私とネコの、とある冬の日
短編の投稿します!
今回は、アンリ様企画の『キスで結ぶ冬の恋』企画参加作品です!
それと、初☆診断メーカー要素入り作品でもあります。
この台詞で素敵な作品を
https://shindanmaker.com/681121
この台詞で素敵な作品を2
https://shindanmaker.com/705660
からお借りしました!ありがとうございます。
どの台詞かは、あとがきの方で!
――冬は、寒い。
雪は降るし、風は吹くし、水は凍るし……とにかく、寒い。
そして、そんな時期。
寒がりで、面倒臭がりな私は、専らベッドに引きこもって過ごす。食事とトイレ、お風呂の時以外は、ずっと。
まるで冬眠中の熊みたいだ、とは母の言葉。
ベッドの上で丸まりながら、ひたすら読書に勤しむ私。ときおり寝落ちしながら、本を読むことで時間を潰している。……冬は、動く気がしない。
ふと、胡座をかいた私の太股の上で重みを感じて読書を中断すると、そこには見慣れた黒い頭。意識して見つめると、同色の三角の耳がピピンッと跳ねる。
あぁ、触りたい。正直、ウズウズする。
じゃなくて、それは一度置いといて。
「……エモ、また来てたの?」
「ん、やあっと気づいた。小百合」
私の足からむくり、と起き上がり呑気に大あくびをかます、この男。
強引に布団に潜り込んでいたからか、衣服はだいぶ乱れている。おまけに、やや緑みを帯びた金の瞳は、寝惚け眼で半目のまま。ついでに、どことなくオッサン臭い。
折角のイケメンが、台無しである。
この残念イケメンな男・エモは、私――小百合の幼馴染みのネコ獣人だ。
対外的には女好きの似非フェミニストで世話好き、割りとヒトたらしのくせして微妙な人見知り、見た目はイイ男なのにオカマっぽく母性に溢れてる。そんな、変なヤツ。
でも、身内や私にとって兄のように頼りがいがあり、実の弟より甘やかしたいヒト。
エモは人肌が好きなのか、年がら年中、私に構ってくる。今みたいに人を枕にしたり、突然抱きついてきたり、あげく……いや、これも置いておこう。ろくな話じゃないし。
でもって、冬になるとエモのスキンシップの頻度は上がる。
昔、理由を問い質したところ。堂々と宣ったのは。
―――スキンシップ過多――エモ曰く、人族基準――なのは、獣人の本能。
―――その上、自分はネコ獣人で、寒さに弱い。
と、のことだった。
どうやら、私以上に寒がりらしいのだ。この男は。
ちなみに本当かどうかは、未だに分からない。
「な、サユリ」
「…………」
「なーぁー」
意識を手元の本に戻すと、甘ったるい猫撫で声――ネコはお前だろうに――で、エモは私を誘惑する。視界の端でハタハタと揺れる黒い尻尾に、思わず手を伸ばしそうになるのを我慢しつつ、私は無視を決め込んだ。
生来の『かまってちゃん』なこの男には、このくらいの扱いが丁度いい。ノッてやるのは、せいぜい7回に1度だ。でないと、この男が調子に乗ってこっちが堪らない思いをするはめになるから。
が、私が散々な扱いをしても、めげず懲りずに挑んでくるのが、このエモと言う男である。
何を思ったか、私の頬に顔を近づけるやそこに口づけをしたのだ。
「なっ、ちょお!?」
「ふふ、つれないサユリに、い・じ・わ・る」
語尾にハートマークが付きそうな声音で小首を傾げるこの男は、私がこういうシチュエーションに弱いのを知っているはず。主に、恥ずか死ぬ方向で。
絶対に確信犯だ。なんてヤツ!
その上、私が呆然として無抵抗なのをいいことに、エモは鼻の頭や額、それから本を取り落とした指先にまでちゅーをする。こんの、キス魔め!
それがたっぷり十秒以上続いた頃。いったんぷっつりキレて冷静になった私は、ベッドヘッドのサイドテーブルに置かれたハサミを持ち出し、シャキンッと鳴らす。うむ、切れ味は良さげだ。
それに気づいたエモは、ビクッと尻尾を震わせた。でも、もう遅いぞ。
「ねぇ、選んで?親愛なるエモ。
その可愛らしい耳か、優美な尻尾。
どっちを、これで切り落としてほしい?今なら止血もしてあげる」
「スミマセンごめんなさい許して申し訳ありませんでしたーーー!」
ガバッと両手で頭――正確には耳を隠し、尻尾をぷるぷるとさせて縮こまるエモ。尻尾は隠れてないので、さしずめ『頭隠して尻尾隠さず』とでも言おうか。私はその態度に満足して、フンッと鼻で笑うとハサミを戻した。
「まったく、懲りないヤツねぇ。冗談よ」
「じ、冗談でもそんな事言うなよ……」
エモは、半ば涙目で不安げに尻尾をブンブン振り回す。こっちを上目遣いで見つめる姿に、胸がキューンとなる。うん、いいね。
こう言う素直なところは、とってもカワイイ。
普段はしょうもない男だけど、これがあるから憎めないのだ。
「で、なんの用なの?」
「あ、あぁ。そうだった。
えっとね、腹が減りました。ので、サユリに……」
「……私に、何か作れと」
ハアァー、と重く長いため息を吐く。
未だ伏せたままのしおらしい態度で、そのくせ金色の目はウルウルと期待に輝いていて。「ダメかなぁ?」なんて、心の声まで聞こえてきそうだ。
あーもー、断りにくいことこの上ない!
「鍋、異論は認めない」
鍋は万能だ。
何せ、料理過程は水に出汁になるものと具を突っ込むだけと、すごく楽チンなのだ。間違えなければ、ちゃんと美味しいし。何気に量もしっかり摂れる。すごくお得だ。
作ってやるんだから、文句は言わせない。
当のエモは、わっと起き上がると喜色満面でばんざーいと両手を上げる。今どきチビッ子でもそんな反応しないと思うよ。子どもより子どもっぽいなんて……はぁ。
「鍋、鍋!オレ、トマチーがいい!」
「知らん!うちにあるのは、豚バラ白菜鍋の具材だけだ!」
「豚バラ!やったー!お肉ーーー!!」
「白菜も食べなさい!」
はぁい、と無邪気に答えるエモを尻目に、本に栞を挟む。
寒さに身震いしながら数時間ぶりにベッド降りる。やっぱり寒っ!
うーうー唸りながらキッチンに向かう私。
何だかんだで、言うこと聞いちゃってるし。うーん、甘やかしすぎかなぁ。エモのこと。
「ね、まだ?もー!遅いっ!」
トントンと野菜やら肉やらを切ってると、ダイニングからエモの騒ぐ声。ガタガタと椅子を揺すってる。……こらっ、貧乏になるからやめれ!
てかさぁ、エモよ。早く食べたきゃ手伝えよな。……いや、エモの包丁捌きは危険そうだから、それ以外でだよ?
「あらぁ、どこぞのお坊っちゃまは、食事の準備も手伝えないの?その分だけ私が手間取るのに。
もぅもぅ、お馬鹿さんでちゅねぇ~?」
――ダァンッ
「―――ぐだぐだ言ってねぇで、黙って食器並べろや。あぁん?
千切りにするぞ、テメェ。さっさと動けこンの、すっとこどっこい!!」
「ひゃ、ひゃいっ!」
包丁を振り下ろすと、白菜は真っ二つ。ついでにまな板にもめり込む。また、やっちゃった☆
てゆーか、ホーント学習能力ないなぁ。この男!
毎度言ってるのに、ぜーんぜん覚えてないんだから。包丁振り上げなきゃ、動きもしないなんて。そんな子に育てた覚えはありませんよ!……育てたの、私じゃないけどな!
お客さん――そもそもエモは身内扱い。客じゃない――ならともかく、エモなんだから、皿とか箸とかぐらい出してもらわなきゃ。『働かざる者、食うべからず』ってね。
あ、魔力コンロも出さなきゃ。
「エモ、コンロ出しといてー。食器棚の上だから」
「ん、りょーかい」
土鍋に具材をたっぷり詰めて、ダイニングに運ぶ。いそいそ、せっせっと食器を並べるエモを横にコンロにセットして火をかける。鍋が吹かないよう、火加減を調節しながら待つこと十数分。いい感じに出来上がったところで蓋を外す。ほわゎん、と上がる湯気。あー、いい匂い。
「できたよ」
「ん、ありがと!」
二人向かい合わせで席について、声を揃えて「いただきます」をする。
トロけかけた白菜やちょい高めの豚肉をひょいひょいと食べる私。舌を火傷する、なんてベタなヘマはしない。ちなみに、味つけはポン酢派だ。
一方のエモは、さすがの猫舌で、はふはふしながらゆっくり食べていく。言いつけ通り、白菜も食べてるようでよろしい。
あ、でも。今、少し火傷したな?もー、あわてん坊め。
「はー、食った食った。ごちそうさん」
「うぃ、おそまつ」
ペロリと食い尽くすと、順番に風呂に入ってから、どちらからとなくまたベッドに戻る。
……なぜか私は、当たり前のようにエモの腕の中だ。ここは私の家なんだが、エモは今日も帰りそうにないな。
解せない、ひっっっじょーに解せない。が、温かいんだよなぁ。
あぁ、なんだか……もう、眠い。腹が膨れたからかな?私も、けっこう単純ね。
「……っ、ふぁ」
「サユリ、眠いの?―――じゃ、おやすみ」
オレも寝るから、ってマジかよ。エモさん、それは……。
あれれ?なんか、また流されてる?はぁ……ホントにチョロいな、私。
でも、眠いし。なーんも考えたくないから、また明日。後回し後回しっと。
「ん、ゃすみ……」
それに、こうしてると冬でも温かいもんね……。
*
「サユリ、寝たか?」
腕の中の小さな身体をキュッと抱き締めると、「ぅふ」って鼻から抜けるような寝言が返ってくる。ふふ、最高。
オレの可愛いヒトは、ネコ獣人のオレより気紛れだ。
男前だったり、乙女チックだったり。オレを際限なく甘やかしてくれる日もあれば、すげなく雑に扱ったり、酷いときは完無視をされることも。
それでも嬉しい、なーんてオレってけっこうドM?
あーでも、そんなサユリも大好き!ってのが止められないなぁ。
うん、どんなに穴が開くほど見つめてても、ホントに飽きないよ。サユリは。
「でも、油断しいだよねぇ?サユリは」
まだ恋人でもないオレと同衾しちゃってさ。襲われたりなんて、考えないのかな?
……や、サユリの家族にバレたら怖いからしないけど。特にシスコンな弟くんとかね。
はっ!だから安心されてるのか!?
……それはそれで、なんとなく複雑な気がする。
「でも、ま。今年は覚悟してて?」
オレたちは、もう二十歳を過ぎた。つまり、成人に認められた。
今はまだ冬だけど……次に来るのは芽吹きの季節――春だ。
成人を過ぎた多くの獣人たちにとって、この季節は絶対に逃せない、恋の時期だ。告白は勿論、プロポーズも飛び交う。
オレも今年からは、参加可能だ。
だからさサユリ、待っててね。
オレ、精一杯全身でサユリに求愛するから。たとえ逃げられても拒否られても、ぜーったいへこたれやしない。最悪ストーカーになっても、追い回すから。
きっと流されやすいサユリは、最後にはオレに絆されてくれるかもだけど。
いつかでいいから、愛に応えてほしいなぁ。
それくらい、オレはサユリが大好きなんだ。
「春が待ち遠しいよ……サユリ」
そして、またオレは。
傍らに眠る愛しいヒトに、唇を触れさせた。
END
以下、作者の駄文。
①アンリ様企画、『キスで結ぶ冬の恋』企画。
アンリ様の企画に参加させていただくのは、これで三つ目でした。夏からの参加でしたねぇ。
獣人ネタを書きたいとムラムラして……ならばっ!と書いた結果がこちら。おい……信じられるか?コイツらこれでまだ付き合ってないんだぜ??な、作品に。
リア充ですよ、ちくしょー末爆しろ!
②初☆診断メーカー要素入り作品。
診断メーカーは遊びで使ってましたが、作品に使ってみたいな~ってのは、前から漠然とあったのです。そして、使いました。
ちなみにその台詞は、「冗談でもそんな事言うなよ……」と「もー!遅いっ!」です。どっちもエモだよ。
分かった方がいたら、スタンディングオベーション待ったなし。
③エモのモデルについて。
詳しくは活動報告で語りますが……今作のエモ君には、なんとモデルがいるのです。
エモの名前とかも彼からもじりましたし、性格面とか、説明のまんまです。……自分から見ると、ですがね。
あ、でも。作中では書きませんでしたが、エモのモデル君は変態さんなので、きっとエモもそうでしょう(笑)
④そして、妙なこだわり的な。
気づいてくれた方がいたら嬉しいのですが、テーマである『キス』について。
実は、『口づけ』、『ちゅー』、『キス』、『唇を触れさせた』と言葉を被せなかったのですよ!なんて、無駄な努力ww
ま、確認してみて被ってたらあれですけどね……。一応、推敲はしましたよ?
以上、ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
また、別作品で!