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テイマーさんのVRMMO育成日誌  作者: ジャジャ丸
第八章 カボチャ祭りと料理コンテスト
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第154話 デスペナ無効と出張屋台

「そう、デスペナルティ無効、ミオちゃんも見つけたのね」


「私もってことは、リン姉も?」


 私の言葉に、リン姉はこくりと頷く。

 ナナちゃんと料理をしている最中、偶然見つけた《霊魂カボチャ》入りの料理が持つ《デスペナルティ無効》の効果。

 これについて調べるため、ギルド《魔煌騎士団》を訪れた私は、リン姉に相談を持ち掛けたんだけど、どうやら既に知られているらしかった。


「まだはっきりとはしていないんだけど、《霊魂カボチャ》を使って料理をすると《デスペナルティ無効》の効果が付くらしいっていうのは、結構最初の方から言われていたの。今回は初心者向けイベントって銘打たれているから、初心者救済の一つとして、イベント期間限定で用意したんじゃないかって言われてるわね」


「じゃあ、特に意味はない?」


「もう一つ、運営がイベント終盤にプレイヤー全員参加型の超大型クエストを用意してるって仄めかしてるの。もしかしたら、それで必要になるのかも」


 どっちも確証はないんだけどね、と、リン姉は笑う。

 でもそういうことだったら、どっちに転んでも必要になるってことだし、多めに作っておいて損はないかな?


「くっくっくっ……匂う、匂うで」


「突然どうしたのナナちゃん」


 私がそんなことを考えている間に、ナナちゃんが突然不気味な笑い声をあげ始めた。

 一体何事かと目を向ければ、ナナちゃんはその小さな拳を握りしめ、高らかに声を上げる。


「金の匂いや! 《霊魂カボチャ》を使った、デスペナ無効料理、間違いなくこれは金になるで!」


「どういうこと?」


「分からんのかミオ! 今このゲームには多くの初心者プレイヤーが詰めかけとる、そして初心者といえば、上の連中に追い付くために無茶なレベリングを繰り返して、その途中でうっかり死んでまうのが定番や」


「そうなの?」


「そうや! 少なくともウチは日に一回は死んどる!」


「えぇ……私はそんなに難しいところ行かないから、全然死なないんだけど」


「ミオのことはええねん! 重要なのは、そういう層にとって間違いなくこれは重要アイテムやっちゅうことや!」


 いまいち付いていけていない私を余所に、ナナちゃんはヒートアップしていく。

 まあ確かに、常にギリギリの戦闘をしている人にとっては、食べるだけでデスペナルティを無効に出来る料理なんてかなり有難いだろうとは想像もつく。ただ……。


「でも、それだけなら他の人もやってるんじゃない? 話を聞く限り、私が初めて見つけたわけじゃないんだし」


「そらそうやろうな。実のところ、グライセの転移ポータル前にはいくつかそういう料理を出しとる店もあるで。ウチも何度か利用したわ」


「じゃあダメじゃん」


 多くのプレイヤーは、グライセを拠点に活動してる。

 ゲームで死んだ時、最初に戻ってくるのが自分の拠点である以上、そこの転移ポータル前が既に抑えられているのなら、後追いで始めたからって大した利益が出せるとは思えない。

 そう指摘する私に、ナナちゃんは「ちっちっちっ」とわざとらしく指を振ってみせた。


 うん、場合によってはイラッとしそうな仕草だけど、今のナナちゃんにやられるとただひたすらに可愛い。


「甘いでミオ。確かに、転移ポータル前っちゅうのは強いけどな、他にも売れ行きを伸ばせる、何よりライバルがほとんどおらん場所がある」


「えっ、どこ?」


「ふっふっふっ、それはな……」


 勿体ぶったように溜めを作るナナちゃんを前に、私はごくりと生唾を飲み込み、リン姉も興味深そうに耳を傾ける。

 そんな私達を前に、満足そうにニヤリと笑みを溢したナナちゃんは、満を持して……。


「ズバリ! プレイヤーが狩りをやっとるフィールドの中や!」


 そう、叫んだ。

 その一言に、私はポカーンと開いた口が塞がらず、リン姉は「なるほどねー」と手を叩く。

 いやいや、なるほどねーじゃなくて!


「フィールドの中でどうやってお店なんて開くの? 周りはモンスターだらけで危ないし、《出店セット》も街中じゃないと開けないんでしょ?」


《出店セット》は、トレード機能を使わずにプレイヤー同士で金銭やアイテムのやり取りが出来る、いわばゲーム内で商売をするためのアイテムだ。

 インベントリよりも大量にアイテムを収納できるアイテムボックスや、料理、調合、簡単な鍛冶を行うための作業場なんかを拡張・併設することが出来て、何よりそれ自体をプレイヤー自身のインベントリに納め、持ち運ぶことも出来るという優れもの。


 ただ、その分値段は高いし、安いのになると外見がただのブルーシートという悲しいことになる他、インベントリの容量を簡単に増やせないようにするためか、フィールドで出し入れが出来ないように設定されていると聞いたことがあるから、それを使ってフィールドで商売をするのは無理だろう。


 トレード機能を使って商売するという手もあるけど、それは一々相手の名前を聞いて申請を飛ばし、お互いにお金や商品を選んで数量を決定、確認し合い、良ければOKボタンをタップする……と、中々面倒な手順が必要だ。お客さん自身が商品リストから買いたい物を選んでタップし、確認のダイアログにOKするだけで、面倒な合計金額の計算も引き落としも自動でやってくれる《出店セット》とは比べるまでもない。


 そうした理由から渋い表情を浮かべる私だったけど、ナナちゃんは「ちっちっちっ」とまたも指先を左右に振り、実に楽しそうな笑みを浮かべた。


 その仕草、癖になったのかな?


「甘い、甘いでミオ、確かに《出店セット》はフィールドでインベントリから出し入れ出来んようになっとる。けどな、最初から出した状態で、フィールドに持ち込むこと自体は出来るんやで!」


「そうなの?」


「ええ。普通の《アイテムボックス》もそうなんだけど、荷車の上に展開してそのまま引っ張っていけば、フィールドに持ち込むことが出来るわ。あまり頑丈じゃないから、モンスターに攻撃されるとすぐに壊れちゃうっていう問題はあるけれど、フィールドでキャンプして狩りをするプレイヤーにとっては便利だから、たまに荷物持ちのプレイヤーに荷車を任せてやってるわね」


「へー、そうだったんだ」


 言われてみれば、確かに荷車を引いてフィールドを歩いてるプレイヤーも見かけたことがある気がする。

 でも、あの時は単にそういうアイテムもあるんだなーとしか思わなかったし、まさか《出店セット》をその上に展開して持ち運べるだなんて思ってもみなかった。


「というか、なんでウチが知っててミオが知らんねん」


「自分では商売なんてするつもりなかったからねー、よくわかんないし」


 ウルに初めて装備の製作依頼を出した時もそうだったけど、私って金銭感覚というか、損得勘定というか、そういうの苦手だ。

 今はそっち方面に強いナナちゃんがいるから多少乗り気になってるけど、そうじゃなければずっと関わらなかったと思う。


「やれやれ、ミオは何かとええもん持っとるのに、相変わらず勿体ないやっちゃで」


「私は基本、この子達と楽しく過ごせればそれでいいからねー」


 そう言って、私は肩に乗ったライムに、膝の上に乗ったフローラを順番に撫で、最後に頭の上で羽を休めているフララの顎を優しく掻く。

 心地良さそうなモンスター達の様子にほっこりしていると、そんな私達を見て温かい目を向けるリン姉やナナちゃんと目が合った。

 なんとなく気恥ずかしくて一つ咳払いをした私は、少し強引に話を元に戻す。


「それで、フィールドで売るっていうのは分かったけど、どのみちデスペナルティを無効にしたかったら、街を出る前にその手の料理を食べ終えてるんじゃない? それじゃあ意味ないような」


「大丈夫や。別にみんながみんなグライセから来とるわけやないし、むしろ距離を考えたらグライセから狩り場まではそこそこ遠いねん。それでもみんなグライセを拠点にしとるのは、単純に必要なアイテムを集めるのに便利だからや。フィールドでそれを補充させてくれる出張屋台があるなら、十分客は見込めるはずやで」


「なるほど……流石ナナちゃん、よく考えてるね」


「ふっふっふっ、せやろ? ……で、なんでミオはウチの頭撫でとるん?」


「可愛いから?」


 真っ平らな胸を張り、誇らしげに鼻を鳴らす幼女ナナちゃん。撫でないわけにいかないでしょ!

 でもナナちゃん的には納得いかなかったようで、手を振り払われてしまった。残念。


「ウチはなでなでよりも抱っこを所望する!」


「はーい、むぎゅー」


「うほぉ!」


 少しだけフローラに離れて貰って、空いたところにナナちゃんを抱き締めると、オヤジ臭い歓喜の声がした。

 色々と台無しだけど、私の胸に埋まって至福の表情を浮かべるナナちゃんが可愛いから良しとしよう。


「それはそうと、その出張屋台っていくらくらいかかるんだろう? 私の所持金で足りるかな?」


「それなりに見栄えよく揃えようとするなら、50万Gくらいかしら? 削ろうとすれば、10万くらいにはなると思うけど……」


「それならまあ、なんとかなるかな?」


 船の代金をケチった分、お金は浮いてるしね。料理コンテスト前の宣伝費だとでも思えば、まあ惜しくはない。


「それじゃあ、ナナちゃん、そろそろ行こうか」


「うん? 行くってどこへや?」


「もう、決まってるでしょ」


 ナナちゃんを離し、代わりに少し仲間外れにしていたフローラを抱き上げる。

 少し拗ねた様子のフローラを撫でながら、私は言った。


「屋台を作って貰いに行くんだよ、《鍛冶師》のところへ」

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