第137話 ミニゲームと摑み取り
何とか無事(?)に試作料理を食べ終えた私達は、ハロウィンイベント攻略ということで、ひとまずは現在地であるコスタリカ村のミニゲームを探してみることにした。
そういうわけで、ひとまず村の中を見回ってみたんだけど、するとすぐに、一面に広がるカボチャ畑の1つで、いつになくプレイヤーが集まってるのが見えた。
近づいてみると、プレイヤーに囲まれるようにして、1人のNPCが元気よく呼び込みをしていた。
「コスタリカ村名物、お化けカボチャの摑み取りだよ! ここにある道具を自由に使って、畑から飛び出るお化けカボチャを捕まえれば、その量に応じて獲れたての《霊魂カボチャ》を贈呈するぞ!」
なるほど。今朝、NPCのおじさんが言ってた、わざとお化けカボチャに畑を乗っ取らせて冒険者に収穫を手伝って貰うって、これのことだったんだ。
試しに近づいてみると、そこには大小2種類の虫取り網みたいな道具と、初心者の頃私が使ってた、《蔓の鞭》みたいな道具が並べられていて、正面に立つと簡単なチュートリアルが表示された。
それによると、このミニゲームではプレイヤー達のステータスはオール150で固定されると共に、選んだ道具に応じて《長剣》《鎚》《鞭》の3つのスキルから1つ、それから《感知》と《敏捷強化》スキルがそれぞれ30レベルの状態でスロットに装備される。
本来習得しているスキルは、このミニゲームの最中は封印されるから、既に習得済みのスキルを選んだとしても30レベルで固定だ。私なんかは結構スキルが被ってるから、ちょっと不便だね。
一応、本来のステータスとスキルを使って挑む、無制限ルールもあるみたいだけど。
そして、畑から飛び出したお化けカボチャを網で捕まえるか、鞭で拘束した状態でタッチするとポイントが入り、制限時間内にどれだけポイントを稼げるか競うというのが、このミニゲームの趣旨だった。
ソロ、もしくはペアで挑戦できるようで、これまで挑戦したプレイヤーの内、高得点を記録したトップ10はランキングとしてNPCの頭上に浮かんだディスプレイにキャラネームが公開され、1日の終わり、午前0時に記録がリセットされ、その時点でランキングに載っていた人には、追加で霊魂カボチャが進呈されるそうな。
ソロとペア、そして無制限どれも別でランキングがあるみたいだから、頑張ったらすごい稼げそうだね。
一応、同じランキング内で1人のプレイヤーが残せる記録は1つだけみたいだけど。
「道具を持って、畑に足を踏み入れたらゲーム開始というわけだな。外でもアーツを試せるのは助かるが、チーム分けはどうする?」
そうしたチュートリアルを読み終えるなり、巨大な虫取り網を手にしたネスちゃんが、その場で《鎚》スキルのアーツを試しながら尋ねて来た。
私達はちょうど6人だから、3チームに分けられるわけだけど……。
「まあ、道具を選んでから決めよっか。私はとりあえず、慣れてる《鞭》からやってみよっと」
「それなら、僕も《長剣》かな。虫取り網で長剣扱いっていうのも何か変な感じだけど」
「細かいことは気にしたら負けですよ~。私は、弓とかないですし……どうしましょう~? とりあえず、先輩と同じ《鞭》にしておきますね~」
「ウチは《鎚》の巨大虫網や。これで一網打尽にしたるで!」
「私は……《長剣》にする」
私とフウちゃんが《鞭》、リッジ君とユリアちゃんが《長剣》、ネスちゃんとナナちゃんが《鎚》か。見事に分かれたね。
「ちょうどいいし、まずはみんな同じ道具選んだ子と組んでやってみようか。まずはどういうミニゲームなのか実際に体験してみた方が早いだろうし」
みんな特に異存はないようで、それぞれペアを組んで畑に前に集まった。
このままみんなで押しかけても、それぞれ別のエリアで同時に挑戦できるみたいだけど、まずは1組ずつ順番に挑戦して、後の組はそれを参考にしてみようという話に。
参加したプレイヤーの挑戦してるエリアがそれぞれ別でも、その様子は見学用ウィンドウから見れるからっていうのもあるけれど、何より、私達の場合は使役モンスター達が参加出来ないからね。
別にリアルと違って、外で終わるまで放置して何があるっていうわけでもないんだけど、心情的に誰かに預かっていて貰いたかった。
「それじゃあまずは、私達から行ってくるね。ライム、フララ、フローラ、いい子にして待っててね」
「行って来ます~。ムーちゃんとグーたんを頼みました~」
みんなの見送りを受けながら、私とフウちゃんの2人で畑に足を踏み入れ、専用エリアへ転送される。
周囲に見えるのは、ひたすらにカボチャ畑。エリアを区切るためなのか、半透明な壁で囲まれていて、その壁の向こうには他のプレイヤーの姿も見える。
同じミニゲームの参加者かな?
「先輩、始まりますよ~」
「うん、まずはお試しだけど、出来るだけ頑張るよ!」
「あいあいさ~」
エリアの中央、その上空に、カウントダウンの数字が浮かんでる。
それが1つ減るごとに、畑に生えてるカボチャが蠢き、地面に潜ったり飛び出したりと、まるでモグラ叩き系のパーティゲームみたいに賑やかな姿を見せてくれる。
ちょっと可愛いかも。
「……よし、レッツゴー!」
やがてカウントが0になると同時に、私はエリアの真ん中に向けてダッシュする。
ステータス的にも、《敏捷強化》のレベル的にも、今の私よりも制限されてるけど、そこまで戸惑うほど落差があるわけじゃないからあまり問題なさそうだ。
「行くよ、《バインドウィップ》!」
走ってる最中に、すぐ近くから《感知》スキルの反応があり、その直後にお化けカボチャが地面から真っ直ぐ上へと飛び出してくる。
飛び出した瞬間にアーツを放てば、すぐさま蔓がお化けカボチャに巻き付き、その動きを封じ込めてくれる。
けど、拘束するだけじゃゲットしたことにはならない。
「よいしょっ、まずは1つゲット!」
蔓に縛られ動けなくなったお化けカボチャに走り寄ってタッチすると、すぐさまその体がポリゴン片となって消え失せ、視界の端に表示された『pt』という欄に、10の数字が刻まれる。
どうやら、獲った個数じゃなく、ポイント制みたいだね。制限時間は60秒みたいだから、手早く行かないと。
「フウちゃんはと……」
それだけ確認すると、今回の私のパートナーであるフウちゃんの様子に目を向ける。
ペアで参加するとポイントは2人の合計らしいから、まだカボチャを捕まえられてないのは分かるんだけど……。
「おお~! スキルが付くとこんなに早く動けるんですね~、知りませんでした~」
鞭スキルに慣れてないから上手く行かないのかと心配して見てみれば、そこには自分が習得していないスキルの影響で増した速度に酔いしれ、畑の中を駆け回るフウちゃんの姿があった。
いや、確かに私も、AGIにバフかけまくった時は似たような気持ちになったから分からなくはないんだけども!
「フウちゃん、それよりまずはカボチャ、カボチャ捕まえて!」
「おっと、これならグーたんと駆けっことかできそうだと思ってつい。えへへ~」
「全く……」
頭を掻いてペロリと舌を出すあざとくも可愛らしい仕草に、思わず「可愛いから許す!」と叫んでしまいそうになるけど、そこはぐっと我慢する。
まあ、普段ぐうたらなフウちゃんの珍しい反応が見られたから、よしとしよう。
えっ、可愛いから許すと何も変わってないって? 細かいことは気にしない。
「それでは改めて……《アンカーズバインド》~」
フウちゃんとバカなやり取りをしている間に、結構な数のお化けカボチャが畑から飛び出し、そのまま畑の上をあちこち飛び回っていた。
そうしている間も畑からお化けカボチャが飛び出してるけど、フウちゃんはそんな風に飛び回るお化けカボチャの1体に向けて、《鞭》スキルの中でももっともCTが短いアーツを使用した。
お化けカボチャは結構な速度で飛んでるんだけど、《鞭》スキルのアーツは対象をしっかり認識していれば、アーツの補正によって追尾機能がついてるから、射程外じゃない限り、外れることはほとんどない。しっかりと、お化けカボチャを縛り上げた。
ただそのアーツ、鞭を対象に縛り付けて固定する効果はあっても、対象の動きを封じる効果って一切ないんだよね……。
「おっ、おお~? ま、まさかの綱引きですか~?」
アーツで拘束されたにも拘らず、好き放題飛び回ろうとするお化けカボチャ相手に、フウちゃんは焦りながらも引っ張り合いを始めた。
《バインドウィップ》なら完全に封じ込めたけど、《アンカーズバインド》だとギリギリプレイヤー有利なくらいになってるのかな? なら、他の攻撃アーツはどうなってるんだろう……。
「《ストライクウィップ》!!」
試しに攻撃アーツを近くのお化けカボチャに対して使ってみると、そのまま軽く吹き飛ばされて地面を転がり、気絶状態になった。
すぐに復帰しちゃったから追いつけなかったけど、ペアの子と合わせてやるにはいいかもしれない。
「《鞭》はペア用のサポート系ってところかな? まあ、元々鞭ってそういう武器だし、仕方ないか」
残り時間も半分ほど。仕様も概ね分かってきたことだしと、まだほとんど稼げていないポイントを稼ごうと、追い上げていく。
分かってきたのは、《鞭》のアーツが持つ追尾性なら確かに飛び回ってるお化けカボチャを楽に捕まえられるけど、やっぱり効率で言うなら、地面から飛び出した直後の動かないお化けカボチャを《アンカーズバインド》で形だけ縛って、すぐにタッチするのが一番早いってことかな。
「おっと、足元から? 《アンカーズバインド》!」
《感知》スキルの反応を信じて、足元から飛び出してきた黄色い物体にアーツを繰り出しつつ、同時に手を伸ばす。
蔓が対象を縛り上げ、動かないうちにそのぷるんっとした体に私の手が触れ……って、ぷるん?
「これ、黄色いスライム!?」
なんと、カボチャに混じって飛び出してきたのは、カボチャにほど近い黄色い体色をしたスライムだった。
まさかこんな引っかけがあるなんて、と思った直後、私の体を懐かしい痺れが襲ってきた。
「ふぎゃ!? これ、麻痺!?」
「先輩、気を付けてください~、これ、時々パラライズスライムが混じってますよ~」
「気付いてたなら先に言って!?」
麻痺状態に陥った私の体は、ほんの3秒程度だけど動きを止められ、時間をロスしてしまった。
うぅ、流石に、ひたすらカボチャしか出てこないなんて美味しい話はなかったか。
「……あれ、今度は金色のカボチャ?」
麻痺で動けない間、とりあえず周りを見渡していると、新たに飛び出したお化けカボチャの体色が、普通のと違ってキラキラと輝く金色になっているのに気が付いた。
あれ、今度は明らかに一度にたくさんポイント入るパターンの奴だよね?
「フウちゃん、あそこ! 何とか捕まえて!」
「あいあいさ~」
麻痺が解けるまで待ってられないと、フウちゃんに頼んで確保に向かって貰う。
フウちゃんが駆け寄って、《アンカーズバインド》でその体を縛り、飛び出した直後で動きが止まってる隙に捕えようと手を伸ばす……けど、その黄金のお化けカボチャは普通よりも動き出しが早いようで、あと一歩のところでするりとフウちゃんの手から逃れ、そのままフウちゃんを引きずって畑の中を飛び回り始めた。
「のおおおお、先輩、へるぷ~~~」
「フウちゃーん!?」
しかも、どうやら普通のに比べてATKやAGIの値が高いらしく、引っ張り合いでは完全に負けてる。
早く手伝わないと、あの様子だと畑から完全に逃げ出すのも早いかもしれない。
「っ、よし、麻痺解けた、手伝うよフウちゃん!」
「お願いします~」
「《バインドウィップ》!!」
引きずられるフウちゃんを追いかけ、何とか黄金のお化けカボチャを射程内に収めると、すぐさまアーツを放つ。
フウちゃんの鞭に加え、私の鞭まで使って雁字搦めにされた黄金のお化けカボチャは、ようやくその動きを止めた。
「よし、貰ったーー!!」
そうして動きを止めた黄金のお化けカボチャにすぐさまタッチすると、なんと一気に50ptが計上された。お化けカボチャ5つ分、これは凄い。
そこまで確認したところで、残り時間も0になり、私とフウちゃんペアによる挑戦は幕を下ろしたのだった。




