第166話 パンプキングと大演説
「《エクスプロージョン》!!」
パンプキングとプレイヤー達との激戦の最中、空高くで咲き誇る炎の華。
フウちゃんとこのグーたんでギリギリまでボスに近付き、恐らくこのゲーム内で可能な限界まで"火力"という一点を極めたネスちゃんの魔法だ。戦闘とは全く関係ない場所で炸裂した魔法ということもあって、多くのプレイヤーが一瞬上空へ意識を向ける。
「全員、聞けぇ!!」
そのタイミングを見計らい、ネスちゃんは広域通話用の拡声機能を使って、その尊大な声をその場にいた全員に向け響かせる。
ここまではオーケー、プレイヤー達は今、戦闘しながらも突然語りだしたネスちゃんに意識を割いてるはず。
後は上手く作戦を伝えて、どうにか協力を仰ぐだけだ。
「どうやらこのボスを仕留めるには、諸君ら全員の力が必要なようだ!! このボスは強く、未だ我らは有効打を与えるに到っていない。だが、どうやら厄介な蔓にはHPゲージが存在するらしい。どうにか全て破壊することが出来れば、後に残るはただの巨大カボチャだ!! 攻撃するのも容易かろう」
プレイヤー達の反応は、概ね良好。
やっぱり何人か気付いてはいたけど、これだけの数の蔓を前にどうするのか迷っていたのかもしれない。
だから、こうして全員に素早く呼び掛けてくれるのは彼らにとっても都合がよかったのかな?
「良いか貴様ら!! 我らの祭りを邪魔する不届きなカボチャを、皆で丸焼きにしてやろうぞ!! そして……」
威勢のいい言葉で締めるのかな、なんて思っていた私だったけど、そこでネスちゃんは、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。
ネスちゃんと一緒に、フウちゃんに代わってその後ろに乗っていた私は、なぜか無性に嫌な予感がした。
そして、そんな私の予感は決して外れてはいなかった。
「協力してくれた者達には、ここにいるミオからとびっきりの極上料理が振る舞われるぞ!! 皆、奮起せよ!!」
「はい!?」
ネスちゃんによるまさかの宣言に、私は思わず素っ頓狂な声が漏れる。
いやいやいや、いくらゲームの中で、調理工程が大幅に省略されてるとは言っても限度があるからね!? ここにいるプレイヤーだけで一体何人いると!?
そんな訴えが私の脳裏を過ぎるけど、既にその宣言は布告済み。眼下のプレイヤー達からは、歓喜の声が響き渡った。
「肉だ!! 肉をくれ!!」
「最近カボチャばっかで飽きてたんだ、焼きカボチャ以外で頼むぞ!!」
「てかあの子、フィールドで屋台やってた子じゃないか?」
「おお、あれ結構旨かったんだよな。期待してるぞ~!」
うおおおお!! と怒号を上げながら、プレイヤー達が迫り来る蔓に向け、猛攻を加え始める。
……ちょくちょくそういう話は聞いてたけど、やっぱりみんな、カボチャ尽くしで飽きてたんだね。
魚なら、ファメルのためにたくさん獲って来たのがあるけど……それ以外は、またリン姉に協力を依頼しようかなぁ。
「ふっふっふ、上手くいったぞ! さあミオ、我らも戦闘開始だ!」
「ネスちゃんは後でお説教ね」
「なにぃ!? なぜだぁ!!」
愕然とした表情を浮かべるネスちゃんだけど、そりゃあそうだよ。こういうのは事前に相談して欲しかった。
まあ、ネスちゃんとしてはもったいつけて驚かせたかったんだろうけど……うーん、まあそういうところも可愛いから良しとしよう!
「しょうがないから、後でハロウィン衣装を着て写真撮らせてくれたら、それで許してあげる!」
「ふはははは! それくらいで良ければいくらでもしてやろう、では共に参るぞ!」
意気揚々と叫ぶネスちゃんと共に、私達は一旦地上に降りる。
空からそのまま近付けば、即死攻撃のいい的だ。対抗手段はあるけど、それはまた別の形で発揮する予定だ。
「それじゃあみんな、作戦を確認するね。リッジ君とユリアちゃんは、ファメルに乗って近接戦闘。ネスちゃんはグーたんに乗って地上を走りつつの中距離支援。私とフウちゃん、ナナちゃんは、ムーちゃんに乗って囮役兼、他のプレイヤー達の回復支援に回るよ!」
「分かった」
「ん」
「ふっふっふっ、支援と言わず、焼き付くしてくれよう!!」
「囮役とか怖いですね~、まあ、成長したムーちゃんの力、見せてやりますよ~」
「任せとき!」
みんなそれぞれに頷いて、自分の役割を果たすべく動き出す。
まあ、基本はいつもと変わらない。攻撃役の三人に、足の速いファメルやグーたんを宛がって、一番大きくて目立つムーちゃんに乗って、私達が可能な限り前線に張り付いてサポートをする。
レイドだからか、消費したアイテム分もちゃんと貢献として加算されて後の報酬に影響するみたいだし、使い果たすつもりでガンガン行くよ!
まあ、元々イベントボス戦なんて想定してなかったから、どこかで補充に戻る必要はあるだろうけどね。
「はいはいはい、よってらっしゃいみてらっしゃい! ここにおわすは移動要塞グランドマンムー! 死にかけ盾職もMP不足に悩む魔術師も、絶対安全のこの場所で、ちょいと補給してかんかー!? 今ならちょっとしたバフも付けるでー!」
ドスンッ! ドスンッ! と重々しい足音を立てながら進むムーちゃんの背で、ナナちゃんが大声で周囲に呼び掛けていく。
補給という言葉から、《薬剤師》の支援が貰えると思ったのか、特にMPが枯渇気味のプレイヤー達が多く集まって来た。
これだけの数を前にしては、たとえ《薬剤師》でも限度があるけど……でも、うちの子達なら大丈夫!
「ライム、プルル、お仕事だよ! 《触手》!」
「「――!」」
ぷるんぷるんと、私の指示に従って、銀と青の二体のスライムから無数の触手が伸び、集まってきたプレイヤー達の頭上で止まる。
最初は迫り来る触手を見て慄くプレイヤーも多かったけど、伸ばされた触手の先からポーションが次々に飛び出すのを見て、歓声が上がった。
「よっしゃ! これならすぐに戦線復帰できるな!」
「ありがとう、助かったぜ!」
「どういたしまして。それじゃあ集まって貰ったついでに、フララ、《付与鱗粉》!」
「ピィ!」
ライムやプルルが《収納》スキルと《触手》スキルの合わせ技でポーションを配る合間に、フララが頭上で鱗粉を撒き、集まったプレイヤー達にバフ効果を付与していく。
集団に対する付与が出来るっていう最大の強みを如何なく発揮したフララの援護を受け、調子付いたプレイヤー達が威勢良く雄叫びを上げ、ボスに向かって突進していった。
「よしよし、出だしは順調だね」
「いや、そうは問屋が卸さないちゅうわけやな、来たで!!」
プレイヤーが一塊になっているのを目敏く見付けたのか、ボスの蔓が数本蠢き、こちらを叩き潰そうと迫ってくる。
集まっていたプレイヤー達が、これは堪らないと退避していく中、体の大きなムーちゃんに乗った私達はその場から動けない。
いや、動く必要はない。
「よ~し、今こそ成長した力を見せる時ですよ~。ムーちゃん、《ギガスタンプ》~」
「ブモオオオ!!」
迫る蔓に対して、ムーちゃんはその長く大きな鼻を持ち上げ、先端の瘤がアーツ特有の輝きを放つ。
《鎚》スキルのアーツを習得したらしいムーちゃんの一撃は、叩きつけられる三本の蔓と拮抗し、それどころか弾き返してみせた。
いや何それ、凄すぎる。
「ふっふっふ~、ただのマンムーだった時は、ATKが高くても動きが遅くて不人気なモンスターでしたが、こうして進化した今や、並の攻撃じゃびくともしないDEFも手に入れたのですよ~、これで、ムーちゃんは無敵です~」
相変わらずだらけた調子で、けれど誇らしげにフウちゃんは語る。
私としても、マンムーはこのゲームを始めて最初に出会ったモンスターだから、こうして頼もしく成長してくれたことは素直に嬉しい。
ただ、無敵っていうのは少し違う。動きが鈍いのは相変わらずだから、あまり近付き過ぎると捌ききれずにやられちゃうだろうし、それに……。
「また来るぞ!」
「やべえ、今度は即死攻撃だ! 全員回避、回避ー!」
相手を掴み上げて食べてしまうあの即死攻撃は、力で押し返すことは出来ない。
ぐぐぐっと、溜めの動作を作るボスに対して、今度は私の番だと短杖を構えた。
「《召喚》! 来て、ポヨン、ラムネ、ライス!!」
ポポポンッと現れたのは、ムギやプルルと違い、ミニスライムのまま進化させていない子達。
普通なら、攻撃力、防御力ともに貧弱なこの子達に、ボス戦は厳しいものがあるんだけど……まだミニスライムのこの子達だからこそ、即死攻撃に対する最強の盾になってくれる。
「お願い、みんなを守って!!」
私の指示を受け、ついに解き放たれた即死攻撃に果敢に挑みかかっていくミニスライム達。
そう、どんな防御力も関係ない即死攻撃が相手なら、それを受けるのがどれだけ弱いモンスターだろうと関係ない。それに……。
「今だ、《送還》!!」
ポヨン達が蔦に絡み付かれ、ボスの方に引き寄せられる瞬間、私は《召喚魔法》のスキルを使ってポヨン達を召喚石に戻す。
あの即死攻撃を受けたら最後、必ず倒されるけど……それはあくまで、ボスに食べられた場合の話。召喚モンスターなら、こうしてその前にインベントリに戻してしまえば無傷で済む。
こうやって、召喚モンスターを囮に使うには、普通なら召喚コストと再召喚までのCTが気になるところだけど、最弱のミニスライムにCTなんて無いも同然。何度仕掛けられても、ある程度の数までなら十分に対応可能だ。
ムーちゃんの頑強な体と打撃力、それに、ミニスライムによる体を張った盾。この二つを合わせた、移動型補給要塞。
それが、私の考えた支援作戦だった。
「うおおお!! いける、いけるぞ!!」
「お前ら、もっとこっちに近付け!! こいつらの近くから攻撃するぞ!!」
「いや、あまり多くなりすぎたらカバーが間に合わんだろ?」
「それを補うのが盾職だろ! こいつらを中心に陣形を組め、行くぞぉ!」
すると、そんな光景を見た一部のプレイヤー達が、私達を中心に固まって、更に強固な陣形を構築し始めた。
いや、え? 流石にこの流れは予想外だよ!?
「行くぞお前らぁぁぁ!!」
「「「うおおお!!」」」
プレイヤー達が雄叫びを上げ、その威勢とは裏腹に亀のような防御陣地から襲い来る蔦へ着実に攻撃を加えていく。
いやぁ、なんというかこう。
「みんな、元気だね」
「ゲーム中のゲーマーなんてこんなものですよ~」
「うん、フウちゃんが言うと全く説得力ないね」
いつも元気のないゲーマーなフウちゃんにツッコミを入れつつ、私は改めて、集まったプレイヤー達のサポートに意識を集中し始めるのだった。