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15cmの告白

作者: 月詠嗣苑

「じゃ、俺こっちだから!!」いつもの交差点で友達の秋津祐介と別れ、自宅とは逆方向の道へと進む。


 腕時計を見ると、まだ午後の3時。指定した時間は、5時!


「どこで時間潰そうかな?」と言っても、近くにあるのは小さな商店以外時間を潰せるような場所はない。


「駅を挟んで、左右に別れてるだけなのに···」



 英樹は、財布の中身を確認しながら、少し寂れた商店の扉を開けて行った。


「ごめんくださーい」声を掛けるも、うんともすんとも言わぬ···


「ちっ、居ないのか?すいませーん!」

「にゃっ?」


『いま、なんか聞こえたよな?』再度、声を掛けるも、にゃぁ?としか聞こえない。


 カタンッ···


「あっ!猫?ね、ここのお店の人は?」

「にゃぁ?」

「なんじゃ?」


『ん?この猫が、喋ったのか?』


「お店の人···」

「にゃぁ?」

「ここに」


『俺の目の前にいるのは、この茶色シマシマの猫、だよな?』


 コツンッ···


「ここじゃ、ここじゃ!」カウンターの奥から、杖がニョキッと覗かせ、英樹が覗き込むと腰の曲がったお婆さんがちょこんと腰掛けていた。


『そう言うことね···』英樹は、一瞬その猫が喋っていたと思っていたから、急に楽しくなった。


「コロッケパン、コーラで、しめて250円じゃ。ときに、ボン。これ、いらんかえ?」お婆さんがムンズと差し出したのは、手鞠風の鈴。


『なんだ、鈴か』興味は、無かったが、お婆さんの、


「ほら、残り物には福があるとか言うじゃろ?ただでいいから、貰ってくれんか?」


『ただなら···』そう思い、その手鞠風の鈴を受け取り、ポケットにしまった。


「ボン、願い事叶うよ、きっと」???


 英樹は、不思議な空気に包まれながらも、その商店を後にし、駅のベンチに腰掛け、コロッケパンを食べ始めた。



「にゃっ!!にゃっ!!」駅の構内で猫は見たことはないが、こうして駅の外ではよく猫を目にする。


 小さなグレーの仔猫は、英樹が食べていたコロッケパンをジッと見て、鳴いた。


「欲しいのか?」

「にゃぁっ!」あと数口しか残っていなかったが、コーラで腹も膨れてきた英樹は、残りを小さくちぎって仔猫に分け与えた。


「じゃぁな。灰色猫ちゃん。」声をかけ、英樹は半ばドキドキしながら、公園へと歩き始めた。


 チリンッ···


 小さくも可愛い音が、ポケットから流れてくる。


『絶対に上手くいく!ちゃんと好きだって告白するんだ!あの人に!』歩くスピードが、早まると鈴もチリンッチリンッと小刻みに鳴る。



 公園には、予定より15分前についたが空は少しオレンジ色に変わりつつあった。立っていようか?とも思ったが、今日は体育でサッカーをやったから、少し座りたかった。


「あっ、ベンチがある」そこで座ろうとしたら、可愛い先客がいたが、チラッと英樹を見ると、ベンチから飛び降りた。


「ここは、お前らの公園なんだから。ここ座ってればいいのに」開いた隣を叩くと、飛び降りた猫が鳴いて、また座って丸くなった。


 英樹は、猫が好きだ。家でもアメショーを飼っている。内猫だったが、外でも遊んだりするし、きちんと時間には帰ってくる。不思議な猫。


「あっ···」少し夕日で見えにくいが、間違いなく恭子さんだ!来てくれたんだ!


「こんにちは。」

「うん。来てくれてありがとうございます」思わず立ち上がろうとしたが、隣に恭子さんかハンカチを敷いて座り始めた。


「今日は、いい天気だったわね」

「うん」

「サッカー、頑張ってたし」

「勝ったよ。僕らのチーム」英樹が、恭子を見上げる。


「にぁっ!」猫の鳴き声がし、三毛猫が恭子の隣に座り、丸くなる。

「英樹くんの隣にも」チラッとこちらを見ては、また目を閉じた。


『なんだろう?今日は、異様に猫に会う!』


「きょ、きょ、恭子···さん!」

「はい」恭子は、身体を固くし、姿勢を正す。


「ぼ、ぼ、僕と···その···」

「はい」


「にゃぁ!」


「あっ···」あの時の猫だ!


『お願い事叶えてあげる?それとも、自分で告白する?』


「えっ?」不意に、その猫が喋った!


「可愛いわね。おいで」真っ白な猫は、恭子に飛び乗ると喉を鳴らし、丸まった。


「僕、恭子···さんが、好きです。中学に入ってから、ずっとあなただけを見てきました!」

「···。」

「僕と、付き合って···く、ください!」

「···。」恭子は、俯いたまま顔をあげない。


 猫だけが···猫だけが···チラホラ近付いてきたり、遠くからこっちを眺めたりしてる。


「ありがとう。英樹くんの気持ちは、嬉しいわ。けど···」

「と、年の事ですか!?」

「も、あるんだけどね。くすぐったいなぁ。もうっ!!めっ!」白い猫が、恭子の顔を舐める。


「な、何かあっても、僕は、あなたを守ります!絶対に!」

「そうね···どう思う?猫ちゃん」


「にゃぁ」


「でしょうね。」

「恭子さん。もしかして、好きな人がもう?」

「いないわ。居たら、ここにくる前に断ってる」

「···。」

「返事、少し待ってくれるかな?」恭子さんの顔が、夕日で陰る。

「うん」

「でも、この市って、ほんと猫がたくさんいるのねぇ。」


 見ればベンチの周りに···


 本当なら僕が恭子さんを送って行くはずが、何故か恭子さんに送られ···


 偶然、玄関から出てきた母さんにも驚かれ、中に通された恭子さん。


「あ、英樹くん猫飼ってるんだ。」


「にゃっ!」

「あ、これ!恭子!」

「なに?」恭子が、振り向き、恭子が、止まる。

「えっ、あっ、やっ、その···うちの猫、恭子っていうんだ」

「ほんと、可愛い。じゃ、先生帰るわね!」

「あ、うん。」


 おわかりいただけたであろうか?英樹が、恋した相手は、中学1年の時の担任の···


 年齢差、10歳

 身長差、秘密···


 かくして、5年後···


「汝、青山英樹は、酒井恭子を妻とし、健やかなる時も病める時も、富める時も貧しき時も、死が二人を分かつまで、愛しあうと誓いますか?」

「は、はいっ!」

「汝、酒井恭子は、青山英樹を夫とし、健やかなる時も病める時も、富める時も貧しき時も、死が二人を分かつまで、愛しあうと誓いますか?」

「はい。誓います」

「では、誓いの口づけを···」

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