表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/57

1歩目 転生したは良いけれど

(いやはや)

 あらためて芳野ヒロフミ……という名前だった彼は現状を振り返る。

 分かっていた事だが、やはりかなり酷いものだった。

 とはいえ、それは非難できるようなものでもない。

 ここでは当たり前の常態なのだから。

(とはいえ、このままってわけにもいかないよな)

 周りを見渡して考える。

 一緒に行動してる数十人の集団。

 ヒロフミの家族も含めたこの一団は、現在移動しながら生活を続けている。

 採取と狩猟による生活は、安定に程遠い。

 食料の確保の為に常に移動を余儀なくされる。

 定住しようにも、食料が近くに無ければそれも出来ない。

 よって、常に移動を繰り返していくしかない。

 それでもまだ運が良い方である。

 採取や狩猟できる対象を常に見つけ続けるという幸運に巡り会えたのだから。

 いつまでも続くという保障は無いが、その幸運に感謝しなくてはなるまい。

(けど、このままってわけにもなあ)

 何とかしてここから脱却せねばならなかった。

 この原始時代的な生活から。

 というより、原始時代そのもの時代から。

 その為にヒロフミは転生してきたのだから。



 宗教や様々な創作物で出て来た転生。

 それが実際に起こるとは思わずヒロフミは前世で生きて、そして死を迎えた。

 とりたてて信心深くもない、一般的に日本人なみの宗教観しかもっていなかったヒロフミは、その瞬間そこで全てが終わると思った。

 死後の世界があるかどうかは分からなかったし、あったとしてもあの世での生活(?)がよりよいものになるとは思っていなかった。

 褒められたものではない生き方をしてきた自覚はあった。

 それに、見聞きしてきた死後の裁きとやらを考えるに、ろくでもない結果になるとも思っていた。

 やってきた事を振り返ればそれも仕方ないとは思うが、何とも憂鬱な気分になった。

 それが人生最後の瞬間であったのが、何ともやりきれなかった。

(それがこれだからなあ)

 途中にあった出来事を飛ばし、今の現状に意識を戻す。

 何でこうなったのかと過去を振り返って考えてしまう。

 本当にこれで良かったのか、選択肢はもっと他にあったのではないかと。

 もう今更、本当に今更でしかないが、やはり繰り返しそう思ってしまう。

 現状が現状だけに特にそうなってしまうのかもしれない。

 これがもっと楽な状況だったら、むしろ積極的に今を受け入れていたかもしれないのだから。



(でも、どうするよ)

 あらためて現実に戻り自問自答していく。

 過去の出来事を振り返ってもどうにもならない。

 反省材料にはなるにしても、現状を打破する役には立たない。

 蓄積や経験を否定するつもりはないが、死亡直後から転生してくる直線までの出来事はとりあえず今は必要無い。

 とにかく今の常態を打破しない事にはどうにもならない。

 もとよりそのつもりであった。

 しかしこの状況でどうすれば良いのか見当も付かなかった。

(まず、何からやればいいのやら)

 最低限この状態から抜け出さねばならない。

 安定した生活を確保しなければ先行き不安でしょうがない。

 採取・狩猟生活など延々と続けていくわけにもいかないのだ。

 衣食住の確率と安定化がとにかく急務である。

 確実に手に入る食料、雨や風を凌ぐ為の住居。

 そして、身につける衣服。

 このどれもが不足していた。

 衣服などほとんど身につけてない。

 言ってはなんだが、周囲にいる数十人全員が素っ裸である。

 ヒロフミも例外ではない。

 全員がそんなものだからもう慣れてしまってきてるが、風や雨が直接肌に触れるのはさすがにつらい。

 体温保持や、草木などが肌をひっかく事から身を守るためにも、何かしら身にまとうものが欲しい。

 ヒロフミがおかれてる状況というのはそれくらい原始的なものだった。

 文明が懐かしいと思うのも無理からぬ事である。

 そして、新たに生まれてきたこの場所を少しでもよりよく改善していきたいとも思う。

 でなければわざわざ生まれてきた意味が無い。



(とにかく、技術を身につけないと)

 何をするにもある程度の技術や知識が必要になる。

 幸いというか、それについては多少は利点となるものも与えられている。

 目の前にそれを表示して、今の自分を確認していく。

 能力表。

 ロールプレイングゲームのように自分の能力を表示するそれがヒロフミに与えられた力だった。

(とりあえず経験値は貯まってるんだよな)

 それこそゲームのような調子で成長も出来る。

 普通、知識や技術は練習や実地での体験経験で知識や技術は身につけていくはずである。

 なのだが、ヒロフミはそれを一旦経験値(この能力を与えた者は徳と言っていた)として蓄積する。

 それから経験値を手に入れたい技術に割り振っていく事が出来る。

 実際にはたいていの人間が無意識にこれを行っており、やろうと思えば誰にでも出来るのだと聞いている。

 ただ、多くの者達が経験値を知らず知らず自分が為した行為に振り分けているのだとか。

 それが本当かどうか分からないが、とりあえずヒロフミはそれを自分の意志で自由に行う事が出来る。

 目に見える形で自分の現状を把握し、なおかつ成長も選択していける。

 大きな利点ではあった。



(当面は狩りに関係するものがいいんだろうけど。

 でも、それだと先が無いし)

 選ぶ事が出来るから悩みもする。

 何せ徳…………経験値はそう簡単には貯まらない。

 目安として半年から一年でレベルアップに必要な量に到達する。

 そんな調子なので、その場の勢いで技術を身につけるわけにもいかない。

 先の事を考えて何かを手に入れていかねばならない。

 それでも、まずは目先の事をどうにかしないといけないので、必要な技術を中心に身につけている。

 何かしらの変化に気づくための『探知』

 動物の行動を知る為に『動物知識』

 道具を作成するための『工作』

 今までの十三年で得られた経験値でこれらを手に入れた。

 おかげで狩猟が大分はかどるようになった。

 この集団が生き延びてるのは、ヒロフミの手に入れた技術によるところも大きい。

 これらを身につけたのは間違いではないと言える。

(けど、この先もこれを上げていくのもな……)

 ここからの脱却が必要だった。

 その為の一手を指していかなければならない。

(どうすりゃいいのかねえ、神様)

 ここに来る事になった原因である存在に、胸の中で問いかけた。

 答えが返ってくる事がないと分かっていても。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おまえら、教えやがれ
  ↓
  ↓
http://rnowhj2anwpq4wa.seesaa.net/article/479725667.html

『ピクシブのブースを使ってるので、その事を伝えておかねば』
http://rnowhj2anwpq4wa.seesaa.net/article/477601321.html

+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ