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テイマーさんのVRMMO育成日誌  作者: ジャジャ丸
第七章 カボチャ祭りと食材集め
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第139話 試食のお誘いと都会のハロウィン

 お兄とリン姉に偶々出くわした私達は、ナナちゃんの自己紹介を終えた後、せっかく集まったのだからと、これからどうするか話し合った。

 その結果、メンバーを二手に分けることに。


「せっかくこんなにいるんだし、私の作る料理の試食に、誰か付き合ってくれないかしら?」


 そう、リン姉が言い出したのが切っ掛けだ。

 本当ならお兄がいるし、そっちに頼めばいいと思うところだけど、残念ながらそれは出来ない。

 お兄は基本的に、何でも美味しいと食べてくれるけど、ライムと違って細かい味の違いはあんまり分からなかったりする。

 だから、日々料理を振る舞う相手としてはこの上なくいいけれど、味見役としては不適当なのだ。


 結果、お兄はリッジ君とネスちゃんを連れて、このまま各地のミニゲーム巡りに。

 そして、リン姉と私、それにフウちゃん、ユリアちゃん、ナナちゃんで、なんとお兄がギルドマスターを務めるギルドへと向かうことになった。

 味見役がちょっと多くないかと思ったけど、今回やれるミニゲーム、コスタリカ村でやった《お化けカボチャの摑み取り》と同じく、あまり大人数で同時にやれる物はないそうだから、これくらいが妥当らしい。

 「一通り回り終わったら戻るから、俺達の分も残しておいてくれよ!」とはお兄の弁。いや、ネスちゃんも同じこと言ってたけど。


「おお~!」


 そういうわけで、やって来たのは毎度おなじみ、始まりの街《グライセ》。

 コスタリカ村でも、一面がカボチャ畑になったり、家の軒先にお化けカボチャの飾り物があったりと、それなりにお祭り感があったけど、流石都会(?)ともなれば規模が違った。

 立ち並ぶ建物にはお化けカボチャだけでなく、スケルトンやゴースト、グレムリンを意識した飾り付けが所狭しと並べられ、街行くNPCもドラキュラやミイラ男、サキュバスみたいなコスプレをしてる。


 とにかくもう、本当にモンスターが紛れ込んでても分からないんじゃないかってくらい、街中がハロウィン一色に染め上げられていた。


「キャハハハ……!」


「…………」


 うん。

 今、言った傍から半透明の何かが人の往来を通り抜けて行った気がするけど、きっと誰かのテイムしたモンスターに違いない。

 そういうことにしておこう。


「ミオ、どうかした?」


「ううん、なんでもないよ。ありがとう、ユリアちゃん」


 感嘆の声を途中で詰まらせた私を見て、ユリアちゃんが気遣うような視線を向けてくる。

 心配をかけないよう、笑顔を向けて、その頭を優しく撫でてあげた。

 目を逸らして頬を少し赤らめながらも、ちょっとだけ気持ちよさそうにしてる姿が何とも愛らしい。


「ミオ、やっぱりそっちの気が……」


「ないから」


 ナナちゃんの呟きを一瞬で切り捨てると、「えー」と口を尖らせて抗議の声を上げられた。

 いや、確かにユリアちゃんは可愛いけど、私はノーマルだから。別にユリアちゃんとそっちの道に進もうだなんて考えてないから。


「ふふ、ミオちゃん、さっきのモンスターなら、普通にNPCとして話しかけられる相手だから、何も怖くないわよ」


「あ、あははは……と、とりあえず、このままここにいたら邪魔だから、早く移動しようか!」


 どうやら、リン姉には私が何に硬直していたのか丸分かりだったらしい。

 声を潜めて、他のみんなに聞こえないよう配慮しながら伝えてくれるその優しさが目に染みます。

 というわけで、さっさとその話題を強引に打ち切り、お兄達のギルドへ向かうことに。


 ギルドは、以前フレッドさん達のギルドを訪れた、街の北区の方にあるらしい。

 プレイヤーホームが多く立ち並ぶこのエリアは、ハロウィンイベントということもあってか、中央のNPC施設よりも更に派手に装飾している建物も珍しくなく、中には真昼間からイルミネーション全開でキラキラと光り輝いてるところもあった。眩しい。

 それから、やっぱり料理コンテストを意識しているのか、普段からあるNPCの屋台(ハロウィンバージョン)と一緒に、プレイヤーが屋台を経営している姿がよく見られた。

 コンテストの審査方法は特に明言されてないんだけど、もしプレイヤー投票があるならこうした地道な活動も効果あるのかな? 私は屋台とか持ってないけど。


 ハロウィンらしい料理、というお題のせいか、紅い血のような色をした《ブラッドジュース》とか、チョコか何かで形作られた、《オオトカゲの丸焼き》とか、やたらゲテモノっぽい物もあるけど、中には私と同じように、カボチャ料理を作って売ってる人もいる。うーん、見てたらお腹が空いてきちゃうなぁ。


 そして当然、そんな通りを歩いていれば、ライムが反応しないはずがない。


「――!」


「ライム待って、ちょーっと待って! 今はリン姉とギルドに行かなきゃいけないから、買い食いは後!」


「――――」


「うっ……そ、そんなしょんぼりしてもダメなの! ほら見て、ルーちゃんだって、ちゃんと我慢してるよ!」


 屋台の食べ物を食べたい! と言わんばかりにぷるんぷるんと腕の中で跳ね始めたライムに、私はそう言ってリン姉の肩に乗ったままじっと動かない、1体のスライムを指差す。


 リン姉がテイムしてる、ゴールデンスライムのルーデン。通称(私しか呼んでないけど)ルーちゃん。

 夏イベントの時、リン姉の相棒としてクラーケン討伐戦に参加し、多数のモンスターを召喚するリン姉のMP管理を担い活躍した、偉大なるスライムだ。


 ちょっと人見知りなところがあるようで、普段会わない私達を見て萎縮しちゃってる様子だけど、本当は結構食いしん坊だとリン姉から聞いている。

 だから、今も屋台に向かうのを我慢してるという私の言い分は間違いじゃないはず。多分。


「それにほら、もう少し我慢すれば、リン姉の美味しいご飯食べられるよ。だから我慢しよう、ね?」


「あらあら、責任重大ね」


 私がライムを宥めていると、リン姉は「口に合えばいいのだけど」なんて困ったように呟いてる。

 けど、リン姉の料理がリアルではもちろんのこと、こっちで作った場合でも美味しいのは、前のクラーケン討伐後の打ち上げで実証されてるし、そうでなくてもお兄が一々自慢してくるから、よく知ってる。

 まあ、お兄の舌はあんまり当てにならないけど、それでもリン姉に限ってゲテモノってことはないはずだ。


 ただ、やっぱり気になるのは……。


「それより、今更な上に自分で言っておいてなんだけど、モンスター達までご馳走になっちゃって本当に大丈夫なの?」


 私達が連れてるモンスターは、かなり多い上によく食べる子ばかりだ。

 フウちゃんの連れてるムーちゃんは見た目通りによく食べるし、グーたんも案外小食とはいえ、それはムーちゃんが横に並んでるからそう見えるだけであって、やっぱり普通のモンスターとしてはよく食べる方だ。

 うちの子に至っては、フローラやクロルは普通だけど、フララは見た目の割によく食べるし、ビートは凄い飲兵衛で、いつも樽でジュースを飲んでたりする。いつの時代の海賊かな? とツッコミを入れたことは一度や二度じゃない。

 スライム達なんて、スキルになるほどに文字通り底なしの胃袋を持ってるし、ライムに関しては最近、《悪食》スキルが《暴食》なんてスキルに進化まで果たしちゃった。

 一応のメリットとして、ついに戦闘でも使える効果を会得したのはいいんだけど……デメリットとして、今まで以上に胃袋が底なしになった。うん、食費が凄い。

 フローラが仲間になって、畑がジャングルと化してなければ、私は今頃破産してたかもしれないと思えるほどに。


 だから、生半可な覚悟でそんなこと言っちゃダメだと忠告したんだけど……。


「大丈夫、私を信じて?」


 そう言って、優しく微笑んでくれるだけだった。


「まあ、リン姉がそう言うなら……」


 これが、お兄の言うことだったらイマイチ信用出来なかったけど、リン姉は自分でもルーちゃんを使役してるわけだし、スライムの底なしの胃袋について知らないはずがない。

 それに、私のミニスライム隊のことも、初めて召喚したのがクラーケン討伐戦の時で、リン姉の目の前だったんだから、単純にスライム×11倍は想定してくれているはず。その上で大丈夫だって言うんだから、大丈夫なんだと思いたい。


「それに、料理コンテストのこともあるしね。審査基準は分からないけれど、《料理人》スキルのレベルは上げておいて損はないでしょう?」


「ああ、なるほど」


 《料理》スキルで料理した物に、スキルレベルによる味の違いはない。基本的に、私みたいに包丁を使って攻撃用スキルとして利用するか、《料理人》スキルにまで派生させない限り、レベルの違いに大した意味はなかった。

 けど、今度執り行われるのは、ゲーム内での料理コンテストだ。スキルレベルの違いが、審査基準に反映されないとも限らない。

 そうじゃなくても、美味しい料理を作るためには、リアルでもゲームでも試行錯誤は欠かせない。だからそういう意味でも、私達みんなに料理を振る舞うっていうのは、リン姉にとってもメリットがある話になるわけだ。


「それに、私がギルドで料理する時に使う材料って、ギルドのみんながレベリングのついでに集めてきた、換金するにも微妙で死蔵してるアイテムの山だから、多少は減らさないと共用のアイテムボックスが溢れちゃうのよ」


「な、なるほど……」


 私のホームにも、倉庫に使ってるアイテムボックスが設置されてたりするんだけど、日々ライム達のご飯を作るためにガンガン消費されてくから、遅々として溜まっていかないんだよね。あれがいっぱいになるところなんて、想像も付かない。

 ましてや、ギルドの共有アイテムボックスなんて、個人用ホームのそれより確実に大きいだろうし、それが溢れそうって……お兄は一体、普段からどれだけのモンスターを倒して回ってるのやら……。


「おっと、着いたわよ」


「へ~、ここが……思ったよりも普通だね」


 そんな話をしながら北区の街を歩いていくと、やがて1つの建物の前に辿り着いた。

 基本的に、ギルドの建物というと他よりも目立つ装飾や看板が掛けられているのが定番だけど、ここはそんなこともなく、周りの景観に合わせた素朴な作りになっている。

 お兄のことだから、フレッドさん達のギルドに対抗して、でっかい騎士像が入り口にあったり、建物全体が金閣寺みたいに金ぴかになってたりするんじゃないかと心配してたけど、どうやら杞憂だったらしい。

 そんな本音をついポロリと零すと、リン姉は可笑しそうに笑い始めた。


「最初はね、キラが入り口から玄関までの間に騎士像を整列させて、剣のアーチを潜らせるような演出にしたらカッコイイんじゃないかって言ってたのよ。私が止めさせたけれど」


「あー、お兄らしいね」


 どうやら、私の抱いていたイメージも強ち間違いじゃなかったらしい。

 リン姉が一緒にいて本当によかったと、お兄がこの場にいたら拗ねてしまいそうなことを考えながら、ほっと胸を撫で下ろす。


「でもリンさん、周りのギルドが結構奇抜ですし、こうも普通だと逆に浮きませんか~?」


「そうなのよねぇ……どうしようかしら」


 ただ、周りとの違いについてはリン姉もちょっと悩んでるようで、フウちゃんの指摘を受けるなり頬に手を当てながら溜息を零す。

 うーん、流石リン姉、そんな憂いを帯びた仕草すら絵になるなぁ。


「何なら、ウチがデザイン考えるの手伝うで! そういうの得意やねん」


「あら、本当? それなら、後でお願いしようかしら」


 すると、商売人の血でも騒いだのか、そんなことを言い出したナナちゃん。

 いや、建物のデザインって商売人関係あるのかな? まあ、一応ある、かな?


「まあ、それはともかく」


 こほん、と、咳払いを1つして、脱線していた話を元に戻すと、リン姉は1歩前に出て、ギルドの玄関前で、私達の方に向き直る。


「ようこそ、私達のギルド、《魔煌騎士団》へ」

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