26歩目 全員に覚悟を決めてもらうしかない
ヒロフミの生きてる間にそれほど大きな差は出てこなかった。
その時点ではまだ元の集落の方が人数は上である。
差は小さくなっていたが同等にはなってない。
そもそも田畑の拡張中の新しい集落である。
既に十分な収穫をあげる田畑を保有してる元の集落にかなうわけがない。
しかし、なんだかんだ言って流れてくる人間が原動力になって田畑の拡張はされていく。
かつての集落の陥った問題を参考に、それを解消していく方法を求めて実践もした。
今はともかく、将来の発展の可能性は大きく、いずれはより大きく発展していくと予想されていった。
(とはいえ……)
それでも釈然としないというか、憮然としてしまう事もある。
元の集落における問題もそうだが、それに対して自分の実家や一族があまり役に立ってない事だ。
自分の親兄弟に親戚。
元を辿ればかつての自分の血を引く者達である。
年上であっても子孫である。
それらが今回の問題についてうろたえてるのが何とも情けなかった。
(そこまで落ちたのか?)
もう少しまともであると思っていたのだが、その予想は裏切られた。
自分が殊更優れてるとは思わないし、その子供の能力や才能もそれほど高く見積もってるわけでもない。
見下したり卑下してるのではなく、平凡な人間としてまずまずなら良いと思ってるからだ。
何も天才や秀才、異能の能力を求めてるわけではない。
しかし今の子孫達である親戚一同は、それすらも下回ってるように思えてならなかった。
(もうちょっとしっかりしろよ……)
そう思ってしまうのは高望みしすぎなのだろうかと悩んでしまう。
嘆いてばかりでも始まらないので今後の対策や方針も考えていく。
とにかく非道な事をしてる連中と、それに妥協してる者共を寄せ付けないようにしていかねばならない。
幸いな事にそれに立ち向かった者達がいる。
それらをまとめて今後の備えの中心としていきたいものだった。
また、元の集落とは絶縁状態にしておく必要がある。
関係を持てば絶対につけ込まれる。
向こうは宥め賺しに威圧と様々な手段を使って揺さぶってくるだろう。
それらを相手にしてられない。
何かしてきたら話しをせず、問答無用で叩きのめしていかねばならない。
そうでもしないと呆気なく蹂躙されるだろう。
逆にこちらから攻め上がるのは難しい。
まずもって人数差がある。
多少のちょっかいや攪乱工作は出来ても、正面切っての戦いになれば分が悪い。
やれば確実に負ける。
まずはこの人数差を同等の所に持ち上げて均衡状態を作らねばならない。
その為にも、集落の更なる発展が必要だった。
もっと広い畑と、それによって養われる人数が必要だった。
となれば、やる事は一つである。
「これからの事を伝えておきたい」
収穫が終わった秋、ヒロフミは皆を集めて語った。
「知っての通り、俺達の元々の集落は悲惨な事になってる。
助ける事は、おそらく無理だろう」
事実を事実としてしっかり告げる。
聞いてる者達の表情は硬い。
出身地の悲惨な状況を聞かされてるのだから当然だ。
しかし、落ち込んで立ち直れなくなってるわけではない。
誰もが、強い意志を持っている。
ではこれからどうするのだ、という気持ちが。
やられてやられっぱなしでいるつもりの人間などここにはいない。
だからこそヒロフミは伝えていく。
これからやる事を。
「まず、この集落をもっと大きくしよう。
畑を広げなくちゃならない。
もっと多くの人間を養っていけるようにしなくちゃならない。
そのために必要なものを作っていかなくちゃいけない」
言われるまでもなかった。
今現在の畑の広さでは、人を養うのも難しい。
元の集落と同じくらいに拡大していかねば困ってしまう。
今も元の村からの支援があってぎりぎりやっていけるのだから。
その分、元の村に残ってる者達に負担をかけてしまっている。
それらを少しでも早く解消するためにも、田畑の拡張改善は急務だった。
「その上で、更に川に沿って下った所に新しい集落を作らなくちゃならない」
これは少し意外ではあった。
今現在の集落をもっと大きくするだけで終わると思っていたからだ。
しかし、ヒロフミはそれで良いとは思っていなかった。
「ここはこの先、元の集落から色々とちょっかいが出されると思う。
たぶんぶつかり合いにもなるだろう。
そうなると、畑仕事どころじゃなくなる。
だから、安心して畑仕事が出来る場所を作らなくちゃならない。
そのかわり、元の村からの仕掛けは全部ここで撃退する。
全部だ。
そのつもりがある者だけ残ってくれ。
そうで無い者は、出来るだけ早いうちに新しい集落を作りにいってくれ。
もちろん今すぐじゃない。
これから何年も先の話だ」
そうしなければならなかった。
最前線ではまともな作業は出来ない。
たとえ実際に衝突がなくても、それぞれの思惑がぶつかり合う場所では落ち着いて生産活動など出来ないだろう。
少なくともヒロフミにはそれが可能だという確証を得ることは出来なかった。
それならば、より安全な地域や地帯に新たな拠点を作った方がよいと思えた。
「そして、元の集落より俺達が勝ったら、あらためて取り返しにいこう。
あそこをあのままにしておきたくない」
そう締め括って大雑把な方針の表明を終えた。
細かな部分についてはより詳しい説明が必要になる。
だが、これから何をして、最終的にどうするかは今言った通りになる。
『相手を上回るまで、ひたすらに拡大拡張を続けていく』
ただこれだけである。
そして、これを成し遂げるために、ありとあらゆる努力をしていかねばならなかった。
まず第一に、元の集落への想いや未練を断ち切らねばならない。
取り返しに行くと言っておきながらおかしな事である。
だが、いずれ取り返すにしても、それまでは敵と思っていなければならない。
でなければ、心に隙が出来る。
情にほだされる。
それが決壊・崩壊の始まりになりかねない。
「それまでは、身内であっても元の村の者との接触を禁じる。
背いたら、処罰だ」
強硬手段である。
ただ宣言するだけではなく、行ったら処罰するという具体的な対応をするのだから。
それが努力目標などという生やさしいものでないのは明らかだ。
この瞬間、身内との接触のほとんどが断ち切られる事となった。
「ただし、向こうから物資は可能な限り奪う。
あいつらは他の者から田畑を奪い、収穫を強奪していった。
だったら、俺達がやっても問題ない。
先にやってきたのはあいつらなんだからな」
明確な報復である。
やられたからやり返さねばならない。
損害を補うまで決して許してはならなかった。
でなければ一方的な損害を受けるだけになってしまう。
そんなもの、何一つ良い結果をもたらしはしない。
いずれ自分達が潰えるだけだ。
元の村に残ってる、ただひたすらに争乱を理由に報復を禁じた者達が衰退していってるように。
「これから先、元の集落からやってくる者は、連中の息がかかってる可能性がある。
そうでない者もいるかもしれんが、見分けはつかない。
だから、やってくる者全員を送り返す。
帰らなかった、処罰するしかない」
やってくる者に対しても厳しい処断を下す事になった。
これもまた、つけいる隙を与えないためである。
直接的な戦闘も怖いが、もっと恐ろしいのは内部に浸透してくる敵である。
それは単純に攻撃するだけの軍勢以上の破壊力を持つ。
場合によっては、戦わずして崩壊してしまう事すらあるのだ。
だから、決してそんな者を内側に入れるわけにはいかなかった。
今は断絶をしていくしかない。
「それをいつまでやるんだ?」
質問が上がる。
「勝てるまでってのは分かるが、それはいつまでかかるんだ?」
「分からん」
もっともな質問に正直に答える。
「少なくとも、こちらが向こうの五倍六倍ってなるまでは我慢するしかないだろうな」
「じゃあ、かなりかかるんじゃ」
「何十年とかかるだろうな、最低でも。
一百年はみておかなとまずいかもしれん」
大雑把に考えてのものだが、ヒロフミはそれくらい時間がかかると思っていた。
それくらいでなければ体制が整わないだろうとも。
「その間、連中も黙ってるとは思えない。
何かしらやってくるだろうから、それを撃退出来るようにする。
皆もそれを覚悟してくれ」
締めくくりに一言添える。
「でなきゃ、元の集落で起こった事がここでも起こる。
それはごめんだ」
言われて誰もが思い出した。
元の村で行われていた事を。
衝突は避けたいところだが、不当に強奪されるのも嫌だった。
どちらかを選ぶしかないなら、まだしも衝突の方が良かった。
それならば、自分を守る事が出来る。
「たぶん、このどちらかしかない。
俺は戦う方を選ぶ」
言われて誰もが納得した。
するしかなかった。
やらねばやられるのだから。
本日はここまで。
続きは明日。
出来れば多めに投稿したいけどどうなるかは分からない。
なるべくやっていきたいが。
さて、どうなるやら。




