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テイマーさんのVRMMO育成日誌  作者: ジャジャ丸
第六章 アップデートとクエストボス
110/191

第110話 対応方針と化け熊さん

2018/12/10

《召喚魔法》のナーフに対する救済を追加しました。

「はあ、どうしようかなぁ」


 《召喚魔法》の、突然の仕様変更。まあ、ゲームなんだからこういうことはよくあることなんだろうけど、それでもやっぱり困った事態であることに変わりはない。

 けど一応、召喚モンスターのコストが重くて困った場合の対処法も、調べてみればちゃんとあった。

 それはつまり、ビートのコストダウン――《合成》によって強化された、ビートのステータスやスキルをリセットすることだ。これによって、元々持っていたスキルのレベル以外は全て、種族も含め初期状態に戻る。

 それ自体は、特にコストもかからず、いつでも出来る。

 これまでステータス上昇のために使用した核石アイテムは、本当なら当然戻って来ないんだけど、今回は救済策としてか、アップデート後一週間は、召喚モンスター1体につき1度だけ、リセットしても強化に使用した核石アイテムは戻ってくるらしい。


 けど、オークナイトを仕留めるため、より強力な攻撃手段として《ユニオンアタック》を使いたいのに、それを使うためにビートを一気に弱体化させるのは本末転倒な気はする。


「うーん、ビートはどう思う?」


「ビビビ?」


 公式サイトをチェックした後、MWOにログインした私は、畑に植えたヤシの木に張り付いて寛いでいたビートに向け、そう問いかける。

 迷った時は、やっぱり本人に聞いてみるのが一番だ。


「ステータス、リセットする? しない?」


「ビビビ!」


 ぶんぶんと首を横に振って、否定の意志を伝えてくるビート。

 木に登ったままそんなことするから、すっごい揺れに揺れてへし折れたりしないか不安になるけど、今はそんな空気でもないから気にしないことにしよう。


「ふふ、そっか。うん、分かったよビート、それじゃあ、リセットしないでも済むように、頑張ろうか」


「ビビ!」


 大きく頷くビートだけど、それによって木にツノが叩きつけられて、木の上に実っていた《ヤシの実》が落ちて来る。

 それが、真っ直ぐ頭にぶつかったことで驚いたビートはそのまま地面に背中から落ち、起き上がろうとジタバタともがき始めた。可愛い。

 でも、体が大きくなった分、手伝ってあげないと起き上がれないみたいだから、いつまでも見てないで助けないと。


「せーのっ、んん……! ふぅ、ビートも重くなったね」


 ビートの背中に手を入れて、思いっきり持ち上げる。

 まあ、こうしてビートの体重を実感したのは今回が初めてだから、重くなったも何もないんだけど、そこは気分ってことで。


「さて、リセットしないで済むようにしようとは言ったものの、具体的にどうしようか」


 《ユニオンアタック》のために、ビートの相棒となるモンスターを呼び出すのなら、最低限ビートの動きについて行ける子でなきゃいけない。

 けれど、ビートのステータスはコストの重さに相応しく、召喚モンスターとしてはかなり高い。

 一対一の話をするなら、リン姉の召喚モンスターにだってよっぽど負けないと思う。以前動画で見た、ケルベロスキメラ相手だと流石に無理そうだけどね。

 そんなビートの相棒なんだから、生半可なモンスターだと《ユニオンアタック》の強みを上手く活かしきれないかもしれない。

 問題は、私のMP量的に、ビートと同程度まで強化したモンスターを使うことは出来そうにないし、そのバランスをどうするかってことなんだけど……。


「うーん、遠距離攻撃持ちか、AGIの高いモンスターを選ぶか……どっちにしても、少しでも強化するためには、私自身のMPを増やすのが一番か」


 MPが足りないから、ビートについて回れるほどの召喚モンスターを用意出来ないなら、そのMPを増やしてしまえばいいという単純な話。一応、そのための方法もいくつか考えてはいる。


 1つは、私自身のレベルを上げること。これが一番シンプルで無駄がないけど、その分一番時間がかかる。


 2つ目は、ステータス増強系スキルの1つ、《魔力強化》を習得すること。

 これもスキルレベルに比例して強化されていくからレベリングは必須だけど、既にレベル30後半になっている《魔物使い》のレベルより、レベル1スタートのスキルレベルの方が上げやすいから、こっちの方が手っ取り早い。

 難点は、スキルスロットが1つ埋まっちゃうことかな?


 そして最後の1つ。アップデートによって追加される新エリア、《採掘場》を見ていた時に思い付いたことだけど、《海杖オリンポス》に続く、新たな短杖(ワンド)をウルに作って貰うことだ。それも、MP最大値上昇効果に注力したタイプを。


「んー、まあ、全部並行してやれなくもないし、まずはウルのところに行ってみようかな」


 まずはどれくらいの物が作れるのか、聞いてみないと始まらない。

 それに装備と言えば、未だにライム達モンスターには何の装備も持たせてないから、その辺りを改善するのも、オークナイト討伐には役立つと思う。

 実のところ、リン姉のゴブリンを見た時から、その発想自体はあったんだけど……スライムや昆虫に合った装備って何だろう、っていう切実な疑問があって、保留にしてきた経緯がある。

 下手な物を身に着けさせても、この子達にとってストレスにしかならないだろうし。食べ物と違って、とりあえず片っ端から買ってどれが気に入るか試すなんて出来るほど、私に財力はないしね……。

 でも、いつまでも悩んでたって答えは出ないんだし、いっそその辺りも、この際だからまとめてウルに相談しちゃおう。もしかしたら、頼めば試着とかさせてくれるかもしれないし。


「さて、そうと決まれば早速行こう、フローラ、おいで」


「だー!」


「――!」


「ピィ!」


 ライムと一緒に遊んでいたフローラを呼んで胸に抱くと、甘えん坊のライムとフララが呼ぶよりも先にやって来て、それぞれ両肩に留まる。

 本当は、ライムとフララにはミニスライム達と畑のお世話をしていて貰おうかと思ってたんだけど……まあ、いっか。


「ビート、私達が帰ってくるまで、みんなのお世話お願いね。ムギ達も、畑の作物、勝手につまみ食いしちゃダメだよ?」


「ビビ!」


「――!!」


 任せとけ! って感じにビートが器用に敬礼を返してくれ、ムギの方はと言えば、心外な! とばかりにぷるぷると怒りを露わにする。

 ごめんねムギ、気持ちは分かるけど、後ろの子達を見てると不安でしょうがないの。トロロとかプルルとか、実りかけの《南国バナナ》をすっごい顔(?)で凝視してるし。まあ、バクやライスみたいにしっかりしてる子もいるから、大丈夫だとは思うけど。


「それじゃあみんな、行ってきます」


 テイムした使役モンスターはHPが0になって倒された時以外、常にフィールドに出しっぱなしだからともかく、召喚モンスターはホームの中以外では、MPを消費する関係上出しっぱなしには出来ない。

 そういう理由もあって、ちょっと街中に出かける時は、ビート達がお留守番で、ライム達を連れていくって形が基本になってるけど、この制限のせいで構ってあげられる時間に差が出来て、ちょっと申し訳ない気持ちになる。どうせなら、アップデートでこの辺を調整してくれればよかったのに。

 せめて、何かお土産でも買ってこよう。そう思いながら、私はビート達に手を振って、グライセへと向かう転移ポータルに足を向けた。





「ごめんくださーい」


「はいよー」


 グライセの中央広場北側、言わずと知れたウルのお店にやって来た私は、声を駆けながら中へと入る。

 途端、目に入ったのは私の声に反応してくれた店主のウル……ではなく、入り口の傍に佇んでいた、巨大な熊の着ぐるみ姿のパパベアーさんだった。


「パパベアーさんもお久しぶりです」


「ああ、と言っても、2週間ぶりくらいだったか。新しいモンスターを連れているな?」


「うん、可愛いでしょう」


 とは言え、私だってもう何度も会ってるわけだし、いい加減パパベアーさんの容姿には慣れてきた。

 特に臆することもなく挨拶し、パパベアーさんも何気なく片手を上げてそれに応え、新顔のフローラの紹介を済ませる。

 そんな、極々ありふれたやり取りの後に、パパベアーさんは「ようやくここまで来たか……」なんて感慨深そうに小さく呟いてるけど、まあ、着ぐるみでよく分からなかったってことで、触れないでおいてあげよう、うん。


「今日はどうしたの? 武器のメンテ?」


「うん、それもあるけど、ちょっと装備のことで相談したいことがあって」


 私はウルにかいつまんで、短杖の強化とライム達の装備を作ってあげたいことについて話す。

 そうすると、ある程度予想はしていたのか、ウルは納得した様子で頷いた。


「とりあえず、《海杖オリンポス》の強化なら問題ないよ。ライムちゃん達の装備については、装備の種類と必要な効果について相談してからかな? ただ……」


「ただ?」


「ちょうど新エリアも実装されたことだからね。このアップデートの流れに乗って大儲けするためにも、出来ればそこから採れる新素材を使って色々試してみたいんだ」


 ウル曰く、アップデートの内容が発表されてから、短杖の製作依頼が増しているらしい。

 私の場合は考え無しに強化し過ぎたのもあるけれど、リン姉みたいなガチプレイヤーだって自分のMP量と相談しつつ、最大限に力が発揮出来るように召喚モンスターの強化を行ってきたはずで、今回のアップデートはそれをひっくり返すような事態だ。まずは武器の見直しから入ろうっていうのは、私でだって簡単に思い付いたことだし、他の人が実践していても不思議はない。


「そういうわけで、せっかくだから、イベント中に作った《蒼氷合金》みたいに、新しい素材使って新しい短杖を共同開発しない? ライムちゃんの手助けがあれば、検証もかなり捗るし、上手くいったら今考えてるのよりいい装備が作れるし、値段もオマケしてあげるよ」


「うん、もちろんいいよ。私としても大助かりだし」


 ライムの……というより、モンスター達の味の好みに関する仕様は、私の目利きとウルの予想を合わせて、推測の域は出ないもののおおよそ把握できている。

 恐らくモンスターは、よりレア度の高い……上位のアイテムであるほど、その味を美味しいと感じるだろうということに。

 普通に考えれば、レアなアイテムほどモンスターが気に入るっていうのは当然のことなんだけど、このゲームにおけるレア度はあくまでマスクデータの代物だ。だからこそ、そのマスクデータをある程度知ることができる私とライムのコンビは、ウルにとってかなり得難い物らしい。


 スライムをテイムすればいいじゃん、とは思ったんだけど、そもそもスライムの細かな反応の違いを見分けられる人が、私以外には掲示板でも聞いたことがないって言われてしまった。

 なんでも、テイマーご用達のモンスター掲示板でも質問してみたけど、全く分からないって言われたんだって。そんなに分かりづらいかな? スライムの反応。

 まあ、そのお陰でこうして、ウルと一緒に新しい合金を作れるわけだし、その上新しい武器を格安で作って貰えるんだから、私としては万々歳なんだけどね。


「それじゃあ早速、明日からやれる? ちょうど、パパベアーさんと一緒に採掘場に向かおうっていう相談してたところだったんだよね」


「いいよ、学校あるから帰ってからになるけど」


「それは私やパパベアーさんも同じだから問題ないよ。そうだね、18時くらいからでどう?」


「おっけー」


 予定を擦り合わせ、明日の約束を取り付けると、その場は解散となった。


 帰り道、ビート達のお土産にとグライセの商店街でお買い物していたら、ライムとフララ、そしてフローラのおねだり攻撃によって更なる出費が重なったりもしたんだけれど……そこはうん、ご愛敬、ということで。

ふと、ウルのところに来る時はサブタイに化け熊さんしか付けてないなと気付く

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