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テイマーさんのVRMMO育成日誌  作者: ジャジャ丸
第五章 食糧難と農地改革
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第101話 大広間とミミック攻略

 暗い《ゴスト洞窟》の中では、普通より時間が経つのがゆっくりに感じるのが普通な気がするんだけど、セーフティエリアでリッジ君とお喋りに興じてると、思ったよりも早く時間が過ぎてたみたい。


「はあっ、ふぅ、遅くなったな!」


「あ、ネスちゃん」


 ただ、ゲームの中なのに疲れた様子のネスちゃんを見てると、単に来るのが思った以上に早かったっていうのが理由なのかもしれないけど。

 どれだけ急いで来たんだろう……


「お疲れ様。失敗作の激甘ポーションならあるけど飲む?」


「飲む」


 即答するネスちゃんに、インベントリから取り出したポーションを手渡して、そのまま飲んで貰う。

 これは、HPとMPを同時回復させるポーションとか作れないかと思って、《薬草》と《霊草》、《ハチミツ》に《ムームーミルク》、《傷癒茸》に《ヒカリゴケ》と、あれやこれや色んな組み合わせで混ぜまくっていたら出来た代物で、追加効果はHPMP共に30回復という初心者用ポーションもびっくりな低回復力。当たり前だけど実戦で使えるわけがない。

 ただ、味の方はかなり特徴的な仕上がりになってるから、果たしてネスちゃんはどういう評価を下すのか。固唾を飲んで見守っていると……


「ぷはぁ、不味い!! もう一杯!!」


「えっ、まだ飲むの!?」


「うむ、冗談だ」


 しれっと答えるネスちゃんにずっこけながら、それも仕方ないかと私は苦笑する。

 何せこのポーション、とにもかくにも甘すぎる。

 どれくらい甘いかって、あまりの甘さに悶絶した《麻痺ポーション》を更に凝縮して進化させたくらいには甘い。もはや甘さの暴力。フララやビートでも匙を投げるくらいには不味い。

 そんな代物ではあったけど、ライムだけはなぜか普通に飲めたから、もしかしたら甘い物大好きなネスちゃんなら気に入る可能性もあるんじゃ? と思って試飲して貰ったわけだけど、やっぱりダメだったみたい。

 いや、逆に大好きだって言われたらネスちゃんの私生活が心配になるところだったけどね? 主に普段何を食べてるのかってところが。


「まあ、これは流石に一杯飲んだら十分な味だな。そこまで悪くはないのだが」


「ネスちゃん普段何食べて生きてるの? 甘い物以外も食べなきゃダメだよ!?」


 直後にかなりネスちゃんの舌が心配になることを言われ、私は思わず肩を掴んで揺さぶり始めた。

 これが悪くない味って、もはや甘党の域に収まらないよ!? チョコレートとか苦味しか感じないんじゃないの!?


「み、ミオ、流石に我も甘味ばかり食べてるわけではないぞ? 好きではあるが」


「な、ならいいけど」


 ふう、危うくリアルでネスちゃんの家に押しかけて食事事情を改善しないといけないかと思ったよ。いや、ネスちゃんの家がどこか知らないんだけどね?


「ミオ姉、そのポーションそんなに甘いの?」


「うん、滅茶苦茶甘いよ。リッジ君も飲む? 今なら一杯だけ無料だよ~」


「じゃ、じゃあちょっとだけ」


 怖い物見たさ(味わいたさ?)なのか、リッジ君までそう言って興味を示すから、もう一本取り出して手渡す。

 本当はフウちゃんにも飲ませてみたくて余分に用意しておいたやつなんだけど、どうせだからリッジ君にも飲んで貰おう。


「んっ……!? ぶふぅーー!! 何これ、甘っ!? 甘すぎ!!」


「あははは、やっぱりそうなるよねー」


 リッジ君の大袈裟な、それでいて正常なリアクションに、私の舌がおかしくなったわけじゃなかったんだと心の中で安堵の息を吐く。

 ライムも大概だけど、ネスちゃんも味覚がちょっとおかしいから、時々自分が信じられなくなるんだよね。大丈夫そうでよかったよかった。


「ふははは、情けないなリッジ、これくらいの甘味でへこたれているようでは立派な武士になれんぞ!」


「いや、むしろ武士は食わねど高楊枝って言うかね? ていうか、ネスこそ甘い物大好きって、深淵を司る大魔法使いとしてどうなの? イメージ的に」


「何を言うか! 甘い物は魔力の源、むしろ魔法使いこそどんどん摂取すべきなのだ!」


「そ、そうなんだ」


 ネスちゃんの力強い主張に、リッジ君は苦笑気味。まあ、このゲームだとMPポーションとかジュース系の味だし、あながち間違いでもないんだけどね。

 ただそんなことより、私としてはそうして喋ってる2人の距離が、前に《西の森》を攻略した時よりも確実に狭まってることが大変気になる。

 むふふ、これは2人に春の季節が訪れる日もあながち遠くないかな? まだ夏も終わったばっかりだけど。


「ミオ、何を変な顔で笑っているのだ」


「なんでもなーい」


 私に気付いたネスちゃんが怪訝そうな顔を浮かべるけど、私は口笛を吹きながら適当に誤魔化す。

 そんな私を、ネスちゃんはじとーっとした目で睨んでたけど、やがて諦めたかのように溜息を吐くと、仕切り直すかのように口を開いた。


「まあそんなことはいい、それよりミオ、今日は《ゴスト洞窟》の攻略をするんだったな?」


「うん、スケルトンの素材が欲しいから、そのついでにね」


「よし分かった、見ていろよリッジ、イベントの時より更に鍛え上げられた我が魔法、見せてやる! 楽しみにしているがいい!」


「うん、期待してるよ、ネス」


「ふっふっふ」


 リッジ君ににこやかにそう言われ、嬉しそうに胸を張るネスちゃんに、私もまたほっこりとした気分になる。

 いやあ、ネスちゃん、青春してるなぁ……リッジ君の前でカッコつけたいって、何だか男の子っぽい気がしないでもないけど、でもそっちの方がネスちゃんらしいか。

 うん、よし、私も陰ながら応援しよう、ネスちゃんが良い恰好出来るように。


「ミオ姉、何か顔がにやけてるけど、どうかした?」


「ううん、なーんでもないよー?」


 何気に鋭いリッジ君の問いかけを軽く誤魔化すと、私は改めてライムとフララを撫でて、総勢3人(+2体)となった一行を見渡した。


「それじゃあみんな、最下層目指して、頑張るよー!」


「「おー!!」」


「ピィピィ!」


「――!」


 私の掛け声にみんながそれぞれの言葉で唱和し、改めてセーフティエリアから出る。

 レベル的には格下だし、正直言って過剰戦力も良いところな気はするけど、これもまたリッジ君とネスちゃんの将来のため、頑張らないと。

 私一人だけ、そんな若干ズレた目標を内心で掲げながら、意気揚々と次のエリアへと向かって行った。





「おお、これまた変わったところに出たね」


 最初の階層は、グレムリンの嫌がらせ染みた魔法による状態異常攻撃と、ゴーストによる襲撃を切り抜ければ、さほど難しくはなかった。

 そんな階層を抜け、階段を降りた先にある次の階層。私達が足を踏み入れたのは、一本道だった最初のエリアから打って変わって、いくつもの扉が左右の壁に並ぶ、不思議な広間だった。


「ちなみに、ネスちゃんってここクリアしたことあるの?」


「む? あるにはあるぞ。だが、その時はボスが目当てだったから、攻略サイトで調べた最短経路しか通っておらんな。ちなみに、素材集めが目的ならば最短は進まないほうがよいぞ、このエリアは下の階層へ続く当たり部屋以外は、全てスケルトンが出るらしいからな」


「ふむふむ。それなら適当に開けてけばいいかな」


 言われて意識を向ければ、確かに扉の向こうに敵性反応があるし、むしろこれが無い場所を探せば教えて貰わなくても当たり部屋を一発で引けそうではあるけど、今回はむしろ外れ部屋を求めてるんだし、反応のある部屋を開ければいい。

 そう思って、取り敢えず近くの扉に足を向ける私を、リッジ君が慌てて止める。


「あっ、ちょっ、ミオ姉! 危ないから僕が開けるって」


「大丈夫だよ、ライムが守ってくれるから、むしろ出会い頭の不意打ちなら私が一番安全だし。ね、ライム」


「――!」


 私がそう言って顔を向けると、ライムは「その通り!」とばかりに力強くその白銀の体を揺らし、自信を露わにする。

 そんなライムを見て、リッジ君も渋々納得してくれたようで、「そういうことなら」と引き下がった。


「むしろリッジ君とネスちゃんには、私が開けた後の戦闘を任せたいんだよね。そっちの方が適材適所でしょ?」


 扉はパっと見た感じ、外開き戸って言うのかな? 外から引いて開けるタイプみたいだから、すぐに攻撃に移るなら開ける人と攻撃する人は別の方が良いしね。

 そういうわけで、後ろにリッジ君とネスちゃんが構えたまま、私は改めて扉に近づいていく。

 《感知》スキルの反応からして、扉のすぐ先に居るみたいだけど、まあ、多分大丈夫でしょ。


「それじゃあ、開けるよー。フララも2人と一緒に攻撃してね」


 後ろの2人にフララを付けつつそう告げて、頷きが返って来ると同時に、扉を勢いよく開け放つ。

 それと同時に、手に持つ剣で斬りかかってくる1体のスケルトン。でも、そうなることは最初から分かってたから、ライムが《触手》スキルで難なく弾いて、私はその場を譲る。


「フララ、《サイクロンエッジ》!」


「ゆくぞ、《ファイアバレット》!」


 そこへすかさず、フララの風の刃とネスちゃんの炎の礫が炸裂し、私に攻撃してきた1体だけでなく、その奥にいた別のスケルトンも巻き込んで吹き飛んで行く。


「はぁ!!」


 さらにその魔法の後を追うように、刀を携えたリッジ君が部屋の中へ飛び込み、数の減ったスケルトン達を瞬く間に斬り捨てる。

 私が扉を開けてから僅か数秒、あっという間に一部屋分の制圧が終わった。


「予想はしてたけど、予想以上に楽々と片付いたねー」


「当たり前であろう、むしろこんなところで苦戦していてはボスには勝てんぞ」


「あはは、まあそうなんだけどね」


 ネスちゃんのごもっともな意見に、私は笑って誤魔化す。

 そうこうしていると、先に突入したリッジ君が何か見つけたのか、声をかけてきた。


「2人とも、そんなことより部屋の中央に宝箱あるんだけど、開けていいの?」


「ま、待てリッジ! 箱はミミックかもしれんからな、慎重に行くのだ」


 慌てた様子でリッジ君に駆け寄ると、ネスちゃんがミミックの見分け方をレクチャーし始めた。リッジ君に自分の知識を披露したかったのか、熱心な様子で話す姿に、私は思わずくすりと笑みを零す。

 実のところ、私の《感知》スキルがあってもミミックの擬態は見破れないみたいだから、どうやってやるのか私も気になる。というわけで、少し後ろから聞く体勢に。


「一番楽で手間がかからないのは、タンカー役のプレイヤーが宝箱を開けて、噛まれたところを他のプレイヤー達でタコ殴りにすることだ。周りのモンスターよりかなり手強いが、タンカーならよほどでない限り致命傷にはならん。ただ、我らのように常にタンカーが傍にいるわけでもないプレイヤーが同じ手段を取るわけにはいかないからな、そこでだ……」


 ネスちゃんは一度言葉を切り、インベントリを操作してアイテムを取り出す。


「これを使う」


 それは、私にとっても大事な使い道があるから、目に付いたら必ず拾うようにしてるありふれたアイテム。《石ころ》だった。


「それをどうするの? 投げたら擬態が解けるとか?」


「まあ概ねその通りだな。まずは見ていろ……せいっ!」


 ネスちゃんはそう言うと、早速とばかりに石ころを宝箱に投げつける。

 カン、と乾いた音を立て、地面に落ちると、そのままポリゴン片となって消えていく石ころ。けれど、特に何の変化も起こらなかった。


「これで大丈夫なのかな?」


 攻撃を受けたら擬態が解けるなら、石ころをぶつけても平気だった時点で大丈夫かと思って足を進めようとしたんだけど、ネスちゃんはそれを制するように首を横に振る。


「いやまだだ、そりゃ!」


 首を傾げる私達をよそに、ネスちゃんは更に石ころを取り出し、宝箱に投げつける。

 それでも終わらず、3つ、4つと投げた後、次にネスちゃんが取り出したのは、石ころではなく、《謎の木の実》なんて言う、料理にもほとんど使えない、一応食材アイテムに分類されるっていうだけのゴミアイテムだった。

 益々首を傾げる私達をよそに、ネスちゃんがそれを改めて宝箱に向けて投げつけた時――唐突に、変化が起こった。


「キシャアアア!!」


「うわわっ!?」


「ミミックになった!?」


 目の前で突然宝箱から四本の足が生え、口を開いて見るからに凶悪な牙を生やし襲い掛かってくる。

 その急な変化についていけず、私とリッジ君は動けなかったんだけど、ネスちゃんは最初から分かっていたようで、木の実を投げた直後からちゃんと魔法の発動準備に入っていた。


「《ブラストフレイム》!」


「キシャア!?」


 ネスちゃんの発動した炎の魔法に巻かれ、ミミックがあっさりとその身を散らす。

 その鮮やかな手並みに、ようやく硬直から脱した私達2人は「おお~」と拍手を贈った。


「この通り、ミミックは攻撃されれば即座に擬態を解くのではなく、一定のダメージを蓄積してようやく襲ってくる。とは言え、最初から普通の遠距離攻撃をぶっ放しては、ただの宝箱だった場合に無為に消し去ってしまうから、こうして石ころや木の実でダメージを刻んでやる必要があるのだ」


「へ~、そうなんだ」


「もっとも、いくつ投げればいいかは当然そのプレイヤーのATK値と《投擲》スキルの有無やそのレベル、ミミック側のレベルによっても変動するがな。一応、石ころと木の実それぞれのダメージ計算式と、各エリアの出没ミミックにそれぞれに対して必要なダメージ量を纏めたサイトがあるから、気になるなら一度目を通しておくといい」


「うわぁ、そんなのあるんだ。計算式とかダメージ量とか、どうやって調べたんだか……私だったら、レベルが1つ変わるごとに計算し直さなきゃならなくなる数値なんて絶対気にしないよ」


 一応私も、最近は攻略サイトをちゃんと見るようにはしてるつもりだったけど、そこまでは目を通してなかった。うん、私もまだまだガチ勢には程遠いなぁ。


「真理を追究せんとする我らが偉大なる同志達の力だ、しっかりと使わせて貰わねばならん。まあ、面倒ならダメージ覚悟で開けるでもいいのだがな」


「そういう検証してる人達もだけど、それを逐一ちゃんとチェックしてるネスも流石だね、僕もちょっとそこまでは出来そうにないよ」


「ふっふっふ、これもまた深淵の魔法使いたるゆえんというわけだ……!」


 リッジ君に褒められて、嬉しそうに格好つけたセリフを呟くネスちゃんだけど、帽子を目深に被って顔を隠しながらじゃ、照れてるのが丸分かりで残念ながらイマイチカッコよくはない。


「頼りにしてるよ」


「あ、うぅ……」


 その代わり、その可愛らしさはリッジ君に好評だったみたいで、まるで妹か何かをあやすかのように優しくその頭を撫で始めた。

 最初は、突然のリッジ君の行動に驚いて固まり、次いで嬉しそうに、恥ずかしそうに目を細めるネスちゃんだったけど、次第に自分が子供扱いされてることに気付いたのか、はっと顔を上げて叫び出した。


「ええいリッジ、ミオだけでなくお主まで我を愚弄するか!? 我は撫でられたくらいで喜ぶ子供ではないぞー!!」


「あはは、ごめんって」


 ぷりぷりと怒るネスちゃんを、リッジ君がどうどうと宥め、沈静化させようと奮闘する。

 そんな仲睦まじい2人の様子を1歩離れた位置から見ながら、私はくすりと笑みを零す。


「うん、やっぱりネスちゃんも呼んで正解だったよ。ね、ライム、フララ」


「――?」


「ピィ?」


「うんうん、まだ分かんなくてもいいよ」


 まだまだ色気より食い気らしい2体の使役モンスターを撫でながら、私はしばしの間、じゃれ合いを続ける2人を眺め続けていた。

艦〇れの制空値計算機もそうですけど、何をどうしたらあんなのが分かるのか……さっぱりワカラナイ。検証勢怖い。

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