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歌声

作者: 藍川秀一

歌声

藍川秀一


 歌というものは確かに時代というものを超えて、世の中へと伝わってきた。言葉よりも心へと響き、手紙よりも真っ直ぐに思いを伝えることができる。

 人は歌うことで色々なことを表現してきた。それは恋だったり、風景だったりなど、種類は無数に存在している。中でも恋の歌は、時代を超えて愛されてきたように思える。

 歌は少しずつ、確かに前へと進んできた。ただの文字列から、韻を踏み、高らかに声をあげて歌うようになる。

 どうして人は歌うのだろうか? ある人は言葉以上の意味を込め、聞いている人は文字列以上の感動を覚える。

 優れた歌に対してよく、そのときの映像が目に浮かぶと言われることが多い。けれど、遥か昔の人たちが、そんなことを考えて歌と触れ合ってきたとは思えない。歌にはもっと、特別な何かが、あるように僕には思えた。

 耳につけているイヤホンから、様々な曲が流れる。色々な曲が、流水のようになめらかに、僕の体へと入ってくる。歌詞の良い歌。メロディが噛み合っている歌。声がただ美しい歌。そのどれもが僕の心に溶け込み、馴染んでいく。そしていつの日か、憧れのような感情を持つようになっていた。

 僕が歌というものに憧れを抱くようになったのは一人の歌手との出会いだった。その人は、希望を強く歌っていた。この先何があろうと、変わらないものを持ち続けろと背中を押してくれた。

 僕は歌うことにした。歌うことで、多くの人の人生に関わりたいと思った。

 けれど、歌うことは難しいことだった。僕が考えた歌は、言葉以上に伝わらず、文字列以上に回りくどいもので、誰にも共感されることはなかった。もっと自分の中にある、僕だけにしかないものを表現しなければならないと強く思った。

 僕だけにあるものはなんだろう?

 考えれば考えるほどに、答えから遠くなっていくようだった。目に見えない空気をつかんでいるような感覚。僕は僕自身のことをまるで知らないでいた。自分自身のことは、自分が一番理解していると思っていた。実際に自分と向き合ったとき、自分が何なのかわからなくなる。何一つわからなくて笑えてすらくる。

 僕はまだ、旅の途上。きっとこれから先、自分自身のことを知っていく。一生理解できないかもしれない。それでも、僕は歌うことをやめないだろう。歌い続けていくことで、見えてくるものがきっとある。知らない自分に出会うことだってあるかもしれない。

 僕は歌い続ける。多くの人の心に響く歌声を求めて。


〈了〉


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