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転生して異世界に指導者として出向くことになった  作者: よぎそーと
三章

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40/57

40歩目 別の形に変えるしかない

 川下と川上の両方の集落の始まりとなった場所。

 最初にヒロフミが転生した部族の定住した位置。

 今や無惨に焼けた住居と、雑草だらけの田畑だけになったが、そこは彼等にとって特別な場所でもあった。

 発展だけなら他の集落の方がよっぽど上回るようになったが、ここはこの一帯に根を張った者達の出発地点であった。

 動かしようのない事実が望郷のような思いをおこさせる。

 ただ、現地を実際に見た者達は、そんな感情だけではどうしようもない事を知る。

 先に送った使者から話を聞いた者達は、早速増員を送った。

 それなりに重要な立場にいる者達も何人か一緒に。

 その彼等が、元の集落の現状と、住居の跡地に残る遺骸を見て顔をしかめていく。

 荒れた田畑も含めて実際にそこを見た彼等は、所属する集落の代表者達に簡単な報告書を送った。

 それが後にひらかれる後処理を決める会合に少なからぬ影響を及ぼした。



「どうにかしたいが」

「さすがにこれではな」

「希望者も減ったし」

「無理して立て直すのもなあ」

 代表者達が集まってきて、元の集落跡地で今後どうするかを決める会議が行われる。

 しかし話は全く進まず、悩みと迷いの籠もった言葉が何度も繰り返されるだけだった。

 取り戻したのは良いが、かなり荒れてるので復活させるのが手間なのだ。

 その為に投入せねばならない労力を考えると、無理してまで手に入れようという者は少なくなる。

 ここに残っていた最後の者達がやっていたであろう事も、精神的なおぞましさを喚起させている。

 おかげで誰もが遠慮がちになっていた。

 その場にいたヒロフミも、そりゃそうだろうとは思った。

 どうにかして取り戻し、再びここを生活出来る場所にしようと思っていたのだが。

(さすがにこれじゃあなあ……)

 実際に直に見てしまったヒロフミは、ここに住み着こうとは思わなかった。

 放置するのはもったいないが、また元通りにするための努力をする気にもなれない。

 最初に始めた場所だけに思い入れもあるが、気味の悪さが先に立つ。

(いっそ墓場に……)

 そうした方がまだ良い────そう思ったところで閃いた。

 住み着いたり再び田畑にしたりという手間をかける気にはなれない。

 だが、それ以外の用途としてなら使っても良いだろうと思えた。

「あの、すいません」

 思いついた事を伝えるため、話し合いをしてる者達の中で声をあげる。

 全員の目が集まった。



「そうするしかないか」

「ここに住むつもりにもなれないし」

 ヒロフミの提案に居合わせた者達は納得していく。

 住むには抵抗があるが、提示された利用方法ならば問題なく使える。

 他にどうすれば良いのかも分からないし、すぐに妙案が出て来るわけでもない。

「じゃあ、それでいくか」

 決定がくだされる。

 ヒロフミの提案はほとんどそのまま採用された。

 もちろん正式な決定とは言い難い。

 これを各集落に持ち帰り、賛同を得なければならない。

 だが、各種楽の代表であり、ある程度の決定権も持ってると見なされる者達である。

 決まった事はほぼそのまま用いられる事になる。

 ヒロフミは、自分が言い出した通りに作業を進めていく事にする。

 やらねばならない事はあるのだから。



 始まりの地であるこの場所は、集落として用いる事を断念する事にした。

 そのかわり、各集落から出る死者を埋葬する墓地として用いる事となる。

 居住地として用いる事には抵抗があっても、使者を埋葬するなら問題は無い。

 耕した田畑を放棄するのはもったいないが、どのみち回復に時間がかかる。

 ならば、諦めて別の用途を探した方が建設的でもあった。

 幸い、墓地以外での用途として、植林先としての使い方も考えている。

 用水路もあるし、元は田畑である。

 木々を育成するのに問題は無い。

 それに、言っては何だが土に還るものを埋葬していくのだ。

 養分にはことかかない…………さすがにそう考えた時、ヒロフミは己の発想に頭を抱えた。

 だが、植物も動物も人も、いずれは死んで土に帰り、養分に還元されていく。

 自然の摂理の中に取り込まれるのは何もおかしな事では無い。

 それを意図的に行うだけである。



 また、死者を葬る場所であると同時に聖地として用いようかとも考えていた。

 死者を悼む場所としてこの場所を祈りを捧げる拠点にしてしまおうと思っていた。

 集落の始まりの地でもあるし、色々と逸話を盛り込むにも便利である。

 今回の出来事も反省の材料として後世に伝え、良い意味での戒めに使うためにも便利である。

 その為の施設も用意しておきたいものだった。

 出来れば清潔で、可能なら神聖さをかもしだせるような何かを。

 やはり人間は目に見える荘厳さや権威に弱い。

 それを切り捨てる事は難しい。

 ならば、よりよい形で利用していけるようにしたかった。

 人をひきつけるものを用いて、よりよい方向に導くために。

 いずれそれを悪用する者も出て来るだろうが、そうであっても何も用意しないよりは良い。

 用い方一つで変わるなら、悪い事に使われた物も良い方向に舵を切る事も出来るだろう。

 墓地をただ薄気味の悪い場所として終わらせるのもしのびない。

 かつては生きていた者をしのぶためにも、埋葬されるという事に意義を与えておきたかった。

 もちろん、これまでに培われてきた様々な約束事や取り決めなどもちゃんと伝えていく。

 礼儀というほど大げさでもない挨拶など、人として最低限身につけておくべき事も、死者への当然の態度としていくためにも。

 今いる存在だけでなく、亡くなった者にも、目に見えぬ何かにも。

 その全てに相応の態度で接する事を伝えていかねばならない。

 もちろん、まだ生まれてないこれからやってくる者達へも。

 そういった様々な、森羅万象全てに示すべき態度を教えていきたかった。

(残りの人生、それで終わりそうだな)

 発案者として、埋葬地最初の責任者にされたヒロフミは、やれやれと思いながら今後の事について考えていった。



 その後、元の集落があった場所は墓地として利用され、同時に聖地として扱われるようになった。

 また、川上と川下での区切りの場所となり、両者の接点ともなっていった。

 馬も用いて陸地を探索する川上はその後も内陸分を。

 川を利用して海に移動した川下は沿岸にそって移動をしていく。

 その境目として最初の集落のあった場所は機能していった。

 墓地という事で無闇に踏み込む事が避けられたのも、植林地として物理的な障害になった事も大きい。

 そして、木々に囲まれたかつて集落があった場所に建てられた社。

 それがヒロフミの望んだ神聖な場所としての権威付けに役立っていく。

 鳥居を持つ神社という、独創性の欠片もないそのたたずまいは、この世界における最初の宗教の発祥の地となっていった。

 そして、これまでの経緯などをまとめ、起こった出来事を教訓として伝えていく事が、教義のようになっていく。

 その後も様々な記録を残し集めていく事で、この地は精神的な部分だけでなく、知識の集積所としての面も持つようになる。

 その端緒を作ったあたりで、ヒロフミは今回の人生を終えた。

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おまえら、教えやがれ
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http://rnowhj2anwpq4wa.seesaa.net/article/479725667.html

『ピクシブのブースを使ってるので、その事を伝えておかねば』
http://rnowhj2anwpq4wa.seesaa.net/article/477601321.html

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