50歩目 下手な妥協より、一時の衰退の方が良い
国力が落ちる事を危惧して生かしておけば、後々の禍根となる。
刑務所に放り込むにしても、奴隷として用いるにしてもだ。
そうして生かしておく事で、いらぬ負担が発生する。
刑務所を作って入れるなら、それを作って維持する為の出費が出てくる。
監視するための努力もせねばならない。
脱獄する危険とも隣り合わせだ。
これは奴隷でも同じである。
何より恐ろしいのは、生かして子孫が生まれていけば、親の考えを受け継いでいく事になる。
そうなったら後の時代まで問題を持ち越す事になる。
反乱の再発の危険を常に抱える事になる。
そんな面倒を抱える理由など何一つない。
それならば、今この時に処分しておいた方がよっぽど良い。
人口減少の国力低下と引き換えにしてもだ。
目先の、それこそ数十年の停滞くらい、国や民族の歴史というものの中ではわずかな時間である。
その時間を惜しんで無駄や負担を抱えるわけにはいかない。
そう考えてヒロフミは大量粛正に踏み切っていった。
失うものの大きさに嘆息しつつも。
予想通り人口の半分近くをこれで失う事になる。
だが、その成果はとてつもなく大きなものになった。
今回の粛正によって残った者達は、この断行を多いに賞賛した。
彼らのほとんどは真面目に仕事をしていた者達である。
そんな彼らにとって、反乱に加担していたり考えに同調していた者達は邪魔でしかなかった。
仕事はしない、面倒ばかり起こす、それでいて給料は普通以上に要求する。
そんな人間、農園の主や商売人の頭領、工房の親方といった者達からすれば邪魔でしかない。
また、同じ所で働く者達からしても、そんな人間仕事の邪魔をする厄介者でしかなかった。
普通にやっていればそれなりの成果を得られるのに、余計な事をして作業を滞らせられてきたのだ。
その分、同僚達の実入りも減る。
無駄な手間も増える。
良いところなど何一つない、ただひたすらに邪魔な存在であった。
そんな輩が消えてなくなるのだ、これほどありがたい事はない。
ただ、そうした粛正のせいで反乱を起こした地方の勢力にまで手が回らなくなってしまった。
粛正から逃れた連中もそちらに合流していく。
こればかりは仕方がない。
ヒロフミとて全てに手が回るわけではない。
これはやむない事と割り切って、今後の対策に邁進する事にした。
「当分は富国強兵だ」
今までもそうだったが、敵がはっきりと存在する今、それは明確な方針となっていった。
「奴らを絶対に生かしておかない」
放置していたら、かつての二の舞になる。
いや、既にそうなってしまっている。
そんな事態を引き起こした連中に容赦するわけにはいかなかった。




