第102話 流れ作業と悪霊襲撃
ミミックの対処のやり方を教えて貰った後は、ほとんどがただの作業だった。
部屋の中に入ってるスケルトンは4~6体と決まっていて、その配置も概ね《感知》スキルで大体察知出来たし、ミミックも1度見た後は特に驚くこともないから、順調に素材集めを進められた。
「行くぞ、《ファイアストーム》!!」
「わっ、ネスちゃん早いって!」
だから、最初に決めた役割分担も適当になって、ネスちゃんが事前に魔法を発動待機状態にしたまま扉を開け、それと同時に範囲魔法をぶっ放して殲滅する、かなり強引な手段を取り始めた。
まあ、開けたらいきなり目の前にスケルトンがいるとは言え、事前に分かってればそこまで動きの素早い敵でもないし、特に危なっかしいってこともないんだけど……。
「ネス、余裕だからって油断し過ぎない方がいいと思うよ?」
「何、心配はするなリッジ、この程度の敵、我が覇道の敵ではない!」
胸を張り、高笑いするネスちゃんをリッジ君が窘めるも、あまり効果は無さそうだ。
まあ、リッジ君の前でカッコつけたいのは分かるし、スケルトンの素材は誰が倒そうと等しくドロップするから、それは別に良いんだけど……。
「ううん、気を付けた方がいいよ、もういないとは思うけど、さっきこの先に、前に一度襲われたことのあるPKが逃げ込んでったし」
そんなネスちゃんを見ながら、何となしにさっきのことを思い出し、リッジ君に便乗する形でそう告げる。
すると、一気に場を静寂が満たし、2人の視線が私を射抜く……って、あれ?
「ミオ姉、前に会ったPKって、妖精蝶の時の?」
「うん、そうだよ。……言ってなかったっけ?」
「聞いてないぞミオ!」
ネスちゃんに文句を言われて、改めてリッジ君に会ったところまで記憶を遡ってみれば、確かに言ってなかったかもしれない。
どうやら、ネスちゃんとリッジ君の関係がどうなるかってところで頭がいっぱいで、PKのことは記憶の片隅に追いやられていたみたい。うん、まあ、あの3人だしね、仕方ないよね。
「だがそういうことなら、いっそ宝箱も気にせずに初撃で隙間なく部屋の中を範囲攻撃で一掃した方がいいかもしれんな。得られるアイテムがドロップ品だけになるが……」
「元々《スケルトンの骨粉》が目的だからそれは別に良いんだけど、さっき対峙した感じ、私の《感知》スキルの方が向こうの《隠蔽》スキルより上みたいだったし、そこまで警戒しなくてもいいんじゃない?」
私のレベル、プレイヤー全体から見てもそれほど高くないはずなんだけど、それよりも低いあの3人って一体……襲われた時期からして、向こうも初期参入組のはずなのに。
……やっぱり、実は初心者狩りしようとして返り討ちに遭ってるせいで、レベル上がってないのかな。PKは倒されるとレベル下がるらしいし。
まあ、それならそれで、最初にまんまと倒された私が悲しくなってくるけど。
「基本的に、《感知》スキルの方が《隠蔽》スキルよりも優位に働くからな。しかし、障害物を挟むと精度は落ちるし、やはり確実とは言えまい」
「いや、それならそれで、最初に扉を開けるネスちゃんが危ないってことなんだけど」
私がそう懸念を口にすると、ネスちゃんは勿体付けるように、ちっちっちっと指を振ってみせる。
「扉を少しだけ開けて、隙間から魔法を打ち込めば問題ない。流石に、僅かばかり空いた隙間に必殺の一撃を放てるような位置取りなら、ミオの《感知》が開ける前に察知できるであろうしな」
「なにそれズルイ。そんなこと出来るの?」
「狙いが付けられるのは見える範囲だけだが、範囲魔法は起点となる中心さえ見えていれば、視界外の標的も攻撃出来るからな。裏技のようなものだ」
「なるほど」
「けど、そういう矢面に立つような役割は、やっぱり僕がやった方がいいんじゃ?」
ネスちゃんの説明に私は納得するものの、やっぱりこのパーティ唯一の前衛としては承認しかねるようで、リッジ君が渋い表情でそう提案する。
けれど、ネスちゃんは「心配いらない」とばかりに笑顔を見せる。
「大丈夫だリッジ、我に任せておけ! 魔法を撃った後、突入する役割はどちらにせよリッジに任せることになるであろうしな」
「うーん、そこまで言うなら、分かった。任せるよ」
「うむ!」
リッジ君も認めたところで、改めて私の《感知》スキルで中に敵がいるかどうかだけ探りつつ、ネスちゃんに魔法を打ち込んで貰うスタイルで、部屋を一つずつ掃除し始めた。
まあ、これだと宝箱が焼けちゃうんだけど……PKに不意打ちされるよりはマシだし、宝箱から手に入るのは《HPポーション》だの《解痺ポーション》だのばっかりで、運が良くてもそこそこ止まりの装備品しか出ないから、手に入らなくてもそこまで痛くはない。ポーションくらいなら作ればいいしね。
「さて、それでは開けるぞ」
そんなこんなで、また新しい扉の前で、ネスちゃんが私とリッジ君に声をかけてくる。その声色は、特に気負った様子も緊張した様子もなく、何なら油断していると言っても過言ではなかった。
けれど、このタイミングではまだ仕方ないことだとも思う。これまで部屋に潜んだモンスターは全て、扉の奥に待ち構えていて、開けると同時に襲い掛かってきたし、例えPKが潜んでるにしても、やっぱり開けた瞬間が一番無防備だから、狙われるとしたらそこだろうし。
扉を開ける前のこの時は何もないと、ネスちゃんだけじゃなく、私やリッジ君も思い込んでいた。
そんな状態で、ネスちゃんがドアノブに手をかけようとした……その瞬間。
「……へ?」
ぬっ、と半透明で真っ白な手が扉を透過し、ネスちゃんの手をガシッと掴み取った。
それが一体何なのか、その場の誰もが一瞬理解が追いつかないうちに、手に続いてもう一つ、青白い顔をした女の顔がせり出してきた。
それは、自らの手で掴んだネスちゃんを目にすると、ゆっくりとその口を開いていく。
普通の人ならこれ以上開けられないというほどに開いても、その口は動きを止めることなく、耳の辺りまで裂けさせながら、真っ赤な口内をまざまざとネスちゃんに見せつけ……
「「ひやぁぁぁぁぁ!!?」」
「ネス!!」
ネスちゃんと、ついでにその後ろで見ていた私が大きく悲鳴を上げる。驚いたネスちゃんが尻餅をつき、発動待機状態だった魔法がキャンセルされた。
突如現れたそのモンスターは、大口を開けたままそんなネスちゃんに食らい付こうとしたけれど、それよりも一瞬早くリッジ君が間に飛び込み、氷属性が付与された斬撃でその白いお化け……上の階層で散々見て来たゴーストに酷似したそれ、パニックゴーストを切り裂いた。
パニックゴーストはそれに怯み、扉の奥へと引っ込むけれど、モンスターの攻撃はそれでは終わらなかった。
パニックゴーストの動きに合わせるように、扉を蹴破りながら、次々とスケルトンが飛び出してきたのだ。
「《三ノ型・紅葉》!!」
けれど、リッジ君は慌てることなく刀を構え、範囲攻撃のアーツを使用する。
アーツの力で、普段の刀よりもリーチが長くなった居合による斬撃が周囲を一閃すると、それだけで飛び出してきたスケルトンは1体残らずポリゴン片へとその姿を変えた。
残るは、ダメージを受けたことで扉の奥に引っ込み、部屋の真ん中で漂っているパニックゴーストのみ。
「これで終わりだッ、《二ノ型・疾風》!!」
それを確認するなり、リッジ君はアーツによる補助を受けながら、その場に残像を残す勢いで一足飛びにパニックゴーストの懐まで飛び込み、ライトエフェクトを纏う氷の刃を煌かせる。
目にも止まらぬ斬撃により、そのおぞましい顔面から真っ二つに両断されたパニックゴーストは、さっきのダメージと合わせてあっさりとそのHPを0にし、すぐさまスケルトン達の後を追うことになった。
その一連の流れを、私とネスちゃんはただポカーンと見つめていることしか出来なかった。ぶっちゃけ、パニックゴーストの顔が怖すぎて、間近で見たわけじゃないのに私も未だに膝が笑っちゃってるもん。
グレムリンのいる場所を突破した以上、もういらないかと思ってたけど、《強心の丸薬》、やっぱり追加で使っておいた方が良かったかな?
「ふぅ……ネス、無事?」
キンッ、と澄んだ音を立てながら、リッジ君が納刀し、見る人を安心させるような柔らかな笑顔を浮かべながら、傍で尻餅を付いているネスちゃんに手を差し伸べる。
どうしよう、うちの従弟がカッコイイ。あんな風に颯爽と助けられた上であんな笑顔向けられたら、私だったらコロっと落ちちゃいそうだよ。
案の定、ネスちゃんもそれはもう顔を真っ赤にしちゃってるし……あれはもう、完全に落ちたね。うん、なんて言うか、おめでとう?
「う、うん、なんとか……」
ネスちゃんが、普段の尊大な口調すら鳴りを潜めて、おずおずとリッジ君の手を握る。
けれど、完全に腰が抜けてるのか、手を握ったまま軽く引っ張った程度じゃ起きようとしないネスちゃんの様子を見るなり、リッジ君はすぐに手を離すと……お姫様抱っこの要領で、その体を抱き上げた。
「~~~っ!!?」
「よいしょっと。ミオ姉、扉を開けなければモンスターは出てこないと思うけど、一応セーフティエリアに戻った方がいいと思うんだけど、どうかな?」
「あー、うん、そうだね」
「?」
腕の中で、喜びと羞恥とそれに伴う怒りかなんかがない交ぜになった、ネスちゃんの百面相が繰り広げられていることにも気付かないまま、リッジ君が私に提案してくる。
そんなリッジ君を見て、呆れるような感心したような、これまた微妙な心境になるけれど、さりとて腰が抜けてる今のネスちゃんを放っておくわけにも行かないから、すぐにこの階層の入り口、階段のところまで引き返した。
「うぅ……すまない、パニックゴーストが出ることは知っていたが、まさかあんな風に襲われるとは思っていなかった……情けないところを見せてしまった」
階段のすぐ脇にあるセーフティエリアに到着すると、リッジ君の腕の中から解放され、ようやく落ち着きを取り戻したネスちゃんが、開口一番にそう謝罪した。
口調こそ普段の感じに戻ってるけど、格下のモンスターにしてやられたのがよっぽど悔しかったのか……それとも、リッジ君に助けられて、しかもお姫様抱っこまでされたのがよっぽど恥ずかしかったのか。私としては後者の比率の方が高いんじゃないかと思うけど、ともかく顔を真っ赤にしてプルプルと震えながら項垂れる姿は、中々に哀愁を漂わせていた。
「仕方ないよ、あれは僕らも予想外だったし。まさか扉そのものを透過してくるなんて思わなかったもの」
だからこそ、リッジ君もそんなネスちゃんを慰めようと言葉をかけるけど、ネスちゃんは中々立ち直れない様子。
仕方ない、ここは将来の妹候補のために、私が一肌脱ぎますか!
「そうそう、それにあのゴースト、すっごく怖かったし。間近で見たわけでもないのに、私も足が震えて動けなかったんだからね?」
「そ、そうなのか?」
「そうだよ」
敢えて自分の情けないところを晒し、自分はそれよりもマシだと思わせる作戦。あからさまだけど、ネスちゃんは意外そうな表情を浮かべながら顔を上げてくれた。
そしてそれはネスちゃんだけじゃなく、リッジ君も同じだったみたい。
「ミオ姉なら、お化けもペットにするとか言うかと思ったのに……意外」
「いや、うーん、それは物によるかな?」
イベントの時にリン姉が召喚した、ウィルオーウィスプとかなら、可愛げもあって好きなんだけど。今出て来た悪霊みたいなのは普通に怖い。
「だから、ネスちゃんが驚くのも無理ないよ。それに……」
「それに?」
リッジ君に聞かれないよう、そっとネスちゃんの耳元に顔を寄せる。そして、こそっと一言。
「リッジ君みたいな男の子からすれば、完璧超人よりも、ちょっとした弱点があって守ってあげたくなるような子の方が、好かれやすいと思うよ?」
「っ!!? なっ、何を言っている!! 我は偉大なる深淵の支配者、爆炎を操る最強の魔導士、ダークネスロードなるぞ!! 我に弱点などないのだ!!」
私が囁くと同時に、羞恥心と反骨精神からか、一気に元の調子を取り戻し、いつものように名乗りを上げるネスちゃんの様子に、私は一安心する。
まだまだ素直にはなれないみたいだけど、ひとまず元気にはなったみたいで良かった。
「ふふふ、それなら、落ち込んでるなんてらしくないよ? リッジ君と並び立てるくらいカッコいいところ見せないとね?」
「当然だ、見ていろリッジ、お前にも真なる闇の炎の力を見せてくれよう!!」
「えっと、う、うん?」
急に元気になったかと思えば、なぜか宣戦布告するかのようにビシィ! っと指を突きつけるネスちゃんの様子に困惑しつつ、それでも「まあ、元気になったならいいか」なんて一人納得するリッジ君。
そんなやり取りを見ながら、私は2人の行く末を思い、くすくすと笑みを浮かべていた。
そういえば、この作品が出版予定のBKブックスが発足して早一週間弱……順調に売れてるといいんですが、はてさて……
まあ、私などが心配するなんておこがましい方ばかりですが(;^ω^)




