第123話 ペットの名付けと種族特性
イワアラシの撃破に成功した後は、私もウルやパパベアーさんと一緒に、採掘作業に勤しんだ。
ウルから聞いた情報通り、次の個体が再出現するのは随分遅く、しかも第三階層全体を通して一度に1体しか出現しないらしくて、採掘している間は遭遇すらしなかった。
そのお陰で、ロックゴーレムくらいしか警戒するもののなかった採掘は非常にあっさりと終了し、パパベアーさんがそろそろログアウトする時間になったところで、今日のところは切り上げて、みんなでグライセに帰ることになった。
「ふふふ……」
「まーた変な顔になってるよ、ミオ」
そんな帰りの途上、《バルロック》の街を歩いてる最中に、私が手に持つ黒っぽい石を眺めながら笑みを浮かべていると、ウルから微笑ましそうな、呆れたような微妙な視線を向けられた。
けど、こうなるのも仕方ないと思う。なぜなら私が持つこれは、運良く一発で手に入った、《イワアラシの核石》なんだから。
新しいペットが手に入ったとなれば、ちょっとくらいテンションが上がっても罰は当たらないと思うんだよ。
「そんなに楽しみなら、もうここで召喚してもいいんじゃない?」
「そうするのもいいんだけど、名前がまだ決まってなくて」
ウルのごもっともな提案に、私はそう言って苦笑を浮かべる。
いつもいつも、名前はパパっと決めてる私だけど、偶にはじっくり考えるのもいいかと思って保留にしたら、イマイチ良いのが思い浮かばない。
うーん、やっぱりこういうのはその場のフィーリングと思い付きで決めるのが一番なのかなぁ。
「……イワアラシだから、イワーk」
「それはやめておこうか、うん」
私が候補としてふと思い付いた名前を挙げようとすると、ウルに全力で止められた。解せぬ。
「じゃあ、他の名前は……」
仕方ないから代わりに別の名前を考えるんだけど、一度思い付くと、それに引っ張られて中々別のが思い付かないんだよね。
「パパベアーさんは何か意見ありますか?」
「む、俺か?」
まさか自分に振られるとは思っていなかったのか、着ぐるみ越しでも分かるほど、パパベアーさんは戸惑った声を上げる。
けれど、そこは大人の余裕なのか、すぐに立ち直ったパパベアーさんは、「ふむ」と顎に手を当て、悩むように虚空を見つめる。
……なんだろう、至って普通の仕草なのに、どの獲物を狙おうか物色してるようにしか見えない。
実際、偶々悩むパパベアーさんの視線が向いた先に居たプレイヤーの人が、心なしか蛇に睨まれた蛙みたいに震えてるし。
「……トゲ丸、とか」
「「「…………」」」
そんな恐ろしい見た目から飛び出したとは思えない、何とも可愛らしい名前に、私とウル、そしてユリアちゃんまでもが硬直する。
いや、悪くないとは思うんだけど、まさかそんな名前が強面のパパベアーさんから飛び出してくるとは……。
そんな私達の様子に耐えられなかったのか、パパベアーさんは「いや、何でもない、忘れてくれ」と言って、私達の少し前を歩き始めた。
その背に、少しばかり哀愁を漂わせていたのは、きっと私の気のせいだと思いたい。
そんなパパベアーさんの悲しい事件を経つつも、あーでもないこーでもないと、適当に思い付くままに名前を列挙する。
けれど、中々しっくり来る名前のないまま歩いていると、それまで黙って私達のやり取りを見ていたユリアちゃんが、ボソリと。
「……クロル、とか」
そう呟き、先ほどのパパベアーさんの時とは別の意味で、私達は硬直する。
そんな様子に、先ほどのパパベアーさんの例を思い出したのか、ユリアちゃんはあたふたと慌てながら釈明を始めた。
「そ、その……イワアラシ、黒い毛に覆われてたから。でも、クロだけだと、味気ないし……針と合わせて、クロル、なんて……」
反応がないことで自信が無くなってきたのか、どんどん尻すぼみになっていく。
けれど、私はそんなユリアちゃんの肩を、ガシッ! と勢いよく掴んだ。
「ふぇっ」
「ありがとうユリアちゃん、その名前、使わせて貰うね!」
「えっ、えと、どういたしまして……?」
戸惑うユリアちゃんに笑顔を向け、私は早速、短杖を取り出す。
と、そこで、一応確認しないとと思い立ってウルとパパベアーさんの方を向いた。
「あ、呼んでもいい?」
「うん、いいよ」
「決まったのか。……ああ、別に構わないぞ」
ウルからはあっさりと了承が取れ、そしてパパベアーさんからは少しばかり悲しげな声色でそう言われた。
……もしかして、トゲ丸って名前、結構気に入ってたのかな? いやうん、忘れてくれって言ってたから、気にしない方がいいかと思ってただけで、トゲ丸もそれはそれでよかったんだけど……ま、まあ、決まったんだしそれでいいかな?
「出ておいで、《召喚》!!」
そんな微妙な心境になりつつも、私は一旦通行の邪魔にならないところまで移動すると、黒いゴツゴツとした《イワアラシの核石》に対して魔法を使用する。
すると、すぐにそれが黒い宝石のような《召喚石》へと姿を変え、光と共にその身を砕いて、その場にイワアラシを出現させる。
黒い毛皮、美しい光沢を放つ鉱石の針を持つ、《採掘場》で戦った時と何ら変わりないその姿。けれど、あの時はこちらを威嚇するように突き立っていた針は綺麗に畳まれて幾分か小さく見え、明確な敵意を宿していた円らな瞳は、今では怯え……怯え? うん、若干怯えの色を浮かべてる気はするけど、少なくとも嫌われてはいない……といいな?
まあ、本気で戦った後だしね、多少は仕方ないか。これからは仲間……ううん、いっそ家族になるんだし、ゆっくり絆を育んで、怯えなくても大丈夫だって教えてあげなきゃね!
そのためにも、まずは名前を付けてあげなきゃ。
「今日からあなたは、“クロル”だよ。よろしくね!」
「キュイィ」
名前:クロル
種族:イワアラシ
召喚コスト:75
HP:75/75
MP:60/60
ATK:92
DEF:48
AGI:77
INT:32
MIND:41
DEX:70
スキル:《針射撃Lv1》《反撃Lv1》《手先強化Lv1》
ユリアちゃんから貰った名前を付けてあげると、少しだけ嬉しそうに鳴いてくれた。
ふむふむ、ステータスを見るに、この子も割とフララと近い、攻撃を受けると弱い回避型後衛っぽいのかな? 《針射撃》はあの時使ってきた針を飛ばす攻撃だとして、《反撃》ってどういうスキルだろう。
一応、説明文も見てみようかな。
スキル:反撃
効果:物理ダメージを軽減し、相手に跳ね返す。
なるほど、分かりやすい。《酸液》の、『相手にダメージを与える液体を出す』っていう、実際に使ってみないことにはどういう攻撃になるのか微妙にイメージしづらいのと違って、クロルの体付きからして、どういう効果なのか一発で分かる。
問題は、どの程度ダメージを軽減してくれるかってことなんだけど、今回の戦闘では、針が生えてる時にビートの直接攻撃は失敗してるからなー、正確なところは分からないんだよね。
でも、この説明を見るに、反射出来るのは物理ダメージだけだから、《闇属性攻撃》を使ったビートの《激突》に対しては効果が無かったのかな。
だとすると、あそこで《闇属性攻撃》を使ってなかったら、このスキルの効果で《激突》の威力の何割かを返されて、ビートの方が倒されてたかもしれないのか……危ない危ない。
そうやって、スキルについて思考を巡らせる私を見て何を思ったのか、クロルは所在無さげにオロオロしていた。案外、臆病な子なのかも?
「ほら、おいでクロル」
「キュ……」
そんなクロルに、大丈夫だよと微笑みながら、そっとその頭……は、針のせいで無理だから、小さな頬っぺたを軽く撫でる。
刺々しい背中の針とは対照的に、こっちはサラリと柔らかな毛が掌に心地良い感触を伝えてくれる。
そのまま、顎の方に手をやってこしょこしょとしてやると、気持ちよさそうに体の力が抜けていった。
ふふふ、よかった、この様子なら仲良くなれそう。
「それにしても、イワアラシか……確か、情報公開された時にモンスター図鑑も更新されてたけど、そこの説明文に、『岩場を食い荒らす姿からその名が付けられた、非常に凶悪なモンスター』って書いてあったっけ……」
「へー」
確かに、出会ってすぐに針を飛ばしまくって襲ってくるあの姿は、凶悪だと思われても仕方ない。実際には臆病さの裏返しみたいだけど、それは動物ならよくあることだしね。
ふと思い出したという感じに始まったウルの説明に、そんな風に納得と自分なりの解釈を加える私だったけど、ウルの話はまだ終わっていなかった。
「『食した鉱石を体内で精製し、身を守る針とするその姿から、《鉱山の製鉄所》の異名を持つ。その針の強度は生半可な攻撃では歯が立たず、ドワーフ族が武器素材としてこぞって求めることから、イワアラシは非常に高い戦闘力を誇るにも拘らず、挑む冒険者が後を絶たない』」
「……うん?」
鍛冶師のはずのウルにしては、やけに詳しいなと思ってそちらを向けば、そこには目を爛々と輝かせ、クロルににじり寄るウル……否、ケダモノの姿があった。
「……モンスターの素材って、今までは追加効果の付与のために、合金と一緒に武器作成の最終段階でしか使われてなかったけど、その子の針ならもしかして、金属アイテムとして扱えるんじゃないかな?」
「あの、ウル、目が怖いよ? クロルが怯えてるから、ちょっと落ち着いて?」
元々、モンスター図鑑の説明を見た時点から、可能性だけは考えていたんじゃないだろうか。
鍛冶師がなんでそこまでチェックしてるんだってツッコミたいけど、今はそれどころじゃない。
何とか宥めようと私が肩を掴んで揺さぶると、ウルはようやく私に気付いたように顔をこちらに向ける。
にっこりと笑顔を浮かべるその姿に、ようやく落ち着いたかと息を吐こうとして……。
「ねえミオ、ちょっとばかりこの子の針貰っていい?」
「うん、分かった、分かったけど、まずはそれを降ろそう!! 針を取るのにピッケルなんていらないから!!」
いつの間にやら取り出したピッケルを掲げる姿に、私は大慌てで抑えにかかった。
そんな私達の後ろでは、ガクガクと震えるクロルをライムが落ち着けようと傍に寄り添い、それを真似ようとしたフローラがクロルの針で手を痛めて泣き始め、フララがそれを慰める。そんなしっちゃかめっちゃかな状況が繰り広げられていて、色々と収拾がつかない事態に。
結局、オロオロしながらもモンスター達を宥めるユリアちゃんと、落ち込みモードから復帰したパパベアーさんに止められるまで、街中での私達の騒動は続いたのだった。




