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テイマーさんのVRMMO育成日誌  作者: ジャジャ丸
第八章 カボチャ祭りと料理コンテスト
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第159話 話題の一団と焼きそば屋台

 家に寄って、あれこれと準備を終えた後、校門前で風子ちゃんと落ち合う。

 髪の色を除けばほぼゲーム内と変わらない雰囲気の風子ちゃんを前に、友里ちゃんも希星ちゃんもすぐに納得したように頷いていたのが印象的だった。

 ともあれ、そんな風に集まった私達が校門を潜ると、周りがにわかに騒がしくなった。

 けどまあ、それも仕方ないとは思う。


「うわっ、なんだあの子……」


「キレー、外人さんかな?」


「どこの子だろ……」


 私の隣を歩いているのは、穢れを知らない真っ白な髪と白磁の肌を持つ、絶世の美少女。つまり友里ちゃん。

 女の子らしい起伏はまだまだ乏しいけど、可愛らしい日傘で日光を遮り、集まる視線に対して恥ずかしそうに私に身を寄せて隠れる様は、私でなくとも人間なら誰だって庇護欲がかき立てられること間違いなし。

 私が以前着ていた白いワンピースを試しに着せてみたんだけど、これがまた友里ちゃんの儚げな雰囲気とマッチして、まさに深窓の令嬢とでもいうべき素晴らしい可憐さを発揮してる。

 私が着た時は、お兄に「お転婆姫」なんてあだ名付けられてたんだけど……うん、着る人が違うだけで、こうも印象って変わるもんなんだね。


 けど、注目されてるのは何も友里ちゃんだけじゃない。


「いや待て、そっちの子も可愛いぞ」


「コスプレ? 何のキャラクターかしら?」


「ちょっと小生意気そうな感じがまたいいなぁ」


 私達一行の先頭を歩くは、これまたどこのアニメ世界から迷い込んだのかと言いたくなる痛カッコイイ衣装に身を包んだ、希星ちゃんの姿があった。

 友里ちゃんを着替えさせたついでに見繕った、お兄の黒いマントが大変気に入ったようで、さっきからバッサバッサと無駄にはためかせながら歩いてる。

 その威風堂々たる姿を前に、みんな文化祭の出し物の一環だとでも思ったのか、誰もツッコミを入れようとはしない。

 うん、逆に凄いね。


「そこの男の子も可愛いわねえ」


「うちの喫茶店に来てくれないかなあ……」


「守ってあげたくなるタイプ?」


 そして、地味に竜君も人気がある様子。主に、高校生のお姉さん方が視線を注いでる。可愛いという評価が聞こえて来て、本人はなんとも微妙な顔だ。

 実は、家で女装させて、その恰好のまま来ようかとも思ったんだけど、流石にそれだけは無理だと固辞されちゃったんだよね。それでも漏れ出る可愛さが、お姉さん方の琴線に触れちゃったみたい。

 これで剣道の全国大会に出るような腕前って言ったら、どんな反応するんだろう。ちょっと気になる。


 とまあ、こんな風に注目を集める三人に比べれば、私なんて地味だし大して目立たないだろうなぁ。


「お、おい、真ん中にいる子を見ろ!」


「うん? あの子がどうかしたの?」


「知らないのかお前、ほら、『生物部の姫君』だよ!」


「七不思議の!? あの子が!?」


 と、思ってた時期がありました。

 はい、実は私、この高校ではちょっとした有名人なんだよね。

 というのも、ここの生物部って、県下屈指の規模を誇り、色んな種類の動物が飼われてるんだけど、それを知った私は小学生の頃、勝手にここの敷地に侵入したことがある。

 まあ、最初のうちはあっさり捕まってお母さんを呼び出されたりしたんだけど、しつこく何度も通ってるうちに、手隙の先生に生物部の様子を見学させて貰えることになったりして、調子に乗った私は勝手にそこで飼われてる子に芸を仕込んだりなんてやらかして。

 最終的に、動物達を連れて勝手に校内散歩なんてやってたら、サボリの生徒さん達に見つかって、知らないうちに「動物を従える謎の幼女」として学園七不思議に登録されたらしい。なお、七不思議とは言うものの、私の件以外に七不思議認定されている物事はないみたい。それのどこが七不思議なのか。


 まあそういうわけで、実はここの先生や上級生は、お兄や美鈴姉よりも私との付き合いが長い人が結構いるんだよね。結果として、この一行で一番地味なのは、明らかに着ていく服を考えるの面倒だったのだろうと分かり切った姿……ジャージに身を包んだ風子ちゃんということになる。

 いや、特に言及されないだけで、これだけ目立つ中に中学のジャージ姿で文化祭に来るような子が目立たないはずはないんだけど、元々この子って気配を消して授業中に居眠りする術に長けているせいか、本当に誰の目にも留まっていないように見える。

 私が友里ちゃんと手を繋いでる反対側の腕に、思いっきりもたれながら歩いてるのにね。解せぬ。


 その無駄に高い隠密スキル、もっと他のことに活かせないの?


「無理ですね~」


「人の心読まないの」


 なんて、私と風子ちゃんで以心伝心(?)なやり取りをしていると、ふと希星ちゃんからキラキラとして目を向けられていることに気が付いた。

 どうやら、中学生の私が高校でも有名だったことに驚いているらしい。


「澪!! お主、リアルではそんな大層な二つ名を持っていたのか!? ズルイぞ、我などまだ誰にも二つ名など付けられたことないのに!!」


「いや、あれ二つ名って言うのかな? ただの珍生物みたいな扱いされてるだけだよ」


 実際、私がよくここに潜り込んでは動物大行進をしていると、先生なんかは注意しつつ飴玉をくれるし、生徒さん達はパシャパシャ写真撮ってくし。

 ちなみに、その時の写真が一部ネットにアップされて、『オオトカゲを従える幼女』なんてタグが一時トレンド入りしたことがあるって、後からお兄に聞いたことがある。

 私の日常は特に何も変化がなかったから気にしなかったけど、あの時のお兄はやたら疲れた顔してたっけなぁ、懐かしい。


「澪、私よりも目立ってる……すごい……」


「そんなことないと思うよ? 友里ちゃんの方が可愛いし」


「そうじゃなくて……えと、何て言うか……私、いつも周りから変な目で見られてたから、澪の傍だと、なんだか周りの目もいつもと少し違って……落ち着く」


 ぎゅっと私の手を握る力を強めながら、友里ちゃんが穏やかに微笑む。

 むむ、もしかして、普段あまり外に出ないのって、友里ちゃんが可愛過ぎて変なおじさんに絡まれたりするから!? だとしたら、雷斗さんにも頼まれたんだし、私がしっかり守ってあげないと!


「大丈夫だよ友里ちゃん、友里ちゃんは誰にも拉致なんてさせないから!!」


「?……うん、ありがと……??」


 こてりと首を傾げる友里ちゃん。可愛い。


「まあ、先輩ですからね~、中学でも地味に有名人ですし、変人レベルで右に出る者はいないと思いますよ~」


「ちょっと風子ちゃん、それどういう意味!?」


「澪姉、バカなこと言ってないで行こう、晃兄も待ってるだろうし」


「あ、そうだったね、お兄がうっかり建物全焼なんてさせてないかどうか、ちゃんと見張らなきゃ!」


「いや、何をどうすれば全焼などという事態を心配せねばならんのだ?」


 希星ちゃんがすっごい呆れた目で見つめて来たけど、そういうのはこれまでのお兄を知らないから言えるんだよ、だからお兄のことをよく知ってる竜君は、希星ちゃんの言葉に頷くでも否定するでもなく曖昧に笑って誤魔化そうとしてるし。

 まあ、それもこれも行ってみれば分かるだろうということで、竜君の言葉通りさっさとそちらに向かってみる。

 確か、クラスの出し物というだけあって、『焼きそば屋台』っていう名前なのに、なぜか屋内の自分達の教室でやってるんだったかな。

 そういうわけで、無駄に歩き回り、もはや私の庭と言っても過言じゃない校舎の中を、案内もつけずにすいすいと歩いていく。


「着いたよ、ここでやってるみたい」


 やがて辿り着いた場所からは、『2-B 焼きそば屋台』という実にシンプルな看板と共に、ソースの香ばしい匂いが廊下にまで流れて来る。

 そんな匂いに釣られてか、教室の中はかなりの人数でごった返していた。

 みんな、焼きそば好きなんだね。


「テイクアウトとイートイン、どちらになさいますかー?」


「あ、ここで食べますー」


「はーい、それでは五名様ご案内ー」


 どうやら、屋台と言いつつも好きな方を選べるみたいで、私達はひとまず教室の中で食べることにした。

 ここまで結構な距離を歩いてきたしね、友里ちゃんの体のこともあるし、お兄の仕事ぶりを見物するためにも、イートインが一番だ。

 というわけで、まずは焼きそばを受け取ろうとカウンターに向かうと、そこには美鈴姉が立っていた。


「あ、美鈴姉、お疲れ! その服似合ってるね」


「そう? ありがとう澪ちゃん」


 美鈴姉の服装は、焼きそば屋台というよりは喫茶店のウェイトレスみたいな感じで、白のエプロンドレスがすっごく可愛い。


「竜君は久しぶりね。あとの三人はリアルだと初めまして。本当はゆっくり話したいところだけど、一応お仕事中だから、後でね。それで、ご注文は?」


「焼きそば5つ!」


 メニューは焼きそばしかないけど、そこは気分。注文を聞かれて元気よく答えた私は、カウンターから少し離れて、奥にいる焼き手……つまり、お兄の方に目を向ける。


「お兄ー、ちゃんとやってるー?」


「おう、バッチリだぜ!」


 教室の中に用意された屋台セットを使って、お兄はせっせと焼きそばを焼いてる。

 思ったよりも手際は悪くないし、特に変なこともしてないみたい。ちょっと安心。


「それじゃあお兄、コンロ爆発させないように頑張ってねー」


「おう! って、心配するのそこ!?」


 お兄から微妙に抗議の視線を向けられながらも、焼きそばを全員分受け取った私達は、机を突き合わせて作られた簡易なテーブルへと向かう。

 日光が直接当たらない廊下側に陣取った私達は、モソモソと焼きそばを食べながら、適当な雑談に花を咲かせ始めた。

 といっても、元々私達はMWOで知り合った者同士、ちょうどイベント中なのもあって、話す内容は自然とそれに偏っていく。


「へえ、じゃあ、特にボスモンスターはいなかったんだ?」


「うむ、実装済みのエリアは一通り回ったのだが、全く見つけられなかった。クエストの方でも、これといって強力な個体の話は聞かんな。後は、イベントの最後にあるという大型クエストくらいだな。具体的な日時は分からんが」


「そっかー」


 私はそうでもないけど、やっぱり希星ちゃんとしては歯ごたえのある敵がいないのは寂しいらしい。焼きそばを食べ進める手も、心なしか元気がない。


「澪は料理コンテスト目指してるって言ってたけど……調子は?」


「うん、大体方向性は決まって、後は本番までどう宣伝するかってところ? フィールドで屋台を開こうかなって奈々ちゃんと話して決めたんだー」


 私が屋台について話すと、やっぱりみんな多かれ少なかれ驚いたみたいだった。特に風子ちゃんは愕然とした表情で……。


「そんな、先輩~、私の専属料理人になってくれるって言ったじゃないですか~」


「一度も言った覚えないよそんなこと!?」


 平然とそんな嘘を吐いてきた。

 いやまあ、私に商売人の素質はないと思われてるみたいだし、風子ちゃんなりに心配してそんなことを言ってくれてるんだとは思うけど。多分。


「見てなよ、絶対この焼きそば屋くらい繁盛させてやるから!」


「ふむ、しかしいくら澪の料理とはいえ、これほど繁盛させるのは容易ではないだろう。味は十分に勝っているとは思うが……やはり、商売というのは何か味以外の秘訣があるのだろうな」


 焼きそばをモソモソと食べながら、希星ちゃんが呟く。

 確かに、この文化祭で食べ物を売りに出しているお店は、このクラス以外にも色々ある。

 みんな素人が作ってるわけだから、味にはそれほど大きな差はないはずなのに、なぜか明らかにここだけ異様なほど人が集まってるんだよね。なんでだろう?


「それはまあ、店員さんがいいからじゃないかな?」


「うん?」


 私や希星ちゃんの疑問に答えるように、竜君がカウンターの方を指差した。

 そこでは、美鈴姉が笑顔でお客さんに受け答えをし、それを見た男の人が緊張からか顔を真っ赤にしてる。

 ……なるほど、美鈴姉目当てのお客さんってことか。


「後ほら、澪姉も友里も希星も、みんな目立つから、それに釣られてここに来たお客さんも結構いるみたいだよ」


「私達?」


 それだけでなく、どうやら竜君の見立てでは、私達の存在も集客に一役買っているのではないかということだった。

 言われてみれば、元々凄い人数が集まっていたけど、今となっては外に行列が出来てるし、さっきからやたらと人の視線を感じる気もする。

 その多くはインパクト抜群な見た目を誇る友里ちゃんや希星ちゃんに注がれているけど、料理そのものじゃなくて、そういう部分でもお客さんの数は変わるってことか。


「竜也君、私は~?」


「風子は……マスコット? 癒し系?」


「ぶ~、なんか取ってつけた感じが微妙な感じです~」


 しれっと仲間外れにされた風子ちゃんが文句を言うも、竜君は軽く受け流す。

 まあ、その服装じゃ仕方ないよね。どうせなら、風子ちゃんもちゃんと着飾ってから来ればよかったかなぁ。


「けど……なるほど、可愛い店員さん、かあ」


 そう呟きながら、私は隣で一生懸命焼きそばを頬張る友里ちゃんに視線を落とす。

 確かに、こんな可愛い子が美味しそうに食べてる物ならなんでも美味しく見えるだろうし、更にオススメなんてされた日には、たとえシュールストレミングでも食べちゃう気がする。

 いや、流石にシュールストレミングはないか。


「……? 澪、どうかした?」


 じっと見つめる私に気付いたのか、友里ちゃんが私の方を見上げて小さく首を傾げる。

 思わず鼻血が噴き出しそうなその仕草を見て、私は決心を固めた。


「よし、決めた! 友里ちゃん、明日から付き合って!」


「うん。……ほえ?」


 ほぼ反射的に頷いた後、友里ちゃんは目を真ん丸に開いて驚きを露わにする。

 コトン、と割り箸が落ちる音が、やけに静かになった教室に響き渡った。

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