第157話 合流と中二病
「澪姉、お待たせ!」
「あ、竜君!」
友里ちゃんとラルバさん……もとい、氷室 雷斗さんの二人と無事に合流出来た後、しばらくすると竜君ともちゃんと会えた。
ついでに、その隣に女の子を連れていたけど。
竜君と同い年くらいで、自信みなぎるキリっとした眼差しがカッコ可愛いその子は、怪我でもしてるのか腕に包帯を巻いて、眼帯なんて付けてる。
いやもう、誰なのかそれだけで概ね察しがつくけど、それでも一応聞いておこう。
「竜君、その子ってもしかして……」
「ああ、うん、来る途中で偶々出くわしたんだ」
竜君が私に紹介しようとすると、それを遮って女の子はビシッ! とポーズを決める。
「ふっ、誰と聞かれれば答えないわけにもいくまい。そう! 我こそ偉大なる――」
「やっぱりネスちゃんだ! わあ、リアルでもこんな感じなんだね、可愛いー!」
「のわあ!? ええい、この感じはミオだな!? 名乗りを上げる前に正体を看破するでないわー!!」
今度は開幕一番に抱きしめると、ネスちゃんはいつものノリで返してくれた。
うん、この言動、この怒り顔、紛れもないネスちゃんだ。
「あはは、ごめんごめん。私は雛森 澪。ネスちゃんの名前は?」
「我は暗き闇の底より出でし偉大なる大魔法使い、ダークネスロードだ!! ……が、しかし、その真の姿を晒せば皆我が魔力に耐えきれず発狂してしまうのでな、世を忍ぶ仮の姿として、この鳳 希星の肉体へ受肉しているのだ」
「希星ちゃんかあ、珍しい名前だねー」
「ふっ、我は産まれながらにして普通ではないのでな、母上もそれを見抜いていたのだろう。我こそは、闇夜に輝く希望の星!」
「いや、今は昼間だけど」
ビシィ! っと見事に澄み渡る昼間の晴天を指差しながら語る希星ちゃんに、竜君が苦笑混じりにツッコミを入れる。
竜君、そういうことは言ったら野暮だよ。
「…………」
「っと、そうだ二人とも、この子がユリアちゃん、本名は氷室友里ちゃんだよ、みんな仲良くしようね」
私の後ろで固まってた友里ちゃんを前に出し、二人に紹介する。
友里ちゃんは相変わらず緊張のせいか一言も喋れない様子だったけど、その姿を見た二人は案の定というべきか、目を丸くした。
「えっ、ユリア……!? すごい、ゲームのままだ……お父さんかお母さんが外国の人だったりするの?」
「違う……えと、生まれつき、色素が薄くて……」
竜君の質問に、友里ちゃんは少し歯切れ悪く答える。
なるほど、予想はしてたけど、やっぱりそういう感じか。
私が一人内心で納得していると、それまで黙っていた希星ちゃんがずいっと友里ちゃんに迫った。
「お、お前、ユリア……じゃない、友里だったな、お主ずるいぞ!」
「えっ、えぇ?」
「ゲームの中でさえ、銀髪赤目に黒い衣装、そんな出で立ちで巨大鎌を背負って闇夜を駆るなどとカッコイイ要素満載だったというのに、リアルでも変わらんとは!! くぅ、羨ましい!!」
ぬおおお!! と頭を抱える希星ちゃんに、友里ちゃんはあわあわと困惑してる。どうやら友里ちゃんの容姿が、希星ちゃんの中二病的な感性を刺激してしまったらしい。
まあ、気持ちは分からないでもないけど……。
「ダメだよ希星ちゃん、友里ちゃんが困ってるでしょ?」
「しかしだな澪、この容姿は反則だろう!?」
「気持ちは分かるけど、よく見ればちゃんとゲームと違うでしょ? 瞳の色はこっちの方が薄いし、髪も短めだし……後、何より!」
ひしっ! と友里ちゃんを抱き寄せながら、私は希星ちゃんに向けて声を上げる。
「ゲームでは凄く強くてカッコイイ死神だったけど……こっちでは死神というより、可愛らしいお姫様だしね」
私がそう言うと、友里ちゃんはボッ! と顔を赤くし、希星ちゃんは「むっ、確かに」と納得したように顎に手を当てて唸り声を上げる。
ゲームでは、体付きが細かろうとステータスとスキルさえ揃ってれば巨大な鎌を振り回せたけど、リアルじゃそうはいかない。
「だから、ゲームでいっぱい助けて貰った分、こっちでは私が助けてあげるね、友里ちゃん」
「~~~~っ」
にこりと笑顔を向けながらそう言うと、友里ちゃんは益々真っ赤になって俯いちゃった。
うーん、やっぱりゲームの中みたいに行かないことを気にしてるのかな? そんなに恥ずかしがることもないと思うんだけど。
「澪姉は本当に……」
「鈍い奴め」
首を傾げていると、なぜか竜君と希星ちゃんから呆れ顔を向けられた。解せぬ。
「んじゃ、俺は適当にその辺で時間潰してくっから、文化祭が終わったら連絡してくれ」
そうしていると、突然雷斗さんはそう言って、その場を離れていこうとする。
「あっ……」と少しだけ寂しそうな声を出した友里ちゃんに、雷斗さんはニヤリと笑みを返す。
「せっかくの機会だ、偶には一人で友達と遊んで来い、そいつなら滅多なことにはならんだろ」
「……ん、分かった」
短い会話ながら、お互いに信頼し合っている感じが滲み出る二人のやり取りに、何となくニヤニヤとした笑みを浮かべていると、それに気付いた雷斗さんが咳払いしながら誤魔化すように背中を向けた。
あれ? 一緒に行かないの?
「雷斗さんは行かないの? お兄もいるよ?」
「何が悲しくてアイツと仲良く文化祭なんぞ回らなきゃならんのだ。別に俺らは友達でもなんでもないっての」
「喧嘩友達でしょ?」
「ちげーよ!! お前の頭の中で俺達はどういう扱いになってんだ!?」
「殴り合わないと分かり合えない戦闘狂?」
「違いない」
「友里、お前もか!?」
ブルータス、お前もか!? みたいなノリで驚く雷斗さんを横目に、私と友里ちゃんは顔を見合わせて「ねー?」とお互いに間違いないことを確認し合う。
いや、私が一方的に言っただけで、友里ちゃんはただ目を合わせてくれただけだけども。
「はあ、まあいいや、気が向いたら行ってやるよ。それより、友里のこと頼んだぞ。さっきチラっと言ってたみてーに、そんなに体も丈夫じゃないから、気にかけてやってくれ」
「分かってる、出来るだけ日向は避けて通るようにするね」
「なんだ、気付いてたのか」
「まあ、なんとなくねー」
日本人なのにこれだけ色白で、しかも赤い目をしているとなれば、大体分かる。ショルダーバッグから日傘っぽいのがはみ出てるし、日の光には相当弱いんじゃないかな? パッと見じゃ分からないけど、コンタクトもしてるのかもしれない。
「だから友里ちゃん、辛かったらいつでも言ってね?」
「え、えと……ありがと」
「ふふ、どういたしまして」
ニコニコと笑いかけながら、友里ちゃんの手を取る。
そして、未だにジト目が収まらない竜君と希星ちゃんの二人に向けて、苦笑混じりに声をかけた。
「それじゃあ、そろそろ行こっか」




