第125話 みんなの装備と戦闘準備
モンスター装備、めっちゃ悩みました(特にというかほぼライムが
翌日。
改めてクロルのスキルの検証を行った結果、基本的に合金のような物は作れないことが分かった。
鉱石単体を上げた場合は、最低10個で背中に新しい針が生えてきて、~塊か、~の大結晶っていう名前のアイテムになる。
途中で別の鉱石をあげたり、合金をあげた場合はややこしくなるけど、塊や大結晶にしたい鉱石が最低7個分は必要で、残りは別の鉱石でも代用できるみたい。効率を突き詰めるなら、結晶化させたい鉱石7個と、石ころ3個がベストなんだろうと思う。
まあ、私は出来るだけやらないけど。クロルも石ころはあまり好きじゃないみたいだし。
「よし、出来たよミオ」
「ありがとう、ウル!」
そして、そんな検証結果をもとに、ついにウルが私の新しい短杖を作ってくれた。
新しい合金――イデオン鉱石を中心に、マナタイト鉱石とクリアライト鉱石を合わせて作った白い合金、《エリクシル合金》製の柄の先端に、《ルビーの大結晶》の紅い宝石を取りつけ、《妖精樹の蔦》が絡みつくようにそれを覆っている。
紅と白のコントラストがとても綺麗な、《海杖オリンポス》とはまた違った輝きを放つ杖に仕上がっていた。
名称:紅魔杖ホワイトケーン
耐久値:87
性能:INT+10 MP+200
効果:MP消費軽減(中) 召喚コスト軽減(小)
うん、MP最大値の上昇量が凄く増えたし、スキルも前より《召喚魔法》向けに変わってる。
まあ、召喚魔法コスト軽減とは言っても、(小)だと5%程度の軽減らしいけどね。少ないけど、無いよりはいい。
それに、MP消費軽減が(中)になったから、維持コストの方はかなり楽になるだろうし。
「流石ウル。良い杖だね、これ!」
「ふふん、当然でしょ? まあ、それでもこんなに早く作れたのは、ミオのお陰だけどね」
素直に褒めると、ウルは一度、得意気に胸を張った後、ちょっとした謙遜を口にした。
それに合わせて揺れる胸から、多大な精神力で以て視線を逸らし、そのまま見なかったことにした。
「それから、次はモンスター達の装備だね、数が多いから抜けがないかちゃんと確認してよ?」
「はーい」
ウルから受け取った装備を、一つずつ確認しながらそれぞれの子に着けていく。
名称:軽業師の羽
耐久値:87
性能:AGI+28
効果:重量軽減(中)
名称:妖精樹の盾
耐久値:149
性能:DEF+27 MIND+28
効果:ノックバック軽減(中)
まずは、ライムの装備。
《軽業師の羽》は、《妖精の花園》でフェアリーバタフライ達に餌を上げた時に偶に貰える、《妖精蝶の羽》を素材に作って貰ったアクセサリーアイテムだ。羽なんて貰っていいの? と思うかもしれないけど、これがまた、偶に《妖精蝶の核石》なんて貰えたりするから、羽くらいでビビってちゃいけない。
ともあれこの装備には、装備したモンスターの重量(体重?)を軽くして、AGIを引き上げる効果がある。
まあ、ついでに挙動が風船みたいにふわ~んとしたものに変わるから、素早さが上がったと言えるのかは凄く微妙だけど。ライムは基本、自分では動かないからそこはあまり関係ない。
どちらかというと、ライムがミニスライムだった時と同じように、フララに運んで貰えるようになる方が大きい。これがあればフローラにも持ち運べるから、今まで私と一緒にいないと盾役になれなかったけど、完全に別個に動くことも出来るようになるはず。
《妖精樹の盾》の方は、これまた《妖精樹の枝》を集めて作った小さな盾で、軽いからライムの低いATKでも十分に扱える。《触手》スキルみたいに私を守ってもらうには小さいけど、フローラを守るには十分だから、2体だけで盾役として動くようなことがあれば重要になってくるはずだ。
それに、《ノックバック軽減》があるから、これまでみたいに体格差があっても、簡単に吹っ飛ばされることは無くなるだろうし。
どっちの装備も、普段から装備しておくにはちょっと邪魔になりそうではあるけど、ライムの場合は《収納》スキルがあるから、普段は仕舞っておいて、必要な時だけ取り出して装備するっていう、私が普段、腰回りにあれこれと装備品を差してるのと同じような感覚で扱えるはずだ。
それに、盾はともかく、羽が生えたライムもこれはこれで可愛いし。
名称:真紅の髪飾り
耐久値:78
性能:INT+28 MIND+21
効果:詠唱時間短縮(中)
次は、フララの装備。
《ガーネット》をクロルのスキルで大結晶化させたものを、《エリクシル合金》製の金具で固定した髪飾りなんだけど、モンスター用だから大結晶をかなり小さく加工してあって、ぶっちゃけ元の《ガーネット》単体よりも小さくなってるんだよね。これで性能はより良くなるって言うんだからどういう理屈なのか……まあ、細かいことは気にしたら負けだよね。
それに、性能もそうだけど、フララ自身、紅い花の形をした髪飾りが気に入ったようで、嬉しそうに飛び回ってるし。うん、問題ない。
名称:疾風のスカーフ
耐久値:110
性能:DEF+15 AGI+24
効果:回避補正(中)
ビートには、《ハウンドウルフの毛皮》を《グリーンゼラチン》で緑色に染色したスカーフ系の装備だ。
ビートの場合は前線で激しく戦うから、動きを阻害するような物は持たせられないし、いくら器用でも基本的に6本足で動く生き物に道具の類は持たせられない。だから、いっそシンプルな物をということでこれにした。
元々、どこのオヤジかってくらい《トロピカルジュース》や《ナイトメアポーション》を豪快に飲んでたイメージのせいか、スカーフを首に巻いて風になびかせる姿は凄くイケメンでカッコイイ。
まあ、ここは建物の中だから、風なんてないんだけど。
名称:夜天のドレス
耐久値:102
性能:DEF+25 MIND+23
効果:即死無効
続けて、これはフローラの装備。夜空みたいな漆黒のドレスに、キラキラと星のように光るクリアライトの欠片が散りばめられているそれは、元々愛らしかったフローラの容姿も相まって、まるで夜会に訪れた幼いお姫様みたいだ。
性能の方は、とにかく防御寄り。
他の子に比べてフローラはまだレベルが低いし、それなのに《モンスター誘因》で攻撃を引き付けることが多いから、《即死無効》が付いてるのは有難い。この効果があれば、HPが半分以上残ってれば、どれだけ強い攻撃を受けてもHPが1残るみたいだし。
まあ、基本的にはライムに守って貰う予定だし、そうでなくても《蔓操作》とか《地属性魔法》のレベルが上がれば、必要なくなるかもしれないけど……その時はその時ってことで。
名称:大地のスカーフ
耐久値:109
性能:DEF+25 MIND+11
効果:物理ダメージ軽減(中)
そしてクロルの装備は、あまりしっかり考える時間がなかったのもあって、ビートと同じデザインで、使う素材だけ《マインワームの皮》に変更した茶色いスカーフだ。
ビートの《疾風のスカーフ》と比べて防御寄りな装備で、《物理ダメージ軽減》があると《反撃》スキルによって相手に返すダメージも減っちゃうんだけど……私のパーティにおけるクロルの役目は、盾役というより攻撃役だから、被ダメージを抑える方を優先した。
クロルはビートほど素早く動けないし、何よりMP管理の都合上、あまり強くしてあげられないから、その分は補ってあげないとね。
名称:キングスライムの王冠
耐久値:89
性能:DEF+20 MIND+22
効果:即死無効
最後の1つは、ムギのための装備だ。
《キングスライムの王冠》とは銘打たれてるけど、特にスライムの素材は使ってない。普通に《エリクシル合金》と《ルビーの大結晶》を使った、ミニサイズの王冠。フローラと同じく《即死無効》がついた、防御重視の装備だ。
そもそもこのゲーム、キングスライムなんて名前のモンスターはいないんだけど、ムギはミニスライム隊のリーダーだからね、キングの称号くらいあってもいいと思う。特に意味はないけど。
と、以上7つが、今回ウルに作って貰った、モンスター用の装備だ。
基本的に、モンスター用の装備はプレイヤー用の装備に比べて性能が落ちるから、その点ではプレイヤー用装備を身に着けられる人型モンスターより劣るんだけど、その分値段は控えめだし、今回はクロルがスキルで余分に作った大結晶アイテムをウルが買い取ってくれたから、何とか足りた。
……大分懐が寂しいことになっちゃったけど、いい加減慣れてきたしね。うん、何とかなるなる。
ともあれ、これでようやくオークナイトに挑める。
「うん、大丈夫、全部注文通りだよ。ありがとね」
「お代はちゃんと貰ったし、気にしないで。それで、早速挑みに行くの?」
「もちろん。クロルのスキルレベルがまだ不安だけど、ステータスは核石で強化したし、アイテムの準備もばっちりだからね」
装備は整ったし、ついでに以前作った《強心の丸薬》と同じ要領で、《強壮の丸薬》と《強酸ポーション》、それにフララの《付与鱗粉》を元に、各種ステータスの増強薬も用意した。けれど、流石にスキルレベルは一朝一夕じゃ大して上がらないから、仲間になったばかりのクロルのレベルは低く、そこだけは不安要素だ。
名前:ムギ
種族:ファットサンドスライム
召喚コスト:157
HP:144/144
MP:67/67
ATK:53
DEF:154
AGI:41
INT:52
MIND:89
DEX:57
スキル:《泥液Lv1》《収納Lv8》《悪食Lv21》《穴掘りLv5》《防御強化Lv6》
名前:クロル
種族:テツアラシ
召喚コスト:188
HP:169/169
MP:62/62
ATK:168
DEF:105
AGI:133
INT:52
MIND:67
DEX:78
スキル:《針射撃Lv3》《反撃Lv1》《手先強化Lv1》《防御強化Lv3》
幸い、核石はいっぱいあったから、クロルもムギも大分ステータスが強化出来たし、それによって種族も変化した。
ムギの見た目の変化は、単純にサイズが大きくなったくらいだけど、ミニスライムからメタルスライムになったライムの進化と比べて随分とサイズアップして、バランスボールくらいになってる。
抱っこするには流石に大きすぎる状態になったから、ユリアちゃんが少し寂しそうだったけど……うん、また他のミニスライム達を色々と強化するつもりだし、その時にまた抱っこさせてあげよう。そうでなくても、触るだけなら支障はないんだし。
クロルの方は、背中の針が金属みたいに変化して、よりカッコよく、厳つい風貌になった。
もっとも、こっちもまたそのせいで、余計フローラが針を怖がって近づき難くなって、お互いに泣きそうになってたけど……うん、その辺りも今度どうにかしないとなぁ。
ただ強化したと言っても、クロルはビートの攻撃力には及ばないし、ムギもライムの防御力には及ばないから、過信は禁物だ。
とはいえ、今の私のMPで、ビートと同時召喚する前提なら、これくらいの強化が限界だ。《魔封鞭》とか、新しい《投剣》とか、結構MP消費するスキルもあるし。
後は、私の指示で上手く調整してあげるしかない。
「それに、あんまり待たせると、ユリアちゃんが我慢できないだろうし」
今回のクエストは、私一人でこなさなきゃならない。
その辺りのことをユリアちゃんに説明したんだけど、「兄に頼んで私も参加できるようにハッキングを……」とかなんとか、凄まじく物騒なことを言い始めたから、今度私と一緒に、《東の平原》より先、《ゴブリン平原》に出るフィールドボスを倒しに行くってことで納得して貰った。
あまり待たせるとまた寂しがるかもしれないし、出来れば一発で決めて、早く約束を果たしてあげたいところだ。
「そっか、まあ、オークナイトって戦ったことないから、どれくらい強いのか分からないけど、頑張ってね」
「うん! ウルやみんなに手伝って貰ったからね、絶対勝って、オークの焼肉ご馳走してあげるよ!」
「あはは、楽しみにして……いや、オークの肉って美味しいの?」
「さあ? 豚が元になってるんだし、多分美味しいんじゃない?」
そう適当に答えると、ウルは「ま、まあ楽しみにしておくよ」と若干表情を強張らせていた。
そんなウルに苦笑しつつ、私はビート、クロル、ムギを召喚石に戻し、フララを肩に留まらせ、フローラをおんぶして、最後にライムを抱き上げると、ウルのお店から外へと出る。
目指すは《東の平原》。何度も負けを繰り返した、オークナイトへのリベンジだ。




