27歩目 やれる事は全部やり、土台を作って次に回す
その後の人生は、元の村への備えと、次の集落建設に向けた行動に全てが費やされた。
どのみち生きてる間に全てが実現するわけもない。
出来るのは、最終目的の提示と、その為にやるべき事の策定。
そして、今現在からやるべき次の行動のための準備だった。
可能なものは実現していくが、それもほとんど手がつかない。
ただ、出来るだけの努力と準備はしていった。
何はなくとも田畑の拡大拡張は急務になった。
これが無ければ人口を維持する事も出来ない。
とにかく急いでいかねばならなかった。
手の空いてる者はとにかく土地を耕し畑にしていく。
用水路も同時に掘っていき、水を引き込んでもいった。
増えた人口が食糧事情を圧迫したが、人手の多さがここでは助けになった。
当初の予定以上の早さで畑が出来上がっていき、必要な収穫量を確保出来るようになるまで二年三年で到達出来た。
同時に嫁取りもどんどん進み、新たな夫婦と家族が誕生していった。
ヒロフミも例外ではない。
前回と同じく嫁を二人もらい、その間に子供をもうけていった。
その間に田畑は更に増えていき、同様に誕生してくる家族を十分に支え、次の世代を受け止めていく。
また、生まれてきた子供達の為にも更なる田畑の拡大が急がれていった。
子供達が大人になって働けるようになるまで、誰もが手を休める事無く作業に従事していく。
その傍ら、ヒロフミは川に沿って下った地域に次の集落予定地となる場所がないかを探っていった。
出来れば子供達が大人になるまでにはある程度場所を切り開き、田畑を作れるようにしておきたかった。
猶予は十年から十五年。
他の作業と平行して進めねばならないので、意外ときつい工程になっていく。
それでも何人かの人間を見繕って、川沿いに移動させて調査をしていく。
それだけで一年ほどの時間が経過してしまった。
残念ながら適度に開けてる場所はなく、木々を切り倒して場所を作らねばならなかった。
手間は平野を開拓する以上になる。
それでもヒロフミはそれを実行する事にした。
平地の確保ではなく、木材の調達を目的と考えればあまり手間とも思えなくなった。
また、木材は壁を作る為にも必要になる。
元の集落との衝突を念頭に置き、防壁の用意は急務となっていた。
それを作る為にも、大量の木材が必要になる。
野生動物の侵入防止もせねばならないので、ついでにといったところだ。
ただ、備えとしてはそれなりのものにはしていくつもりだった。
集落を覆うには木材が足りないが、それでも何もないよりは良い。
少しずつでも確実に備えを作っていき、やがて来る日に備えていかねばならない。
その一方で更に新たな集落を作る準備もしていく。
森の伐採を続ける事でとにかく場所を作る。
伐採した木々で家を造り活動拠点とする。
活動拠点が出来たら用水路を引いて田畑を作る準備をする。
何年間かかかる大事業である。
それを最初は数人で行っていた。
いずれより多くの人間を投入するつもりであったが、最初はそれほど多くの人間を割けない。
元々の人数がそれほど多くもないし、田畑から得られる収穫で作業に専念する者を養うのが難しいのだ。
これもまた時間と労力を費やさねば解決しない問題である。
しかし時間と共にそれらは解消されていく。
次の世代の子供達が大人になる頃には余剰の人員も増えている。
そうなれば、一気に次の集落の構築に着手出来る。
全てははそこからだった。
その間にも、元の集落からあれこれとちょっかいは出されていた。
その全てをヒロフミは撃退し、決して集落に近寄らせなかった。
一方で元の集落に残った一族から情報を得て、最新の状況を可能な限り聞き出していた。
予想通りであったが、酷くなる一方である。
どうしようもない者達を強権を持って排除する事も出来ず、それどころか賄賂をもらって横暴を容認すらしていた。
真面目に働く者ほど損をし、必死になって作り出した収穫を根こそぎにされてる程だ。
それを見てどうにかしようにも、上から下まで搾取の旨みに飲み込まれ、とても是正できる状態ではなかった。
そんな状況を見かねて、ヒロフミはまともな者達にささやかな助言をした。
その気がある者だけで、川上に向かっていき、そこで新たな田畑を作れと。
出来るなら集落を作ってそこで独自の勢力を作れと。
ヒロフミ達は新規の受け入れを遮断してるので、彼等が生き残るにはそれしかない。
他に生きる道もなさそうだった事もあり、元の集落の者達の中には、それを実行していく者も出始めた。
多分に同情から行った進言であるが、同時にそれは相手の内部分裂を促す事にもなった。
特に労せずして相手の勢力を削ぐ事が出来たのは有り難かった。
これで元の集落に残っていた一百五十人は更に人数を割り込む事になる。
逃げ出したのは三十人ほどであったが、それだけでヒロフミ達との戦力差は大幅に縮まる。
当然ながらヒロフミの一族も各地に分散する事となった。
元の村に残ってる者もいるし、新しい集落にもいる。
川上に向かっていった者達の中にも存在する。
どこでもそれなりに必要とされる技術をもってるので何かしら必要とされる。
元の集落に残ってる者は多分に堕落してる場合がほとんどであったが。
それでも何人かはまともな者もいて、かろうじて集落としての機能を保っていた。
無駄な努力ではあるが、そうやって少しでも形を保っていてもらいたいとも思った。
今、集落が崩壊してしまったら、周辺に人が分散してしまう。
そうなったらヒロフミ達の所に流れ込んで来る者も出てきてしまう。
今はまだそうなって欲しくなかった。
余計な問題が起こってしまい、勢力が二つに割れてしまった。
それは残念な事だが、それでもヒロフミはそれへの対応として長期間の対立を遂行していく土台を作った。
(冷戦かよ、まったく)
かつて歴史の授業で習った事をも出す。
それに比べれば規模は比べるべくもないほど小さいが、やってる事の内情は同じようなものだった。
しかもこちらは内部分裂である。
元々別の国家・民族だったわけではない。
なんでそれが、搾取する側とされる側の上下垂直に分かれ、あげくに前後左右という水平方向に分かれて対立してるのかと思ってしまう。
嘆きはひとしおだった。
しかしなってしまったものはしょうがない。
起こった事態に対処し、よりよい状態を目指すしかなかった。
その準備に費やした人生も終わり、再び死を迎えていく。
今回も四十年近く生きて、成長した子供達と、初めて生まれた孫の顔を見て息を引き取った。
まだまだ寿命が短い中において、長生きしたほうである。




