第127話 豚の騎士とソロ討伐
オークナイトは鎧が砕けると、手に持っていた盾を捨て、剣を両手で握り直した。
その直後、ライムのポーション供給が間に合わず、MPが底を突いたことでクロルとビートが召喚石に戻る。
「ブモォォォォ!!」
「っ、ライム、ガード!!」
クロルとビートが居なくなったことで、2体が与えた《ユニオンアタック》によるダメージ分のヘイトは、全て私に移った。
それによって、オークナイトはその目を真っ直ぐ私に向けるなり、剣を地面と水平に構えながら突進してきた。
「ひゃっ……!!」
鎧を失い、盾を投げ捨てて身軽になったオークナイトの放つ横薙ぎの一撃は、AGIに三重のバフをかけた今の状態でも、とても避け切れなかった。
だからこそ、私のMP回復よりも防御を優先するようにライムに指示を出すと、ギリギリのところでライムの触手が間に合い、オークナイトの剣と激しくぶつかり合って火花のようなエフェクトを散らすと、その勢いで私の体は弾かれ、地面を転がされる。
フローラの時は活躍した《妖精樹の盾》も、私を守って貰う時は《触手》スキルを利用する関係で使えないから、《ノックバック軽減》の効果を受けられない。
転がされた私を、オークナイトの激しい追撃が襲い、その度にライムのHPが減っていく。
すぐにライムが自身にポーションを使って、減ったHPを回復させるけど……オークナイトの攻撃の手が速くて、回復が追いついてない。
「むむ……一旦引くよ、フララ、牽制お願い!!」
「ピィ!」
フララのMPも《サンダーストーム》の行使によってかなり減ってるからか、《暴風魔法》の中でも消費の少ない、《ライトニングレイ》がオークナイトに向けて放たれる。
さっきまでなら、魔法が飛んで来れば攻撃の最中であっても盾を構えて防御してたオークナイトだけど、今回はそんな攻撃は知らないとばかりに、自らのHPで受け止めながら強引に私へ追撃を仕掛けてきた。
「わっ、わわ!?」
慌てて起き上がりながら、縦に真っ直ぐ振り下ろされた一撃を紙一重で避け、すぐに大きくバックステップで距離を取る。
それを追うように、オークナイトは剣を勢いよく跳ね上げて、私を切り裂こうと連撃を繰り出してくる。
「ひゃあ!?」
逃げきれずに攻撃を受けたものの、空中だったお陰か、私達はかなりの距離を吹っ飛ばされて、ダメージは大きくなったけどその分距離を取ることは出来た。
ほっと一息吐いたものの、守りを捨てたオークナイトの動きは素早く、のんびり体勢を立て直す時間はさすがに与えてくれなかった。
ぐぬぬ、普通鎧とか脱いだら弱くなるんじゃないの? 最終形態って意味では強くなるのも当然だけど、それにしたって理不尽だよもう!
「とにかく、一度仕切り直さなきゃ」
さっきまでと違って、フララの魔法を無防備に受けてるオークナイトだけど、フララだけで削り切るにはMPが足りない。それに、毒の状態異常もとっくに切れてる。
かと言ってフララのMPを回復させようにも、私もライムもオークナイトの攻撃で釘付けにされちゃっててそこまでの余裕はないし、かと言ってこれを抜け出さないことには、このまま一方的に嬲られて終わりだ。
そうならないためにも、まずは……。
「ライム、《強身の丸薬》、飲んで!」
「――!」
ライムに預けておいた《強身の丸薬》を飲む許可を出して、DEFを引き上げた。
さっきまでは私が自力で回避出来ていたからあまり必要なかったけど、これからはどうしてもライムの防御に期待しなきゃいけないから、そのサポートはどうしても必要になる。これでどうにか、回復とダメージの天秤を拮抗状態には持って行けるはず。
後は、私自身の準備が必要か。
「フローラ、《アースウォール》! 少しでいいから、時間を稼いで!」
「だっ!」
何気にフローラが生まれて初となる、《地属性魔法》の行使。
それによって、私達の正面に土の壁がせり上がり、オークナイトの攻撃を防ぐ盾になった。
「ブモォ!!」
とは言え、所詮はレベル1のスキル。フローラのINTもあまり高いわけじゃないし、当然のように一撃で破壊された。
まあ、分かってたことだからあまり落胆はないけれど、フローラのスキルも《モンスター誘因》ばっかりじゃなくて、《地属性魔法》のレベルもちゃんと上げないとなぁ。
けど、たった一撃とはいえ、こうして防いでくれたのは大きい。
ライムが自分自身にアイテムを使うのはともかく、取り出して私に渡して貰うには、どうしてもライムがフリーの状態じゃなきゃいけない。フローラは《モンスター誘因》の連発でMPがほとんど残ってなかったから、今の1回でもう底を突いたみたいだけど、この一瞬で希望が繋がった。
「ライム、《睡眠投げナイフ》!」
激しい攻撃の中、フローラが稼いでくれた時間を使ってライムに取り出して貰ったのは、《睡眠ポーション》を投げナイフと合成して作った、《睡眠投げナイフ》。
睡眠状態になれば、どんなモンスターでも一定時間、攻撃しない限りは完全に動きを停止するから、仕切り直してトドメの一撃の準備をするには、これがベストだ。
「フララ、攻撃は中止、代わりに《睡眠鱗粉》お願い!」
フララに指示を飛ばしながら、私自身もライムから受け取った《睡眠投げナイフ》を、《リロード》のスキルを併用し、回避行動の合間に次々と投げつける。
本当は、《ナイトメアポーション》を取り出して貰ってフララに投げつけようか迷ったけど、目の前にこんな大きなオークナイトの体がある以上、うっかり誤射してオークナイトのMPを回復させたくはないし、たった200のMPでオークナイトの残りHPを削り切れるかというと、かなり分の悪い賭けになる。
だから、ここは確実な手段を選んだ、つもりだったんだけど……。
「睡眠状態に全然ならない! なんで!?」
これまで、オークナイトと何度も戦闘する中で、睡眠状態にして攻撃を仕掛けたことも当然ある。その時の経験から、すぐに睡眠状態に出来ると踏んでたのに、私の予想を超えてオークナイトは活動を続け、手にした大剣を叩きつけてくる。
状態異常は、何度も同じモンスターに繰り返し仕掛けると効果が薄くなっていくけど、今回の戦闘ではまだ麻痺と毒しかやってないから、睡眠は問題なく通るはずなのに。
「もしかして、HPが減ったせいで、睡眠への耐性が上がってる?」
ボスモンスターの多くは、HPが減るのに合わせて行動パターンを変えたり、場合によっては体そのものを作り変えたりして攻撃してくる。
中には、属性や状態異常への耐性、弱点部位が変わるモンスターもいるっていうのは、知識だけでは知ってたけど……まさか、オークナイトがそうだったなんて。
「とは言え、今更他の手に変更なんて利かないし……」
《リロード》は、あくまで直前に使った投げナイフ系のアイテムをインベントリから取り出してくれるアーツだから、《睡眠投げナイフ》以外の状態異常アイテムは取り出せない。
かと言って、呑気にインベントリを開いて他のアイテムを取り出せるほど、オークナイトの攻撃は甘くない。
躱しきれてないとはいえ、多少なりともダメージを抑えるために激しく動き回ってる今、もし足を止めて真っ向から攻撃を受け始めたら、いくらライムでもすぐに倒される。
けど、《睡眠投げナイフ》の在庫はともかく、MPの残量が厳しい。《リロード》の消費は結構重いし、果たして睡眠状態に出来るまで持つのかどうか……。
残りMPがどんどん減っていき、《リロード》で投げられる回数にも底が見えてくる。
思えばこれまで、ボス級のモンスターを何体も倒してはきたけど、その時は必ず他のプレイヤーと一緒だった。
ヒュージスライムの時は、お兄やリン姉やリッジ君。
デビルズトレントの時は、リッジ君とネスちゃん。
ジャイアントロックゴーレムの時はお兄がいたし、クラーケンはレイドボスだから例外にしても、デススコーピオンだってやっぱりリッジ君とネスちゃんが一緒だった。
レベルや装備もそうだけど、ボスと1人で戦うにはまだ、私の実力が追いついてなかったのかもしれない。
「ここまで、かな……?」
「だっ! だっ!」
「フローラ?」
何度ナイフを当てても睡眠状態にならないオークナイトを見て、思わず弱音が口をついて出るけど、そんな私を叱責するように、背中におぶったフローラの声が聞こえてくる。
何を言っているのかは分からなかったけど、その声をきっかけに、ふと気付いた。少なくともフローラも、ううん、ライムもフララも、誰もまだ諦めてないってことに。
ただ私の指示を守り、MPが尽きてもその役割を全うしようとしていることに。
ゲームの使役モンスターなんだから当然でしょ、って言っちゃえばそれまでなんだけど、それでも私には、みんなの姿が凄く頼もしく見えた。
……うん、そうだよね。私はテイマー、モンスター達と一緒に戦う職業だ。最初から、こんなにたくさん仲間が私にはいた。それを、何1人で戦ってる気になって弱気になってるんだか。
みんなが頑張ってるのに、私だけ結果が見える前から尻込みするなんて恥ずかしい真似やってられない。どうせ今更他の手段に変更なんて利かないんだから、せめてみんなのテイマーとして恥ずかしくないように、最後まで堂々とやり切ってやる!
「《リロード》!!」
不安を吹き飛ばすようにそう叫び、MPゲージがついに底を突いたのを横目に確認しながら、《睡眠投げナイフ》をインベントリから呼び出す。
そして手にしたそれを、全力でオークナイト目掛け投げつけた!
「ブ、モォ……」
投げナイフが突き刺さると同時に、オークナイトの体から急速に力が抜けていく。
振りかぶった剣は力を失い、体ごと崩れ落ちるように地面に倒れ込んだ。
「や……やった!!」
その光景に、思わずガッツポーズを取りながら叫ぶ私だったけど、直後に慌てて口を塞ぐ。
いやうん、騒いだくらいで起きないのは分かってるんだけど、やっぱり睡眠は睡眠だからね。念のためというかなんというか。
「それじゃあみんな、集まって。急いで準備するよ」
オークナイトが気持ちよさそうに寝息を立てているのを再度確認すると、私はトドメを刺す準備のため、ポーションを配りみんなのHPやMPを回復させていく。
「準備おっけー。それじゃあみんな、行くよ!」
眠っているオークナイトを挟むようにビートとクロルを呼び出し、空にはライムを連れたフララを配置する。
ムギや他のミニスライム達はMPの関係上呼べないけど、召喚石の中からでも見れるようにと、インベントリから取り出して掌に乗せる。まあ、本当に見れてるかは分からないけど、これも気分ってやつだ。
記念すべき、初めてのソロでのボス討伐。せっかくだから、みんなでその瞬間を見ておきたい。
「《ユニオンアタック》!! ビートは《スピアチャージ》、クロルは《針射撃》! ライムとフララは落石攻撃を、それからフローラ、《ニードルショット》!!」
ビートの尻尾が光を纏い、突き出されるのと同時に、クロルの背中の針が一斉に撃ち出される。
フララが持ち上げたライムの体から、明らかに質量保存の法則とかをガン無視した大きな岩がいくつも降り注ぐ。
フローラの正面に小さな黄色の魔法陣が浮かび、そこからクロルの針……よりも大分小さくてボロボロな、岩の棘が飛び出す。
それらの攻撃が、一斉にオークナイトへ突き刺さる。
ただでさえ鎧を失い、防御力が下がっていた上に、睡眠状態で初撃にダメージボーナスが入ったその攻撃に、オークナイトが耐えきれる筈もない。残り3割ほどだったHPは、あっという間に0になる。
ポリゴン片となり、砕け散っていくオークナイトを見ながら、私は心地良い疲労感と喜びを込めて、張り詰めていた息を大きく吐き出すのだった。
そういえば、未だに見た目がモフモフしてるモンスターがミオのペットにいない……というのはさておいて、次回で6章終了です。




