第100話 いつかのPKと鈍感姉弟
祝・100話!
ここまで続けて来られたのも皆さんのお陰です、これからもよろしくお願いします!
薄暗い洞窟の中を、松明の明かりを頼りに歩いていく。
時々、呻き声みたいなのが聞こえて来る度に思わずびくっと体が跳ねちゃうけど、それはもう人の反射行動みたいなものだから諦めるしかない。これで動じないのなんてお兄くらいのもんだし。
「ウオォォォ」
呻き声の主ってことなのか、洞窟の奥からその名前の由来にもなってるゴーストがふわふわと浮かびながらこっちに向かってくる。
物理攻撃が効かず、魔法攻撃か属性を付与された物理攻撃しか通じない相手だけど、フララはもちろんビートも今や《闇属性攻撃》で魔法属性を付与出来るから、さほど恐ろしい相手でもない。
そして私自身も、《魔封鞭》スキルがあるお陰で対処できる。
「《カースドバインド》!」
呪いの力を得た鞭がしなり、ゴーストの半透明な体を縛り上げる。
鞭は物理攻撃ではあるんだけど、《魔封鞭》スキルのアーツは魔法攻撃扱いになるらしくて、物理無効の敵もちゃんと拘束できるのが良いところだ。
まあ、これもあくまで拘束するのがメインのアーツだから、こういう物理無効の相手でもない限りは大して違いはないんだけど。
「今だよフララ!」
「ピィ!」
そうして拘束したゴーストを、フララの魔法で蹴散らす。
いつものコンビネーションで、ついでに私の《魔封鞭》スキルとフララの《暴風魔法》のレベル上げを兼ねたスタイルだけど、結構余裕を持って倒せてる。
けど、私の目的はスケルトンだし、そっちを探さないと。
「しかし全然いないなぁ、もう少し奥かな?」
出来れば完全攻略して、いつかのリベンジと行きたいところだけど、本来の目的は《スケルトンの骨粉》だから、そこは間違えちゃいけない。
そういうわけで、順調に道程を消化していくと、スケルトン……の前に、他のプレイヤーの反応が《感知》スキルに引っかかった。
「……あれ?」
ただ、松明も付けず、壁際に固まってじっと動かずにいるみたいだから、怪しいことこの上ない。
これは、もしかすると……
「……フララ、《付与鱗粉》。アタック、ディフェンス、スピード、デクストリティ」
「ピィピィ」
戦闘に入ってからだと敵にまで効果を及ぼしちゃうから、今のうちに使ってもらってステータスを引き上げつつ、インベントリから《麻痺投げナイフ》を取り出す。そして、何事も無かったかのように歩みを再開する。
出来るだけ自然に、何の問題もない風を装って近づいていくと……反応がある方から、唐突に矢が飛んできた。
「ほっ!」
予めそうなるのは分かってたことだったから、余裕を持ってそれをライムに叩き落として貰いつつ、お返しに手にした《麻痺投げナイフ》を投げつける。
いくら《感知》スキルがあっても、暗闇の中じゃちゃんと当たったのかどうかよく分からないんだけど、特に深く考える必要はなかった。
「うおぉ!? あぶねえ!」
「クッ、まさかバレてたなんてね、初心者狩りをするならここが一番だと思ったのに!」
「だから言ったじゃないっスか、この洞窟は言うほど初心者向きじゃないって」
「うっさいわよコビト! アンタだって最初は「流石アランさん、いい案っスね!」とか言ってたじゃない!」
「改めて考えてみたら物理無効に対抗できるのなんて上位スキル持ちくらいだって気付いたんスよ! 魔法使いがソロで動くことなんてそうないでしょーし!」
「お前らうっせーぞ! 戦闘状態に入ったんだからちゃんとしろぉ!」
ドタバタと騒がしい会話を交わしながら、3人のプレイヤーが《松明》を点けてその姿を現す。
頭上に浮かぶ赤いマーカー、それはまさにプレイヤーキラーの証だけど、それ以上に私はその3人のことを知っていた。
「ああっ、いつかのPKトリオ!」
指差した先に居たのは、フララをテイムした後、帰る途中で私をキルしてアイテムを奪い、挙句粘着しようとしてユリアちゃんに返り討ちにされた、いつかのPK達だった。
「げえ! そういうお前はいつかの《鉱石姫》!?」
「あんたまさか、あの時の仕返しに私達を付け狙って!?」
「くっ、まさか今になってやってくるとは……流石に予想外だったぜ……」
「勝手に人を粘着扱いしないでくれない!?」
勝手な被害妄想で人を悪人呼ばわりしてくるPKトリオに、私は憤慨する。
ここで会ったのは偶然だし、何より悪いことしてたのはそっちじゃん! さっき初心者狩りって聞こえたんだけど!?
「仕方ない、お前らやるぞ、こんなところでむざむざやられてたまるかよ!」
「ええ、この悪女を倒して何が何でも生き延びてやるわ!」
「俺……この戦いが終わったらアランさんと……!」
「あ、却下で」
「えぇ!? 最後まで言ってないんスけど!?」
以前会った時と同じように、茶番染みたやり取りをしながら私に向けて武器を構えるPKトリオ。
ここまで来るともう、こっちの油断を誘うこの人達の常套手段なんじゃないかと思えて来る。
いや、何となく素でやってる気はするけども。
「ああもう、この人達相変わらず調子狂うなぁ……」
だからこそ、私としてもいまいちやる気になれないというか、怒りよりも呆れの方が先行する。
まあ、だからって素直にやられてやる必要はないし、ちゃんと戦わないと。
「……あれ? 誰か来た?」
そう思って武器を構える私だったけど、不意に後ろから他のプレイヤーの反応がして、そっちに目を向ける。
「むっ、誰かだと? ……はっ、まさかまた《死神》が!?」
「おおお落ち着きなさい、まさか都合良く2度も《死神》が現れるなんてあるはずが……」
すると、たったそれだけでPKトリオは物凄いビビり始めた。
いや、まだ誰が来てるかも分からないんだけど、そんな臆病なことでよくPKなんてやれるなぁ……まあ、せっかくだから利用させて貰おうかな。
「その《死神》なら、私フレンドなんだけど」
ダメ元で、試しにそう呟いてみる。
後ろから来るプレイヤーはともかく、ユリアちゃんの名前を使うのは虎の威を借る狐みたいで何だか微妙な気分だけど、それで無駄な戦闘を避けられるなら是非もない。
「マジっスか!? やべぇっスよ2人とも、アレがまた来たらひとたまりも……!」
「おお、お前ら逃げるぞ! い、命拾いしたな《鉱石姫》!」
「ふんっ、一度勝ったくらいで良い気にならないでよね!」
「アランさん、二度目っス!」
「うっさいわよコビト! 今回はノーカン!」
「いいから早く来いお前らぁ!!」
「「ラジャー!!」」
「えぇぇ……」
そう思って言ってみたら、後ろから来てるのが本当にユリアちゃんかもしれないと思ったらしく、PKトリオは捨て台詞を残し、洞窟の奥へと一目散に逃げ出していった。あまりの出来事に、ライムやフララですらポカーンとその姿を見送ってる。
「本当、何しに来たんだろあの人達……」
いや、初心者狩りしに来たって自白してたから、そうなんだろうけどさ。
うーん、実際に一度やられてる身としては他人事じゃないし、そういう弱い者いじめみたいな真似は謹んで貰いたいところだけど、だからって私に何が出来るわけでもないし……まあ、あの3人だと、何だかんだ言って初心者にも返り討ちに遭ってそうな気はするけど。何となく、幸薄そうだし、あのトリオ。
「……ミオ姉?」
なんて考えてるうちに、後ろからやって来ていたプレイヤーの姿が《松明》に照らされ、ハッキリと分かるところまでやって来た。
ていうか、その呼び方。
「あれ、リッジ君? こんなところで何してるの?」
「何って、ゲームだけど……」
予想外の人物の登場に、私がそう疑問を零すと、リッジ君は苦笑交じりに答える。
いやまあ、それはそうだろうけど。
「いやほら、リッジ君ってインしてる時間私よりずっと短いのに、私よりずっと強いイメージがあるからこんなところに来る用事もないかと思って」
実は何かしらの有用なアイテムが集められるとか、そんなことでもあるのかな? いや、私自身畑の肥料を集めに来たわけだけど、ただでさえプレイ時間が限られてるリッジ君が農作業に目覚めたとも思えないし。
……うん、これ言ったらクルトさんが泣きそうだから、間違ってもクルトさんの前で言うのはやめておこう。
そんな風に内心で思いながら問いかけた私だったけど、リッジ君のほうは歯切れ悪く、誤魔化すように頬を掻いた。
「いや、それはその……ミオ姉がこのエリアに居たみたいだったから、来れば会えるかなーと……」
「何かあったの?」
「特に用ってほどでもないんだけど、どうせなら一緒にやれないかなって」
「私と? ネスちゃんじゃなくて?」
「へ? なんでネス?」
首を傾げるリッジ君に、私はやれやれと肩を竦める。
全く、リッジ君は世話が焼けるんだから。良い子なんだけど、人の好意に鈍感なところがあるからね。誰に似たんだか。
仕方ない、ここはお姉ちゃん代わりだった私が一肌脱ぎますか!
「ううん、何でもない。それより、私このまま《スケルトンの骨粉》集めついでに《ゴスト洞窟》を攻略しようと思ってるんだけど、リッジ君も来る?」
「うん、行くよ」
「じゃあ、ネスちゃんも呼ぼうか」
「えっ」
「嫌?」
「いや、別に嫌ってことはないけど……なんでまた?」
「ふふふ、まあそれは色々とね?」
一応さっきチラッと見た時は名前があったはずだけど……と、まだ居るね、良かった。
フレンド一覧から、ネスちゃんが今INしてるのを確認すると、早速私の《ゴスト洞窟》攻略を手伝って欲しいというお願いと……ついでに、リッジ君も一緒にいることを添えてメッセージを飛ばす。
返事は、すぐに返って来た。
「リッジ君、ネスちゃん来るって。久しぶりに、3人でパーティ組んでやろっか!」
「……うん、そうだね……」
なぜだか微妙に肩を落とすリッジ君に首を傾げつつ、まあ、態々待つのが少し面倒だったのかな? と結論付けた私は、リッジ君とあれやこれや雑談を交わしつつ、ネスちゃんがやって来るのを待つことにした。
そのお陰なのかどうかは分からないけど、リッジ君もすぐに楽しげな表情になってくれたし、ネスちゃんが来れば益々楽しいことになりそうだ。
この後の攻略を思い、私も笑顔を浮かべながら、暗い洞窟の中には似合わない明るい声が響いていた。
姉弟(同然)なだけで姉弟じゃないというタイトル詐欺(?)
果たしてこの3人の未来やいかに。