第135話 全員集合と芽生えた野望?
クエストを達成し、《霊魂カボチャ》を3つと、普通のカボチャを5つ入手した私は、いい加減お腹ペコペコだと抗議するように腕の中で跳ね回るライムを宥めながら、早速ハロウィン料理を試作するために、ホームへと帰ってきた。
「待ってましたよ先輩~」
「よっしゃ! お待ちかねの料理タイムや!」
「ん……」
「えっと、勝手にお邪魔してごめんね、ミオ姉」
「うむ、邪魔してるぞ、ミオ!」
そんな私を、フウちゃん、ナナちゃん、ユリアちゃん、リッジ君、ネスちゃんの5人が、テーブルを囲みながら待ち構えていた。
ナナちゃんと一緒にレベリングする合間に、私が普段よく一緒にいるフウちゃんやユリアちゃんへの紹介は済ませてあったし、リッジ君やネスちゃんもちょくちょくここに訪れるから、みんながこうして一緒にいるのはそこまでおかしくはない。
ただ、待ってましたって……料理タイムって言葉から察すると、私がハロウィン料理作るの予想してたってこと?
なんでバレたし。
「なんでバレたしって言いたそうな顔ですね~、でも、先輩なら料理コンテストを名目に、ペット達のための新たな料理を模索するのは目に見えてましたし~、ついでに、その景品がコスプレ衣装と聞いて、ユリアに着せたら可愛いだろうな~とか考えて更に気合を入れるのは目に見えてました~」
「えっ」
「くっ、フウちゃん鋭い! 全部当たってる! ただ、リッジ君にも着せてみたいと思ってるけどね!」
「えぇ!?」
まさかここまで完璧に私の考えを見透かされるなんて。
なんかユリアちゃんが「聞いてないよ?」みたいな顔してポカーンとしてるし、リッジ君がそれはもう恥ずかしそうに顔を赤くしてるけど、これはもう決定事項なので覆りません。
「ミオは分かりやすいねん。まあ、そのお陰でウチもこうしてタダ飯にありつけるってもんやから、感謝やな!」
「試食なら確かにタダで食べさせてあげることもあるけど、基本的には材料持ち込みだからね? カボチャ集め手伝ってよ?」
「わーっとるわーっとる!」
本当に分かってるのかと聞き返したくなるような軽い返事に、じとーっとした視線を向けてみるけど、全く堪えた様子がない。というか、リアルと違って幼女化してる今のナナちゃんが、ナイフとフォークを手に足をぶらぶらさせてる姿は可愛くて、むしろ私の方から餌付けしたくなっちゃう。
くっ、落ち着くのよ私。これはナナちゃんの巧妙な罠だっ!
「み、ミオ、コスプレはちょっと、恥ずかしい……」
「そ、そうだよミオ姉! 流石にコスプレは……」
「大丈夫だよ2人共。料理コンテストだけじゃなくて、《霊魂カボチャ》と交換できるアイテムの中にもハロウィン衣装あったから、私も一緒に着てあげる! みんなでやれば恥ずかしくは……」
「ミオ待ってて、ちょっとカボチャ乱獲してくる」
「あれぇ?」
ミオとお揃い、ミオとお揃い、などとブツブツ呟きながら、ユリアちゃんが鎌を手に外へ向かって歩き出す。
いや、単に一緒にコスプレしようって言っただけなのに、なんでいきなり殺意Maxでカボチャ集めしようとしてるの? 実は思った以上にコスプレに興味あったのかな?
「いや、そうだったとしても、僕はその……」
ただユリアちゃんと違って、リッジ君としてはまだ抵抗があるらしい。凄く言いづらそうに、やんわりと断ろうとしてる。
「そう気にしなくていいと思うんだけどなぁ。今の私達の衣装だって、リアルからすれば十分コスプレだよ?」
「確かに……って、そうじゃなくて! ミオ姉、ハロウィン衣装はまあいいとしても、お願いだから小さい頃みたいな女装とか絶対やめてね!?」
「…………」
「なんで黙るの!?」
その発想はなかった、と戦慄する私に、リッジ君は焦ったように叫ぶ。
いや、確かに、リッジ君が小さい頃、特に剣道を始める前なんて今以上に女顔だったから、私のお古の可愛い服とか凄い似合ってたんだよね。自分では着れなくなったけど、でも捨てるには勿体ないからってリッジ君に着せて遊んでたこともあったっけ……。
そして今のリッジ君は、確かに身長を多少弄ってはいるけど、リアルの可愛らしい顔はそのままだ。
女装……うん、そういうのもアリだね!
「リッジの女装……見てみたいな、うむ」
そして私が結論を出すのと同時に、ネスちゃんからも同様の呟きが漏れる。
視線を交わし、一瞬で通じ合った私達は、無言のままにガシッ! と握手する。
そんな私達を見て、リッジ君はその場に崩れ落ちた。
「リッジ……がんば」
「ユリア……なんというか、うん、ありがとう」
両手両膝を突いて項垂れるリッジ君を見かねてか、ユリアちゃんが戻って来て、その肩にぽんっと手を置いて慰め始めた。
いつもは何かと衝突しがちな2人が仲良く通じ合っている様子に、私はうんうんと何度も頷く。
「なんというか……先輩の周りって、本当に賑やかですよね~」
「せやろ? ミオはネタの宝庫やからな」
そして残る2人は2人で、なぜか人をネタにして盛り上がっていた。
失敬な、私はどこにでもいる普通の女子中学生だよ。
「それはそうと~……先輩、ご飯まだですか~?」
「いや、フウちゃん、流石に朝早すぎてこれだけの人数を賄うほどのカボチャは集まってないんだけど」
確かに、ハロウィン料理の練習はしようと思っていたけど、今あるカボチャじゃ5人前しか作れない。
腹ペコなライム達の分も作ってあげなきゃいけないし、とてもじゃないけどここにいる全員に食べさせることは不可能だ。
「ちっちっち、甘いですよ先輩~、さっき自分でも言ってたじゃないですか~、働かざる者食うべからず、と」
「言ってないけど、似たようなことは言ったね」
「はい、そういうわけで、ここにいるみんな、カボチャを適当に狩り集めて持参してますよ~」
「おおっ、ほんと!?」
凄い、私だってログインした後、クエスト一つこなす時間しかなかったのに。
まさか私の知らない間にみんなで示し合わせたのかと思ったけど、偶々みんなの行動が被っただけらしい。
みんな、そんなにカボチャ料理楽しみなの?
「いや、ミオ姉がカボチャを欲しがってたのは前から知ってたから、持って来たら喜ぶかなって」
「右に同じく」
「ウチはクエストなんてよーわからんから何も持ってきとらんで!」
と、思ったら、フウちゃんが適当なことを言っただけらしい。リッジ君の言葉にユリアちゃんが追従し、ナナちゃんは清々しい程のタダ飯狙い宣言だ。
どうやら、実際にご飯目当てで持ってきたのはフウちゃんとネスちゃんだけみたいだ。
「いいではないか、ミオの作る料理ならば、何をせずとも上位を狙えるだろうが、ここは我らも協力して1位の座を狙うのだ!」
「そうですそうです~、ここは私達の代表として、派手に名乗りを上げましょう~」
「あれ? 私いつの間に代表に?」
いや、確かにみんなに餌付けしてるし、よく考えてみればパーティ組む時もリーダーなことが地味に多いし、そもそもみんなの集合場所が私のホームなわけだけど、それでも特に代表になったつもりはなかったよ。
「ほほう、つまりアレやな、ミオが作った料理をプレイヤーのみんなに売り込めばいいんやな? 腕が鳴るでえ!」
「待ってナナちゃん、なんて言って売り込むつもりなの?」
「うん? そりゃあもちろん、『今話題沸騰中の美少女テイマー、ミオの愛情籠った極上料理、一口食べればどんなモンスターも一発でメロメロになる一品やで!』言うて」
「ほとんど嘘ばっかじゃん!?」
確かに一時私のことは話題になったけど、《鉱石姫》の話はいい加減収まったから今話題沸騰中って語弊があるし、あと別にそこまで美少女じゃないし。
それに、確かに愛情込めて作ってはいるけど、どんなモンスターでも一発でメロメロは無理があるよ。この間もマインワームは見向きもしなかったんだから。
「なるほど、ナナリー、分かってる」
「せやろ?」
ただ、なぜかユリアちゃんには好評だったようで、普段の人見知りはどこへやら、ぐっと親指を立ててナナちゃんに追従していた。
ユリアちゃん、本当にノリが良くなってきたよね。それはいいことなんだけど、出来れば私に味方して欲しかったな?
「私も、先輩の餌付けでテイムされた1人ですからね~、どこも間違ってないと思います~」
「うむ、ミオの料理は美味いからな、誰も騙されたとは思うまい。……いや、我は別にテイムなどされておらんぞ? あくまで友としてだな」
「ネス、あんまり説得力ないよ、それ」
「何をぅ!? リッジこそ、いつもいつもミオと会う度に鼻の下を伸ばしておるではないか!」
「べ、別に、鼻の下なんて伸ばしてないよ!? 何言ってんの!?」
しれっとフウちゃんがモンスター達と一緒にナナちゃんの謳い文句に賛同し、ネスちゃんとリッジ君が何やらお互いに自爆し合ってる。
いやまあ、いつも私のホームに入り浸ってるフウちゃんを除くと、何気にユリアちゃん以上に私の料理食べに来てるのがネスちゃんだし、確かに説得力はあまりない気はする。
ただ、リッジ君は鼻の下なんて伸ばしてないと思うよ、いつも私に会う度に、人懐っこい子犬みたいな笑顔を向けてくれてはいるけど。
ほんと、リッジ君って可愛いよね。カッコいい上に可愛いなんて無敵だよ。
「そういうわけで、5対1でウチの案が通ったわけやから、バッチリ宣伝したるで! 何、安心せい、ウチの家は商売人一家やからな、大船に乗った気でおればええ!」
「いつの間に多数決に!? いやまあ、その辺りは心配してないけどさ」
今ナナちゃんが言った通り、彼女の家は先祖代々続く結構な商売人の家系らしく、何かと口が上手い。
ナナちゃんのセールストークに流されて、気付いたら買ってしまった品物は数知れず、かと言って買って後悔するような悪い品だったことも一度もないという、本当に商人の鑑みたいな子だ。末恐ろしい。
「そういうわけやからミオ、はよ料理作って! ウチがじゃんじゃん売ったるさかい!」
「いや、目的変わってるよ!? あくまで料理コンテストで入賞するのが狙いだからね!? 第一今から作るのもただの練習だから、売り込むつもりはないよ!」
そもそも、まだ選考基準すら分かってないんだけど、その辺り分かってるんだろうか。
「その辺りもウチが判断したるから、問題ないで!」
「ああもう、しょうがないなぁ、ちょっと待っててね」
けど実際、いい加減ライム達が「まだー?」って顔で水たまりみたいに体が溶けて来ちゃってるし、早く作るのは既定路線だ。
普段の快活な笑顔が、幼くなった体と合わさり、思わず甘やかしたくなってしまう無邪気な魅力を放っているナナちゃんに対し、頬が緩みそうになるのを何とか抑えながら、私はキッチンへと足を運んだ。