第160話 ハロウィン衣装とかぼちゃ屋台
私の発言でなぜか教室が静まり返ったり、友里ちゃんが真っ赤になったまま再起動しなくなっちゃったりと、ちょっとした騒動(?)を巻き起こした文化祭の翌日。私はいつものように、MWOにログインした。
「ミオ、予定通り完成したよ」
「おー!」
そしてやって来たのは、毎度おなじみウルの工房。文化祭の前に頼んでいた、出張屋台の受け取りが目的だ。
出来上がったそれを早速確認してみると、そこに現れたのはオーソドックスな荷車型の屋台。屋根やカウンターに鳥や猫、リスみたいな可愛らしい動物の置物を設置した、機能性重視の品物だ。
名称:荷車
耐久値:220/220
性能:AGI+18
効果:モンスター除け(弱)
まあ、機能性と言ってもあくまで耐久値の話で、効果の方はあまり強くないんだけど。予算の都合もあるし、お店として使うだけだから問題ないかな。
「ありがとうウル、完璧!」
「それほどでも。ていうか、そんなことより……」
「うん?」
「ユリアはどうかしたの?」
ウルに指摘されて振り向けば、そこには扉の後ろに隠れるようにして立つユリアちゃんの姿が。
一緒に来たナナちゃんが連れ込もうとしてるけど、体が小さいせいもあって上手く行ってないみたい。
扉からちょっとだけ覗く恥ずかしそうな顔がなんとも可愛らしい。
「実は今回の屋台で、ユリアちゃんにも売り子として手伝って貰おうと思って。昨日頼んだんだー」
「へー、確かに可愛い子が増えればその分お客さんも増えそうだけど……でも、なんで隠れてるの?」
「ふふふ、それはねー」
私はもったいぶってそう言うと、スススとユリアちゃんの方へ向かう。
いつまでも隠れてばかりいるユリアちゃんを、そのままウルの前に引っ張り出した。
「ほらユリアちゃん、ここまで来たんだから、ウルにも見せてあげて」
「み、ミオ、ちょっと、待っ……」
転びそうになりながら小屋に入ってきたユリアちゃんを見て、ウルはヒュウ、と口笛を鳴らす。
かぼちゃを連想させるオレンジ色のミニスカートにキャミソール。黒のマントを羽織ってるのはいつも通りだけど、フードがない分その顔がよく見えるようになってる。ハロウィン衣装ってことでアクセサリーも含めてワンセットだからか、口元からはドラキュラみたいな牙が覗いていて、とっても可愛い。
「へえ、可愛いね。ナナリーも着替えるの?」
「うん? おお、ウチはこれやでー」
そう言って、ナナちゃんもその場でインベントリを開いて操作すると、その服が光に包まれて一瞬で変化した。
下に穿いているのは、ゆったりと大きく膨らんだオレンジのかぼちゃパンツ。上には可愛らしいお化けのプリントが成されたポンチョを着て、ネスちゃんみたいな黒のとんがり帽子を被ってる。違いと言えば、こっちは髑髏のアクセサリーがくっ付いてることかな? 幼い容姿と相まって、見習い魔女みたいで可愛い。
「おお、いいじゃない。それじゃあミオも?」
「私は、ユリアちゃんの衣装を交換した分と、料理用に確保した分とで《霊魂カボチャ》が無くなっちゃったから、今回はなし!」
「えぇぇ……」
ウルから、凄くこう、人にコスプレさせといて自分はしないの? みたいな呆れの視線が向けられた。
いや、でも仕方ないじゃん、足りないものは足りないんだもん!
「大丈夫……ミオの分は私が交換しておいた。ミオにあげる」
「おお、ユリアは準備がええなあ、流石やで!」
ユリアちゃんからトレードを申し込まれ、私もそれに応じようとするんだけど……。
「あれ、これってひょっとして、最初から自分の分を交換しておけばトレードする必要もなかったんじゃ……」
「嫌。プレゼントするの」
「えっ、なんでわざわざ?」
「……付き合うっていうのが、まさか屋台のお手伝いなんて思わなかったから……せめてこれくらいさせて欲しい」
うん? 屋台のお手伝いが意外だったから、せめてプレゼントしたい? よく分からないけど、恥ずかしがってるようで実は結構楽しみにしてくれてたのかな?
「分かった、そういうことなら有難く着させて貰うね」
受け取った服を着てみると、どうやらユリアちゃんとお揃いのデザインだったみたい。
ユリアちゃんが着ると小さな小悪魔って感じがするこの衣装も、私……もとい、“ミオ”のアバターが着てると、なんかこう、悪の親玉っぽい印象が増す。
ふはははー! 貴様らの血を我に捧げよー! なーんちゃって。
「悪の親玉っていうより、どこか抜けててなんやかんやで主人公の仲間になりそうな最弱の四天王っぽいよね」
「ミオは色々と大雑把やからなあ、しゃーない」
どうやら、心の声が漏れていたらしい。
ウルとナナちゃんに生温かい目で見られ、少し恥ずかしくなってそっぽを向くと、ユリアちゃんがちょいちょいと服の裾を引っ張ってきた。
どうしたのかな? と思ってそっちに目を向けると、ユリアちゃんは首筋を曝け出し……。
「私の血、欲しいならあげる……」
「待てぇい! それは色々とアウトや、自重せい!!」
「あうっ、何するの……」
なんともけなげなことを言ったかと思えば、即座にナナちゃんがその頭にチョップを決めた。
うんうん、ユリアちゃんはちょっと無防備過ぎるところがあるから、もっと言ってあげて。
「ええか? ミオはあれで結構ケダモノやねん、可愛いものと見たら見境があらへん、少しは自分の体を大事にやな」
「別にいいのに……」
いやいやいや、ナナちゃん? 私のことをなんだと思ってるの?
いや、確かにフウちゃんにも、「先輩は動物を前にすると色々アブナイ人になりますよね~」なんて言われたことあるけども!
「まあええわ。これだけの数の美少女が売り子をやっとれば、宣伝効果もバッチリやろ! 後は実際に、商品の販売に向かうだけやな。料理のネタは大丈夫かいな?」
「うん、それは平気。いくつか考えておいたから、実際に販売して、反応が良いのをコンテストに出すつもり」
いい加減この話題は危険だとでも思ったのか、少し強引に話を戻したナナちゃんに、私は軽く胸を張って答える。
クッキー以外にも、お手軽に食べられる料理、いくつか用意してあるから、売れるといいな。
「あはは、まあ、せっかく作ったんだし、頑張ってよ。私も時間出来たら顔見せるからさ」
「ほんと? 待ってるね、ウル!」
応援してくれるウルに応えると、私達は小屋を後にした。
よーし、たっくさん売りさばくぞー!
「なーんて決意してみたけど、全然売れないねー」
屋台を携え、私達がやって来たのは、今回のハロウィンイベントでも人気の狩場、《ゴスト洞窟》。
ここは他のエリアに比べ、アンデッド系のモンスターが多く出るからか、お化けカボチャの出現率も高いらしい。
暗闇の中から急に襲い掛かってくる空飛ぶかぼちゃは厄介なんだけど、慣れれば効率がいいとのことで、多くのプレイヤーが押しかけてる。
その分死に戻る人も多いだろうし、《バルロック》との境のエリアでもあるから、《グライセ》みたいに《霊魂カボチャ》料理を提供してくれる人も少ないだろうという見込みだったんだけど、思ったほどの反響はなかった。
「初日からバカ売れなんてそう上手い話はないよって。今は物珍しさから遠巻きにしとる人が多いだけで、慣れればすぐ売れるようになるで」
「だといいなー」
確かに、さっきから近くを通るプレイヤー達も、気になるのかチラチラとは見てくれてる。
もしかしたら、仕事がなくて立ちっぱなしなのも可哀想かと思って、うちのムギを突いて戯れてるユリアちゃんが気になってるだけかもしれないけど。
「というか、お前らちゃんと客引きせんかい、声上げな客はこんで! おーい、そこのお二人さん、ハロウィン限定デスペナ無効料理はいらんかー? ここにおる美少女の手作り料理やでー」
「あはは、そうは言っても、さっきからどれだけ呼び込んでも全然来ないし……」
「デスペナ無効か、どんな料理があるんだ?」
「ほんとに来た!?」
「……お客さん?」
言っている間に訪れたお客さん第一号。見た目結構ムキムキな男のプレイヤーだった。
それに気付いたのか、ユリアちゃんがムギを抱えて戻って来る。
「かぼちゃクッキー、魚肉団子のかぼちゃソース添え、かぼちゃと小魚のかき揚げと、パンプキンスープだよ!」
「かぼちゃ尽くしだなおい」
「ハロウィンだから。デスペナ無効には《霊魂カボチャ》が必須だし」
「まあ、それもそうか。じゃあ団子くれ」
「まいどー!」
私がお金を受け取ると、黄色のソースがかかった魚肉団子をナナちゃんが爪楊枝で刺してお客さんに渡す。
これ一つで効果が現れるから、かなりお手軽だ。
「ん……おお、中々美味いな」
魚肉団子を食べると、思わずと言った様子でそう呟いて、ステータス画面からデスペナルティが消えていることを確認して、満足そうにうなずいた。
「ありがとよ、嬢ちゃん達。助かったぜ」
「ん……また来て、ください」
最後にユリアちゃんがそういうと、お客さんは微笑ましそうに相好を崩し、「おう、また後でな」と言って笑顔を零す。
そうして手を振りながら去っていく背中を見て、私は呟く。
「偶にはこういうのも悪くないね」
「せやろー?」
同意の声を上げるナナちゃんと目が合って、私達は笑い合うのだった。




