第152話 名付けと引き網漁
「あなたの名前は……うーん、ファメルで!」
名前:ファメル
種族:マリンホース Lv1
HP:105/105
MP:72/72
ATK:67
DEF:49
AGI:110
INT:72
MIND:32
DEX:36
スキル:《俊足Lv1》《回避Lv1》《水属性魔法Lv1》《牽引Lv1》《隠蔽Lv1》
マリンホースをテイムした私は、早速イカダの上で名前を付けて、インベントリの中にあったかぼちゃクッキーで餌付けしていた。
とにもかくにも逃げ足が速くて追うのが大変だったから、それを意識した名前にしたけど、気に入って貰えたのかファメルは少しばかり嘶く。
いや、気に入ったのは名前よりもクッキーかな? 何だかもっと寄越せー、みたいな感じで私の手をハムハムしてくるし。
「それにしても、レベル1の割にはステータスが随分高いけど、やっぱりレアモンスターだからかな?」
名前を付けてから開いたままになっているファメルのステータス画面を見ながら、私はこれまで見て来た子達のステータスを振り返る。
ライムはこの際置いておくとしても、フララやフローラだって、最初のうちはそこまでステータスは高くなかったんだけど……それとも、マリンホースは今の状態で進化個体相当だったりするのかな? まあ、強いのには違いないんだし、あんまり気にしなくてもいいか。
スキルの方は、私も持ってる《俊足》スキルに予想通りの《水属性魔法》、それに加えて、《回避》《隠蔽》、それから《牽引》か。
《牽引》スキルは初めて見たけど、字面からしてイカダを引いたりするときに補正が付くスキルなのかな? そうだとしたら、早速やって貰おう。
「ファメル、このイカダ曳いて走って貰いたいんだけど……出来る?」
「ブルル!」
試しに聞いてみると、気合十分と言った感じにイカダの前方に回り込み、停止する。
続けて、『ファメルにイカダを牽引させますか?』というメッセージが表示され、躊躇いなくYesをタップした。
すると、それまで何もなかったはずのイカダとファメルの間に突然ロープが出現し、綺麗に両者をつなぎ合わせていく。
ロープはどこから現れたんだとか、色々と気になることはあるけれど、まあいつものことだし深く考えずにスルーしよう。
「それじゃあファメル、お願いね」
「ブルッ」
「うわわっ」
ファメルが海面を蹴ると同時に、イカダが勢いよく前に進み始め、すぐにそれまでの最高速度を突破する。驚いて少し尻餅をつきながら、フララが置いていかれないようにライムと一緒に抱き締めて、フローラにはちゃんと腰に掴まっているように指示を出す。
そんな感じで、出発した直後は予想外の加速にドタバタしたけれど、慣れてくれば肩で風を切る感覚を楽しむ余裕も出来てくるし、高速で後ろに流れていく海面を眺めることだって可能になる。
「ファメル、基本はこの辺りをぐるぐる回ってね。モンスターを見たら回避で」
追加の指示を加えて、海面上をイカダを曳いたまま走らせ続ける。
こうしているだけでも、《俊足》や《牽引》スキルのレベル上げになるだろうし、後は問題なく釣りが出来ればいいんだけど……。
「っと、モンスター来た!」
そうしていると、案の定さっきと同じモンスター……スラストフィッシュが現れ、左右から飛び出してくる。
さてどう迎撃したものかと、鞭を構える私だったけど……幸い、その心配は無用だった。
「おお?」
左右から飛び出してきたスラストフィッシュは、ファメルで加速した私達のイカダについて来れず、途中で失速して海面に戻っていく。
続けて上空からお化けカボチャも襲ってくるけど、こちらもやっぱり同じように追いつけずに引き離されていき、結局はただ見ているだけでも全くもって安全だった。
後はこのまま釣りが出来るかどうかだけど……。
「と、やっぱりそう都合よくはいかないか」
《感知》スキルに反応があり、今度は真正面からスラストフィッシュが飛び出して来る。
この位置からじゃ、いくら速かろうと無視して進むってわけにはいかないから、対処しないわけにはいかない。
「ライム、お願い! ファメルを守って!」
「――!」
投げつけたライムがファメルの首筋に張り付き、触手を伸ばす。
全部から守り切れるかは分からないけど、凌ぐことさえ出来れば十分安全に動くことが出来るはず。
「ブルルッ!」
「えっ、ひゃあ!?」
けど、そんな私の判断は不要だと言わんばかりに、ファメルは唸り声を上げて更に加速した。
イカダの上から危うく転がり落ちそうになって肝を冷やしたものの、そんなのはまだまだ序の口だった。
迫りくるスラストフィッシュの攻撃を回避するため、イカダを曳いたままという状態にも拘らず、ファメルは右へ左へと跳び回り、それに引きずられるように私達も当然のようにブン回される。
「うひゃああああ!?」
「だーー♪」
フローラの楽しそうな声を聞きながら、必死にマストにしがみつく。
見たところ、危ないものは多少ライムに弾いて貰っているものの、ファメルはそのほとんどを自力で回避していた。正直凄い。
でもね、それによって振り回される私達のことももうちょっと考慮して欲しいな! あああっ、今目の前をスラストフィッシュが通り過ぎた! 危ない、危ないよ!
「ブルルッ」
そうして、体感的には随分と長く感じられた一瞬の交錯のうちに、どうにかスラストフィッシュの襲撃を潜り抜けると、ファメルが「どや?」みたいな感じで嘶き、私の方に視線を投げかけて来た。
うん、最初は少し文句を言おうかと思ったけど、その得意気な顔が何とも可愛らしい。許す。
「うん、その調子でお願いね、ファメル!」
「ピ!?」
ぐっ! と親指を立てると、私にしがみつくことで何とか置いて行かれずにいるフララが若干涙目(?)になったような気がしたけど、一度言ってしまった言葉はもう戻って来ない。嬉しそうに一声鳴くと、ファメルはそのまま元気よく走り続ける。
うーん、フララはこういう速いの苦手なのか。フローラはむしろ好きみたいだし、こういうところで個性が出るなあ。
「けど、このままだと当初の目的だった釣りが出来ない……」
そもそも、この勢いで移動しながらの釣りっていうのが微妙なラインだったのに、正面から襲われた時にああも振り回されることを考えると、もはや呑気に釣りなんてしてたら即行で振り落とされちゃう。
こんなに速いなら、いっそ網でもあれば、海中にいる魚を纏めて捕獲できるかもしれないけど、そんな物持ってきてないし……。
「あ、そうだ」
網よりももっといい手段があることに気付き、私は急ぎ短杖と召喚石を取り出す。
「《召喚》! 出ておいで、プルル!」
「――!」
ぷるんっと、私の前に現れたアクアスライムのプルルに作戦を説明すると、快く了承してくれた。
それを受け、早速釣り竿を取り出した私は、釣り針を外してその代わりにプルルに張り付いて貰う。
「これでよしと……お願いね、プルル!」
マストにしがみつくような恰好のまま、釣り竿につけられたプルルを海へと放る。
ぽちゃんと水音を立てて水面に落ちたプルルは、そのままぶくぶくと沈んでいき……《触手》スキルで、一気にその体積を拡大させた。
「これで、魚が獲れるといいんだけど」
アクアスライムには、《触手》スキルと《収納》スキルがある。
モンスターには《収納》スキルは何の効果ももたらさないけど、魚はあくまで食材アイテムに分類され、《収納》スキルの対象内だ。
泳いでる魚が、仮にそのままでもアイテム扱いであるのなら、こうして進んでいる最中にプルルに触れた分は、全部収納されると思うんだけど……。
「どうかな……? おおっ、ちゃんと獲れてる!」
召喚モンスターが持つ《収納》スキルは、使役モンスターのそれと違ってプレイヤーのインベントリと共有はされないけど、ステータス画面から何が入っているか確認することは出来る。
釣り竿を持ったまま、それを開いてプルルのスキルに納められたアイテムを確認すると、しっかりそこには海で獲れる数多の魚が入っていて、現在進行形で増えていた。
「ふふふ、これはボロ儲けだね、いい感じ!」
ただの釣りよりよっぽど効率の良い漁獲量に、始めたばかりなのにほくほく顔になっていると、不意に、また新しいモンスターの反応が《感知》スキルにかかった。
正面からの反応に、また振り回されるなと気合を入れてマストにしがみつくんだけど、今度は一向にファメルが加速する様子はない。
どうしたのかな? と思って振り向いたところ、なぜかそのモンスターは私達の前に一向に姿を現さず、そのままイカダの下を潜っていった。
「あれ? アクティブモンスターなのに私達はスルーなの?」
なんで? と疑問に思った時、海面に浮かぶその黒い魚影が向かう先を見て、私ははたと気が付いた。
あのモンスターが狙っているのは、海面にいる私達じゃない。
海中で、思い切り体を大きくしてその存在をアピールしている、プルルなんだと。
「あ、やばいかも」
慌てて引き上げようとしたんだけど、時すでに遅く、その魚影は《触手》スキルを全開にしたプルルと接触する。
一体何が起きたのか、海上からじゃ全く分からなかったけど、たったそれだけでプルルのHPはゼロになり、あっさりと倒されてしまった。
「ああっ!? プルルー!」
頭を抱え、イカダの上で両手両膝を突いてその場に突っ伏す。
うぅ、油断した……プルルはほとんど強化してないから、モンスターの攻撃に対しては物凄く弱いのに。
せっかく集めて貰った魚も今ので全部ロストしちゃったし、プルルには本当に申し訳ないことしちゃったなぁ。
そう後悔を募らせる私だったけど、ことはそれだけに収まらなかった。
「……えっ」
確かにプルルは倒されたけど、私が持っていた釣り竿の先端はそのままだ。
釣り針はないはずなんだけど、どういうわけかそれが謎の魚影にしっかりと引っかかってしまったようで、私の腕がぐいっと引っ張られる。
「あ……ああーーー!?」
プルルが倒されたショックで、イカダのマストからも手を離し、完全に油断していた私には、その力に抗う術などなく。
イカダから放り出された私は、ざっぷーーんっと音を立て、一人海中に没するのだった。
先週から新作投稿始めました。
『神様の勘違いで女の子に転生しちゃいました(リメイク版)』。リメイク版と言いつつ設定から一新してあるのでほぼ新作です(ぉぃ
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