第103話 卵の孵化と初めての授乳?
ネスちゃんが復活した後、改めて攻略を再開したわけだけど、流石にパニックゴーストの奇襲を考えると、ネスちゃんを前に立たすのは危ないってことで、リッジ君が扉を開けることになった。
部屋の扉にリッジ君が手を伸ばすと、ゴーストの腕がにょきっと生えるように飛び出してきて、リッジ君の腕を掴む。
それに続いて、凶悪な顔をしたゴーストの頭が、すーっと扉から現れて……
「《一ノ型・椿》」
即座にリッジ君に首を跳ねられて、ポリゴン片となって砕け散った。
ネスちゃんがあれだけ声を上げ、私もその余りの恐怖で動けなくなった相手を、一切動じることなく淡々とした様子で蹴散らされるそれを見ていると、それはそれで何とも微妙な気分にさせられる。
いや、頼もしいんだけどね? うん、何と言うかこう、子供って知らないうちに大きくなっていくんだなぁっていうか。
いや、それは違うか。
「どうかした?」
「ううん、何でもない」
自分のメンタルの弱さを再認識して微妙に落ち込みながら、心配してくれるリッジ君には適当に誤魔化すと、同じように心配して体を寄せ、励ましてくれるライムにほっこりしつつ、先へ進む。うん、こんなことで一々落ち込んでたらキリがないよね、頑張らないと!
とは言え、元々レベルだけを見るならソロでも探索くらいは十分可能なエリア、時々驚かされる仕掛けはあっても、HP的にピンチになることなんてまるでない。
時々、私やネスちゃんが悲鳴を上げたり、その都度リッジ君が華麗に助けに入って、私はともかくネスちゃんが顔を赤らめる展開を挟んだりしつつも、結果としてはあっさりと最後の部屋、下へ続く階段のある部屋へとやって来た。
懸念だったPKトリオの気配もなく、扉を開けてもモンスターの1体もいない、情報通りの様子にひとまずは胸を撫で下ろす。
「ミオ、この階段を降りたら後はボス戦だ。それを突破した後は、鉱山の町《バルロック》に通じる道と、高難度の《白虎の氷窟》に続く道とに分かれているが、どちらもミオの目的の1つだと言うスケルトンは出ない。素材が足りていないのならば一度引き返した方がいいが、どうする?」
「ん、ちょっと待ってね……」
ネスちゃんにそう言われ、改めてインベントリの中を確認してみれば、《スケルトンの骨粉》は30個ほど集まっていた。
1個で肥料1つ分になるし、今私が所有してる農地一面に撒く分には十分かな? 肥料1つで3日間は効果が続くから、しばらくは持つだろうし。
「うん、当面はこれで大丈夫かな。ありがとうネスちゃん、リッジ君、手伝ってくれてありがとうね」
「気にしないでいいよ、それに、まだボス戦も残ってるしね。お礼はそれが終わった後にでも」
「うむ、ミオの料理、楽しみにしているぞ!」
あ、ネスちゃんは料理で確定なんだ。まあ、分かってたことだけどね。
その食欲に忠実なネスちゃんの反応に微笑みを浮かべていると、ふと、《スケルトンの骨粉》の数を確認するために開いたインベントリの中に一つ、何やら目立つアイコンがあることに気が付いた。
「うん? これは……」
それは、イベント以来、ずっと大事に持っていた《モンスターの卵》。そのアイコンが、ピコピコと光りを放っていた。
これは、もしかして……そう思い、私はアイコンをタップして、卵をインベントリから取り出す。すると案の定、卵はピコピコと忙しなく動き、今にも孵化しそうになっていた。
「む? どうしたのだミオ」
「卵が! もう孵化しそう!」
「えっ、今!?」
まさかの事態に、リッジ君もネスちゃんもオロオロとし始める。不幸中の幸いというか、今いる場所は下層へと続く階段の部屋で、モンスターは出現しないセーフティエリアだから、大丈夫だとは思うけど。
「あっ、罅が……」
そうこうしているうちに、卵の頭頂部から罅が入り、身動ぎするかのように揺れる度、それが徐々に広がっていく。
私達3人と、ライム、フララの2体も含め、みんなが固唾を飲んで見守る中、やがて罅は一番下まで到達し、最後に一際強く揺れ動くと――
「だーっ!」
卵の殻が一斉に砕け散り、中から小さな1人の女の子が姿を現した。
「えぇ!?」
予想外の姿に、私を含め全員が一瞬の硬直を余儀なくされる。
現れた女の子は、卵のサイズからさほど変わらず、すっぽりと私の腕の中に納まる程度。頭の上には満開の花が咲き、体は葉っぱを重ね合わせたような服装で身を包んでいる。肌や髪の色は緑っぽく、それを見れば頭上のアイコンを確認せずともモンスターだと分かるけど、それにしたって幼女としか言い様がない可愛らしい見た目は、否応なしに母性をくすぐられる。
「だー、だー!」
しかも、そんな子が無邪気に、私に甘えるように抱き着いてくる。これはもう、やばい。理性がもたない。
「か……可愛いっ!!」
「だふっ」
叫ぶと同時に、私は目の前の子を思い切り抱きしめる。
何この可愛い生き物。私もうこの子のママになる。お持ち帰りする。
「えっ、何その子、モンスター、なの?」
「一応人型のモンスターはいくつかいるが……これは見たことがないな。ミオ、そのモンスターは何という名だ?」
「あ、そうだ、忘れてた」
ネスちゃんに促され、私は抱きしめる力を緩めると、早速この子のステータスを確認する。
どれどれ……?
名前:未設定
種族:アルラウネ Lv1
HP:35/35
MP:80/80
ATK:50
DEF:70
AGI:45
INT:55
MIND:65
DEX:80
スキル:《成長促進Lv1》《地属性魔法Lv1》《モンスター誘因Lv1》《蔓操作Lv1》
「へー、アルラウネかぁ」
植物の精霊? 魔物? だっけ。まあ由来はよく分からないけど、可愛いから細かいことはいいや。それより、《成長促進》って、確かクルトさんが言ってた収穫ペースを速めるスキルだよね? ちょうど取ろうか迷ってたところだし、何というグッドタイミング。まさに救いの天使だよこの子。
「アルラウネか、やはり聞いたことがないな。《モンスターの卵》限定で入手できるモンスターだろうか? とは言え、スキルはそれほど奇抜な物はないようだな、どれも聞き覚えがある」
「そうなんだ?」
ネスちゃん曰く、《成長促進》は私が聞いた通り、《地属性魔法》もそのまま地属性の魔法が使えるスキルとして、《モンスター誘因》は、周囲にいるモンスターのヘイトを無差別に集めるスキルらしい。何もいなければ、モンスターのPOPが促進されるとか。
《盾》スキルの《ヘイトアクション》よりモンスター単体に対しての効果は低いけど、その分普段のレベリングで重宝されるんだって。
《蔓操作》は、ライムの《触手》スキルの仲間だって。試しに使って貰ったら、体のどこからともなく蔓が伸びてきて、結構器用に操作できるみたい。
とは言え、あんまり戦闘向きの子じゃないのかな? 《地属性魔法》は、基本的に防御や妨害、フィールドワークに便利な魔法が多いらしいし。
「それでミオ姉、名前はどうするの?」
「あ、そうだね。うーん、名前、名前か……」
ネスちゃんと一緒に考えこんでたけど、まずはそっちの方が大事だった。
私は、腕に抱いた植物の幼女を眺めながら頭を捻り、そしてピンと来た。
「よし決めた、あなたの名前は『フローラ』ね!」
「だー!」
いつものように、パッと思い付いたのをそのまま付けると、気に入ってくれたのか、きゃっきゃっと嬉しそうにはしゃぎ始めた。可愛い。
「しかし、どちらにせよ卵から孵ったばかりでは、今回の戦闘には使えなそうだな」
「うーん、それは確かに」
気になるスキルはあるけど、肝心のレベルがどれもまだ1だし、ステータスも産まれたてじゃ貧弱極まりない。危なくて、とても今回は役立てられそうにないよ。
まあ、パーティメンバーにしておけば、経験値は最低限入ってくるし、そこはやっておくけどね。パワーレベリングみたいであまり好きじゃないけど、仲間外れは可哀想だし。
「まあ、仕方ないね。けど、ステータス見る限り、この子お腹空いてるみたいだから、ボス戦前に何か食べさせてあげないと」
「む、仕方ないな。ならば待っていよう」
ごめんね、とネスちゃんに断りを入れつつ、私はインベントリに何かないかと漁ってみる。すると……
「うーん、これくらいかな?」
取り敢えず、出てきたのは大きなメロンだった。グライセで買ったんだっけ? 美味しかったら畑に植えようと思ってたんだよね。
「それじゃあフローラ、今切り分けるからちょっと待って……」
「だっ!」
「あっ、フローラ!?」
流石にこんな大きなメロン、そのままじゃ食べれないだろうと腰の包丁に手をやった隙に、フローラはメロンを私の手からひったくると、そのまま大きく口をあけて齧り付いた。
「こ、こらフローラ、メッ! ぺっ、しなさいぺっ!」
明らかに小さな口に対してサイズオーバーなそれを見て、慌てて吐き出させようとするけれど、フローラはそんな私に構わずに、はぐはぐとメロンを食べ進め、どういうわけか綺麗さっぱりお腹の中に収めてしまった。もちろん皮ごと。
「けぷっ」
「うそー……」
可愛らしいげっぷと共に、私の腕の中で満足そうにお腹を擦るフローラを見て、もはや開いた口が塞がらない。うーん、流石ファンタジー……で、いいのかな、これ。
「ミオ姉のモンスターって、なんでこうどれも食に対して貪欲なんだろう……?」
「ミオの料理が美味いからではないか?」
「いや、少なくともフローラはまだ私が作ったもの食べさせてないから。これ市販品だから」
あまりの光景にフリーズしていた頭が再起動したのか、リッジ君とネスちゃんが口々にそんなことを言い始める。
私の料理を褒めてくれるのは嬉しいけど、今回に関しては完全に冤罪だよ、私は何も悪くない。
「ともあれ、満足したようだし、そろそろ行くぞ」
「あ、いや待って、確かにサイズ的には満足してなきゃおかしいくらいだけど、システム的にはまだ満腹度ゲージ回復しきってないから」
「ああ、確かにメロン1個じゃ回復しないだろうけど……うーん、あれを丸々1個食べた後、まだ入るんだ……」
リッジ君が戦慄を覚えたかのようにしみじみと呟くけど、それに関しては私も激しく同感だよ。
まあ、体積の話をし始めると、ライムの食べる量を見慣れてるからまだ常識的な範囲と言えなくてもないんだけどね。
そう思いながら、私は更なる食材アイテムを取り出そうと、インベントリを開き直し、画面上に指を走らせていた時。事件は起きた。
「だー……」
フローラが、私を……正確には、さっきからずっと抱っこしてる関係でちょうど目の前にある、私の大きな胸を凝視していた。
私達の誰も、それを深く考えずに放置していたんだけど、空腹状態のままそれを見続けていたフローラには、それが先ほどのメロンと同じ物にでも見えたのか、不意に口を大きく開き……
「はぐっ」
ぱくりと、私の胸にそのまま齧り付いた。
「ふひゃあ!?」
「ミオ姉!?」
普通はこんな風に噛みつかれたら痛いはずなんだけど、ゲームの中では痛みの感覚は大きく制限されている。それによって、フローラがガジガジと噛む度に、何とも言えない絶妙な刺激が胸から全身へと駆け巡った。
「やっ、ちょっ、待ってフローラ、それ以上は、ダメ、ひあんっ!」
胸を噛みつかれ、そのままもごもごと服の上から齧られて、変な声を出しながらその場に座り込んでしまう。
そんな私の姿を目の当たりにして、リッジ君は瞬時に顔を赤らめ、あわあわと狼狽し始めた。
「おいこらリッジ! 何をガン見しておるのだ、お前は後ろを向いておれ!」
「えっ、いや、でも、ミオ姉助けないと……」
「ええいっ、やかましい! こんなシーンを男が見ていいわけあるかっ、天誅!!」
「あだっ!?」
ネスちゃんの長杖で顔面を強打され、若干HPを減らしながらリッジ君が蹲る。そんな姿を視界の端に捉えながら、ひとまず私はフローラの説得を試みる。
「ふ、フローラ、そ、それは食べ物じゃないから、もっと美味しいの出してあげるから、だから離して、ね?」
出来るだけ優しい声で、フローラにそう投げかける。
フローラは、そんな私に対して視線だけ向けると、とても無邪気で可愛らしい笑顔を浮かべ……
「やっ!」
そう、無慈悲に否定の言葉を紡ぐなり、もう一度噛みついてきた。
「ふひゃああん!?」
「ミオ、待っておれ、今助けるからな!」
「え? えっと、優しくね?」
「無茶を言うな! ともかく引っ張るぞ、ふぬおおお!!」
「あっ、ちょっとダメ、そんなに引っ張っちゃ、ふあぁぁ!?」
噛みついたままのフローラを引っ張られ、私の変な声が《ゴスト洞窟》の暗がりの中へと響いていく。
その後、しばらくの間繰り広げられたフローラとの激闘により、私はすっかり腰が抜け、しばらく先へ進むことが出来なくなってしまった。
なお、そこから更にもうしばらく、リッジ君が真っ赤に茹で上がったまま、私の顔を直視出来なくなってしまったわけだけど、決して私のせいじゃないと思う。
多分。
NPC以外では何気に初の人型モンスターはアルラウネです!(ただし喋る時は一音のみ)




