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テイマーさんのVRMMO育成日誌  作者: ジャジャ丸
第八章 カボチャ祭りと料理コンテスト
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第148話 釣りとイカダ

「う~ん……」


 お兄達のギルドでの食事会を終えた二日後。

 学校を終えた私は、《MWO》の中で自分の使役するモンスター達を連れ、海の上にいた。

 見渡す限り、ひたすらに続く海原。リアルの海ではどうだか知らないけど、そこはゲームらしく波と呼べる波もなく、穏やかなものだ。海岸から結構離れたのに、普通に泳げそう。


「釣れないなー」


 そんな場所で何をしているかと言えば、食材集めのための釣りだった。《釣り》スキルのレベリングと言い換えてもいいかも。

 なぜそんなことをしているのかと言えば、ついに判明した料理コンテストの仕様によるところが大きい。


 まず、出品条件は特になし。ハロウィンらしい料理というお題はあるものの、あくまで努力目標であってそれを理由に弾かれることはない。強いてあげるなら、料理を載せるお皿が指定されているから、それに収まる物にするというのが制限と言えば制限か。あと、プレイヤー1人に付き1品のみ。

 そして、審査方法はプレイヤー投票式。コンテスト当日に特別エリアが解放され、時間までに出品された料理が、個数無限のビュッフェスタイルで提供される。そして後日、プレイヤー1人に付き3票まで、被りなしで気に入った料理に投票できるらしい。


 さて、お分かり頂けたであろうか? えっ、何も分からない? うん、まあそうだよね。

 要するに、自由度が高すぎて何を作ればいいやらさっぱり分からなくなってしまったわけだ。

 ひとまず、せっかくだからカボチャは使おうと思うものの、ビュッフェスタイルだと地味な料理じゃ見向きもされないだろうし、さりとて目立つ料理って何? と言われても、しがない女子中学生に芸術的センスを求められても困る。味で勝負をかけようにも、まず食べて貰わないことにはどうしようもないのだ。

 いや、そもそも味の勝負でも、そこまで自信があるわけじゃないんだけどさ。


 そういうわけで、何かいいアイデアは浮かばないものかと、こうしてのんびり釣りを楽しんでるわけだ。

 まあ、色々と料理を試すには食材アイテムがたくさん必要で、食材アイテムを効率よく集めるには、釣りをするのが一番時間対効率がいいっていうのも理由のひとつだ。

 ちなみに、農地経営は費用対効率が一番いい。初期投資に目を瞑れば。


 ただ、海に出るために、アクアブリーゼで船を買ったのはいいんだけど、あんまりしっかりとした物を買うお金はなかったから、調達出来たのはただのイカダ。速度も広さもイマイチで、ともすれば遭難者にでもなったような気分になる。

 釣りに集中するため、あまりモンスターが出現しないポイントを選んでやって来たこともあって、ヒットがほとんどない現状はかなり退屈だ。

 代わり映えのしない景色に飽きたのか、ライムは私の肩の上でどろりとその体を蕩けさせ、フララは私の頭の上で羽を休めて日向ぼっこ。フローラなどは、膝の上で爆睡までしてる。


「んー……あっ、来た」


 緊張感も何もない、のんびりとした時間の中、ぼーっと海面を眺めていると、ついに手に持つ竿に反応があった。

 突然やって来た反応に自分でも驚き、少し前のめりになると、頭の上に乗っていたフララがぽてっとイカダの上に落ち、文句を言うように私の膝をその細長い手で突いてきた。


「あはは、ごめんねフララ。もうちょっとしたらお魚食べさせてあげるから……っと、おおっ、結構引きが強い……!」


 座ったままでは難しいと見て取った私は、膝に乗ったフローラを起こして立ち上がると、そのまま魚(?)との引っ張り合いに移行する。


「ん~! 結構強いけど、もう少し……」


 リールを回し、釣り竿を引き、海面に大きめ魚影が見えて来る。

 これならいけそう。そう確信した時、不意に《感知》スキルに反応があった。


「へ……?」


 魚と引っ張り合いながら、反応のあった方に目を向ける。

 そこには、空飛ぶカボチャ……もとい、お化けカボチャが私の方に向かって、一直線に飛んでくる姿が見えた。

 今はイベント中。別に空を飛ぶカボチャがいることは別にいいんだけど、何も今このタイミングで出て来なくてもいいんじゃない? さっきまで散々暇してたんだからさ。

 そうは思うものの、だからと言ってどうすることも出来ない。釣りのために両手が塞がってる以上武器が使えないし、フララも今は私の足元にいるせいで咄嗟には魔法が使えない。

 どうすべきかと、一瞬迷った私だったけど、お化けカボチャがそんなこちらの事情を勘案してくれるはずもなく、容赦ない体当たりを仕掛けてくる。

 思わず身を屈める私だったけど、咄嗟のところでライムが間に飛び込み、私を庇ってくれた。


「ライム! ありがと!」


「――!」


 流石は相棒! と、喜ぶ私だったけど、お化けカボチャの攻撃に気を取られたせいで、未だに竿を持ったまま、魚と綱引きをしていたことをすっかり忘れていた。


「……あっ」


 気を抜いたところで、ぐいっと一気に引っ張られた私の体は、簡単にイカダから振り落とされ。

 ばしゃーん、と、私とライムが揃って海に落ちる音が、虚しく響いた。




「海釣りって難しい」


「ケチってイカダなんて使ってるせいだと思いますよ~?」


 海に放り出され、危うく海のモンスターに食べられそうになりながら這う這うの体で逃げ出し、ホームに戻った私は、坊主だったのを誤魔化すために購入した魚で、早速料理を作っていた。

 どこぞのアニメ映画で見た、ニシンとかぼちゃの包み焼き。一度作ってみたかったんだよねー。

 ……作り方を調べてみようと思ってネット検索かけた時、うっかり本場のそれを画像で見て、思わずドン引きしちゃったけど。

 なんであれ、パイから魚が突き出してるの……いやまあ、再現料理を作ってる人もいたから、そっちを参考にしたけども。


「えー、だって高いんだもん船。それに、今回のことは釣りの最中に襲われたことが原因だし」


「海釣り用の船には、モンスター除けの効果が付いてたりしますから、遠洋まで行って釣るなら基本はそっちですよ~。モンスターがあまり出ないところは、釣れる魚もあまりいないらしいですからね~」


「あ、そうなの?」


 完成したニシンのパイをつつきながら、テーブルを挟んでフウちゃんと一緒に雑談タイム。

 さっきの釣りで坊主だったのは、私の運だとかレベルとか以前に、場所の選択が悪かったらしい。

 このゲーム、明確な釣りポイントみたいなのが存在するわけじゃないから、ひとまず落ち着いて釣りが出来る場所をと思ったけど、逆効果だったか。


「でもな~、もうイカダも買っちゃったし、今から船を買い直すのも……フララに守って貰いながら釣りしてもいいけど、モンスターがたくさん出て来るようなポイントだとフララ一人じゃ厳しいし」


 ニシンのパイを切り分けて、スプーンを使って膝の上にいるフローラに食べさせてあげる。

 口いっぱいに頬張ってもぐもぐしている姿はなんとも愛らしい。


「それなら、イカダで海に出て、野生の水棲モンスターをテイムすればいいんじゃないですか~? それなら、モンスターによってはイカダを引かせて機動力も確保できますし、単純にパーティの戦力を増やせば、その分落ち着いて釣りも出来ると思いますよ~」


「ああ、なるほど、その手があった!」


「先輩……」


 フローラに食べさせていたら、肩に乗るライムが物欲しそうにぷるぷると震え始めたので、ライムにも同じようにスプーンで直接口(?)元に運んであげる。

 最近、食欲が凄い事になってきたから、こうして直接あげるより、大きいのを用意して自由に食べる方がいいのかと思ってたけど、まだまだ甘えん坊だなぁ。ふふふ、可愛い。


「まあ、先輩がテイマーらしくないのは、今に始まったことじゃないので、別にいいですけど~」


「失敬な、今も昔も、私は立派なテイマーだよ!」


 こんなにモンスターを可愛がっているのに! と、パイに細い口を突っ込み、ちゅるちゅると吸い上げながら食べているフララのことを撫でているのをアピールするも、フウちゃんにはしれっとスルーされた。


「《霊魂カボチャ》の方は集まってるんですか~?」


「大丈夫、このペースで行けば、目的の衣装はちゃんとトレードできるし、余った分で《スキルポイントの書》もゲットできるよ」


 ちなみに、トレードの期限は二週間後、料理コンテストの結果発表の翌日だ。

 料理コンテスト自体は一週間後だから、そこそこ余裕はある。


「まあ、その気になれば普通に、景品全取りとか狙える範囲らしいですからね~。私はやりませんけど~」


「私もそこまでする気はないよー」


 ハロウィン衣装や《スキルポイントの書》の他には、ゴールドや家具、通常よりも回復量の大きなポーションを始めとした高級な消耗品もあるらしいけど、そっちはあまり興味はない。

 精々、家具やゴールドは、余裕があったら取れるだけ取ってみようかな~ってくらいだ。


「他のみんなはどうしてるんでしたっけ~?」


「えーっと、リン姉とお兄はミニゲーム以外に効率よく《霊魂カボチャ》が集められるフィールドがないか探しに行くって言ってたかな? ネスちゃんも同じようなもので、イベント限定ボスとか出てないか探すんだって。リッジ君は今日は部活で遅くなるって言ってた。ユリアちゃんは分かんない」


 あと、ナナちゃんは昨日みんなに手伝って貰ったから、今日はやれるところまで1人でやってみるって言ってたかな? コンテストに出品する料理が決まったら、めいっぱい宣伝するから教えてって張り切ってたなぁ。

 その時のナナちゃんの、幼女とは思えないあくどい笑みを思い出して苦笑を浮かべていると、フウちゃんはふむふむと何やら1人で納得してテーブルから立ち上がった。


「あれ、フウちゃんも出かけるの?」


「まあ、昨日はみんなと一緒に動いた分、ムーちゃんを遊ばせてあげられませんでしたからね~、今日はソロで動くことにします~。先輩も、どうせそれが理由で海になんて言ってたんでしょ~?」


「あはは、まあね」


 みんなと一緒にやる時のために、ライムがいなくても戦える方法を確立しないととは思ってるけど、それとこれとは話が別だ。

 最近はナナちゃんとレベリングしてたのもあって、ライム達があまり戦闘出来てなかったから、偶にはみんなと水入らずで遊ばないと。


「そういうわけで、私はそろそろ行きます~。パイ、ご馳走様でした~」


「はーい、お粗末様でした」


 フウちゃんから、お礼代わりに水棲の騎乗モンスターとして人気の高いモンスターが出現するポイントを教えて貰ったりしながら、手を振って別れる。

 さて、私達ももう一度、海に向かうかな。

 そう考え、私はインベントリとアイテムの整理を軽く行うと、もう一度アクアブリーゼに向かうのだった。

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