13歩目 他愛のない約束
イノシシの飼育がはじまり、食料生産は更に安定を増した。
広い土地が必要になるが、それは順次拡大する事で対処する事となる。
さすがに一度に作れる牧場の広さは限られており、一気に必要な広さを確保する事が出来ない。
それには、今まで狩りに出ていた者が対応する事となる。
成績をさほど上げる事が出来なかった者であり、そのあたりは畑を耕してる二人と境遇は似ている。
狩りの成績は幾分畑組の二人よりは良かったが、満足行く成果にはほど遠かった。
その為、飼育の方に回された時には、少しばかり安心しているように見えた。
役立たずとして追放される事がなくなり安心してるのかもしれない。
ともかく、これで新たな人員の確保も出来た。
手に入れた技術が教えてくれる飼育方法を早速教え、牧場経営を安定させるようつとめていく。
もちろんすぐに出来るようになるわけではないが、そこは根気強く付き合う事で解消していく事にした。
ありがたい事に畑の方は二人が頑張ってくれている。
昨年一年の成果が出ていた。
細かい所は心配であるが、それでも二人にある程度任せてヒロフミは牧場の方に専念する事にした。
何かあれば相談してくれれば良いし、大概の事は二人に任せても問題はない。
この一年頑張ってくれれば、来年あたりは何も言わないでも大丈夫になるかもしれない。
そんな期待を抱けるくらいに二人の成長はめざましい。
ヒロフミもうかうかしていられなかった。
飼育の方も様々な失敗と共にやり方が分かるようになっていった。
イノシシたちの生活環境のととのえ、どんな生き方をしてるのかを見極め、育成を進めていく。
その間に、畑の周囲の堀にはまるものも出てきて、数は順調に増えていった。
その中には雌や子供のイノシシもおり、将来の安定した増加も期待できそうだった。
その為に必要な飼育場所を考えると、早急に牧場の拡大が必要になったが。
ただ、これがかなり難しかった。
場所を確保するために柵が必要で、そのために木材を切り出してこなければならない。
しかし、石器ではそう簡単に伐採も出来ず、どうしても限界が生まれる。
必要な数が揃うまで時間もかかり、拡張に歯止めをかけてしまう。
やむなく、ある程度の数になったところでイノシシの確保は打ち切りとなった。
その後に捕らえられたイノシシは、他の動物同様に食料として処理していく事となる。
そういった作業と前後して、無視出来ない問題も出てくる。
家にしろ柵にしろ、木材を切り出してるのだから当然平地が増えていく。
それは良いのだが、だんだんと樹木が周囲から減っていった。
まだまだ森は生い茂り、そうそう無くなる事は無い。
しかし、このまま人口が増えれば、いずれ近くの森を平地にしてしまうようになる。
対策として植林も考えていかねばならなくなってきていた。
幸い植物知識があるので、ある程度のやり方は分かる。
しかし、レベル1では大した事は分からない。
あらためて経験値をどこに割り振るかを考えていく必要が出てきていた。
仕事の事だけ考えてるわけにもいかない。
新たに生まれた子供の世話も重要な仕事である。
そちらは集団の女性陣が中心になって世話してくれている。
男の出る幕はほとんどないが、それでも一日一回は様子を見に行っていた。
何せ乳幼児死亡率が高い時代である。
ちょっとした変化も見逃せなかった。
とにかく無事に生まれることをひたすらに願っていく。
医療が全く無いので、それしか出来る事がない。
あとは、可能な限り栄養状態を良くしておくために、食料の確保をしっかりするしかない。
その為にも畑を広げていきたいが、どうしても作業員の数のために生産が頭打ちになってしまっている。
捕獲したイノシシなどの動物がありがたいご祝儀扱いになってる程だ。
子供が成長して働いてくれるようなれば、などと考えてしまう。
その子供を養うために畑の拡大なども考えてるのだから、本末転倒と言えた。
目出度い話もちゃんとある。
嫁をもらった二人であるが、その嫁が懐妊した。
野郎共は、「やった、やったよ」と喜んでいる。
そして二人に嫁をと斡旋したヒロフミに、「ありがとうございます、ありがとうございます!」と土下座せんばかりの感謝を示した。
「これも旦那が俺達に畑仕事をさせてくれたからです」
「大将がいなければ俺達、ここから追放されてました」
誇張でもなんでもない事実なだけに、そこからここまで一気に逆転させてくれたヒロフミへの感謝は本物のようだった。
そんな事言われれば当然感激もする。
「そうか、ありがとう」
この二人とならなんとか上手くやっていけそうな気がした。
そして収穫の季節。
収穫をし、作物のできばえに感謝の祈りを捧げ、冬へと向かっていく。
牧場の方も少しずつであるが拡張し、イノシシの方も繁殖する事が出来た。
今は新たに生まれた子供のイノシシが牧場内を動き回っている。
長からの嫁取り話も前年同様に繰り返された。
ヒロフミは当然のように、
「今年は牧場でがんばったこいつに!」
と話を振っていった。
さすがにしょうがないと理解してる長は、牧場担当の男に嫁をとらせる事にした。
その斡旋をした事で、牧場担当がヒロフミに感謝をしていく。
畑担当の二人組と同じように、ヒロフミへの忠誠心がうなぎ登りだった。
その三人は、事あるごとに、
「いつかこのお礼を!」
と言ってくる。
その言葉にヒロフミは、最近冗談交じりにこう答えていた。
「なら、女の子が生まれたら、うちの男の子の嫁にくれ。
こっちも、生まれた女の子をお前達のところの子供に嫁がせるから」
息子と娘の将来を考えての事である。
特別何かを考えてのものではなかった。
血の結びつきによる縁戚関係に発展していく事など想像すらしていかなかった。
しかし、後々これが子孫を強く結び付けるきっかけとなる。
言われた方も、
「そりゃいいや」
「よろしく頼みますよ」
「是非お願いします」
と気軽にあわせてくる。
彼等も半分は冗談のつもりで話をしていた。
残り半分で、そうなればいいなあと夢を抱いて。
何はともあれヒロフミと三人にとっては、子供達の将来を支える明日の事が最優先だった。
あくまで他愛のない冗談のつもりの語り合いでしかなかった。
誤字脱字の報告をもらっていても、なおしてる余裕がいまだにない。
とにかく書き為を作って余裕をひねり出さねば。
21:00に続きを投稿予定。




