第134話 イベントの始まりとお化けカボチャ
ナナちゃんとのレベリングを順調に進めたり、フウちゃんやネスちゃんにハロウィン料理の予行練習として試食に付き合って貰ったりしながら日々を過ごしているうちに、《採取》スキルが50レベルに到達して《採集家》に、《調合》スキルも50レベルに到達して《調薬》に変化した。
主な効果は、《採集家》は1つの採取ポイントから取れるアイテムの増加。《調薬》スキルは、《魔力注入》っていうアーツによって、一定のMPを消費することで、消費アイテムの性能を高めることが出来る。
《採集家》は効果が地味だし、《調薬》の方は工程が1つ増える上に《一括調合》による工程短縮も出来ないから量産し辛いってことで、あんまり活用されていないスキルなんだそうだけど、私の場合はアイテムが戦闘の基本だし、中々魅力的な効果だ。
問題は、この2つを習得するために、SPが5ポイントずつ、計10ポイントも必要だったことだけど……。
私自身のレベルも1つ上がったとは言え、残りSPが6ポイントしかないから、早く《スキルポイントの書》を手に入れないと、これ以上は上位スキルが習得できないところまで来ちゃった。
ただ幸いにも、そうしてSPが枯渇したのと時を同じくして、ついにハロウィンイベント開催の日がやって来た。これで《スキルポイントの書》をゲットできる……はず!
そんな期待を込めてイベントの内容を確認してみたところ、どうやら今回のイベントは、各地に出現する特殊モンスターを討伐したり、各種クエストや、町や拠点で開催されるミニゲームを達成することで得られる《霊魂カボチャ》って言うアイテムを集め、グライセ西区にあるレストランの前に立っているイベントNPCのところに持っていくと、色んなアイテムと交換してくれるという物だった。
まさかのクエストアイテムとしてのカボチャの登場に、私としてもびっくりだ。そりゃあ、いくら探してもカボチャが見つからないわけだよ。
普通のカボチャもこの機会に実装されたらしく、それに加えてイベントの終盤に、MWOハロウィン料理コンテストなんてのがイベントNPCの店長さん主導で行われ、入賞者には豪華景品……と言う名の、各種ハロウィン用コスプレ衣装が贈られるらしい。
コスプレ衣装の性能はあまり高くしないって運営から明言されてるけど、料理コンテストは面白そうだし、せっかくだから是非とも入手して、リッジ君やユリアちゃんに是非とも着せてみたい。絶対可愛いし。
そういうわけだから、イベントが始まったら、料理コンテストで出す品物の練習をするためにも、改めてカボチャを探さなきゃいけないだろうと思ってたんだけど……。
イベント初日、学校から帰った私がログインすると、そんな予定も遥か彼方へと吹き飛んでいった。
「えー……何これ」
いつも通り、コスタリカ村にあるホームからログインした私が、ライム、フララ、フローラの3体を引き連れ外に出ると……そこには、見渡す限りのカボチャ畑が広がっていたのだ。
そう、昨日まで、この村には影も形もなかったはずのカボチャが、なぜか私とクルトさんを除く、村人全員の畑に所狭しと実っているのである。
昨日まではなかったハロウィンの飾り付けとして、カボチャのお化けが建物の軒先に飾ってあったりするのはまあ分かるけど、流石にこの展開は予想外だ。
ライムなんかは、初めて見る食材が山とある光景に、興奮を隠せないみたいだけど。
どうどう、多分すぐに食べれるだろうから、落ち着いてね?
「おじさーん」
「お、嬢ちゃん、また畑を手伝いに来てくれたのかい?」
「いや、そうだけどそうじゃなくて。この一面のカボチャ、どうしたの?」
胸に抱いたライムを撫でて落ち着かせつつ、とりあえず私は、いつもグリーンスライム狩りのクエストを受注している農夫のおじさんNPCに、畑の現状について尋ねてみた。
このおじさん、昨日まで確かジャガイモ育ててたはずなんだけど。
「何言ってるんだ、この時期にはどの畑もカボチャを育てるのが常識だろうに。むしろどうして嬢ちゃんは育ててないんだ?」
けど、おじさんからしたらなぜ疑問に思うのかが分からないらしい。むしろ、私の畑が未だにジャングルなことを不思議がられた。
ジャングルになった時は全く不思議がられなかったのに。解せぬ。
「いや、どこにもカボチャがなかったからだけど」
というかむしろ、育てたくて育てたくて仕方なかったよ、カボチャ。
「かーっ、マジかよ。しゃーねえ、俺がカボチャをいくらか融通してやる……と言いてえが、俺もちと今困ったことになっててな。畑がモンスターに襲われてるんだ」
「はいはい、いつものやつね。おじさんも懲りないんだから」
「ああ。お化けカボチャがうちのカボチャ畑を荒らしててな、奴らを撃退しねえと新鮮なカボチャが採れねえんだ。本当なら俺が自力で撃退してやるところなんだが、今日は鍬が一つ壊れちまってて……どうか頼めねえか?」
「りょうか……お化けカボチャ?」
いつものグリーンスライム狩りクエストだと思って軽く了承しようと思ったら、聞き慣れないモンスターの名前に、思わず聞き返す。
えっ、お化けカボチャ? 聞いたことないのもそうだけど、えっ、カボチャがカボチャ畑を荒らしてるの?
「ああ。連中はこのハロウィンの時期に集団でやって来ては、畑のカボチャと入れ替わって農家の世話になろうとする厄介なカボチャだ。そうしてしばらくすると、収穫前にどっかにいっちまうんだ」
なにそれ迷惑。
「ただ、収穫出来れば味はいいから、村の連中の中には自分から畑を明け渡して、冒険者に手伝って貰って根こそぎ収穫しようとするヤツもいるがな」
「へ、へー……」
た、逞しいというか何というか……そうか、もしかしたらそのお化けカボチャから取れるアイテムが、今回のイベントで言われてる《霊魂カボチャ》なのかな? 味がいいって言うくらいだし、それならレストランの店長が景品を用意してまで冒険者に集めて貰おうとしてるのも納得だ。
あれ? でもそれだと……。
「おじさんは、そのお化けカボチャの収穫とかやらないの? 味は普通のよりいいんだよね?」
「ば、バカヤロウ! 俺だっていつもはそうしてるが、自慢の鍬がなきゃお化けカボチャの収穫作業が出来ねえ。それにほれ、お化けカボチャばっかで普通のカボチャが一つもねえと、特別感がねえだろう?」
「あー、うん、そういうことにしとくね」
自力じゃ収穫出来ないから、諦めたんだろうなぁ……と、私が生温かい視線を送っていると、おじさんは慌てた様子で強引に話題を打ち切った。
「と、とにかく! お化けカボチャを撃退してくれりゃあ、うちのカボチャをいくらか分けてやる。どうだ? やるか?」
「うん、任せといて」
胸を叩いて請け負うと、おじさんはほっとした様子で胸を撫で下ろしていた。
やれやれ、見栄っ張りなおじさんだなぁ。まあ、それがおじさんの親しみやすいところではあるんだけどね。
クエスト:カボチャの共食い?
内容:お化けカボチャ10体の討伐 0/10
クエストの内容は、グリーンスライムの討伐がそのままお化けカボチャに変わっただけだった。
強さとかどうなってるんだろう? 初心者でも楽しめるって謳い文句だった気がするし、場所によって違ったりするのかな?
「それじゃあ、行ってくるねー」
フローラと一緒に手を振っておじさんと別れ、早速いつもグリーンスライムを討伐してる、《東の平原》へと足を運ぶ。
いつもなら、グリーンスライムが何匹も飛び跳ね、牧歌的な空気を漂わせているはずのその場所に、今日は全く別のモンスターが混じっていた。
大きく育ったカボチャそのものの体に、三角を組み合わせたような恐ろしげな顔が描かれ、グリーンスライムと同じようにどこかコミカルな動きで草原を跳ねる姿は、なんともシュールだ。
ジャックオーランタンによく似た、けれど見た感じあまり強そうには見えないそのモンスターこそ、今回のイベントで期間限定で出現する特殊モンスター、お化けカボチャらしい。
「とりあえず、どれくらい強いか試してみようか。フララ!」
「ピィ!」
「《ライトニングレイ》!!」
手頃な一体に狙いを定め、フララに指示を出す。
《暴風魔法》でも一番初期から使えるこの魔法なら、フララのINTの高さと相まって強すぎず弱すぎない程々の威力と使いやすさを誇ってるし、お化けカボチャの性能を試す試金石にはピッタリだ。
フララが羽を大きくばたつかせ、正面に展開された緑の魔法陣から、雷光が迸る。
それは真っ直ぐにお化けカボチャへと迫り、その体を容易く打ち抜く。
グリーンスライムなら、MINDの低さもあって一撃で倒すことが出来るその攻撃を受けて、お化けカボチャはあっさりと吹き飛ばされると、そのままポリゴン片となって砕け散った。
「ふむふむ、耐久力はグリーンスライムとあまり変わらないのかな? それならちょうどいいね、《召喚》! モチ!」
「――――」
ぷるんっと、私のMPを消費して現れたのは、鮮やかな緑色の体を持ったスライム。
やや動きが素早いのと、短時間なら宙に浮くことが出来る《浮遊》スキルを持つこと、それに風属性を帯びた《風壁》スキルが扱えるっていう特徴以外は、基本的にレベル1のプレイヤーと互角程度のステータスしかないモチだけど、グリーンスライムとなら十分一対一で戦って勝てる。
フララの攻撃の結果からして、少なくともこの場所のお化けカボチャはグリーンスライムと同程度のモンスターみたいだし、ちょうどいいからレベリングの続きに利用させて貰おう。
フレアスライムのバクとアクアスライムのプルル、それにファットサンドスライムのムギはともかく、ウィンドスライムであるモチの《風壁》スキルって、アイテム化出来ないから戦闘しないとレベルがほとんど上がらないんだよね……だから、こういう時にドンドン使って貰わないと。
「ライムとフララはお休みね。フローラは《地属性魔法》で援護してあげて」
「――――」
「ピィ……」
「だー!」
私の言葉に、ライムとフララはしょんぼりと項垂れ、フローラは元気よく魔法を発動させる。
いやだって、レベル差があまりにも開いてると、経験値がまるで入らないし。私もそうだけど、ライムもフララも50レベル近いんだから、こういう場では他の子に出番を譲ってあげないと。
そう考える私の前で、フローラの《アースロック》の魔法で動きを封じられたお化けカボチャがモチに張り付かれ、《風壁》スキルで徐々にHPを削られていた。
やがて拘束時間が終わり、解放されたお化けカボチャがモチに反撃とばかりに体当たりをかますけど、それほど大きなダメージは負っていない。
うん、防御力だけじゃなくて、攻撃力もグリーンスライムよりやや高いくらいかな? グリーンスライムの《酸液》は防御力を無視してくるから一概には比べられないけど、同格のモンスター相手で考えるなら、お化けカボチャの方が痛い。
ただ、これ以上の援護が必要なほどでもないかな。あまりやり過ぎると、経験値が入らないし。
「けどまあ、ちょっと時間がかかりそうだし、クロルも呼ぼうかな? 《召喚》!」
「キュイ!」
大丈夫そうではあるけど、攻撃力が低いのはこっちも同じ。
このクエストだけにあまり時間をかけるわけにもいかないし、クロルを呼び出して、モチが頑張ってる間に他のお化けカボチャの討伐を任せることに。
クロルのステータスはそこそこ高くて、この辺りのモンスターではちょっと相手にとって不足があるけど、スキルレベルは低いから戦えば十分に育成になる。
「ただ、《反撃》スキルは時間かかるから無理だよね。とりあえず、《針射撃》!」
「キュイ!」
クロルのスキルの中でも特にレベルが低い、《反撃》のスキルを育てたい誘惑に駆られるけど、お化けカボチャの攻撃をわざわざ待ち構えなきゃいけないから、それじゃあ結局時間がかかる。
早くカボチャを貰ってホームに戻り、ハロウィン料理を試したい私はそう言って、クロルに容赦なく攻撃指示を下した。
ビートには及ばないものの、私よりも高いATKを持つクロルの攻撃に、ここのレベルに合わせて出現するらしいお化けカボチャが耐えられる筈もない。
次々に打ち取られていき、あっという間にクエストの規定数を達成するのだった。
クエスト:カボチャの共食い?
内容:お化けカボチャ10体の討伐 10/10