第13話 採取リベンジと中二病魔術師
今回はちょっと長いです。
こそこそ。こそこそ。きょろきょろ。きょろきょろ。
サッ、すたたたたっ、スッ。
ごそごそ。ごそごそ。
「リベンジすると言ったな、あれは嘘だ」
私の肩に乗って、動く度にぷるぷると揺れるライムに向けて言い訳染みたことを言いながら、私は採取ポイントから《霊草》を採取する。
《東の平原》のセーフティエリアから一転、《西の森》にやって来た私は、早速ハウンドウルフにリベンジ……なんてするわけもなく、スキルを駆使して戦闘を回避しつつ、採取に勤しんでいた。
そもそも、フィールドボスと戦うためのアイテムを作るための材料を取りに来たんであって、私としてはハウンドウルフなんてぶっちゃけどうでもいい。むしろ、戦ってたらアイテムを集める時間が減って、時間までにアイテムを目標数作れなくなっちゃうかもしれないし、出て来るなっていうのが本音だ。
「けど、さっきから本当に見ないなぁ。昨日はたまたま運が悪かっただけとか?」
今日森に入ってから見たのは、キラービーっていう大型の蜂みたいなモンスターと、キャタピラーっていうダンゴムシをカッコよくしたようなモンスターぐらいで、動物タイプのモンスターすらいない。
それだけじゃなくて、《霊草》の数も昨夜とは大違い。夜の間は全然取れなかったのに、今は《薬草》よりも多いんじゃないかってくらいたくさん採れてる。これも時間帯による違いなのか、それとも運の問題か。うーん……
まあ、お陰でこうして、安全確実にたくさんのアイテムを収集出来てるわけだし、細かいことはいいか。
それに、効率良く採取出来てる理由は他にもある。それが、《料理》スキルを我慢してまで得た《感知》スキルだ。
これがあれば、直接見なくても近くにいるモンスターの居場所が分かるから、繁みに隠れたままやり過ごしたり、ちょっと離れたところで顔を出して近くの採取ポイントの位置を確認したり出来て、すごく便利だ。
もっとも、そのせいでスキルスロットが足りなくて、昨夜みたいにバッタリモンスターと出くわしたら、とても戦えないスキル構成になっちゃってるけどね。
名前:ミオ
職業:魔物使い Lv4
HP:78/78
MP:65/65
ATK:43
DEF:63
AGI:64
INT:42
MIND:63
DEX:86
SP:0
スキル:《使役Lv3》《感知Lv2》《採取Lv4》《隠蔽Lv4》《敏捷強化Lv3》
控えスキル:《調合Lv4》《調教Lv4》《鞭Lv5》
とりあえずライムは戦えるとはいえ、《鞭》スキルが控えに回ってるから、いつも戦闘の起点にしてる《バインドウィップ》が今は使えない。
かと言って、代わりに《使役》スキルを外したら、ライムはスキルが使えなくなる上に、そもそも戦闘に参加できなくなって、ただでさえ乏しい私の攻撃手段が更に減っちゃう。
一応、《鞭》スキルがレベル5になったことで《ストライクウィップ》って言う攻撃アーツも習得したけど、《蔓の鞭》じゃ攻撃力なんてたかが知れてるし。
結局のところ、どっちを外しても戦えないなら、《使役》スキルをそのままにしたほうが、ライムの《収納》スキルのレベル上げが出来る上、いざという時は《麻痺ポーション》を使って貰って時間稼ぎが出来るかもしれないし、そっちのほうが良さそうということで、こんな感じにした。
「それにしても、この感じ、お昼には《隠蔽》とか《採取》とかのレベル、《調教》より高くなってそう……」
レベルが上がるのはいいことなんだけど、こう、テイマーなのに育成関係のスキルが全然伸びてないのがなんだか……ぐぬぬ。
「ま、まあとりあえずはいいや。早く採取採取っと」
《隠蔽》スキルで身を隠し、《感知》スキルで敵対モンスターの位置を探りつつ、隙を見て《採取》スキルで採取ポイントを見つけ出し、《敏捷強化》の補正で素早くその場に行ってアイテムを採取する。
それを繰り返すことで効率よくアイテムを集めていき、そうしてるうちに《隠蔽》、《感知》、《採取》、《敏捷強化》のレベルがどんどん上がっていく。それはもう、昨日までの苦労はなんだったのかってくらいに。
ただ、戦闘もしていなければ生産活動してるわけでもない以上、私自身のレベルは1つたりとも上がらないんだけど。
「さてと、そろそろアイテムも集まってきたし、セーフティエリア探して調合を……ん?」
そんな事実から目を逸らしつつ、アイテムを拾い集めること早2時間。
《酸性ポーション》の作成はタダな代わりに時間がかかるし、そろそろ調合に取り掛からないとまずいかなぁ、なんて思い始めた時、不意に誰かの声が聞こえてきた。
「誰だろ、プレイヤーかな?」
なんだかんだ言って、他のプレイヤーは街中ではすれ違うけど、こういうフィールドで会うことはとんとなかったから、ちょっとだけ興味が湧く。
けど、流石に無防備に出て行ったら、またモンスターに囲まれるかもしれないし、そうでなくてもPKみたいな物騒な人達かもしれないし、念のため《隠蔽》スキルは使ったまま近づいていく。
けどそんな不安は、声のした場所にたどり着いた瞬間、別の驚きでもって消し飛んだ。
「ふっ、我に歯向かう愚かな羽虫共め、我が深淵の闇の炎で消し去ってくれよう!!」
そこにいたのは、たくさんのキラービーやキャタピラーを前にした、一人の女の子だった。
いかにも魔法使いですと言わんばかりの黒を基調としたローブに身を包んだその子は、どこにそんなものが売ってたのかって聞きたくなるような、見事な指ぬきグローブと、左目を覆う眼帯を着けて、これまた見事にカッコよさげなセリフを叫んでいる。
うん、これはもう、あれだね。完全に、私と同年代の子が時々かかっちゃうあの病気だね。さすがに、ここまでぶっ飛んでると私でも分かっちゃうよ。何せ、お兄にもこんな時期あったし。
「世界の全てを焼き尽くせ、原典に記されし黙示録の炎よ! 《ファイアストーム》!!」
などと考えている間に、その女の子が片手で眼帯をむしり取りながら杖を突き出し、魔法をぶっ放す。
一応言っておくと、このゲームで魔法を使うには、詠唱時間が終わるのを待つ必要はあっても、本当に口に出して詠唱を言う必要はない。
だから、あの子が直前に唱えてるのは、いわばロールプレイの一環で、特にする意味はなかったりする。けど、まあ、すっごいノリノリで楽しそうだし、そういう野暮なことは言っちゃダメなんだろう、多分。
ともあれ、そうして発動した魔法そのものの威力はものすごかった。
たった一発の魔法で、女の子に群がってきた虫型モンスター達が綺麗に一掃され、1体も残ってない。
魔法の長所は広範囲攻撃による面制圧で、今みたいに一斉に群がってくる敵を倒すには一番向いてるとはいえ、まさか一発で全部倒しちゃうなんて。
分かってたことだけど、こうして改めて他のプレイヤーの戦闘を見ると、私とライムがどれほど弱いか見せつけられたみたいで、なんだか悔しい。
「ふははは! 我が覇道に敵はなし! 何人たりとも阻むことは出来ぬのだ!」
高らかに笑いながら、意気揚々と叫ぶ女の子。そんな彼女を複雑な心境で見つめていたら、ふと気づいた。
「あれ……撃ち漏らし?」
繁みの奥から、別のキラービーが1体現れる。
最初は、さっきみたいな強力な魔法もあるんだし、あれくらいどうってことないと思って特に気にしなかったけど、女の子は特にキラービーに気付いた様子がない。戦闘は終わったとばかりに、その場でまた決めポーズなんて取り始め、それっぽく背を向けてローブをはためかせたりなんてしてる。
そして、当たり前だけど、モンスターのほうはプレイヤーの決めポーズ中は攻撃しないとか、そんな親切な設定はない。キラービーは一直線に、隙だらけの背に向けて突進し始めた。
ああもうっ
「そこの子、危ない!」
「むっ?」
叫びながら、私は全力で繁みから駆け出す。
リアルでは、そこまで足が速いわけでもない私だけど、ここはゲームの世界で、しかも《敏捷強化》の効果でシステムアシストが入ってる。そのおかげで、まるで動く床の上を走ってるみたいに、私の体は瞬く間に加速して女の子の元へとたどり着き、そのまま女の子を突き飛ばした。
「わわっ!?」
「ライム、《麻痺ポーション》!!」
驚き、尻餅をつく女の子を尻目に、私は肩の上のライムに素早く指示を飛ばしつつ、掌を向ける。
主語のみの、簡潔過ぎる指示。指令相手がプレイヤーであってさえ、ちゃんと伝わるか怪しい物だけど、それでもライムは間違うことなく、それに応えてくれた。
ぷっ、と掌に向けて吐き出されたポーション瓶を、私は確認する時間すら惜しんで、目の前まで迫ってきたキラービーに投げつける。
「きゃあっ!」
ポーション瓶がぶつかって割れ、その液体を被ったことで、キラービーは即座に《麻痺》の状態異常にかかり、体を硬直させた。
けど、だからと言って目の前まで突進してきていたその体が急に止まるわけでもなく、体当たりされるようにして私の体は弾き飛ばされた。
「だ、大丈夫!?」
「ライム、今のうちに早く!!」
地面を転がり、吹き飛んだライムが木にぶつかってべちゃっと潰れるけど、HPはまだ残ってたから、すぐに元に戻る。
けど、だからって状況が良いかというとそんなわけでもなく、時間をかけたらまた別のモンスターが寄ってきちゃう。女の子の心配そうな声も無視して、ライムに指示を飛ばす。
それを聞いて、ライムが麻痺したままのキラービーにすぐさま飛び掛かり、《毒ポーション》を使いながら《酸液》を発動した。
「ついでにこれも! 食らえーー!!」
更に、私はインベントリからまだ1つしかない《酸性ポーション》を取り出して駆け寄り、ライムを避けるようにしてキラービーに叩きつける。
《毒ポーション》とライム自身の《酸液》、それに《酸性ポーション》まで加えて、果たしてどれくらい削れるのか不安だったけど、それは杞憂だった。
何せキラービーのHPは、5秒ともたず0になって、あっけないほど簡単にポリゴン片になって爆散したし。
「わお、思った以上に凄い……」
自分の攻撃手段が増えて喜んでたとはいえ、まさかこんなにあっさり倒せるなんて予想外過ぎて、一瞬呆ける。
けど、すぐに私の《感知》スキルに反応があって、はっと意識を引き戻された。
「っと、いけない、ほら、隠れるよ!」
「わわっ!?」
同じように呆けていた女の子の手を引いて、すぐにライムと一緒に近くの繁みに飛び込む。
《毒ポーション》はあるけど、《酸性ポーション》はあれ1つ。しかも、ライムや私は攻撃を受けてHPが減ってるし、こういう時は囲まれる前に逃げるが勝ちだ。
「な、なにをする!?」
「いいから、しーっ」
騒ぐ女の子に向けてそう言った直後、《感知》スキルに更に反応があった。やっぱりこの森、敵モンスターに1度見つかると他のモンスターにも見つかりやすくなるみたい。
でも、まだ距離もあるからか、動きからして特に気づかれた様子もないし、近くに来ていた敵モンスター共々、むしろ遠ざかっていく。そのことに、ひとまずほっと胸を撫でおろす。
「ふぅ、なんとかなったぁ」
「お、お前!」
「うん?」
そんな私を、女の子は親の仇を見るような目でキッ! と睨みつけてきた。
さっきは眼帯のせいで気付かなかったけど、右目が赤色、左目が金色のオッドアイになっていて、その綺麗な色合いに思わず感嘆が漏れる。それもあってか、睨まれててもちっとも怖くない。むしろ、このアバターを作り上げた頑張りを想像すると、微笑ましいくらいだ。
さすがに、それを直接口に出すようなことはしないけどね。
「我は別に、助けて欲しいなどと言っていないぞ! あの程度の敵、隠れずとも打ち倒すことは容易であったし、そもそも、最初に不意を突かれようとどうにでもなった!」
「ああ、そっか。なんだか危なそうに見えたからつい。邪魔しちゃったならごめんね?」
そういえば、人が戦ってるところに割り込むのはマナー違反だって、お兄が言ってたのをすっかり忘れてた。
見た感じ、私よりずっとレベルも高そうだし、あの状態から更にカッコよく倒す魔法でもあったのかもしれないし、もしそうなら私はただ狩りの邪魔をしただけになる。
そう思って頭を下げると、女の子は途端に慌てだした。
「い、いや、分かったならいい。我を助けようとしたその心意気に免じて、特別に許してやらんこともない。か、感謝するがいい!」
「うん、ありがとう」
「あぅ……」
許してくれるそうだから、素直にお礼を言ってみたら、なぜか困ったように視線を彷徨わせ始めた。
うーん、どうしたんだろう? あ、もしかして言葉だけじゃ足りないとか? 一応善意からとはいえ、獲物を横取りしちゃったわけだしね。代わりに何か……と、そうだ。
「それじゃあこれ、お詫びにあげるね」
そう言って私が取り出したのは、さっき作ったばかりの《ハニーポーション》だ。
本当は満腹度が減ってきたら飲もうかと思って取っておいたやつだけど、私の手持ちアイテムで、NPCショップに売ってなくて、それなりに価値がありそうな物なんてこれか状態異常ポーションくらいだけど、この子魔法使いっぽいし、状態異常ポーションはあまり必要なさそうだから、後は《ハニーポーション》しかない。
それに、素材は集まったんだから、これくらいこの後いくらでも作れるし。だからライム、そんなにしょんぼりしないの。
「なっ、こ、これは……! 《ハニーポーション》じゃないか! まだロクに出回っていないから買いたくても買えなかったのに……ま、まさかこんな序盤で出会えるなんて……」
なんて考えていたら、女の子は私が差し出したそれを見て目を真ん丸にしながら驚いて、しげしげと眺め始めた。
良く分からないけど、気に入って貰えたならよかった。
「こ、これ、くれるのか?」
「うん、どうぞ」
「あとからお金払えって言われてもやらないぞ?」
「お詫びだから、いらないよ」
疑り深いその様に苦笑しながらそう言うと、女の子はぱぁっと顔を輝かせ、ぐいっと一気にポーション瓶を煽った。
おお、小さいのになんて良い飲みっぷり。
「美味い!! やっぱり《ハニーポーション》は美味いな、β以来だったが、味が変わってないようで何よりだ!」
「ふふっ、喜んでもらえてよかったよ」
やけに強かったけど、やっぱりこの子もβテスターだったんだなぁ、なんて思いつつも、甘々ポーションを飲んで幸せそうにしている今の様子を見ていると、さっきまで中二病全開でモンスターの群れを殲滅した大魔法使いとのギャップが凄い。いや、子供っぽいって言う意味では変わってないかも?
「お前、名はなんと言う?」
「へ? ああ、まだ自己紹介してなかったね。私はミオ。テイマーのミオだよ。こっちは私の相棒で、ミニスライムのライム」
いきなり名前を聞かれてちょっと驚きつつも、肩に乗ったライム共々簡単な自己紹介をする。
ライムを紹介した時、「ミニスライム?」と首を傾げたけど、「まあ、ペットとしてなら愛嬌はあるな」と一人で納得したみたい。でも残念、ペットじゃなくて、戦闘も一緒にする相棒だよ。
「それではミオ。このような美味なるポーションを我に捧げたこと、大儀であったぞ。その褒美として、お前には特別に、我と友誼の契約を結ぶ権利をやろう!」
「へ?」
友誼の契約? なにそれ?
そんな風に私が首を傾げると、少しの間沈黙が流れる。女の子の方も、完璧な決めポーズまでしながら言ったことに、自分から補足するのは恥ずかしいのか、そのまま固まってる。つまりこれ、自力で今言った意味を解読しなきゃいけないってことだよね?
うーん、友誼の契約……友達になりたいってこと? ゲーム的に言うならフレンド、って、ああ、そうか。
「フレンド登録したいってこと?」
「お、お前達の界隈では、そんな風にも言うな!! しかし、我にとって、これは我が力の一端を授ける神聖な儀式だ、滅多に出来ることではないから、光栄に思うがいい!!」
ピンときたそれを聞いてみると、案の定そうだったみたいで、無駄に大仰な言い回しをしながら肯定してくれた。
うん、なんというか、お兄が中二病を患ってた時はただただイタイと思ってたけど、こんな小さい子がやってると思うとなんだか微笑ましくなるなぁ。うん、これこそ可愛いは正義ってやつだね、間違いない。
「ふふっ、ありがとう、嬉しいよ。それで、あなたの名前は?」
「ふっ、よくぞ聞いてくれた。我が名はダークネスロード!! 深淵の支配者なり!!」
気を取り直して、態々眼帯を付け直してからビシィ! っとポーズを決め直す女の子……もとい、ダークネスロードちゃん。
うん、可愛いけど、名前長い。
「それじゃあよろしくね、ネスちゃん」
「ね、ネスちゃん!? 私をそんななよっとした名で呼ぶな! ちゃんとダークネスロードと呼べ!」
「えー、ネスちゃんの方が呼びやすいし、可愛くない?」
「我はかっこいいほうが良い!!」
「あははは、ごめんごめん、ネスちゃん」
「こらっ、頭を撫でるな! こ、子供扱いするなーーー!!」
私の目線くらいの高さにある頭を撫でてみると、ネスちゃんは憤慨してぷんすかと拗ねる。
そんな彼女をまあまあと宥めつつ、よく考えたらまだ危険地帯の真っ只中だったことを思い出した私は、セーフティエリアに向けて移動することに。
そんな私の後ろを、ネスちゃんはトコトコと付いて来る。うん、やっぱり可愛い。
「私、これからセーフティエリアでアイテムの調合するんだけど、ネスちゃんはどうするの?」
「調合? つ、つまり、またさっきの《ハニーポーション》を作るのか?」
「うん、それだけじゃないけどね。私ってほら、あんまりネスちゃんみたいに強くないから、アイテムたくさん作ってそれを補わないといけないんだ」
「ならば、我も付いて行こうではないか!!」
あははっと自嘲気味に笑いながら言うと、なぜかネスちゃんは目を爛々と輝かせながら詰め寄ってきた。
えぇ、今のどこにそんなに熱を入れる部分が?
「いいけど、本当にただ調合するだけだよ? 見ててもあんまり面白くないと思うけど……」
「構わん。ミオが調合している間、邪魔が入らんように守ってやろう、その代わり……」
「その代わり?」
「……ま、また《ハニーポーション》を譲ってくれ」
消え入りそうな声で、恥ずかしそうに顔を逸らしながら言うネスちゃんに、私は思わず噴き出した。
「わ、笑うな! ただ、我が知識を持ってしても、あのようなポーションは作れぬからな、集めて有効活用しようと、そ、それだけだ!」
「はいはい、分かってる分かってる。《ハニーポーション》で良ければたくさんあげるから」
「だから、撫でるなーー!! もういいっ、ほら、次は同志の契約を結ぶぞ、契約の書だ、早く受け取るがいい!」
「パーティ申請ね、ありがとうネスちゃん」
「契約の書だと言っているだろーー!!」
うん、ネスちゃんからかうの楽しいなぁ、反応が一々可愛い。
そんな感じにパーティを組みつつ、ネスちゃんと戯れながら進んでいくと、すぐに《西の森》のセーフティエリアに到着した。
途中、何度かモンスターと遭遇したりもしたんだけど、ネスちゃんが全部一撃で消し炭にしてくれたから何の問題もない。魔法恐るべし。
ちなみに、パーティを組んでる分私にも経験値は入って来るけど、何もしてないからそこまで多くはない。とは言えやっぱり、こうも楽して稼げるとパワーレベリングしたくなる人の気持ちも分かるなぁ。
ライムには絶対しないけど。
「さて、それじゃあ始めますか」
そわそわと落ち着きなく傍で見ているネスちゃんの前に、《携帯用調合セット》の中身を並べていく。
まずはビーカー1つに漉し器を添え、ライムに上に乗って貰って《酸液》を溜めて貰う。その間、《薬草》を磨り潰して《ハニーポーション》を作る準備をしつつ、《一括調合》のアーツで《シビレダケ》と《ドクの実》、《ドクの実》と《薬草》をそれぞれ消費して、《麻痺ポーション》と《毒ポーション》を順番に作成する。
「結構MP消費するなぁ。けど効果は特に変わってないし、手作業での調合と並行して出来るからまあいいかな?」
磨り潰すのは案外力がいるから両手が必要で、手を使ってメニューを操作しなきゃならない《一括調合》を使えるのは《ハチミツ》と混ぜて《薬草》を溶かし込ませる工程の間だけだけど、その方がMPが少しだけ自然回復して無駄がない。
「な、なあ、これは何をしているんだ?」
と、そんな風に自分の作業の流れを自画自賛していると、ネスちゃんがライムを指差しながら尋ねてきた。
まあ確かに、ビーカーの上に漬物石みたいにミニスライムを置いた光景なんて、理由を知らなきゃひたすらシュールだよね。
「それはね、ライムが持ってる《酸液》ってスキルで出す液体を集めて、《酸性ポーション》を作ってるの」
「えっ、スキルで出した物がアイテムになるのか!?」
「うん。ほら、もうすぐ」
《ハニーポーション》を1つ作った後、試しに《霊草》と《ハチミツ》を混ぜて、ちょっとだけ性能の良い《初心者用MPポーション》が完成したのとほぼ同時に、ビーカーの中にライムが出した《酸液》が一定量溜まって、そのままポーション瓶に姿を変える。
ころんっと落ちたライムに新しいお仕事を渡しつつ確認すれば、ちゃんと《酸性ポーション》と表示された。
「ほ、本当だ……」
知らなかったのか、ネスちゃんが驚いた顔で目を真ん丸にしている。
βテスターのネスちゃんが知らないなら、もしかしてこれって結構貴重な情報だったりする? まあ、ミニスライム自体、不本意ながら人気なかったみたいだし、正式版からの救済策って可能性もあるけど。
「しかし、所詮はミニスライムの攻撃を溜めただけだろう? 使い道はあるのか?」
「さっきキラービーを倒すのに使ったアイテム、それだよ? ネスちゃんの魔法ほどじゃないけど、そこそこ強かったでしょ?」
「えっ、これが?」
実際には《毒ポーション》と一緒に使ったから、どっちのダメージ比率が大きかったのか分からないけど、そこはまあ後々検証すればいいや。
「ミニスライム……ただの最弱モンスターではなかったのか」
「ふっふーん、うちのライムは特別だからね」
どやぁ、と2つ目の《酸性ポーション》を作ってる最中のライムに代わってドヤ顔をしてみれば、おおっ……とネスちゃんが声を上げる。
いくら《酸性ポーション》があっても、まだまだネスちゃんと比べれば弱い部類だろうけど、こうして少しずつミニスライムに対する評価を改めて行かないとね。
それでいつか、ミニスライムを使役するテイマーでこのゲームを溢れさせてみせる!!
「いやまあ、それはさすがに無理か。あははは」
「む? 何を一人でブツブツ言っているのだ? 魔界とのパスでも繋がったか?」
「ああ、ごめんごめん。気にしないで」
いけないいけない、周りに人がいる中で自分の世界に浸って独り言とか、これじゃあ私のほうがよっぽど中二病だよ。気を付けないと。
「それより、我の《ハニーポーション》はまだか!?」
「分かったって。あ、そういえば、私もライムもHP減ったままだった、先飲まなきゃ」
「う~……! ずるいぞ! 我にも寄越せ!」
「ごめんごめん、まだあるから、はいこれ」
「全く……」
ぶつくさと文句を言いながらも、一口《ハニーポーション》を飲めば、すぐにほわわ~んっと笑顔になるネスちゃんにくすっと笑いつつ、私もライムに一瓶丸ごと食べさせつつ、自分の分を取り出す。
そこでふと、そう言えば一つまだ聞いてないことがあったのを思い出した。
「そういえば、ネスちゃんって今レベルいくつなの?」
「む? 19レベルだぞ」
「ぶふぅ!?」
何気なく出てきた答えに、思わず口に含んだ《ハニーポーション》を噴きだす。
「ああーーー!! 勿体ない! 何をしているのだミオ!!」
「だ、だって、びっくりして……えっ、19レベル? 9レベルじゃなくて?」
私、まだ4レベルなんだけど……
「そこらの有象無象と一緒にするな、我こそは、偉大なる深淵の支配者、ダークネスロードだぞ!!」
またもキリッ! とポーズを決めながらそう名乗りを上げるネスちゃん。
うん、なんというか、全然凄そうなプレイヤーに見えない。
あ、でもそれならもしかして、これから私が戦うモンスターについても知ってるのかな?
「ネスちゃんってすごいんだねー。じゃあもしかして、《コスタリカ村》に行く途中に出るっていうフィールドボス、もう倒したりしたの?」
「む? ああ、もちろんだ。とはいえ、やつは魔法に弱いからな、大して自慢にもならん」
「1人で?」
「うむ」
若干棒読み気味に褒めながら聞いてみると、案の定討伐済みだったみたいで、なんてことないように言ってのけた。
口ぶりからして、本当に相性が良かったんだろうけど、それにしたってボスを1人でなんてすごい。
「実は私、この後何人かでそのボスを倒しに行く予定なんだけど、何かアドバイスってない? ちょっとしたことでいいから教えて欲しいな?」
「ふむ、教えてやるのはやぶさかではない。しかし、何かを得ようとするなら、それ相応の対価がなければ……よし、では教えてやろう」
スッと2本目の《ハニーポーション》を渡してみたら、あっさり教えてくれた。うん、この子、凄いプレイヤーではあるんだろうけど、実はすごいチョロイ子なのかも。
「まず一つ。ミオ、お前が今、スキルで作っている状態異常ポーション。そのボスには通じないぞ」
「えっ」
内心でしめしめとほくそ笑んでいた私に、いきなりぶち込まれた第一声。
それを聞いた私は、思わず手に持っていた乳棒を取り落とし、しばらくの間、呆然と固まってしまった。
人間誰しも中二病だった時期はありますよね(きっと
中学の時に書いた二次創作の小説、当時は自信満々に書いてましたが、今思い返すと文章としての体すら成してなかったように思います(;^ω^)
あれこそまさに若気の至り……(データ丸ごとHDと共に封印しつつ




