表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
テイマーさんのVRMMO育成日誌  作者: ジャジャ丸
第八章 カボチャ祭りと料理コンテスト
156/191

第156話 変質者とお人形

 出張屋台だとかマリンホースのテイムだとか、結構色々なことがあった翌日。私は家の近くにある駅のホームで、ベンチに座って時計を見ながら呟いた。

 今日は、待ちに待ったお兄の学校の学園祭当日。それに以前から招待していたユリアちゃんが参加できることになったから、待ち合わせのためにここにいる。

 ネスちゃんや竜君も来るんだけど、二人が到着するのは10分後の電車になるはずだから、まずはユリアちゃんと合流しないと。

 そんな風に思ってぶらぶらと周囲を見ながら立っている私を、さっきから通りがかった人が少しぎょっとした表情で二度見していくけど、まあそれも仕方ないと思う。

 何せ……。


「うーん、これはちょっと目立ち過ぎたかな?」


 私が視線を自分の背中に向ければ、そこにあるのは無駄にリアルなナマケモノの顔。

 もちろん本物じゃなくて、これはナマケモノの形をしたただのリュックサックだ。もっふもふの毛が付いた体で背中にぴったりと張り付いている姿がなんともキュート。

 中々に完成度の高い一品なんだけど、むしろその完成度の高さが仇になったのか中々売れず、ネットで半額セール(それでも7452円)してたのをポチっとやって手に入れた物だ。毛に覆われていて外からは見えないけど、首元にちゃんとチャックもあるし、これで結構荷物も入る。

 ただ、やっぱり目立ち過ぎるから普段はあまり気軽には使えないんだよね。うん、そういう意味では売れないのも納得。私は普段棚の上にぬいぐるみ扱いで飾ってるけど。

 まあ、なんでそんなものを今日わざわざ持ち出してきたかと言えば、もちろんユリアちゃんやネスちゃんと滞りなく合流するためだ。

 今回の文化祭は、いわば私にとって人生初のオフ会。ゲーム内ではいつも顔を合わせていると言っても、その顔がリアルと同じとも限らないし、実際私は結構変わってる。

 そんな状態じゃあ駅で合流と言っても難易度が高いし、じゃあ一目見てそうだと分かる物を身に着けていこうと思って、私が選んだのがこのリュックサックというわけだ。


「竜君との合流は問題ないだろうし、ネスちゃんはなんか魔法使いの杖を持ってくとか言ってたけど、ユリアちゃんはどうするんだろう?」


 なんでも、「見ればすぐにわかると思う」だそうだけど、まさかネスちゃんみたいに巨大鎌なんて持って来ないよね?

 なんとなく、小さな子供が大きな鎌をフラフラと危なっかしく持ちながら電車を降りてくる光景を想像して、自分でも分かるほどにふにゃりと顔が緩む。ユリアちゃん可愛い、うへへ。


 ナマケモノを背負い、鼻の下を伸ばして変な笑い声を上げる女子中学生という、最後の部分をおじさんにしたら……いや、なんならそのままでも十分に変質者と間違われそうなことになりながら待っていると、ようやく待ちに待った電車がやって来る。

 おかしな妄想を脳内で繰り広げていた私はそれにはっとなると、早速出入口付近に張り付いて出てくる人をチェックしていく。もはや完全に不審者だ。


「うーん、いないなぁ」


 それでも、お目当てのユリアちゃんらしき子は見当たらなかった。

 乗降口はいくつもあるし、もしかしたら見落としてるのかもしれない。

 ひとまず携帯で連絡を取ろうかと思い始めた時、後ろからちょっとしたどよめきの声が上がった。


「うん?」


 振り返ると、そこにいたのはやたら強面で悪そうな男の人と、その人に手を引かれた小さな女の子。

 男の方はだらしなく着崩したシャツに加えて、金ぴかに染められた上にワックスで固めてツンツンにセットされた髪と、“いかにも”な感じだったけど、女の子の方は例えるなら可愛らしい西洋人形だ。

 肩に小さなショルダーバッグをかけ、空いている手で男の人の裾をぎゅっと握りながら、周りから隠れるようにちょこちょことついていく姿がなんとも庇護欲をそそられる。

 男の人も大概派手な格好なのに、私の目はその女の子に釘付けだった。

 日本人とは思えないほど白い肌に、真っ白な髪。そのまま太陽の光に溶けていなくなってしまいそうな儚い雰囲気を纏ったその女の子は、きょろきょろと周囲を見渡すように顔を動かし、私を正面に捉えると、その淡紅色の瞳を真ん丸に開く。


「……ミオ?」


 まるでゲームの中から直接飛び出してきたみたいにユリアちゃんそっくりなその子は、すごく聞き覚えのある声でそう呟いた。

 待ち合わせてるんだからそれだけではっきり分かるけど、だからってこれは予想外だ。


「おっ、お前がミオか、ははっ、キラの野郎が言ってた通り、大分ゲームと体格違うなぁ」


「…………」


「ん? どした? 人違いだったか?」


 男の人……多分、ラルバさんなんだろうけど、しれっと体格云々突っ込まれたことも今この時は全然気にならない。


「か……」


「か?」


「可愛い!!」


 私はそれだけ叫ぶとすぐさまユリアちゃんの下へと走り寄る。

 あまりの勢いにユリアちゃんがびくりと震え、ラルバさんの後ろに隠れてしまった。でも可愛い。


「ユリアちゃん、だよね? 私ミオ、リアルの名前は雛森澪! 改めて、よろしくね!」


「え、えと……ユリアで、合ってる……本名は、氷室ひむろ友里ゆり……」


「友里ちゃんかあ、名前まで可愛い! ねえ、友里ちゃん」


「な、何?」


 私の勢いに押され、困惑気味な友里ちゃんに、私はニコニコと笑顔を浮かべ。


「抱きしめてもいい?」


「待て待て待て待て! お前は本当にリアルでも変わらねえんだな!?」


 そう言ってにじり寄る私を、隣にいたラルバさんが押し留める。

 おっと、いけないいけない、友里ちゃんのあまりの可愛さにまた理性がぶっ飛んでたよ。

 ごめんなさーい、と、ラルバさんには軽く謝っておく。


「友里ちゃんもごめんね?」


「う、うん。それはいいんだけど……その、澪」


「うん? 何?」


「……私、変じゃない?」


「変??」


 一瞬、私は何の事か分からなかった。

 ただ、友里ちゃんが何かをぐっと堪えながら決死の思いで尋ねてるのは分かるから、なんだろうかと考えて……ついに思い立った。


「うーん、確かに変かも?」


 私がそう言うと、友里ちゃんが顔を俯かせる。

 そんな友里ちゃんの肩をがしっと掴むと、私は大真面目に告げた。


「その服、友里ちゃんに似合ってない!」


「……へ?」


 ポカーンとする友里ちゃんの表情は可愛らしいけど、その服装はいまいち地味な色合いで、ぶっちゃけ友里ちゃんには似合ってないと思う。


「せっかくこんなに綺麗な髪とか肌とかしてるんだから、もっと可愛らしくおめかししないと勿体ないよ! あ、そうだ、せっかくだし、行く途中で私の家に寄ろう、私のお古だけど、これよりはマシなのがまだ残ってたはずだから、それ友里ちゃんに着せてあげる!」


「え? え? ……い、いや、澪、その……私の髪、可愛い? 変じゃない?」


「うん? 当然でしょ? 今更何言ってるの?」


 というか、最初に可愛い! って抱き着こうとしたわけだけど、友里ちゃんもう忘れてるんだろうか?

 そんな風に思っていると、白かった友里ちゃんの肌が傍目にも分かるほど赤く茹っていく。


「その……ありがと、澪」


 もじもじと照れた顔を隠すようにそっぽを向いて呟く友里ちゃんの可愛さに、私は「ぐはっ」とダメージを負って軽く仰け反る。

 ああもう、この子可愛いなぁ、ゲームの中でも可愛いと思ってたけど、リアルだとそれに輪をかけて可愛い!


「とりあえず、そういうわけで、竜君やネスちゃんと合流出来たら、事情を話して一旦うちに寄ろう。大丈夫、自分の服装はともかく、人を着飾るのはそこそこ得意だから! 多分!」


「そ、それ、本気だったの……? え、ええと……お、お手柔らかに……?」


 どんな服を着せようか、そんなことを今この時から悩み始めて不審者丸出しのだらしない笑顔を浮かべる私を余所に、友里ちゃんはおろおろと同様しながらチラチラとラルバさんの方へ視線を投げる。


「……良かったじゃねえか、友里」


 それに対して、ラルバさんはその強面からは想像も出来ないほどに優しい表情を浮かべていたんだけど、自分の世界に入り込んでいたこの時の私には、そんなことは知る由もなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] アルビノ?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ