切り裂き、その動きに違和感を覚えながらも、お兄がその都度サポートする形で、リッジ君は練習を重ねていく。
もちろん、その間もボスのいる場所には向かって進んでいくし、お兄がリッジ君に教えるようになったことで、ちょっとだけ隙が出来た部分は、私が《バインドウィップ》で襲い来るグリーンスライムを拘束してサポートすることで補い、私自身にも何もしないよりかは多めの経験値が入って来る。
ていうかどうでもいいけど、スライムのあの体も鞭で縛ったらちゃんと動けなくなるんだね。どこからどう見ても簡単に抜け出せそうなんだけど、どういう仕組みなんだろ……うーん、ファンタジー。
そんな風にのんびりと、考え事をしながら歩くことしばし。ついに、近くに他のモンスターが出ない、フィールドボス出現エリアの目前へとたどり着いた。
「それじゃあみんな、今回の役割分担を確認するわね」
ぽんっと軽く手を叩いて私達の注目を集めた後、リン姉が各自の動きについて再確認を行う。
とは言え、私とリッジ君はこういうパーティプレイは初めてだから、本当に大雑把な動きだけだけど。
「まず、キラはいつも通り前衛ね。ボスの注意を引き付けて粘ってちょうだい」
「おう、任せとけ!」
「リッジ君は、私の召喚したモンスターと一緒に攻撃役になって貰うわね。少しでも多く、けれど反撃はなるべく喰らわないように攻撃すること。ボスの動きが見切れるまでは攻撃は控えめでいいわ」
「はい!」
「ミオちゃんは、全体のサポートね。キラのHP管理をメインに、リッジ君がもし攻撃を受けた時はそのフォローをお願い。攻撃は余裕があったらでいいわ」
「うん、分かった」
課せられた役割に、各々頷く。
私の役目は、たくさん持っているポーションと、それを離れた味方にも投げつけて使用できる《投擲》スキルを利用した、所謂回復役だった。
まあ、いくら《酸性ポーション》をたくさん用意したからって、レベル差を覆せるほどのダメージが出せるわけでもないし、逆に回復アイテムは誰が使っても効果は一緒。なら、それを配る役目が一番良いのは間違いないと思う。
そんな役回りで経験値は? という疑問については、ちゃんと回復量やバフデバフの程度によって、サポートキャラにもちゃんと割り振られるから大丈夫、とのこと。
「よし! それじゃあ方針も決まったところで、いっちょやるぞー! お~!!」
「「「おー!」」」
こういう時はお兄が仕切るんだなぁ、なんて思いつつ、ちゃんと一緒になって拳を振り上げる。
そして、特に目印もない草原を、ほんの数メートルほど進むと、一瞬だけ、視界にノイズが走ったような微妙な違和感を覚えた。
「フィールドボスとの戦闘は専用エリアで行われるから、今ちょうど切り替わったんだよ。ほら、来るぞ」
そんな私の様子に気付いたのか、お兄が盾と槍を構えつつ注意を飛ばす。
直後、空から突然、ゼリー状の塊が降ってきた。
ぷるぷるとした弾力のある体に、透明感のある緑色をした姿は、ここに来るまでに見たグリーンスライムとそっくりだけど、そのサイズは文字通り桁違いだ。グリーンスライムがバスケットボールくらいとするなら、向こうは小さめの平屋くらいはある。
ヒュージスライム。それが、私達の戦うフィールドボスの名前だった。




