第164話 パンプキングと即死攻撃
緊急クエストの告知と同時に、会場にいたプレイヤーは全員が参加している扱いになり、それまで閉ざされていた城の門が開いた。
ポータルは変わらず門の脇にあるから、参加したくなければ帰ることも出来るんだろう。
「さて、二人ともどうする?」
「どうするだと? パンプキングとやらがいかなる存在かは知らないが、イベントボスと聞いて挑まないわけにはいくまい! 我が魔法で焼きカボチャに変えてやろう!」
バサッ! と マントを翻して、ネスちゃんは高らかに宣言する。
まあ、ネスちゃんならそう言うと思った。
「フウちゃんは?」
「まあ、せっかくなので遊んでいきましょうかね~、こういうの、大抵フィールドでチマチマ集めるよりもがっぽりとイベントアイテムが貰えると思うので、楽をするためにも頑張りどころです~」
「なるほど」
ある意味フウちゃんらしい言葉に、思わず苦笑する。
後は私だけど……まあ、答えは決まってるよね。
「よし、行くよみんな、私達のご飯は、私達で守ろう!」
「――!!」
私がそう言うと、特にライムがやる気を漲らせ、ぷるんぷるんと体を震わせる。
うん、こういう時頼りになるユリアちゃんやリッジ君とまだ合流出来てないのは不安だけど、気合は十分、やってやろう!
そう意気込んで、召喚モンスター達をひとまずインベントリに戻すと、私達は他の多くのプレイヤーと共に城門を潜り抜けて行く。
視界が切り替わり、そこに広がっていたのはどこまでも続く平原と、一本の道。
いやいや、どこここ? どんな辺鄙な場所にお城建ててるのさ、東の平原のどこか?
……振り返ってみたら、後ろにあるのは城門じゃなくて、街の入り口だった。
うん、本当に東の平原のどこかっぽい。ゲームらしく、移動距離がガッツリ短縮されたみたいだね。
「見ろ、あそこだ!」
そうしていると、誰かが遠くの景色を指差すのが見えて、私もそちらに目を向ける。
遥か遠く、まだ距離がある場所に、何やらオレンジの塊がぴょこぴょこと小さく飛び跳ねてるのが見えた。
あれがパンプキングかな?
「遠いな……あそこまで移動するのか」
「騎乗モンスター持ってる奴に連れてって貰うのが一番か?」
辟易とした声に、また別のプレイヤーが答える。
確かに、こういう移動が長い場面こそ足の早いモンスター達の出番だ。
「私達も、フウちゃんのグーたんと私のファメルで急ごう」
「では、我はフウのモンスターに乗り込もう。上空から炎の雨を降らせてくれる!」
言うが早いか、ネスちゃんは颯爽とグーたんに乗り込む。
フウちゃんもまだ乗ってなかったんだけど、グーたんの方は特に気にする様子もない。やがて、ムーちゃんを結晶化させてインベントリに仕舞い込んだフウちゃんが、ネスちゃんの後ろに乗り込み……って、普通逆じゃない? フウちゃんが騎手だよ?
まあ、別に手綱を握らなくてもモンスター達は真っ直ぐ飛んでくれるから、前に乗ろうが後ろに乗ろうが、攻撃する分には支障はないだろうけどさ。
「さて、それじゃあ私達も……って、あれは……おーい、リッジくーん!」
早速ファメルに乗り込もうとすると、ふと見知った顔を見つけたので声をかける。
それに気付いたのか、向こうも手を振りながらこっちに駆け寄って来た。
「あ、ミオ姉! ここにいたんだ」
「うん、リッジ君も緊急クエスト行くんだよね? 乗ってく?」
「ありがとう、そうさせて貰うよ」
短いやり取りの後、リッジ君は私の後ろに手際よく乗り込む。
ただ……。
「リッジ君、ボスに近付くまでは全力で走るから、もっとしっかり掴まって、それじゃあ振り落とされちゃう」
「えっ……わ、分かった」
なぜか遠慮がちに腰に手を回すリッジ君に首を傾げていると、隣からネスちゃんの何とも微妙な視線を向けられていることに気が付いた。
うーん、出来ればネスちゃんと一緒にしてあげたくはあるんだけど、騎乗モンスターを持ってるのが私とフウちゃんだけだから仕方ない。ここは我慢して貰おう。
「それじゃあ、ボスのところまでレッツゴー!」
他のプレイヤー達からやや遅れた私達も勢いよく出発する。
背中から感じる感触から、リッジ君がファメルの急加速で振り落とされなかったことを確認すると、私は到着までの時間を使ってもう一度クエスト内容……もとい、その細かな仕様について確認する。
まず、討伐目標はパンプキングが一体。細々としたモンスターの介入があるのかもしれないけど、最終的に狙うのはこいつだけ。
そして、ボスを倒せば全員に報酬が入るんだけど、そこにボスに与えたダメージ量、味方に対するHPやMPの回復量に各種バフなど、他にも細々とした行動によってボーナスが入るらしいことが書いてある。
つまり、ざっくり言えば頑張って活躍しろということだね。
「ミオ姉、そろそろ……」
「お、早いね、じゃあファメル、そろそろスピード落とし、て……」
ずっとクエスト画面を開いていたから気付かなかったけど、ボスはもう目前だった。ただ、その姿は遠目に見ていた時とは大きく印象が異なって見えた。
お化けカボチャの時点で凶悪そうな顔だったのが、大きく成長したことで更に恐ろしげになり、頭のヘタ部分からは無数の蔦が触手みたいに生えてうねうねと蠢いてる。
その時点で普通のお化けカボチャとは全然違うんだけど、それよりもヤバイのはその大きさだ。
遠目で見た時はよく分からなかったけど、こうして間近に見るとその異様さが一目で分かる。正直、こんな大きなモンスターに遭遇したのは、夏イベントの時のクラーケン以来かも。
「うっわー、リッジ君、これどうやって近付こう?」
「うーん、ひとまずは遠距離攻撃をして、どういう反応をするか見た方がいいんじゃないかなぁ。流石に、あんな大きな蔓が大量に襲ってきたら、ミオ姉のこと守りきれない」
避けきれない、じゃなくて守りきれない、な辺りがリッジ君らしいね。
でも確かに、まだあのボスの強さも行動パターンもよく分かってないんだし、ここは様子見を……。
「ふっ、こうもでかければ、外すなどということは到底起こらん! やりたい放題ではないか! 行くぞフウ!!」
「あいあいさ~」
私達が様子見を決めた一方で、フウちゃんとネスちゃんはまず攻撃を仕掛けてみることにしたらしい。
そこはかとなく不安だけど、同じように攻撃を仕掛けるプレイヤーは多くいるし、ボスの反撃が集中するってこともないだろうから、ここはしっかり観察させて貰おう。
「食らうがいい! 《ドラゴニックレイン》!!」
「《弓技・流星雨》~」
本当なら、複数の敵に対して制圧攻撃を仕掛けるのに利用するはずの攻撃も、こんな大きなボスが相手だと綺麗に全部ヒットする。
他のプレイヤー達も、人数が多いのをこれ幸いと、最初から全力を叩きつけ、あわよくば倒してしまえと言わんばかりの猛攻を加えていく。
もちろん、私やリッジ君みたいに様子見してるプレイヤーもいるけど、これだけの攻撃なら間違いなくボスにも相当なダメージが入ったはず。
そう思ったけど……。
「なっ、無傷だと!?」
誰が叫んだか、遠距離からのアーツや魔法の雨霰は、ボスが持つ蔦に阻まれて、本体まで届いていなかった。
いくらなんでもそれは、と絶句するプレイヤー達に対して、カボチャを削って作られたようなその顔が、ニヤリと笑った――気がした。
「何か来る! フウちゃん!」
私は慌ててそう叫ぶけど、既に遅かった。
ぐぐぐっと、力を溜めるように引き絞られた蔦が、弾丸のような速度で空中にいるプレイヤー達へと迫り、騎乗モンスターごとその体を縛り付けた。
「ぬおお!? おのれ小癪な……」
「あ~、なんだか嫌な予感がしますね~……」
ネスちゃんを含め、何人かのプレイヤーはそれを振り解こうと足掻くものの、ついに外れることはなく。
引っ張られるようにして、その体はみるみるボスへと引き寄せられ……。
バクンッ
その大きな口で、フウちゃん達空中にいたプレイヤーの大部分が、食べられてしまった。
しかも、以前遭遇したマインワームみたいに、咀嚼による継続ダメージを与えて吐き出すという感じでもなく、「げふっ」とゲップみたいな動作を残し、元の体勢に戻った。
「……ねえリッジ君、今のって、もしかして……」
「うん……多分、即死攻撃だね」
圧倒的な防御力に加え、とんでもない攻撃手段まで持っていると判明して呆然とするプレイヤー達を余所に。
カボチャの王を名乗るボスは、その丸く巨大な体で地面を跳ね、ゆっくりと進撃を再開するのだった。




