第128話 村の英雄と賑やかなお茶会
「へえ、あのオークナイトを倒したんだ……凄いね、ミオちゃん」
「えへへ、ありがとうございます、クルトさん」
オークナイトとの激闘から数日、私はホームの農作業の合間に、クルトさんとお茶会を開いていた。
そこで、私がオークナイトと繰り広げた激闘について話したところ、クルトさんは驚いた顔でそう言ってくれる。
いつもと違って、今回は自分でもかなり頑張ったと思ってるから、褒められると嬉しい。
ちなみに、オークナイト討伐クエストの報酬は、いつもみたいなゴールドや村で採れた作物を除くと、元々あった《コスタリカの村人》の勲章が、《コスタリカの英雄》に変わるっていう、これまた凄いんだか凄くないんだか分からない物だった。
英雄扱いは流石にこそばゆいからどうかと思ったけど、実際のところ、村長さんは普通に褒めてくれるだけだったし、村の人達も前に比べてより友好的に接してくれるようになっただけで、特に祭り上げられるとか、そういう英雄扱い的なことは何もなかった。
ほっとしたような、ちょっとだけ残念なような。
あ、でも、前に比べて頻繁に野菜の差し入れとか貰えるようになったから、そこは素直に嬉しかった。
これでもう、食費で悩むことは当分なさそう。
「俺も挑んではみたんだけど、すぐに諦めちゃったよ。あんなのどうやったらソロで倒せるんだか……」
「クルトさん、戦えたんですか?」
「えっ」
「えっ」
……クルトさん、ずっと畑仕事してるし、戦ってるところ、これだけ付き合いがあって一度も見たことなかったから、てっきり戦闘は完全に投げ捨てているものかと思ってたけど、そういうわけじゃなかったらしい。
私達の間に、微妙な沈黙が降りる。
「え、えーっと、それよりクルトさん! 私も色々と工夫して、畑作業も中々快適になったと思うんですけど、どうですか!?」
我ながらあからさまな話題転換に、けれどクルトさんは苦笑1つで乗ってくれて、私の指差す方を向いてくれた。
そこでは、私のモンスター達が畑を駆け回り、楽しそうに作業する光景が広がっている。
「――!」
「だー!」
「「「「――――♪」」」」
王冠を被ったムギを肩に乗せたフローラが、先頭に立って畑を闊歩し、指示(?)を出す。
その指示を聞いてそれぞれに動くのは、ライムやムギの部下(?)であるミニスライム隊……だった子達だ。
だった、と過去形なのは、後ろを付いて回る子達は既に、ミニスライムとは別の個体に変化してるからだ。
名前:プルル
種族:アクアスライム
召喚コスト:53
HP:90/90
MP:61/61
ATK:41
DEF:76
AGI:39
INT:50
MIND:53
DEX:57
スキル:《放水Lv1》《収納Lv8》《悪食Lv22》《触手Lv1》《軟体Lv1》
名前:モチ
種族:ウィンドスライム
召喚コスト:58
HP:81/81
MP:67/67
ATK:39
DEF:68
AGI:45
INT:52
MIND:50
DEX:52
スキル:《風壁Lv1》《収納Lv8》《悪食Lv22》《浮遊Lv1》《敏捷強化Lv1》
名前:バク
種族:フレアスライム
召喚コスト:49
HP:92/92
MP:56/56
ATK:55
DEF:70
AGI:41
INT:53
MIND:50
DEX:51
スキル:《炎液Lv1》《収納Lv8》《悪食Lv22》《隠蔽Lv1》
《ミニクラーケンの核石》を合成して、今までの水色っぽかった体色が濃い青に変わった、アクアスライムのプルル。
同じく《妖精蝶の核石》を合成して、見た目が鮮やかな緑色に変わった、ウィンドスライムのモチ。
それから、《ウィルオーウィスプの核石》を合成して、これまた見た目が炎みたいに真っ赤な体色に変わった、フレアスライムのバク。
メタルスライムのライムや、ファットサンドスライムになったムギ。それに、まだミニスライムのままの子達も含めて、随分とカラフルになったもんだよね。
ステータスは概ねみんな似たり寄ったりで、あまり同時に呼んでるとMPが辛いところだけど、ホームで活動する分には関係ない。それぞれのスキルを活かして、畑作業に精を出す。
ファットサンドスライムのムギが《穴掘り》スキルで畑を耕して畝を作り、フレアスライムのバクは……特に畑作業ではスキルの使い道もなかったから、ミニスライムの子達と一緒に、畑に種を撒いていく。
アクアスライムのプルルが触手の先から出した《放水》を、ウィンドスライムのモチが《風壁》で吹き飛ばし、簡易スプリンクラーになる。
フローラが《成長促進》をかけて成長を促し、既に実った作物や果実は、ライムが《触手》スキルと《収納》スキルで収穫する。
《放水》スキルとか、元が《酸液》だったことを思うと、そのまま撒いて大丈夫かちょっとだけ心配だったけど、むしろ普通の水を撒くよりも良く育つようになったのは嬉しい誤算だった。
まあ、そんな感じで、モンスター達の畑作業がとても優秀だから、私自身の仕事は肥料の調合くらいなもので、随分と楽になった。おかげで、こうしてクルトさんとゆっくり情報交換しながら、お茶を楽しむ余裕があるってものだ。
お茶菓子まで出すと、みんな作業を放り出しておねだりに来ちゃうから、そこは自重しないとだけど。
「うん、中々凄いと思うよ。もう、ファーマーとしてもミオちゃんに超えられちゃったかな?」
そんな経緯を説明すると、クルトさんは笑いながらそんなことを口にする。
全く、何言ってるんだか、この人は。
「うちはモンスター達が大飯喰らいばっかりだから、生産量重視で回してるだけですって。クルトさんの畑の作物と比べたら、全然足元にも及ばないもの」
これは謙遜なんかじゃなく、純然たる事実だ。
たとえ同じレシピでも、私の畑で採れた素材と、クルトさんの畑で採れた素材とで比べたら、明らかに差がある。
具体的には、ライム達への受けの良さっていう意味で。いや、《調合》に使うアイテムの性能にも差はついてるんだけども。
「確かに、クルトさんのお茶、先輩のより美味しいですよね~」
ずずーっと音を立ててお茶を啜りながら、しれっと会話に混ざってきたのは、言わずと知れた私の後輩、フウちゃんだ。
最近姿が見えないと思って油断してたんだけど、どうやら目的は達成したらしく、また以前のように私のホームに入り浸って、だらだらとした日々を過ごしてる。
「むう、分かってることだけど、フウちゃんに言われると何となく納得いかない」
「まあまあ、私は先輩のも好きですから~。ねー、グーたん~」
そう言ってフウちゃんがお茶を差し出すと、後ろからぬっと大きな鷲の頭が伸びてくる。
けれど、その下についているのは鷲ではなく、ライオンの体。軽く人の1人2人は乗せられそうなほど大きなそれに、大きな翼が生えている。
人を乗せて空を飛ぶ、騎乗モンスターとしてテイマー界隈に人気と噂の個体。グリフォンだ。
そう、最近フウちゃんの姿が見えなかったのは、《北の山脈》で発見された、このグリフォンをテイムするためだったらしい。「これで、空から一方的に敵を狙撃出来て、楽に戦闘をこなせます~」とはフウちゃんの弁。しれっと何を恐ろしいことを考えとるんだこの子は、と戦慄したのは言うまでもない。
グーたんと名付けられたそのモンスターが、明らかに体格に見合わない小さなコップに嘴を突っ込み、ちびちびとお茶を飲む姿は、雄々しい見た目とのギャップもあってなんとも可愛らしい。
ちなみに以前からのフウちゃんの相棒であるムーちゃんは、既にご飯を食べ終えて、ビートと一緒に庭でお昼寝中。
ライム達は満腹っていう言葉をどこかに置き忘れてるけど、ムーちゃんはよく食べるってだけで限界はあるからね。腹ごなしがお昼寝ってところに牛(?)らしさを感じるけど。
「まあ、別にいいけどね。それでクルトさん、話戻しますけど、オークナイトを1人で倒せないなら、それこそ私に声かけてくれればよかったじゃないですか。いや、クルトさんに一度もそういう話を振らなかった私も悪いんですけど」
私は完全に勘違いしてたけど、クルトさんの場合は私がテイマーで、ちょくちょく戦闘をこなしてるのも知ってるはず。そう思って尋ねると、クルトさんは歯切れ悪く「い、いやあ、それはその……」と口ごもる。
どうしたんだろう?
「先輩、あれですよあれ~。誘われる分には問題ないのに、自分から人を誘うってなると途端に尻込みしちゃう人っているじゃないですか~。多分クルトさんってそのタイプですよ~?」
「えっ、そうなの?」
フウちゃんの発言に目を瞬かせつつ、クルトさんの方に向き直ると、図星なのか恥ずかしそうに顔を逸らしていた。
確かに言われてみれば、このお茶会もいつも私から誘ってばっかりなような……。
「い、いやその、誘ってみようかなって何度か思ったりはするんだけど……迷惑じゃないかなーとか思うと中々……」
だからフレンドも中々増やせなくて、と少しばかり悲哀を滲ませながら言うクルトさんの背中は、少しばかり小さく見えた。いや、正面から見てるんだけど。
う、うーん、クルトさんって生産職だし、人付き合いも大丈夫だろうと思い込んでたけど、そうなんだ……作った作物、どこに売ってるんだろう。売りつけって遊びに誘うより難しい気がするんだけど。
そう思って話を聞いてみると、どうやらNPCショップに売っていたらしい。
ポーションみたいな加工品と違って、作物はプレイヤー相手でもNPC相手でも価値があまり変わらないから、それで問題なかったんだって。
「それじゃダメですよクルトさん、せっかくのオンラインゲームなんだから、友達増やして一緒に楽しまないと!」
「うっ、いやまあ、分かってはいるんだけど……」
「大丈夫です」
戸惑うクルトさんの手を取って、私は顔をずいっと近づける。
「クルトさんのフレンド第一号として、私が力になりますから!」
真っ直ぐ目を合わせながらそう言うと、クルトさんは赤くなった顔を体ごと後ろに仰け反らせながら、こくこくと何度も激しく頷く。
それにほっと息を吐きながら、小さく笑みを浮かべていると、ホームの入り口の方から声が聞こえてきた。
「ミオ……何してるの?」
「うん?」
そこにいたのは、私の方を呆然と見つめるユリアちゃんとリッジ君。そして、その後ろからどこか呆れたような視線を向けるネスちゃんの姿だった。
今日は、ユリアちゃんとの約束を兼ねて、みんなで一緒に《東の平原》の奥地に住まうフィールドボス……ゴブリンキングを討伐するっていう約束だったから、ここにいること自体は不思議でもなんでもないけど、なんで3人ともそんな顔してるの?
「前々から怪しいと思ってた……やっぱりクルトは危険、排除する」
「ひぃっ、死神!?」
疑問に思っている間に、ユリアちゃんがいつも愛用している大鎌を構え、ゆっくりとこちらに歩を進めてきた。
いやいやいや、本当にどうしてそうなったの!?
「ちょっ、ユリアちゃん、排除しちゃダメだって! クルトさんは私の畑作りの師匠みたいなもので、別に怪しい人じゃないってば!」
慌ててユリアちゃんとクルトさんの間に入りながら、私は必死に宥めようと声をかける。
ていうかこんなこと言うまでもなく、前にも一度会ってるよね!? いや、思い返してみればあの時から、クルトさんに微妙に警戒心向けてたような……あれっていつもの人見知りじゃなかったの!?
「違う、この目はうちのバカ兄が変な本を買って来た時と同じ目。不埒なこと考えてる」
「いやいやいや、クルトさんに限ってそんなことないから!」
「大丈夫、苦しまないように一思いにやる」
「やっちゃダメなんだってば! ああもう、リッジ君、止めるの手伝って!」
「ごめんミオ姉、今回ばかりは聞けない」
「なんで!?」
私が尋ねると、リッジ君はすらりと刀を抜き……って、えぇ!?
「ミオ姉に色目を使うっていうならまずは僕を倒してからにして貰おうか……」
「いやいやいやいや、クルトさんが私に色目なんて使うわけないじゃん! 私のことなんてそこらの小娘くらいにしか思ってないって!!」
実際の年齢とか分からないけど、多分お兄よりも年上だよ? もしそうだったとすると、最低でも歳の差いくつあると?
「……それはそれでムカつく」
「なんで!?」
リッジ君がグレた!? ていうか、暴走してる!?
「ネスちゃん、フウちゃん! ヘルプーー!!」
こうなれば、数少ない正気を保ってる人に助けて貰うしかないと声を張り上げるも、それに対する反応は芳しくなかった。
「まあ先輩、いつものことですから、頑張ってください~」
「鈍い己を恨むがいい。……むっ、この茶、なかなかいけるな……大地の魔力を感じる……」
フウちゃんはひらひらと手を振って不参加を表明し、ネスちゃんはクルトさんのお茶に夢中だ。
うちのモンスター達も、今はみんな楽しそうに畑で駆け回ってるし……。
「さあ」
「クルト、勝負だ」
「ひいいいいい!?」
「あーもうっ、どうすればいいの~~~!?」
コスタリカ村に、クルトさんの悲鳴と、私の叫び声が響き渡る。
私の苦悩は尽きないけど、きっと傍から見れば平和そのものな一日が、今日も過ぎていく。
これにて第六章は終了です。スライムが増えまくって大変なことになってきたので、章終わりに表示していたモンスターのステータス一覧は省きましたが……またご意見あればお聞かせください。




