第122話 イワアラシとお仕置きタイム
私の宣言する声が坑道内に響いたから……ってわけじゃないとは思うけど、イワアラシに続くようにして、ロックゴーレムも3体ほど私達の存在に気付き、こっちに近づいてきた。
さて、イワアラシを私のペットにすると決めたはいいけど、召喚モンスターにするには核石アイテムが必要で、それを得るためには倒さなきゃならない。
可愛がるためにまずは痛めつけないとダメってどうなんだと思わなくもないけど、そうしないとどう足掻いても召喚出来ないんだから仕方ない。あれだね、拳を交えないと分かり合えない的な。
だとすると、ここで私が取るべき戦術も自ずと決まって来る。
「《召喚》! 来て、ビート!」
短杖を構え、ビートを呼び出す。
《調教》スキルによるテイムじゃなく、《召喚魔法》による召喚を選んだ理由は、ビートと一緒に《ユニオンアタック》を行う相棒にするためだ。だから、ここはビートに任せるのがベストだと思う。
まあ、流石にビート1体だけに任せると危ないから、フォローはするけどね。
「あのモンスター、ミオが相手するの?」
「うん、任せて貰っていい? まあ、ロックゴーレムまで同時は流石に無理だから、そっちはお願いしたいんだけど……」
モンスターを倒したのが誰であれ、同じパーティメンバーが倒したのなら、経験値と違ってアイテムドロップはみんな平等に発生する。
けど、《召喚術師》の職業補正で、自身が倒したモンスターの、核石アイテムドロップ率を引き上げる効果があったりする。ここで重要なのは、たとえパーティを組んでいても、あくまで自身が倒した分にしか、この効果は適用されないってことだ。
つまり、《イワアラシの核石》を入手したければ、私自身の手でこのモンスターを倒さなきゃならない。別に、途中まで手伝って貰って、トドメだけ掻っ攫うやり方でも問題ないんだけど……それは流石に、ね?
「いいよ、それじゃあ今回はロックゴーレムを片したら、私とパパベアーさんと2人で採掘やってるから、後の護衛はよろしくね」
「分かった」
ウルと頷き合うと、私達はそれぞれに自らの得物を取り出し、敵と見定めたモンスターと対峙する。
戦闘に入ったことで、ユリアちゃんの腕の中からムギが帰って来たけれど、今回の敵、ちょっと強そうだから、相手するのは難しいかな? 出来れば、《防御強化》のレベリングも少ししたいところだけど。
ただそれよりも、ムギが腕から離れたことで、ユリアちゃんが目の前のロックゴーレムも無視して悲しそうな表情を浮かべてるのが気になる。ユリアちゃん、ムギのこと気に入ってくれたのは嬉しいけど、危ないよ?
まあ、ユリアちゃんのことだし、多少油断したくらいじゃ野良モンスターに遅れを取ったりしないだろうけど。
「ビート、《闇属性攻撃》、《激突》!」
「ビビ!」
ひとまず、ユリアちゃんのことは脇に置いて、ビートに指示を飛ばす。
気合一閃、ビートが自身のMPと引き換えに、物理攻撃たる《激突》を闇属性の魔法攻撃扱いに変更しながら、イワアラシに向け一直線に飛翔する。
あの針だらけの姿を見るに、DEFも相当に高そうだけど、この攻撃なら相手の防御はMIND参照で行われるから、十分に有効なはずだ。
あんな針に向かって直接攻撃したら、カウンターダメージ貰っちゃいそうではあるけど、ビートの《激突》ならノックバック無効の効果があるから、怯むことなくキッチリダメージも通せるしね。
そう思ったんだけど、イワアラシはそれまで威嚇のために広げていた針を素早く畳むと、獣らしい俊敏さでその場から飛び退き、ビートの攻撃を躱して見せた。
亀みたいに防御を固めて、カウンターを狙うスタイルかと思いきや、予想以上に機敏に動けるらしい。
「キュイ!!」
そうしてビートの攻撃をやり過ごしたイワアラシは、まるで小動物のような可愛らしい鳴き声を上げたかと思えば、その場で踏ん張り、頭の針を上空のビートへ向けて構えた。
……って、まさか。
「ライム、ビートを守って!!」
「――!!」
嫌な予感に駆られるまま、《投擲》スキルでライムをビートに向けて投げつける。
直後、イワアラシが構えた針の一本が、凄まじい速度で空中に向けて放たれ、それは高速で空を駆けるビートを、正確に捉えていた。
その針がビートを貫く直前、ギリギリのところでライムが体を盾に針を受け止め、ビートは無傷で済んだけど、あと少し遅かったら、今の一撃でビートは倒されていたかもしれない。
「ま、まさか本当に飛ばせるなんて……」
あの様子からして、そう来るのかなーとは思ったけど、まさか本当に針を飛ばしてくるなんて。
あれだけ機敏に動けて、その上遠距離攻撃まで持ってるとなると、私が思っていた以上に強力なモンスターなのかもしれない。
倒す苦労を嘆くべきか、心強いペットが手に入りそうだと喜ぶべきか、微妙なところ。そもそも、倒したら必ず核石がドロップするとも限らないし、若干嘆きの比率の方が大きいかも。
と、そんな感想を抱いているうちに、イワアラシはビートへの興味を失ったのか、今度はその視線を私に向け、飛ばしたことで失われていた頭頂部の針をニョキッ! と再生させると、私に向けて構えた。
あ、これヤバイかも。
「《アンカーズバインド》!!」
咄嗟に鞭を振り抜き、天井付近から突き出た水晶目掛けてアーツを繰り出し固定すると、大きく跳び上がると同時に鞭を引き、跳躍距離を稼ぐ。
その直後、今度は自身の頭の針をツノのように見立て、勢いよくイワアラシが突進して、直前まで私が居た場所を駆け抜けて行った。
ふぅ、直接発射でもされたら危なかったけど、今度はただの突進か。助かった。
そう、思ったんだけど。
「キュイイ!!」
無事に避けられたと油断する私を嘲笑うかのように、イワアラシはある程度進んだところで足を止めるなり、その背の針を一斉に逆立て、空中にぶら下がる私へ向け、散弾銃の如く撃ち放ってきた!
「いやいや、これは無理だって!」
一歩出遅れた私に、視界を埋め尽くす無数の針を回避しきるのは不可能。フララは今、ただのペット扱いだからダメージは受けないけど、フローラとムギは危ない。ライムがいれば守って貰えるところだけど、今はビートの護衛についてて間に合わない。
流石に、一発受けたら死に戻り、というほど威力の高い攻撃でもないだろうし、ある程度被弾を避ければ耐えられるはず。そう判断した私は、アーツを解いて空中に身を投げ出しながら、フローラを庇うように抱きしめる。
それから……。
「ムギ、お願い! 《ガードフォーメーション》!!」
「――!」
一発だけなら耐えられないかと思って、腕に抱えていたムギに《召喚魔法》によるバフをかけつつ、盾役になって貰う。
ぷるんっと飛び出たムギは、私に向けて飛来する針の一つを真っ向から受け止め……ギリギリで耐えた。
「よしっ。……って、ああっ、ムギ!?」
までは良かったけど、衝撃で吹っ飛んだ結果壁に叩きつけられ、そのダメージでHPが0になり、召喚石に戻ってしまった。
うぅ、ごめんムギ、まだ耐えられるか分からなかったとはいえ、ポーションを渡しておけば生き残れたのに。これは私のミスだ。
ただ、ギリギリだったとはいえこのレベル帯の攻撃を一度耐えられたっていうのは大きい。もう少ししっかり強化してあげれば、オークナイト相手でも通用する……かも? いや、流石にボスは厳しいか。
「けど、それはそれとして……ムギの仇だし、まずは最初の躾が肝心だもんね。悪いけど、全力でやるよ!」
自分でやらせた結果だけど、それはそれ、これはこれ。仇討ちってことで、このイワアラシにはキツイお仕置きをくれてあげよう。
そう決めた私は地面に降り立つと、フローラに頼んで《モンスター誘因》を使って貰う。
イワアラシの注意がフローラに向くけど、そのフローラは私が抱えてるわけだから、実質その狙いは私に固定されたに等しい。
余計なロックゴーレム達の注意まで、私に引き付ける結果にはなるのが心配ではあったけど……ターゲットが移った瞬間、ウルの大槌やパパベアーさんの大剣で叩き壊され、ユリアちゃんの大鎌に切り裂かれと、散々な目に遭ってるのが横目に見えた。
うん、私は何も見なかった。そういうことにしよう。
「キュイ!!」
そうしてる内に、イワアラシは頭頂部の針を私達の方に向け、高速で発射してきた。
目にも止まらぬ速さで迫るそれは、まともに当たれば大ダメージ間違いなしだけど、私は腰から抜いた解体包丁を盾代わりにすることで、それを弾く。
悔しそうに、何度も何度も同じ攻撃を繰り返すイワアラシだけど、その全ては私に届かず、弾かれる。
本当なら、こんな高速で飛来する針を、多少サイズが大きいとは言えただの包丁で防ぐなんて、そんな高度なテクニックを私が持っているわけはないんだけど、今狙われてるのは、正確には私じゃなくてフローラだ。
私と違って体が小さいフローラを狙って放たれる針は、なまじ空中を高速で飛ぶビートさえ射貫くほど正確無比なのが災いして、全く同じポイントにしか飛んで来ない。
これなら、テクニックも何もなく、射線上に解体包丁を添えておくだけで防ぐことが出来る。
もっとも、このやり方じゃダメージを完全に防ぐことは出来ないから、このままずっと続けられるとジリ貧なんだけど……根比べに負けたのは、イワアラシの方だった。
「キュイィ!!」
埒が明かないと思ったのか、イワアラシは再生した頭頂部の針を発射せず、そのまま真っ直ぐ構えて突進してきた。
さっきも見た、そして今回私が待ち望んだ攻撃手段に、内心でニヤリと笑みを浮かべる。
「《アンカーズバインド》!!」
さっきと同じように、天井の水晶に鞭を巻きつけ、突進を躱す。
全く同じ展開に、イワアラシもまた、同じように背中の針を逆立たせ、私に向けて撃ち放つ。
けれど、ここから先はさっきとは違う。最初から分かってた攻撃なんだから、針の散弾が放たれた時には既に、私はもう一度別の水晶に鞭を巻きつけ、ターザンみたいにその場を離脱していた。
後に残されたのは、切り札の散弾を使ったことでその身を守る針を失い、無防備な背を見せるイワアラシのみ。
「やっちゃえビート、《激突》!!」
「ビビ!」
針が再生する僅かな間を狙い、ビートがツノを構えて突撃する。
針の発射は、見た目よりも力を使うのか、使った直後は動きを止めるイワアラシに、これを躱す術があるはずもない。
あっさりとビートの体に撥ね飛ばされ、そのHPを大きく減少させた。
「キュグ!?」
弱点部位に大ダメージを受け、ゴロゴロと地面を転がるイワアラシ。
その勢いがようやく止まり、その体を横たえたのは、ちょうどアーツを解いて地面に降りた、私の目の前だった。
「さて、お灸を据えるって意味では、ビートの一撃で十分な気もするけど、トドメまで刺さないと核石って手に入らないんだよね。だから……」
イワアラシが起き上がり、ビートの方へ向き直る。
ダメージの量からして当たり前だけど、ヘイトはビートに向いているらしい。けど、それは私に向け、未だ針で守られていない無防備なお尻を見せる恰好になるわけで。
「ちょっと痛いかもしれないけど、我慢してね?」
鞭を大きく振り被り、無防備なお尻目掛け、私は容赦なくその手を振り抜く。
「《ストライクウィップ》!!」
「キュイーーー!?」
ペチーーンッ!! と、アーツのエフェクトと共に鞭が炸裂し、最後のHPを消し飛ばす。
涙目で叫ぶイワアラシが、ちょっとだけ可愛いと思ってしまったのは、私だけの秘密だ。
何はともあれ、こうして私は無事イワアラシを自力で倒し、運良く一発で《イワアラシの核石》を入手出来たのだった。




