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老人ホームに就職したらロリババアたちのお世話をすることになりました 作者:利紺

ロリババアしかいない老人ホーム

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就職先は老人ホームのはずなのに少女しかいないのは何故だろう?

新連載です。楽しんでくださいね!

 「ずいぶんと遠い場所にあるんだな......」

 駅を降りてバスに乗り換えてからおよそ一時間。俺以外誰も乗り合わせていないバスは一度も停車することなく進んでいるというのに、目的の場所には未だ着かない。

 辺りの景色を見渡してもあるのは畑とさびついた自動販売機に年季の入った建物。

 お、コンビニはあるんだな。美味しそうな野菜が外に並べられてる。

 「ああ、緊張する......」

 早く到着してしまえば緊張などする前に行動が起こせるが、こうも予想以上に焦らされると俺の心臓はじわじわと締め付けられてしまう。

 何せつい先月までは高校生に過ぎなかった俺は、今日から老人ホームで働く社会人となるのだから。

 その決断に至ったのは高校三年の春だったから、もう覚悟を決めて一年も経つ。だというのにこんなにも身体が硬直するだなんて......男らしくないなぁ。

 「......ふん!」

 右手に拳を作り、俺は自分の頬に一発闘魂をぶち込む。おいおい【坂之上楓】よ。今までこの拳で幾度となくプレッシャーに押しつぶされそうになっても乗り越えて来たじゃないか。

 それにボクシング部の面子がわざわざ書いてくれた色紙の言葉が意味のない物になる。

 プロを目指せるのにどうして就職するんだ!? 
 せめて大学には行けよ!
 そもそもどうして老人ホームに就職するんだ?

 初めて大学に行かず高校卒業と共に老人ホームに就職すると告げた時、皆の反応はこうだった。なので俺はプロにはなる気がない、そして馬鹿だから大学に行っても意味がない。だけど有り余る体力はあるから人のためになる仕事がしたい。

 一人で俺を育ててくれたお袋のためにも自立をしたいし。

 そんな俺の考えを伝えると皆誰一人俺の意思を否定せず、むしろ肯定的だ。ハートの熱い奴に限っては感動のあまり泣く始末。

 そして最後の試合を勝利で終え、勝利の余韻に浸る中貰った色紙にはたくさん応援のメッセージが書かれていて、俺は思わず泣いた。

 そこでもう十分すぎるほど勇気はもらった。だから緊張なんてしてる場合じゃない!

 「お客さん、着きましたよ」

 「......あ、はい! ありがとうございます」

 そんな思いに浸かっている間、バスは停車して目的の場所についていた。俺は料金を支払い、荷物を背負って下車する。

 「こんにちは。貴方が坂之上楓君かしら?」

 「そ、そうです!」

 するとありがたいことにわざわざお出迎えしてくれたらしく、若々しいモデルをやれそうな綺麗な女性と、車いすに座るフードを被った小さな女の子がバス停にいた。

 「私は施設長の天童沙織。この度はここに就職を決めてくれてありがとう」

 「私からも――お礼。ありがと――」

 「い、いえいえ。わざわざこんな高卒で右も左も知らない俺を住み込みで働かせてくれるだなんて、こちらがお礼を言わないと。能がない俺ですけど、一生懸命働きますのでよろしくお願いします!」

 「あら、それじゃあ要望通りビシバシ働いてもらうわね♪ じゃあまずはここから近くの楓君の家を紹介して、それから施設に移動してお世話してもらうおばあちゃんを紹介するわ。」

 「はい!」

 天童さんは女の子の座る車いすを押しながら、俺がこれから生活する家まで案内してくれた。ここら辺はあまり人の気配がなく、右を見れば木、左を見ても木が立ち並んでいる。

 そんな中、足を進めると木造の家が見えてきた。東京にあるような今にも壊れそうなぐらいボロボロというわけではなく、ちゃんと綺麗にされていた。

 「一応掃除はしておいたのだけど、ここら辺は虫が平気で出てくるから気よつけてね」

 「分かりました。本当にわざわざありがとうございます」

 一人で住むには十分すぎるほど広く、台所が狭いのがネックだがそこまで贅沢は言えない。俺はそこに荷物を置いて、必要な物だけ取り出して家を後にする。

 「それじゃあ施設に行きましょう。入居者を見て少しびっくりするかもしれないけど」

 「うん――確かに楓びっくりする。絶対の絶対」

 「そ、そうですか......そんなに個性的なんですね」

 「ええ。中身も、外見も」

 天童さんは何やらいたずらでも仕掛けた子供のように可愛らしく、そして悪意のある笑みを俺に向けてきた。そんなに入居者が個性的なのか......。女の子もそう言ってるし。

 そもそもどうして老人ホームに女の子がついてくるんだ? ご家族と一緒にいるのか? それとも......天童さんの娘さん?

 確かに髪は一切跳ねてないし、薄紅色の唇は綺麗で薄い。目もぱっちりと開いているし......完璧な顔だ。そんな人に男がいてもおかしくは......。

 「着いたわ。ここが私たちの施設【ススキ】よ。どうかしら?」

 「......え、あ。す、すごくいいと思います!」

 「あ――楓ずっと沙織のこと見てたから気づいてなかった――」

 「ちょ、ち、違う!!!」

 「あらあら。私も罪なものね」

 「す、すみません......」

 ただただ天童さんの事を見ていたら、いつの間にか施設に到着していた。辺りにはものの見事に何もなく、まさに辺境の地と言ったところだろう。

 しかし見事にバレてたな......なるべく視線だけ向けて首は正面向けてたのに。

 「それじゃあ、入りましょう。これ、楓君のネームプレートね」

 「はい!」

 そして俺は天童さんからネームプレートを貰い、施設の中に入り靴を脱いでスリッパをはく。

 「こらムーちゃん! 施設の中でフードつけっぱなしはダメでしょ!」

 「ハ――い」

 二人は仲睦まじく、まるで親子のような会話をする。いや、やっぱり親子なのかな......ん?

 「え、え、え?」

 はて、俺は疲れているのだろうか。それとも眼科に行くべきな程目の調子が悪いのか?

 女の子がフードを外すと、何やらとんがった長い耳? らしきものが出てきた。日本人じゃないのか? いやいや俺の二倍ぐらいの長さがありそうな耳だぞ。人間ではありえない!

 「あーお帰りなさい沙織! ムーも! それでーその人は新しい職員の人?」

 「!?」

 バタバタと駆け足で、頭にこうもりのような羽を生やし、喋れば猫のような鋭い歯が目立つ小さな女の子がやっていた。

 「そうよ。椿の担当だからキュリーの相手はそこまで出来ないかもしれないけど、思いっきり遊んでくれるから遠慮なく接してね」

 「うん! それじゃあよろしくね! えっと名前は......」

 「か、楓。坂之上楓」

 「楓か! 今まで聞いてきた中で一番ぐらいいい名前! じゃあまた後で遊んでね!」

 子供らしく、キュリーと言う少女? は俺に満面の笑みを見せて遊ぶ約束を一歩的に申し込み、その場を去った。

 ......あの子も、人間なのか?

 「あ――やっぱり楓びっくりしてる――」

 「び、びっくりも何も......」

 「みんな元気でしょう? あれでもキュリーちゃんは吸血鬼で五百年生きてるし、ムーちゃんなんてエルフの賢者として何万年も生きてるのよ!」

 「......はぁ?」

 思わず俺は上司にはぁ? と反射的に意味不明と感じた時にでる言葉を発する。

 でも実際、意味不明だ。

 「楓君が担当するおばあちゃんも違う世界の神様として何千年生きていて、性格こそねじ曲がってるけど元気だから覚悟してね!」

 「......」

 もやは何も言えない。何を言えばいい。種族もおかしいし、歳こそご高齢(常軌を逸した数字だが)だが見た目は完全に小学生。ここ、老人ホーム......だよな?

 「さて、ここがその子の部屋。入るわよ」

 「こ、ここが......って勝手に入って良いんですか!?」

 「ツバキはいつも機嫌が悪いから――入る時は先手必勝なの」

 確かに心を許さなくて介護士と関りを避けようとするご老人はいるらしい。

 ここでもそういう人? いるんだな......。

 「な、いつも言っておるじゃろう! わらわのところに勝手に入ってくるな――」

 「この子が楓君の担当するツバキちゃん。気難しい子だけど悪い子じゃないから」

 「聞け! わらわの話を最後まで聞け!!!」

 天童さんがノックもせずに開けた部屋は、一人片隅に座敷童のように体育座りをしている少女? がいた。俺らが入ると嫌悪感丸出しでこちらを見てくる。

 部屋の家具はベットと机、そして向こう側に違和感しかない扉がついていた。扉以外は老人ホームらしい。

 「それじゃあ、まずは二人でごゆっくり♪」

 「え、ちょ!?」

 まだまだ俺の頭は何一つ理解にたどり着いていないというのに、天童さんとムーは俺を部屋に入れたままその場を去る。

 そして重い空気と共に、俺は和服を着たお人形のように可愛らしいおばあさん(見た目少女)と二人っきりになってしまった......。
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