46歩目 相手を意識して行動していく事になってきた
「まあ、こんなもんか」
「上等上等」
造物主の評価の声は軽い。
それでもやり遂げた成果には満足している。
「あれから凄い勢いで発展してるね」
「こうして見ててもびっくりだよ」
寿命を終えてから戻ってきた死後の世界(と思われる場所)にて地上の流れを見ている。
鉄の発見による成果はめざましく、開拓も建築も全てが以前よりはかどっている。
開墾速度も画期的なまでに向上し、田畑の拡張は思った以上に進んでいった。
増加した人々の移住も馬車によってかなり素早く行えるようになっている。
集落内では大八車が荷物の運搬に一役買っていた。
そして、家も以前とは画期的なまでに変わっている。
伐採した木を丁寧に加工できるようになり、しっかりとした家屋を造ることが出来るようになっている。
おかげで竪穴式住居からより快適な住居を獲得出来るようになった。
建築技術はまだまだ発展させねばならないが、今後の生活は更に良くなっていくだろう。
また、馬車により移動距離が飛躍的に伸びた。
物資の運搬も手軽になり、新たな地域への進出も手早く出来るようになった。
集落が始まった場所の周辺に固まっていた者達も、今後はより広範囲に展開していくだろう。
当面は川の流れに沿って下流へと展開していく事になるだろうが。
だが、馬を使った探索により、内陸部でも別の川が見つかってる。
結構離れた所にあるのだが、馬車を使えば移動はさほど苦にはならない。
そちらにも展開していく事も視野に入っている。
何にせよ、この先の人口増加にも対応出来るくらいに土地を利用しやすくなっている。
移動速度と開拓速度の向上は大きいな成果をあげている。
見つけた幾つもの薬草も成果を果たしている。
医療で用いられるそれらは傷病者を減らし、生存率に貢献している。
本来の目的ではなかったが、これを見つけてきた事も良い方向に影響していた。
「上手く発展してるようで何よりだよ」
造物主も喜んでいる。
「これなら、衝突が起こっても大丈夫だろうね」
不穏な台詞をくっつけて。
「前に言っていた、向こうの世界の影響とかいうやつか?」
「それに絡んでるよ。
直接手は出してこれないけど、影響を与える事はできるからね。
考えとかだけをこちらに飛ばしてくる事は出来る。
それを受信してる奴らが出始めてきた」
「そいつらがまとまって動き出してると?」
「ああ。
君の所に比べればかなり出遅れてるけど、確実に進歩してきてるよ。
いずれ勢力が拡大したら衝突は免れないだろうね」
それを危惧してるようだった。
確かにそうなれば、損害は免れないだろう。
「そうなるまでにこっちも拡大しておくよ」
「そうしてくれ。
でないと、こっちまで汚染される」
「……病原菌か何かかよ」
「似たようなもんだ。
精神や考え方があいつらの方向になびけば、こっちもいずれ破綻や破滅に向かっていく。
それは避けたい」
確かにそれは避けたかった。
苦労して造り上げたものを壊されたくない。
「それって、こっちから跳ね返す事は出来ないのか?」
「難しいな。
影響を遮断する方法はないし。
物理的に関与出来ないのがせいぜいだ。
それにしたって、こっち側と交信してしまえば、接続点を作られかねないし」
詳しい事は分からないが、とにかくこのまま放置はまずいようだ。
「でもさ、それならこっちから影響を与える事も出来るんだろ」
「まあ、やろうと思えば」
「だったらやってやれよ。
やられっぱなしは性に合わん」
割と好戦的な事を言って造物主をあおる。
大人しく黙ってるなどするつもりも無かった。
やってきた奴にはやり返さない限り延々と続けてくる。
徹底敵に叩きのめして消し去らない限り。
だから、ありとあらゆる手段を使って反撃するべきだとヒロフミは考えている。
今回も例外ではない。
「無理なの?」
「今はさすがにな。
もっと勢力が大きくなって下地が出来ないと」
造物主の力は作った世界の活力の大きさに左右されるという。
生命の根源からやって来た霊魂が拡大し、世界に満ちる事でやれる事も大きくなる。
他の世界への干渉も例外ではない。
「それが出来れば、向こうの世界にも影響させる事が出来るんだが」
「じゃあ、がんばって勢力拡大させるわ」
あっさりとそう言った。
「出来るだけ向こうをひっかき回してやってくれ。
邪魔してやれば、それだけこっちへの干渉が減る」
「それでいいのか?」
「時間稼ぎしてくれればいいよ。
こっちに何もしてこなくなれば、それだけやりやすくなるから」
「けど、そうなるとこっちも世界に影響を与えにくくなるぞ。
力を向こうの世界に振り分ける事になるからな」
「構わないよ。
とんでもなく悪くなるんじゃないかぎり」
それよりも、下手に他の勢力が拡大する方が厄介に思えた。
いずれ敵対する連中が拡大するよりは、多少世界の状況が落ち込んだ方がましに思える。
「世界の方に影響を出せないって事は、敵にまわる連中もその影響を受けるって事だろ。
それなら最初の段階でここまで進める事が出来た俺達の方が有利だろ」
「まあな」
確かにその通りである。
世界に及ぼす影響が低下し、不利な状況が出て来る事になるだろう。
それは確実にヒロフミにも及ぶ。
同時に、他の全ての勢力にも及ぶ。
「だったらやろう。
出だしで有利になったなら、俺達の方が上手くやっていける」
被る損害を考慮しても、その方が利点がある。
そう考えての事である。
「まあ、多少はこっちも気にかけて欲しいけど」
「そこは考慮するよ」
そう言って造物主も決める。
「こっちの影響が悪く出過ぎない程度にがんばっておく。
その合間に向こう側にちょっかい出す事にするから」
「そうしてくれ」
さじ加減が難しいが、当面はそれで行く事とした。
「後は運任せだな」
「そうだな。
俺が言うのもなんだが」
「なに、全部を思い通りになんて出来ないんだろ。
だったら仕方ない。
出来る範囲で頑張るだけだ」
「そう言ってもらえると助かるよ」
偽らざる本音である。
「こっちも少しは時間が稼げる」
「そうしてくれ。
敵が手強くなるよりマシだ」
ヒロフミとしては、直接対決する相手が弱い方がありがたい。
「まあ、どんだけ不利になるかは実際に行ってみて確かめてみるよ。
それからの事は、こっちに戻ってから相談しよう」
「そうだな。
そうしてくれ。
こっちも、そちらがどれだけ大変になってるのか知りたい」
造物主からはヒロフミ達の事を見る事は出来ても、実際にどういった事を体験してるのかは分からない。
創造主であっても万能ではないのだ。
出来る事とそうでない事、分かる事と知り得ない事がある。
それは他の誰かに確かめてもらうしかない。
「まあ、とにかく行ってくる」
そう行ってヒロフミは、次の人生に突入していった。
創造主は上手くいくよう願いながら見送った。
祈りはしない。
その相手はどこにもいないのだから。
願いが祈りの代わりである。
どれほど効果があるのかは分からない。
しかし、天の配剤ともいうべき何かが変わる事もある。
それは規則正しく運行される様々な法則への介入でもあった。
造物主とて自由に出来るものではないが、確かに何らかの違いをもたらす事もあった。
果てしなく偶然に等しい影響を行使してるだけだが、それでもやらずにはおれない。
この先の未来のために。
万能で全能でもない彼に出来る、最大の努力だった。
ここで一区切りして別の何かに手をつけようと思ってる。
尻切れトンボで申し訳ない。
今現在、次のものを書いてる最中のはず。
この後書きを書いてる時点では、次のものはほとんど出来上がってないので。
まずは、やりたくても書き上げる余裕がないものを短編で投稿してるかもしれない。
今後についての詳しい事は、活動報告にて記載していくので、そちらを参照を。




