第129話 秋の訪れとイベント情報
秋。
夏の残暑も過ぎ去り、涼しく過ごしやすいこの季節になってくると、みんな何かに付けて新しい物事に取り組み始める。
お祭りに紅葉狩り、運動会に文化祭、所によっては修学旅行などとイベントも多く、街中も学校もお祭り騒ぎだ。
そして当然、そんな時期にゲームの中で何も起こらないなんてことはあるはずもない。
「今度はハロウィンイベントかー」
家でお昼ご飯を食べつつ、私はそう呟く。
相変わらず情報の早いお兄によると、来週からMWOでハロウィンイベントが始まり、各街でお祭りが始まるんだとか。
コスタリカ村でもやるのかな? 一応ハロウィンって収穫祭だし、ある意味一番それらしい場所だけど。
「まだ具体的にどういうイベントかは情報が出てないけど、街でお祭りって言うからには前みたいにイベント限定エリアが解放されるってわけじゃなさそうだな。限定クエストか乱獲系か。いや、インスタントダンジョンとか、そういうのが出て来る可能性はあるか? 通常エリアにイベント限定ボスが放たれるのかもしれん」
「お兄ー。専門用語で話されても何が何だか分かんないよ」
そう苦言を呈すると、お兄はずるずると勢いよくうどんを啜りながら、「悪い悪い」と軽い調子で言葉を返す。
お兄、反応してくれるのはいいけど、ちゃんと口の中の物飲み込んでから喋ろうね?
「んくっ。まあ、なんであれイベントまでにすることは変わらねえってことよ。レベル上げと、消耗品の補充、あとは精々装備の見直しだな」
「まあ、詳しい内容が分からなきゃそうなるよね」
前回のイベントの初めに、お兄と一緒に動いてアイテムが足らなくなった時があったし、とりあえず今回は多めに用意しとこっと。
ただまあ、ストックを増やすのはいつもやってることだから、結局のところイベントが始まるって分かったからって、特にやることが変わるわけでもないんだけど。
「それでお前は、今回誰と参加するんだ?」
「特に決まってないけど。……ああでも、ユリアちゃんとは一緒になる気がする」
最近、フウちゃんが私のホームに入り浸ってるのと同じぐらいの頻度で、私のフィールド探索について来てる気がするし。
むしろ、イベントなのに置いてったりなんてしたら泣いちゃいそう。
「へー、お前らほんと仲良くなったな。確かに話を聞く限り、あのクソ野郎の妹とは思えないくらい可愛くて良い子みたいだが」
「お兄、そんなこと言ってると、ユリアちゃんに色目使ったって美鈴姉にチクっちゃうよ?」
「使ってねえよ!? ただ客観的な事実を言っただけだ!」
相変わらずラルバさんとは喧嘩友達らしいお兄をそう言ってからかうと、大慌てで否定し始めた。
まあ、本当に言ったとしても、美鈴姉ならこの会話のやり取りも大体察して、「ユリアちゃんは可愛いものね」なんて余裕で受け流されそうだけど。
「まあお兄のロリコン疑惑はどうでもいいけど、時期的にあまりガッツリイベントばっかりってわけには行かなそうだよね」
さっき、秋はイベントが盛りだくさんって言ったけど、私達の学校でやるのは運動会だ。
練習とかは別として、あまり準備に時間が取られるわけじゃないんだけど、夏のイベントの時みたいにずっと休みなわけじゃないから、ゲームにばかり時間は取れない。
「おい、俺はロリコンじゃないからな? けどまあ、その辺は大丈夫だろ。夏や冬に比べて、長期休暇と被らない秋は、比較的小規模なイベントになるって相場は決まってるからな。小規模の皮を被った大規模なところもなくはないが、MWOは始まったばっかりだし、ちゃんと小規模だろ。多分」
「その微妙に不安を残すような言い方はどうにかならない? まあ、大規模だったとしても、出来るところまでやるだけだけどね」
無理して頑張っても仕方ないし。もちろんやれるだけやるつもりだけど、一番はライム達とお祭りを楽しむことが大事だ。
「まあ、ゲームだからな、楽しむのが一番だ。それはそうと、お前って今年もうちの高校の文化祭来るのか? 竜也は今年こそ来るって言ってたが」
「あれ、今年は来るんだ? いつもは日程が被ってたりだとか、そもそも足がないとかで来れなかったから、今年もダメなのかと思ってた」
お兄が私と似たような結論を出すと共に、私にそう尋ねてきた。
ていうか竜君、そういう大事な話っていっつもお兄としてるよね。私ともメールのやり取りはあるけど、ほとんど私の方からしてるばっかりだし。
これが思春期の姉離れ……お姉ちゃん寂しい。
「なんか、おばさんから交通費出して貰えたんだってさ。そろそろ一人旅もいいだろうって」
「なるほど」
うん、やっぱりおばさん的にも、竜君は大人になったんだね。
ああ、あんなに小さかった竜君もついに一人でお出かけ出来るほどに大きくなって……って、それは前から普通にやってたか。
「まあそういうわけで、呼ぶ相手には入場チケット配らにゃならんから、お前も友達とか呼ぶなら早めに人数教えろよ。用意するから」
「うん、分かった」
とは言ったものの、私の友達で高校の文化祭に足を運ぶような子は、大体自分の縁故でチケット貰うから、特別お兄に用意して貰う必要ってあまりないんだよね。
ユリアちゃんとかネスちゃんが来るなら別だけど……どうだろう、近くに住んでるようなら誘ってみたいなぁ。
ああでも、ネスちゃんはともかく、ユリアちゃんはまだ小さいし、無理かなぁ。いやまあ、実は見た目がああなだけで年上って可能性も無くはない……?
「そういえば、お兄達は何の出し物やるの?」
「焼きそばの屋台だな。今回はちゃんと焼き手もやるぞ!」
お兄の宣言に、口元まで近づけたうどんがするりと箸から零れ落ちる。
えっ、お兄が焼き手? 客引きじゃなくて?
「だ、大丈夫? 火事になったりしない?」
「ちゃんと出来るっての! 俺だって最近はそれなりに機械も触れるようになってるんだからな?」
「まあ、確かにそうだけど」
これまでずっと、ロクに機械も触れなかったお兄だけど、最近はカップ麺を作るためにお湯を沸かすくらいならちゃんと出来るようになってきた。
とはいえ、未だに週に1回は失敗してるし、凄く不安だ。
「大丈夫だ、ちゃんと練習してるからな! あと、本番では美鈴も一緒に作業するし」
「ああ、それなら大丈夫だね」
お兄が何かやらかしても、美鈴姉がいればフォローしてくれるでしょ。多分。
「最初から分かってたけど、俺だとすげえ不安そうなのに、美鈴の名前を出した途端安心されると、複雑だな……」
「そりゃあ、お兄と美鈴姉とじゃ信頼度が違うし」
「くそぅ、ぜってー文化祭ではお前のこと見返してやる!」
「はいはい、おかわりいる?」
「いる」
悔しそうに宣言するお兄からどんぶりを受け取り、うどんのおかわりをよそってあげる。
それをガツガツと食べるお兄を見ながら、ふと思い付いた。
「そういえばお兄、MWOでカボチャってあったっけ?」
「カボチャ?」
「うん、カボチャ」
ハロウィンと言えば、仮装とお菓子。
特に、ジャックオーランタンなんて定番だし、それに伴ってカボチャ料理が流行るのもハロウィンらしい。
そうなると、是非とも私もハロウィンパーティーなんてMWOでやってみたいところだけど、よくよく考えてみれば、コスタリカ村でもカボチャは無かった気がする。
なら他の街ではどうなんだろうと、私より行動範囲が圧倒的に広いお兄に聞いてみるけど、お兄は首を捻るばかりで、答えは返って来なかった。
「うーん、いや、流石に食材アイテムなんてノーマークだし、全く知らん。適当に街の市場でも見回ってみれば、どっかに転がってたりするんじゃないか?」
「うぐう、やっぱりそうかぁ」
お兄は何かと詳しいけど、基本的には戦闘がメイン。
モンスターの素材なんかは武器防具に使われるし、調合素材も換金率が良かったりするからともかく、食材アイテムは一部を除けばほとんどが料理にしか使えないから、どうしても情報が少なかった。
「まあいっか、ちょうどこの前《ラビリンス》まで開通したところだし、街の観光がてら探してみる」
「おうそうか。見つかったら、俺にも偶には食わせてくれよ、よくよく考えたら、家ではいつも食ってるけど、MWOでのお前の料理って食ったことなかったし」
「そうだっけ? 前回のイベントでクラーケンを倒した後、打ち上げで私も作ったはずだけど」
「あの時は美鈴の作った料理食うのに忙しくてな」
「えー……まあ、いいけどさ。そういうことなら、試食に付き合ってよね」
「おう、任せとけ!」
胸をドンッと叩くお兄に苦笑しながら、私はうどんの残りを一気に口の中へと注ぎ込む。
「ごちそうさま。それじゃあお兄、私は向こう行ってるね」
「分かった。今晩は母さんが家族で外食にするって言ってたから、早めにログアウトしろよ」
「もう、お兄じゃないんだから、それくらい分かってるよ」
今日は日曜日。珍しく、家族みんな揃って夕飯が食べれそうということで、外食に行く話になっている。お母さんはともかく、お父さんは出張じゃなくても帰りが遅くて私達とは夕飯の時間が合わないから、本当に珍しい。
お兄の忠告に、余計なお世話としかめっ面を返しながら、私はどんぶりを流しに置くと、そのままMWOをやるために、自分の部屋へと一直線に向かった。
リアルの季節感ガン無視でハロウィンです。
なお作者はカボチャは苦手(ぉぃ