22歩目 前回を踏まえてよりよい形にしていきたい
翌朝、いつものように一日が始まっていく。
食事をとり、作業内容を確認し、神棚に向かって手を会わせる。
信仰や宗教というようなものではないが、一日がよりよき終わり方を迎えるよう祈るのは前世の頃から続いていた。
神棚も、何かしらありがたそうなものがあった方が祈りやすいだろうと思って作ったものである。
この世界に鳥居を持ち込んだのはやり過ぎだったかもしれないが。
他に何も思いつかなかったからしょうがない。
恐ろしい程独創性がない自分にびっくりしたのも良い思い出である。
しかし、そうやって始めたものがこうやって続いてるのを見ると、面白いやら照れるやらとなってしまう。
だが、悪い方向に向かってない事はありがたい。
一日を始める区切りとして用いられてるのは予想外だったが。
時間の経過の中で、そういった要素が加わったようである。
元々の要素はそのままであるが、それに反しない範囲で発展させてるようにも思えた。
出来ればこれが更に良い方向にのびていく事を願いながら、本日の作業に入っていく。
やる事はほぼ同じで、森を切り開き薪や木炭を作り、開けた土地を作っていく事になる。
元々木々のない場所はある程度手を加えてある。
まだまだ作業を続けるべきではあるのだが、それよりも燃料が先だった。
冬になる前にある程度は確保しておきたかった。
寒くなってからあわてて燃料を手に入れるのは避けたい。
可能な限り外に出ないでいたいというのもある。
防寒具はないので、冬の寒さは本当にこたえる。
そんな時期は、可能な限り外に出ないで家の中に籠もっていたかった。
もちろんそんな事してる余裕は無い。
可能な限りの重ね着をして来る種まきの時期へのと向かっていかねばならない。
田畑を作れるのはこの時期しかない。
農作業に従事する時期はそんな事をしてる余裕は無い。
出来る限り拡大させて、少しでも収穫量を上げらるようにせねばならない。
それでも寒さが酷い場合は外に出れない事もある。
冬の寒さはそれだけつらいものがあった。
今居る場所が豪雪地帯などでなくて本当に良かった。
ただ、新たに開拓を始めたので、作れる畑の広さも限られる。
二十人ほどいる有志の手が余るのは見えていた。
なので、最初のうちは手のあいた者が畑作りに回る事も考えていた。
一人一人が十分な広さの畑を手に入れるまではそうしていくつもりだった。
人手が必要な時期はともかく、そうでない時の方がはるかに多い。
一刻も早くそういう状況から抜け出さねばならない。
確実に収穫を得られるようになるまで畑の拡大は継続していかねばならない。
その畑についても、出来上がったものを細切れに皆に分配するつもりはなかった。
元の集落で起こっていた、小さな畑が幾つも入り組んでる状況は避けたい。
その為にもある程度まとまった広さを一人が所有する事にしていかねばならない。
入り組んだ土地の所有で面倒が起こるなんて事を繰り返したくない。
もっとも、何年も何十年も経過すれば、それらは再び起こるだろうとは思った。
それはやむを得ない事ではある。
なので、そうなった時に問題なく譲渡が出来るようにしていけるようにもしたい。
かなり難しい事だが、考えはある。
どこまで通用するか分からないが、やるだけやってみようと思っていた。
それはそれとして、目先の問題として誰がどれくらいの広さを手に入れるかを決めねばならない。
土地からの収穫量は場所によって差が出るだろうが、せめて広さは同じにしておきたい。
面積による不平等さをなるべく出さないでおきたかった。
それはそれで収穫量に差が出てしまうが、実りが出てない時点でそれを計るのは難しい。
なので、まずは面積で一人当たりの割り当てを出す事にした。
耕せる広さはある程度分かってるので、基準に困る事は無い。
一人が耕せる広さと、それに加えて幾らかのおまけを付けるつもりだった。
将来、家族を持ち、子供達が生まれた場合に耕せる広さを考慮してである。
その面積は、このために得た技術の『測量』を用いて計っていく。
また、長さなどの単位も決めていく。
メートル法はさすがに使えない。
用いたいのだが、正確に一メートルを決める手段がない。
やむなく、適当な所から求めた長さを用いていく。
とりあえず、最小単位として指先の間接までの長さを用いる。
およそ二センチ程度であるそれを基準にして長さの単位を決めていく。
その長さの基準を示す原器を陶器で作り、それを元に測量を開始していった。
春が来る頃には、出来上がった耕地面積が割り出された。
それを元に割り当てられる広さをもとめ、所有者に割り振っていく。
割り当てについては、年齢の高い者からとなっていった。
早めに嫁をとれるようにするための配慮である。
年齢が同じ場合はくじ引きで決める事にした。
なんだかんだで一番揉めにくい方法である。
諦めがつく手段とも言える。
そんなこんなで畑を手に入れた者とそうでない者が分かれていく。
やむなき事だが、手に入れられなかった者達はやはり落胆していく。
いずれ耕せば自分の畑も手に入るとは分かっている。
そうであっても、出遅れた感は否めない。
誰を恨む事も出来ないが、やるせない想いを多少は抱いてしまう。
そういった者達にヒロフミは、
「頑張って畑を作ろう」
と言うしかなかった。
その為にも、今年一年開墾に勤しんでいこうと呼びかけて。




