第14話 ナンパ男と小さな侍
ネスちゃんとは、お昼にログアウトする前に別れた。
去り際、色々と教えてくれたお礼に《ハニーポーション》を5つくらい上げたら、口では「ど、どうしてもと言うなら貰ってやろう!」なんて言ってたけど、顔のほうは実に嬉しそうにふにゃふにゃになってたし、どこからどう見ても喜んでもらえたみたいでよかった。《ハニーポーション》、こんなに嵌って貰えるなら、いっそ竜君や美鈴姉にも少し分けてあげるのもいいかも。
なんてことを考えながら、一度お昼休憩を挟んで再びログイン。適当に、中央広場のベンチに座ってみんなが来るのを待つことに。
「うーん、1時か……まだ1時間あるなぁ」
メニューから時間を見て、少し早く来すぎたかとぼやく。
これなら、もうちょっと調合とかしててもいいかもしれない。ただでさえ状態異常系のポーションが役に立たないって分かった以上、《酸性ポーション》は1つでも多く欲しいし。
とはいえ、いつもの場所だとやり過ぎて時間が過ぎちゃうかもしれないし、やるならここで、あまり邪魔にならない形で、かな?
「よいしょっと……ライム、お願いね」
とりあえず、ライムをビーカーの上に添えて《酸性ポーション》を作りつつ、自分は膝の上で余ってる《毒消し草》と《薬草》を磨り潰して、纏めてビーカーの中で水と一緒に混ぜ合わせる。
名称:解毒ポーション
効果:毒状態を一段階緩和する。
よしよし、完璧完璧。
今のところ、プレイヤーを状態異常にするモンスターっていないから、特にすぐ必要ないのもあって作ってなかったけど、もしかしたら美味しいかもしれないしってことで、取り敢えず1つ作ってみた。
「まずは一口……っ、うぇ、苦っ! 何これ、薬?」
HPポーションを飲んでた時とは違う、いや~な苦味が口の中に広がり、顔を顰める。
なんというか、小さい頃に飲んだ液状の飲み薬。あれを多少マイルドにした感じかな? 正直、これは使うとしても、飲まずにぶっかけて使いたい。
「ライム、これはどう?」
とはいえ、ライムには《麻痺ポーション》を麻痺してでも食べたがった前科がある。
私には到底美味しく思えなかったあの味を、喜んで食べてしまえるライムなら、あるいはこれも気に入るかもしれない。
そんな風に思ってあげてみれば、案の定それなりに気に入ったみたい。ぷるぷるっ、と、嬉しそうに体を震わせた。
えー……
「ライムの好みは私にはよく分からないよ……」
今の反応からして、《ハニーポーション》ほどじゃないけど、《初心者用MPポーション》よりは上……抹茶風ポーションこと《特濃初心者用HPポーション》くらい? には美味しかったみたい。
一応、《ハニーポーション》と《麻痺ポーション》は甘い系の味だけど、《初心者用MPポーション》だって甘いのに特別好きなわけじゃないみたいだし……濃いめの味が好きなのかな? 今度、ボス戦が終わったらもう少しちゃんと調べてみようっと。
なんて考えつつも、せっかく作ったんだから、今後のためにもストックしておこうかと思って、解毒ポーションをいくつか追加で作成しておく。
「ねえ、君一人?」
「へ?」
そんな風に、始まりの街の中央広場にいることも忘れて、いつもの調子で調合していたから目立っていたのか。気付いたら、目の前に男のプレイヤーが立っていた。
にこにこと、人好きのする笑顔で話しかけてきたけれど、私は逆に警戒レベルを一段階上げる。なんていうか、前に街中で見たナンパ男と似たような感じがする。
まあ、その時は私が声かけられたわけじゃないんだけどね!
「良かったらさ、俺とパーティ組まない? レベル上げでもクエストでも、手伝うよ?」
やっぱり!! いやー、リアルじゃ一人で歩いてても一度だってナンパされたことないのに、ゲームになった途端されるなんてね。……胸なの? やっぱり胸の大きさなの? そう言えば、前に街中で見たナンパ男に声を掛けられてた女の人も、かなり胸の大きいお姉さんだった気がする。
……男なんてみんな滅べばいいのに……
「すいません、私これから待ち合わせがあるので、またの機会にお越しください」
「そ、そう。なら、せめてフレンド登録だけでもどうかな?」
内心の荒れ狂う空模様はおくびにも出さず、笑顔を張り付けて無駄に懇切丁寧にお引き取り願った。美鈴さん直伝、笑顔の圧力ってやつ。
そしたら、ナンパ男は一瞬怯えたようにたじろいだものの、すぐに気を取り直してフレンド登録を迫ってきた。
あれれ? おかしいな、我ながら完璧な鉄面皮だと思ったのに……まだまだ私じゃ、美鈴さんみたいにカッコよくあしらえないかー、残念。
さて、それでフレンド登録か。ウルやネスちゃんとはもうしちゃってるけど、一応お兄からもあんまり簡単に登録するなって言われてるんだよね。だから今更ではあるんだけど、それでもこの人とはちょっと。
「いえ、あまりフレンドを増やし過ぎても、私みたいな初心者には管理しきれませんから。すみません」
「初心者なら猶更さ、俺なら色々アドバイスとかも出来ると思うし」
うぐぐ、そう来たか。やっぱり、リアルでこうやって声をかけられる機会なんてなかったから、美鈴さんから多少聞きかじった知識だけじゃ上手く捌けないや。
さてどうしようと悩みながら、なんとか諦めて貰おうと、あの手この手で帰らせようとするんだけど、この男も大概諦めが悪くて、揚げ足取りみたいに細かな発言を拾っては逃げ道を塞いでくる。ああもう、鬱陶しいなぁ。
「いいからさ、ほら行こう」
ついに痺れを切らしたのか、ナンパ男は私に手を伸ばしてくる。
このゲームには、ハラスメント行為を防止するために、プレイヤー同士の接触を制限する機能があって、初期設定だと『フレンド、パーティメンバー以外による故意の接触禁止』だ。
だから、当然こういう強引な手段はすぐにシステム的に弾かれるし、繰り返すようなら強制ログアウトと同時に自動で通報までされる。
そういうわけで、私自身それほど慌てることもなく、むしろ触れるもんなら触ってみろとばかりにベンチに深く腰掛けたままだったんだけど……その手が私に触れることはなかった。
「この人は僕と待ち合わせていたんです、やめてもらえませんか?」
触れる直前、ナンパ男の手を掴み、強引に止めたのは、やや長めの黒髪を、後ろで軽く纏めた男の子。
当然、経緯はどうあれそんな掴み方をすれば、仮令同性であってもすぐにハラスメント防止コードが働いて手が弾かれるんだけど、最初からそうなることは分かっていたようで、特に驚いた様子はない。
「君がその子と? 一体どういう関係なんだ?」
そんな突然の乱入者に対して、ナンパ男が鋭く問いかける。
それは私も気になるから、ちょうどいいと思って大人しくそのやり取りを傍観してみることに。
私の知り合いに、こんな凛々しい同年代の子なんていないし……っていうか、待ち合わせ? てことは……
「従兄弟なんですよ。今日は一緒にゲームしようって約束していましてね」
「えぇ!? 竜君なの!?」
ちょっ、あれぇ……!? ついこの間会った時は、もっと小さかった気がするんだけど。成長期だからかな? 成長するの早いなぁ。
「ちょっ、澪姉! ゲームでリアルネーム呼びはダメだって! 僕のことはリッジって呼んで!」
「あ、ご、ごめん」
いや、つい反射的に謝っちゃったけど、竜君もリアルネームで呼んでるじゃん。私の場合、リアルもゲームも同じ名前だから一緒だけどさ。
「なるほど。それじゃあリッジとやら、こういうのはどうだ?」
私達のやり取りで、嘘はないと分かったらしいナンパ男は、メニュー画面を開いて何かをぴぴっと操作した。
するとその直後に、竜君改め、リッジ君の目の前に、『フレッドから決闘の申し込みが来ています。受理しますか? Yes/No』とかいうウインドウが現れた。
えっ、決闘? なんで?
「君が勝ったら、この場は大人しく帰るとしよう。その代わり、俺が勝ったら今日のところは君が帰れ」
いやいやいや、いきなり何言っちゃってるのこの人、受けるわけないじゃん。そんな条件じゃ、こっちにメリットが何一つないし。
「分かった。受けて立つよ」
「えぇ!?」
と思ったら、即決でリッジ君が『Yes』のボタンをタップし、決闘が受理される。これで、もうどちらかがHPを全損させるか降参するまで、他のプレイヤーは介入できない。
「ちょっ、リッジ君、本気なの!?」
「大丈夫だよ、負けないから」
自信満々にそう言ってのけたリッジ君に、ナンパ男は鼻白む。けど、すぐに気を取り直して、私の方を見た。
「君も、こんな口ばかり大きな従兄弟を持って大変だね。すぐに追い返してあげるから、待っていてくれ」
リッジ君をバカにされて、思わずカチンと来て腰の鞭に手が伸びかけるけど、もう決闘開始までのカウントダウンは始まってる。私がどうこうすることは出来ないし、代わりにリッジ君のほうを見た。
「リッジ君、私が許すから、コテンパンにしちゃって! そしたら、後で何でも1つ言うこと聞いてあげる!」
「えぇ!? わわわ、分かった!」
顔を真っ赤にして慌てるリッジ君を最後に、2人の周りが進入禁止エリアに変わり、他のプレイヤーは立ち入れなくなる。
それに気付いて、周りのプレイヤーが「なんだなんだ?」と野次馬根性を発揮して集まってきた。
「ふんっ、逃げずに勝負を受けたことだけは褒めてやろう。けどすぐに、この俺……《竜殺し》のフレッドが、剣の錆びにしてあげよう!!」
進入禁止ではあるけど、音声は普通に周りにも聞こえるから、ナンパ男が背負っていた大剣を抜き放ちながら高らかに名乗りを上げれば、それを耳にした人達が更に珍しい物見たさで集まって来る。
……あの二つ名、自分で考えたのかな? それとも本当にそれで有名だとか?
「《竜殺し》? ていうと、あれか。β版で初めてドラゴンを討伐したとかいう……」
「ああ、俺も聞いたことあるぜ……」
あ、本当に有名なプレイヤーだったんだ。だとしたら、リッジ君、大丈夫かなぁ……
と思ったけど、そんな心配は、直後に同じ野次馬から放たれた言葉で霧散した。
「けど、β版でドラゴンなんて、他に誰も見てないんだよな? 本当に居たのか?」
「一応、あいつが他に誰も行けなかったエリアまで到達してる可能性もあるとは言われてたけど……実は、ただのワイバーンをドラゴンと勘違いしてんじゃね? って説が有力だったな」
えー……
いや、まあ、翼竜だってドラゴンの一種だし、間違ってはいないんだけど、こう、ドラゴンじゃなくてワイバーンって聞くとなんだか、違うそうじゃないって言いたくなっちゃう。いやうん、私はワイバーンもかっこいいと思うよ? けどやっぱりこう、イメージって大事だよね。
「で、もう一人は誰だ? 見たところ中学生くらいに見えるけど」
「あれ、見た目は当てにならないんじゃ?」
「そうだけど、体を大きくするメリットはあっても、わざわざ小さくするメリットって少ないからな。あんまり弄ると動くのに違和感があるらしいし、子供はよっぽど見た目通りだろ」
対するリッジ君は、やっぱりあまり知られていないみたい。まあ、βテストやってたわけでもないみたいだし、それは妥当かな?
ただリッジ君、さっきからずっと小声で「なんでも……澪姉が、なんでも……」って呟いてて、腰に挿した剣を抜きもしないんだよね。発破をかけようと思って言ったけど、ひょっとして逆効果だった?
「ええい、集中しろ、もう始まるぞ!」
「あ、すみません」
「全く……」
ナンパ男に指摘されて、ようやく自分の剣を抜く。
同時にカウントが0になり、ナンパ男が大剣を上段に構え突撃する。
「でやぁぁ!!」
見るからに重そうな大剣を上段に構えながら、意外にも素早い動きでリッジ君に向けて足を踏み出す。
けれど、
「胴あり。一本」
「なっ……!?」
大剣を振り上げる、その一瞬の隙に、更に素早い動きで接近したリッジ君の剣がナンパ男の胴体を真横に切り裂き、そのまま走り抜けた。
うん、傍から見てるとすごい簡単にやってるように見えるけど、あれって難しいみたいなのよねー。前にお兄が剣道道場の体験会みたいなのに参加して、その時リッジ君と試合したら、それはもう哀れなくらいボコボコだったし。
「くっ、意外とやるじゃないか」
「あ、やっぱり一撃じゃ終わらないんだ」
「当然だろう、一撃決着ルールなんてのもあるらしいが、これはHP全損ルールだ。そんな攻撃じゃあと3回は斬られても耐えられる」
先に急所に一撃入れたら勝ちの剣道と違って、ゲームだと魔法みたいな遠距離・広範囲の回避不能な攻撃だってあるし、そうでなくてもただの戦士と軽戦士とじゃスピードが違い過ぎる。
一撃ルールだとDEFもHPも関係なくなる以上それは不公平だからか、基本的には行われてないルールみたい。
ただ、HP全損ルールもそれはそれで、決闘する当事者間のレベル差がモロに影響してくるから、一概に公平とも言えないんだけどね。
「じゃあ、あと4本取れば問題ないってわけだね」
「くっ、舐めるなよ!!」
もっとも、当のリッジ君はそれくらいちょうどいいハンデだとばかりにそう言って、再び襲い来る大剣の攻撃を捌いていってるけど。
元々、私と同じくらいになったとはいえ相手のナンパ男に比べればずっと小柄な体格な上、武器もただの剣と大きな大剣とかなり重量差があって、もし一撃でも貰えば、仮令剣で防いだとしてもただじゃ済まないはずだけど、リッジ君に慌てた様子は全くない。右へ左へステップを踏み、避け切れないものは剣で受け流して、逆に反撃を加えていく。
「くっ、くそっ! ちょこまかと!」
ナンパ男のほうも、決して弱いわけじゃない。私なんかが相手だったら、5秒ももたずに切り捨てられてた。
ただ、今回のはひたすら相性が悪い。あの様子だと、リッジ君はVRに付き纏う違和感があまりないタイプみたいだし、それならよっぽど対人戦で後れは取らないと思う。
「悪いけど、あなたみたいに体の大きい人を相手取るのって慣れてるんだ、次で決めるよ!」
「くっ……させるかぁ!!」
ナンパ男がリッジ君の猛攻に耐えかねて体勢を崩し、苦し紛れに大剣を振るう。
あんな状態じゃ、重量差を考えても大して威力なんて出るわけないし、リッジ君もそれを分かった上で、これまでのように回避じゃなくて、剣で防御する構えを見せながら大きく踏み込む。
「《ヘヴィースラッシュ》!!」
「ぐっ!?」
けれどその瞬間、ナンパ男の大剣が不自然に加速した。
それは流石に予想外だったみたいで、リッジ君も剣で弾こうとして失敗し、大きく吹き飛ばされる。
ああ、そうだ、忘れてた、アーツもあったんだった! あれは本人の力量とは別に、システムがアシストして繰り出す攻撃だから、上手く使えば今みたいに、リアルじゃ物理的に出来ないような攻撃だって繰り出せる。
ただ、そんなアーツにだって欠点はある。不自然な力に押されて強引に強力な一撃を繰り出すそれは、発動した後にどうしても体が流れて大きな隙が出来る。特に、重量の重い大剣で放ったアーツともなれば猶更。
それによって生じる時間はほんの1秒あるかどうかってくらいだろうけど、対人戦闘においてその隙は致命的だ。
「っ……はぁ!!」
「くそぉ……!!」
ナンパ男としても、今の一撃で仕留めきるつもりだったんだと思う。HPが僅かに残り、転がりながら素早く体勢を立て直したリッジ君を見て、悔しそうに呻く。
そして、その隙を逃さず、確定クリティカルが発生する首筋目掛けリッジ君が剣を突き込んだことでHPが0になり、決闘に決着がついた。winner! と2人の頭上にリッジ君の名前が大きく表示され、決闘用に設定された進入禁止エリアが解除される。
「リッジ君お疲れ様! すごかったよ!」
「ぶっ!? あ、ありがと澪姉。けど、最後ちょっと情けないとこ見せちゃったし、えーっとその……」
「何言ってるの、勝ちは勝ちでしょ?」
「そ、そうだけど、こんなところで抱きしめるのは恥ずかしいからやめてって!」
戻ってきたリッジ君を、いつものように軽く抱きしめてから頭を撫でてあげると、慌てて逃げるように私の腕から離れて行った。
うーん、小さい時はこうすると喜んでくれたんだけど、引っ越してからはなんだか恥ずかしがるようになってちょっと寂しい。
「ていうか澪姉、そんなに胸大きかったっけ?」
「ぐふっ」
そして、恥ずかしいのを誤魔化すためか、ふと気になったという感じに何気なく呟かれたリッジ君の言葉に、私は精神的なクリティカルダメージを受けがっくりと項垂れる。
「えっ、あの、澪姉?」
「うぅ、そうだよ、私はこんなに大きくないよ、ゲームの中だけの幻想だよ、どうせリアルの私はずっと絶壁だよ……」
「いや、気にしなくて大丈夫だから! 澪姉は胸なんてなくても綺麗だし! それに、うん……僕も身長誤魔化してるし……」
「あ、そうなの?」
やけに成長が早いなと思ったら、そういうことだったの。
……身長弄ると、動き辛くなるって聞いてたんだけど。リッジ君、何の問題もなく動いてたよね? どんだけVR適正高いの?
「リッジ君、そんな無理に大きくならなくても、小さいままでも十分可愛いよ!」
「……うん、そうだね、ありがと澪姉……」
なぜかどんよりとした空気を纏いながら、落ち込みだしたリッジ君。
あれ、おかしいな、褒めたつもりなのに。
「負けたよ、完敗だ」
と、そんなやり取りをしていると、さっきのナンパ男がやって来て、リッジ君に対して素直にそう言った。ごねてくるかとも思ったけど、決闘の結果はちゃんと受け止めてるみたい。思ったよりは良い人なのかも。
「君になら、その子を任せておいても大丈夫そうだね。だが、次戦う時は俺が勝つ」
「こっちだって、次は一撃だって入れさせてやらないから」
「ふっ、言ってろ」
お互い笑みを浮かべつつ握手を交わし、まさかのフレンド登録までし始めた。
これが、剣を交わせば分かり合える男の友情ってやつ? うーん、私にはさっぱり分からないや。
「ではまたな、リッジ。そしてそっちのお嬢さんも、いつか一緒にパーティを組もう」
「え? えーっと、か、考えときます」
とりあえず反射的にそう答えると、嬉しそうに「約束だよ?」なんて言って、その場から去って行った。
それに合わせて、一部始終を見終わった野次馬のプレイヤー達も、「竜殺しフラれたな」とか「あっちの奴は軽戦士か? 初めて見た顔だけどやるなぁ」とか、そんな感想を口々に近くのプレイヤーと交わしながら、三々五々散って行った。
「ふぅ、なんとかなったね……って、澪姉?」
そして、去って行くナンパ男を眺めていると、隣にいたリッジ君から声を掛けられる。
その声に向き直りつつ、私は一言。
「そういえば、結局あのナンパ男、なんて名前だっけ?」
「……えー……」
ちらっと見聞きしたものの、結局私の記憶には留まらなかったらしいナンパ男の名前を思い出せず、結局は「考えときます」の約束さえ、その10分後にはすっかり忘れ去ることになった。
澪は中二女子として前から数えた方が早い、そして竜君はゲーム内で身長を誤魔化してやっと澪と並ぶ程度。つまり……




