54歩目 シャクの都合で途中経過をかなりすっとばしてます
時間にして数百年の時が流れる。
その間に国は更に発展。
規模・人口共に成長を続けていた。
いまだこの世界の未探査地域は広く、その全てを把握出来てるわけではない。
しかし、把握できてる全容だけでも、地球のヨーロッパやオーストラリアほどにはなる。
これはヒロフミが伝えた測量技術などでしっかりと計算されている。
ヒロフミの国は、そのヨーロッパの国二つか三つほどの広さに拡大していた。
各地に作られた入植地はいずれも順調に発展を遂げていった。
まだまだ死亡率は高く、問題も多いが、今までに比べればかなり安定してきている。
少なくとも、過去のどの時代よりも知識や技術は進歩している。
だとしても問題が消えるわけではない。
知識や技術が発展しても、人の気持ちだけはどうにもならない。
国が拡大した分だけ、末端の統制がきかなくなっている。
反乱まで行かなくても、汚職などの問題は常に発生する。
これはやむなき事でもあり、完全に無くす事は出来ないものなのだろう。
摘発は続けられているがはびこる問題は消しようが無い。
ある一定水準以上に問題を増大させないだけで精一杯になってしまう。
もっとも、問題の発生を低水準に押さえつけてるのは、それだけで偉業といえるのかもしれない。
おかげで、資本が無駄になってしまう事がない。
汚職の問題は、それによって特定の誰かが特権を得る事だけではない。
仮に特権的な立場や力を得たとしても、それで国の発展に寄与してくれるならば良い。
そうなる可能性が低いから問題になるのであるが。
だが、それ以上に問題なのは、本来用いるべき所に資本が投入されない事にある。
汚職とは、とどのつまり無駄に資本が必要になってしまう事に問題がある。
支払うべき賃金が、調達するべき資材が、投入するべき時間や技術などが。
様々なものが適切に用いられない。
その結果、本来ならばとっくに出来上がってるものが、いつまでたっても完成しない。
そうなる事が最大の問題なのであろう。
それらが極力おさえられてるのは良い。
だが、問題はもっと別のところにあった。
政府の肥大。
今の問題はそこにある。
政府が大きくなりすぎて、国民の負担になってしまっている。
ようは、役人が多くなり、政府と癒着してる企業などが多くなり、政府が主導する事業が多くなりすぎている。
その全ては国民のためとうたっているが、増税や労役の増大などで無駄な負担が増えてしまっている。
確かに必要な施設や設備もある。
それらをまかなうには国民からの納税が必要になる。
しかし、いくら必要なものを揃える為とはいえ、それで国民負担を増大させたら本末転倒だ。
なのだが、それが留まるところを知らずに進んでいってしまっている。
それを為してるさいたる理由は次の言葉にあらわされている。
「全ては国民のため」
こういった美辞麗句、きれい事というのは、逆らいがたいものがある。
何せ表だっては良いことを言ってるのだ。
反対すれば悪逆非道のそしりをうける。
だからこそ、なかなか反対しにくい。
そうしてどんどんと不要な作業が増えていく。
それにより負担は増えて、政府は増大し、国民は不幸になっていく。
それは絵空事と言った方が良いだろう。
大分控えめに表現するならば。
その実体は圧政・苛政でしかなく、人々にいらぬ苦役を課している。
それでいて発展は何一つなく、あらゆる事が停滞する。
増税により民間に余裕がなくなり、研究開発が不可能になる。
それでいて政府がこういった事をするかというと、そうではない。
だいたいにおいて失敗する。
少なくとも国民生活に必要なものが伸張するかというとそんな事は無い。
政府が勝手に必要だと思ったものを研究開発するが、それらは国民の意見を聞いたものではない。
えてして会議室で考えられ、会議室で考案され、会議室で決定される。
決して民衆の意見を聞きにいく事は無い。
あったとしても、その意見が反映される事は無い。
政府に、担当する役人に都合の良い解釈が、いや、担当者にとって都合よく改変されていく。
そうして不要なものをせっせと作り、必要なものが放置されていく。
そもそも何が必要なのか、何が求められてるのかなど、誰にも分かるものではない。
それは実際にやってみて評判を聞いてみるまで分かるものではない。
そういった試行錯誤をせずに勝手に決めていくだけである。
あるいは過去の出来事から、成功事例に当てはまるものだけを延々と作り出す。
それはその時の状況において必要だったものではあるだろう。
だが、後の世代でも必要かどうかは分からない。
また、既に十分な数があるのに、更に追加で作るのだから無駄が発生する。
それでも『かつてやった事である』というのを言い訳にして繰り返していく。
それは間違いの拡大大量生産である。
国を保ち守るという事から外れた守旧、古いものに固執してるだけである。
懐古主義と言っても良いのかもしれない。
そんなものの為に税金などが跳ね上がり、国民生活を圧迫する。
現在の最大課税率が80%や90%というのだから笑えない。
それでいて統治側が潤うのかというとそうでもない。
国民と比べれば、過去に比べれば豊かになってはいるだろう。
しかし、生活水準が向上していくわけではない。
贅沢が出来るのは一部だけで、大半は一般的な水準の生活が出来るかどうかである。
だからこそ、豊かさを手に入れる為に内部抗争を行っていく。
それは出世競争というようなものではなく、出世戦争というしかない凄惨なものになっていく。
こんな状態の国にヒロフミはため息しか出てこない。
何がどうしてこうなったのかと思ってしまう。
よくぞまあ、ここまでやったもんだと。
それは壮大な組織的な腐敗である。
個人の腐敗と組んだ強烈な構造を作りだしている。
「どうすりゃいいんだよ……」
ため息が漏れてくる。




